[完結]拝啓パパ上マエストロ様。トリニティでも私は元気です。 作:がくらん
[拝啓パパ上 マエストロ様
早いもので桜もすっかり散ってしまってそれは残念なのですが、葉桜ってこう、生命力! って感じがして私はこっちも結構好きです。パパとしてはいかがですか? あと元気にしてますか?
さて突然ですが聞いてください。私にもお友達ができました! とってもとってもカッコよくって、でもでも可愛らしい自慢のお友達です! お名前はハスミさんって言って、初めて会ったときから少しずつですが仲良くなれて、そこから新しくお話できる方も増えてきてと、もう感謝してもしきれません。
学園に入って気がつけばもうひと月。中等部からできあがっていたグループに割り込むのは大変で、とっても苦労もしましたが、どうにか馴染んで行けそうです。
それからちょっと話は変わって、シスターフッドに入るには、こう、なんかすごい! って感じに目立つ必要があるらしいのです。これがまた難しそう……
ですからまずは、ハスミさんの所属している正義実現委員会ってところに入ってみることにしました。学園の治安維持とかするらしいので、きっといい感じに活躍できるはず! です! がんばるので応援してくだい!
次のお手紙はきっと、私のかっこいい武勇伝とシスターになれたって報告と、“教義”の詳細でたくさんです! 楽しみにしててくださいね!
ではまた、会える日まで! 敬具]
可愛らしい便箋を丁寧に畳んで封筒に戻しつつ……マエストロは訝しんだ。
はたして娘の言う正義実現委員会とシスターフッドという組織の間で、異動など可能なのだろうか。相当に深い関係がなければ、優秀な人員の引き抜きなど不要な対立の引き金にしかならないだろう。
しばし思考し、一つの答えを得て、己が採るべき次の行動を考える。
「……さて、次に向かう遺跡はどの年代のものであったか」
残念なことに、いや、やはりと言うべき事に、あの娘にはこの仕事は荷が重い。
小さく響いた木のきしむ音は、マエストロの苦笑であった。学園を楽しんでいるようで、なによりだ。
ゲマトリアの会合を前に、愉快な便りを懐に隠す。黒服あたりに見つかれば、からかわれるのは目に見えていた。
ーーー
「きひッ! きひひひひいぃーッ!」
「まってまってまってツルギちゃんストップストーップ! お願い止まってー!」
「きゃはははぁ!!!」
「だめだあの子、聞く耳あらぬ!!」
学区の境ぎりぎりに放置されていたとある廃ビル。そこを野良犬ならぬ、野良ゲヘナの子達が占拠して久しいと、報告があがったらしいのです。
もちろん正義実現委員会としてはこれを退治しない訳には行きません。善良なトリニティ生に被害が起こってからでは取り返しがつかない、なんて理屈はもちろん、ゲヘナ相手というだけで先輩たちの息が荒いのなんの。
でもそこは規律正しい正実(読み方は「せいじつ」。正義実現委員会って長いなぁって思った時のための、とっておきの縮めコトバですが、委員長の前で使うと怒られます)のメンバー。
私怨に飲まれず、まずは新人の教育にと、私たちの世代から特に火力に秀でたツルギちゃんが一番ヤリに選ばれました。
ついでに私は、たまたま選ばれたそのバディ。
ブリーフィングで伝えられたお仕事は、裏の壁へ突入用の大穴を開けること。他の委員が正面口で陽動にいそしむ間に、私たちは抜け道を作るだけ作って、あとの突入は歴戦の先輩たちにお任せーって作戦だったのですが……
「どうして、そのままカチコミしちゃうのツルギちゃーん!」
「きひっ! 上かぁ!!」
「階段のぼらないで! 帰れなくなるよー! ボスの気配察知しないで! 直行しちゃだめー!」
「いたぞこっちだ! 追え!」
「なめやがって! 2人だけでどうにかなると思ってんのか! 囲め囲め!」
「ひゃー! やめてー!」
ずんどこずんどこ単騎駆けするツルギちゃん。その背中が孤立しないように、床のガレキをたどたどしく避けて、必死になって追いかけます。
ツルギちゃんの、もうバズーカか何かかな? って威力のショットガンがどんどん道を切り開くなか、彼女の打ちもらしを処理しつつ、背後へ駆けつけたゲヘナガール達へ牽制の弾幕を散らします。
私の愛銃のサブマシンガンが火を噴くぜ! でも単発火力が足りないから、牽制はできても全然数が減らないぜ!
