[完結]拝啓パパ上マエストロ様。トリニティでも私は元気です。   作:がくらん

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中編④進め!アバンギャルド君!

 ゲヘナ、楽しかったー!

 

 いやぁ、給食部で一週間なんて、ヒナさんに言い渡された時はどうなることかと思いましたが……私の適応能力も舐めたものではありませんね!

 2日もたてば私もゲヘナの空気にすっかり染まりまして。

 食堂はさながら、フウカさんとの華麗なオンステージでございました!

 

 たくさんのお食事を通じて、ゲヘナの子達ともゆっくりつきあってみれば、いろんな子のいろんな良い所も、それぞれいっぱい見つけられちゃいます。

 そうすると、ゲヘナでの生活も活気を感じて楽しくなっちゃってですねぇ……

 

 さらに言えば、フウカさんが「どうしても!」なんて、鬼気迫る勢いで頼み込んでくれたので。

 つい嬉しくって、罰則に関係なく期間を一週間も延ばしちゃいました。

 結局あわせて2週間。

 本当はもっと早くに帰らなきゃいけなかったんですが、ついつい長居してしまいました。

 

 それでもさすがに来てしまうのがお別れの日。

 諸々の事情で偽装された身分、交換留学生の公園アカちゃんとしての最終日。

 仲良くなった子達が送別会を開いてくれたのには、私、うるっときちゃいました。

 ……ごめんなさいウソです。本当は滝のような号泣を笑われるくらいには、感極まってしまいました。

 

 ちなみにフウカさんも、私に負けず劣らず、涙でくしゃくしゃの顔をしていましてね。

 「いつでも戻ってきてくれていいからね……!」とまで言ってくれたので、今後も時々こっそり、忍び込んじゃおうかなぁ、なんて。

 それで買い出しとか一緒に行きながら、ついでにウィンドウショッピングとか、ちょっぴりカフェでおしゃべりとか……ふふふ、これ、いい考えかもですね!

 

 ……いや、さすがにヒナさんかアコさんには一言ことわってから、ゲヘナへはお邪魔しましょうか。

 演習が成功すれば、その辺の日常的な交流もやりやすくなるはずです!

 

 さて企画についてですが。

 こちらゲヘナのあれこれについては、とーっても幸いなことに! ヒナさんがまとめ役を買って出てくれました!

 ヒナさん曰く、「将来の仕事を楽にするための仕事だから、忙しくても楽しい」とか。

 ……言ってることはわかりますが、ちょっとワーカホリックぎみなのが心配です。

 ただまぁ今は頼らざるを得ないので、いったんゲヘナ周りはお任せしちゃいます。

 後々のフォローを、アコさんにもお願いしておきましょうかねぇ。

 

 さてはてそんなこんなでゲヘナを出立いたしました私は、続けてミレニアムへ赴きます。

 ハスミちゃんからは、「いったん帰ってきてもいいんじゃない……?」とは言ってもらえていますが、トリニティには寄りません。

 さすがにゲヘナを堪能しすぎちゃいましたからね。

 演習の準備、急いで続きをしていかなければ、です!

 

 そしてなんと! ゲヘナ侵入時とは違って、今度はちゃんと事前にアポをとりました!

 正式なルートでミレニアムの生徒会……セミナーの会長さんと面談を行うわけなのですが……

 

 どうやらミレニアムでは、つい最近に生徒会のメンバーが一新されたらしいと聞きました。

 特に就任直後の新会長さんが、既存のメンバーを追い出すように人員の総入れ替えを断行したとのことで……

 そんな風に強権を惜しげもなく振るう方です。もしも怖い方だったらどうしよう、うまく話がまとまらなかったらどうしよう……だなんて、会う前までにはハラハラしていたのですが……

 

「こ、これは素晴らしい! なんて完璧な造形でしょう! こちら、もしや設計者は……?」

「ええ、私よ」

「やっぱりリオさん! 見ただけでわかるこの完成度も、ミレニアムの生徒会長御自らの作となれば納得です! ……ちなみにこの子、お名前などはございまして……?」

「アバンギャルド君」

「……いま、なんと?」

「アバンギャルド君よ」

「…………」

「…………」

「っ! か、かっこいいー!! すごーい! べらぼうで、でたらめ!」

「そうね」

 

 蓋を開けてみれば、共通の趣味の造形についてで大盛り上がりでございます!

 

 打ち合わせの中、お話の流れで見せてもらえた彫像……アバンギャルド君を、ぐるぐる回りながら360°、舐めるように観察します。

 どこから見ても私の感性を打ち鳴らすような作品に、思わずほれぼれとしてしまいます!