「お前らいけいけ追いかけろ! 後ろのヤツはあんまり強くないぞ!」
「あー! 事実でも言っていいことと悪い事ってあるでしょー! あったまきた! シロ姉直伝の爆弾さばきをご覧じろ!」
「な、ボール? 光ってる?」
「爆弾って聞こえたぞ!?」
「ぎゃー!」
「ようっし! 後ろの悪党、いちもうだじーん! ……って、あ! ツルギちゃん置いてかないでくださいってばー!」
「きぃひひひ!!」
こんなに奥まで来てしまったら、立ち止まったらおしまいです……!これはもう覚悟を決めて、敵将をやっつけるまで登り切るしかありません。
まだまだ新人気分で、そんな心の準備なんて全然してなかったのに、なんでこうなっちゃうのー!
「もうやけくそだー! GOGOGO! 全部私達で片づけちゃうんですから!」
「きひゃはははぁ!!」
「いけーツルギちゃん! 私たちの戦いは、これからだ!!」
気持ちは口から、勢いから。無理矢理に威勢をかき立てて、つっこむ先はボスの部屋!
不良だって、ロボットだって、ドラゴンだって出てきんしゃい!
全部倒して生きて帰って、今度おうちへ戻ったら、ぜったいぜったいパパにいっぱい誉めてもらうんですからねー!!
―――
普段は優しいはずの先輩が、鬼の形相で私たちを見下ろしています。
「ふたりとも、反省」
「きひゃはあ…… はい、すみません」
「だってツルギちゃんが……」
「反省!」
「いたーい! ゲンコツは痛いですってぇ……」
正座って私、苦手なんですよね……関節はきしむし、ふくらはぎと太ももを合わせる姿勢はうまく安定しなくって座りにくいし……
あの後、過去最高のコンビネーション(ちなみにツルギちゃんとコンビ組んだのは今日が初めてです)を発揮した私たちは、見事敵の親玉さんを蹴散らしました。
あの大将さん、なんかトレーニングのしすぎ?で、筋肉マッチョッチョなゴリラウーマンみたいになってましたね…… 小さなコウモリ風の羽や、先っぽだけとがった細い尻尾は、完璧な小悪魔風だったのに…… みごとなアンバランスでした。
まぁそれを一瞬で「のしちゃう」のが我らがツルギちゃんなわけですが。
やだ、私の同級生、頼りになりすぎ……
その後ちりぢりに逃げた残党が片づくのを待って、やってやったぜフンスフンスと得意げに戻ってみれば……待っていたのはお説教でした。
……そりゃあそうだ。
「剣先、おまえの強さは訓練で知っているつもりだったが、正直に述べるならば予想以上だった。今回のことでそれがよくわかった。次回からは適切に動けるよう指示を出すので、無謀な作戦逸脱は控えるように。お前が考えなしに好き勝手に暴れると、混乱に巻き込まれて周りに被害が出かねない。正義とは一人で実現するものではないと、重々理解してくれ」
「……ハイ」
「そして遊園」
「はい……」
私も怒られるのかなぁ、やだなぁ。
「お前はもっと先達を頼れ。作戦に明らかな支障が出来たとき、お前自身で事を判断するにはまだまだ経験が不足している。剣先だけならともかく、お前まで一緒に突入していくのを後ろから見ていた私たちの気持ちにもなれ。どれだけ肝を冷やしたか」
「はい……」
「ただ、はぁ……」
先輩のため息に体がビクリと震えて縮こまる。ま、まだ何かあったりします……?