 

「うわぁ、これは……万能の象徴たる多腕と、黄金比を描く曲線型の盾、さらには目をつぶって視界を必要としない様子が、まさに全能を表していますね! 静粛に秩序を成そうとする決意を感じさせます!」

「ええ」

「ただしそこでアクセントとなるのが……食いしばりながらも力強い歯がのぞく口です! どれほどの権能があろうと、完璧な状態を維持し続けるのは容易ではない……そんな苦悩と、それでも乗り越えるという確固たる意志……!」

「……わかってしまうのね」

「はい! デフォルメされた顔パーツ一つで、ここまでの感情を表現するとは……! お見逸れしました!」

「そう。ありがとう」

「こちらこそ、お見せいただいてありがとうございます!」

 

 当然ですが私、造形にはひとかどの見識を持っていまして……

 これほどの作品を見ていると、思わず口から品評が飛び出してしまいます!

 解説じみた言葉をだらだらと並べ立てるのは、本当は無粋といわれても仕方がない行為です。

 それでも、この気持ちを表に出したいのです! いつだってミーハーでいたいのです!

 

 リオさんの鋭い無表情のすきまに微かな、隠しきれない満足感を見いだして。

 ああ、私の高揚をわかってもらえたんだなぁと、なんだか嬉しくなってしまいます。

 

「って、今はそうだ、ちがうちがう。演習用の機器の選定中でしたね……すみません、打ち合わせを脱線させてしまって……」

「かまわないわ……基本は小型の仮想敵ロボ、スイーパーが中心になるかしら」

「そうですねぇ。安価でかまいませんので数を用意していただければ、防御演習ができますよね……ただ、それだけだとちょっとパンチにかけるので……」

「要所では高性能ドローンのAMASや……試作型であれば戦闘ロボのアバンギャルド君を投入してもかまわないわ」

「ええ! いいんですか!? ……うわぁ、それは盛り上がりそうです!」

「そうね」

 

 どうにか話の軌道を修正しながら、こうも盛り上がるまで何が起こったか、数十分前を思い起こします。

 

 ミレニアムへ到着して早々、私はセミナーの会議室で会長のリオさんと相対いたしまして。

 演習への協力を要請するということで、手始めに資料を提示しながら一通りのプレゼンテーションを済ましました。

 

 そして、さぁここからが交渉の正念場だぞ……! と思っていたのもつかの間。

 リオさんから「承認するわ。詳細をつめていきましょう」とのお言葉をいただいて、それはもう拍子抜けするほどあっさりと、本日の最難関任務は完了でございます。

 どうしてもうまく行かなかった時のためにと、「遊園アオなんでもお手伝い券10枚綴り」なんてものまで用意していましたが……使わずに済んでよかったです。

 

 それではと開催候補日や、スタジアムおよび機器の利用料などを仮決めし、次に仮想敵となるロボやドローンの選定と至ったところ……

 カタログに載っていたアバンギャルド君の勇姿に目を奪われ、それを正直に言えば、部屋の奥からアバンギャルド君の彫刻まで出していただけまして……!

 おもわず全力で趣味のお話に没頭してしまったというわけです……!

 

 ……いけませんね、はしゃいでばかりはいられません。今日はお仕事できたのですよ私。

 その後どうにか、たいていの事柄については話がつけられました。

 あとはトリニティへ持ち帰って検討しなければいけない些細な取り決めや、ゲヘナのヒナさんとの相談が必要な諸々だけ、後日へ後回し。

 打ち合わせもすでに終盤です。

 

「……ふぅ、これで概ね大丈夫ですかね? 決めきれなかったところは、追って早急に連絡をします。少々お待ちを」

「ええ、意志決定がなされれば、私たちも準備を始めるわ」

「わかりました! ご協力、本当にありがとうございます!」

「いいえ、気にする必要はないわ。……この演習は、私たちにも利益のある催しよ。適切に行ってくれるのならば、問題はない」

「うーん、利益ですかぁ……リオさん、それについてなんですが……」

 

 淡々と打ち合わせをこなすリオさんが言ってくれるほど、私達はなにかメリットを提示できていたでしょうか。

 この会合の半ばから、疑問に思っていたことを素直に尋ねることにします。

 

「ミレニアムはどうしてこんなに、素直に依頼を請けてくれたんですか? 連邦生徒会が推してくれているとはいえ、はっきり言って、政治がらみで結構面倒ですよ? 今回のこれ」

「それなら……もうそろそろ彼女が来てくれるはずね」

「彼女?」

 

 リオさんが、視線をすらりと部屋の入り口へと動かします。

 意味の分からないまま、それを追って目を向けますと……

 

「し、失礼しますリオ会長! お呼びに応じました早瀬ユウカ、ただいま参りました!」

「ええ、お疲れさま。……アオ、紹介するわ。彼女、早瀬ユウカはつい先日セミナーの会計に任命した1年生。この演習でのミレニアムの窓口よ」

「あ、そうなんですね! トリニティの遊園アオです。よろしくお願いします」

「は、はい! 未熟な身で恐縮ですが、どうぞよろしくお願いします!」

 

 入室してきたユウカさん。威勢と礼儀こそしっかりしつつも、肩に力が入って首が縮んでしまっていますし、声も若干震えちゃってます。

 きっとまだ慣れていないんでしょうね。他校生徒の私はもちろん、リオさんとも、関係作りはまだまだこれからといった雰囲気です。

 

「そんなに緊張しなくって大丈夫ですよ。私ってば、なにかとまぁまぁ適当ですからねぇ」

「は、はい!!」

「あちゃあ、がちがち。まぁ少しずつ慣れてくださいな」

 

「ユウカ、来年の晄輪大祭はミレニアムが会場となるわ。……その際の責任者は、順当に推移すればあなたになる。この演習の経験を、よく糧とするように」

「はい、わかりましたリオ会長! 精一杯がんばります!」

「初々しいですねぇ。……でもなるほど。晄輪大祭の予行のため、他校との催しの運営ノウハウを得るため、というわけですか」

「そういうことよ」

 

 リオさんの言っていたミレニアム側の利益とはこれのようですね。

 単純にタイミングがとっても良かったようです。

 運営の練習に丁度いい、大きすぎず小さすぎずな複数校が関わるイベントなんて、なかなかありはしません。

 この度の合同火力演習を、晄輪大祭への準備と慣れのために利用しようというわけです。

 

「でも、ふふふ、リオさん、ユウカさんったら利発そうでいい後輩じゃないですか」

「……ユウカはまだ実績が乏しいとはいえ、私が見いだした生徒よ。もし粗相があればすぐに通知してちょうだい。対処するわ」

「もちろんです! ユウカさん、聞きました? リオさん、「ユウカならきっとできる! なにかあっても責任はとるからやってみろ!」ですって!」

「えっ? えっ?」

「……過剰な解釈を挟まないでくれるかしら」

「えー?」

 

 戸惑うユウカさんにウインクを一つ、送ってあげます。

 リオさん、性格がきつそうに見えてしまいますが、アバンギャルド君について語っているときは、どこか優しい空気を感じましたよ。

 「きっと仲良くなれるから、頑張って!」そんなエールを込めたウインクです。

 

 新生セミナーの信頼構築は、まだまだこれからのようにお見受けします。

 リオさんか、それともユウカさんをはじめ後輩の方達か、どちらかが勇気を持って一歩踏み出すことができればきっと、いい生徒会になれるのではないでしょうか。

 ……なんて、私が考えるのは生意気ですかね?

 

「あ、そうだ! リオさんそれなら!」

「なにかしら」

「アバンギャルド君の下半身、キャタピラもいいですけど……もしかしたら多脚にするのもいいかもしれませんね!」

「……それはなぜ?」

「キャタピラの履帯が作る、まっすぐで規律正しい軌跡はきっと美しいんですが……アバンギャルド君はほら、せっかくセミナーの象徴になりうる子ですもの! セミナーのメンバーの皆さんの、たくさんの足で支え合うイメージを、と思いまして!」

「…………」

 

 「あとは転びそうな時も、多脚なら姿勢制御が容易ですし……」と続けますが、リオさんのお顔はどうにも険しく、なにか思うところがあるご様子……

 

「……あ、もちろん、リオさんの作品にケチをつけるつもりはないんですが……すみません、お気を悪くさせてしまいましたか……?」

「……いえ、足まわりはデリケートだから、すぐにどうこうできるものではないけれど……案としては覚えておくわ」

「ええ、ぜひぜひ!」

 

 他方でユウカさんが「アバンギャルド君……?」とつぶやくのが聞こえます。

 ユウカさんを放って、私とリオさんだけでおしゃべりしてしまうのはかわいそうですね。

 リオさんとユウカさんの一対一では、まだまだ打ち解けるのには時間が必要そうですから、ここからはちょっとお節介をいたしまして!