「学年に不相応の無茶をしたのは決して誉められたことではないが、あの状況で怖じ気付かず、最後まで剣先から逸れず援護しきった事は、認められるべきお前の力だ。剣先に怯える者が多い1年の中で、土壇場でそうまで根性を示せる者はおそらく他にいなかっただろう。よくやった。私はお前を評価する」
「……え? あ、ありがとうございます!」
「よって剣先、遊園。お前達二人が今後は固定のバディとなるよう、私から委員長に進言しておこう! ……最強の矢尻に最適の矢羽根。喜べ、長じれば正義実現委員会始まって以来、最高の鉄砲玉になれるぞ」
「きゃっははは!!」
「て、鉄砲玉!? もうやだーー!」
誉められたけど、それは求めてないですって! あの突撃でぎりぎりだったんですって!! 同じ事もう一回やれって言われて出来ますか? 出来ませんよ!!
「アオ」
「え、な、なに? ツルギちゃん」
「私の後ろを、頼んでもいいのか……?」
「……ああもう真剣な顔はずるい! 任せてって言いたくなっちゃうんだよもー!」
「これは決まりだな」
「おお、うれしい」
「ほんとに嬉しそうなんだから…… まぁでも、よろしくお願いしますね。これから一緒にがんばりましょう」
「ああ、よろしく」
うんうんと頷く先輩を前に、不気味にはにかむツルギちゃんから差し出された手を握り返します。
これで良かったんですよね?
断るのはなんか違うし、ツルギちゃんとなら実績だって積みやすいし、これでシスターフッドへまたひとつ近づいた……はずですよね?
まあいいや、とにかく今は、全力で正義を! がんばります!
なるようになぁれ!
―――
……なんかうまく寝つけそうにないなぁ。
夕方くらいに部屋に戻って、ずいぶん早いがもう今日はさっさと休んでしまおうと寝る支度を整えて、布団に入って、幾分か。本日の強烈な出来事が脳を巡って私は興奮冷めやらず。
仕方がないから月とかお星様でも見て落ち着こうだなんて、ちょっとアンニュイでミステリアスなレディになっちゃおうだなんて、そう思ってカーテンを開けました。
「……ぜんぜん見えないじゃん」
あいにくと空は曇りぎみ。仕方がないと視線をおろせば、ジャージ姿の熱心な運動部員が、街灯を道しるべに寮の前のランニングコースを駆けています。
……その頭上にあるヘイローが、髪をきれいに照らしています。
「……いいなぁ」
呟いて、ベッドサイドに置かれた立体プロジェクターに目をやります。おもむろにそれを手にとって、後頭部のアダプタにあてて。かちかちカチリとぴったり填めると、投影されるのはヘイロー型の無個性な虚像。
鏡に目をやれば、なんだかうらめしそうな顔した私が立っています。
目に付くのは、普段はタイツやロングスカート、それから首元まですっぽり覆うインナーに隠されている、肌の木目や球体関節。
正直に言えば私、ちょっと自慢に思ってるんです。
だってどうです? この体の機能的な造形! 薄茶の色味や木の紋様の美しさ! ちょっとほれぼれしちゃいません?
本当は見せびらかしたいけど、あんまり見えちゃうと「セクシー」すぎますからね。だから普段は隠しているんです。
……でもヘイローだけは、私にはないものだから。どうしてもうらやましくなっちゃう。
「うーんっ、寝よっ!」
ぱちんと小気味良い音を響かせて、プロジェクターをその辺に投げやります。
……いや、明日の朝に見つからないかったら、イヤですね。なくしたら大変と、いそいそ拾い直して枕元へ。
私、朝はぎりぎりまで寝てたい派ですから。無駄な混乱の芽はしっかり摘んでおかなければです。
「シロ姉、クロ姉、ゴズ助。……あとパパ、みんな、おやすみなさい」
気分が沈んで、さっきまでの興奮はどこへやら。寂しくってみんなの名前を呼んだのはちょっと子供っぽくって恥ずかしいけど、聞かれてないならセーフセーフ。
まぶたを降ろして、ガラスで出来たおめめを閉じて、あたたかい布団に頭までくるまります。
どうかいい夢、見させてください。
家族のみんなにそうお願いして、ゆっくりと意識を手放しました。
それじゃあ、また明日。