 

「そういえばリオさん! 今日はお話に興が乗ってしまって、私が持ってきた手みやげ、まだ開けてないですよね? ユウカさんにも見せてあげてくださいよ! トリニティとゲヘナで選んだ、私のおすすめ甘味ベスト3! ぜひ感想がほしいんです!」

「……そうね。ユウカ、来客用のお茶を用意してもらえる?」

「ユウカさん、数は3つでお願いします! ……あ、セミナーの子って他にもいます?」

「あ、はい……もう一人、書記の生塩ノアって子が……」

「そしたらその子も呼んでお茶4つですね! ふふふ、お菓子はたーくさんありますから!」

「ちょっと遊園アオ、勝手に……」

「まぁまぁ! 固いこと言わずに! それとももしかして、リオさんが一人占めしちゃうつもりでした?」

「そうではないけれど……」

「ならオーケーですって!」

 

 リオさんが多少渋りましたが、強引に団らんの場を設定いたします。

 セミナーの皆様がお席につけばこちらのものです! 私のおしゃべり力をご賞味あれ!

 ……と、調子に乗るのもそこそこに、少しでもリオさん達で話が盛り上がれば、私は聞きにまわる所存です。

 

 リオさんとユウカさん、あとノアさんの御三方が、今日をきっかけにちょっとでも仲良くなれますように。

 ミレニアムサイエンススクールのさらなる団結と発展を願いまして。

 

「乾杯! なーんちゃって」

 

 ……まぁこのすぐ後、アバンギャルド君の評価について、お茶会がまっぷたつに割れるとは、予想もしておりませんでしたが、ね?

 私は素敵だと思うんですけどねぇ……?

 今度パパにも写真を送って見てもらいましょー、っと。

 

 そんな、なんとも締まらないミレニアムでの一日でございました。

 

 

ーーー

 

 

 マエストロは娘からの手紙に同封された写真を見て、つぶやく。

 

「実に前衛的な……うむ……」

 

 手紙に添えられた娘の品評文を読み、彼女の考えを理解する。

 だがマエストロはさらなる視点として、製作者がこの造形を彫像だけではなく、“ロボット”としても構築した点に着目した。

 人の手によって作られ、人の指示のみに従って活動する、“全能の者”、すなわち“神”の模倣物。

 命令者たる作者の、万物を虐げてでも使命をまっとうしようとする、独善的な信念を感じる。

 ……だがそれすらも含め。

 

「“神”すらも打倒せんとする意志の具現……素晴らしい、賞賛しよう。……私も作品の完成を急ぎたくなる」

「おやマエストロ。面白いものを見ていますね。ご息女からのお手紙ですか」

「黒服か。ああ……ミレニアムを訪れたらしい」

「おや、ミレニアムですか? 奇遇ですね。私も先日、行って参りましたよ」

「そうか」

 

 会合前に手紙を読んでいると大概寄ってくる黒服が、文面を覗きながら愉快そうに小さく笑う。

 

「なるほど、ご息女はミレニアムで演習を……クックック……時期も場所もちょうど良い。これは一つ老婆心で、手を貸して差し上げましょうか」

「……なにをするつもりだ」

「いえ、なに……」

 

 黒服の含みを持たせたつぶやきが、部屋に漂う。

 マエストロは、黒服がその手の中で何かをもてあそんでいるのに気が付く。

 マエストロには見覚えのない、簡易なスイッチかなにかのような、小型の装置だ。

 

「後ほどの会合でもお話ししますが……つい先日、限定的ながら件のパスに介入ができるようになりまして……」

「パス……デカグラマトンの予言者か」

「はい。彼らを意のままに動かすにはまだ、ほど遠いですが……軽く刺激し、励起する程度なら可能になりました」

「……それを娘に差し向けると?」

「クックック……ご息女にすれば大した害にはなりますまい。うまく誘導すれば、演習のいいマトになるでしょう」

「……なるほど」

 

 「パスの性能試験にもなりますしね」と、黒服はついでのようにうそぶく。

 “娘への手助け”とやらと、“パスの性能試験”と。どちらが本命かは語られない。

 

 マエストロは黒服の行為を黙認することとした。

 明らかに余計な世話である。しかし娘ならば、うまく利用するであろう。

 ゆえに、此度の返信の一行目はこうだ。

 

[娘よ。ゆめゆめ、気をひきしめてかかれ]

 

 すでに娘は巣立ったのだ。過剰な干渉はよろしくない。

 ……だが念のため、マエストロは演習の日時を脳に刻む。

 特に意味はないのだが……当日は、ミレニアム近郊で作業を行うこととした。

 

 ……父親なんて、所詮そんなものである。

 暗く広い会合前の地下施設にて、黒服の笑い声が、いやに響いた。

 

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