[完結]拝啓パパ上マエストロ様。トリニティでも私は元気です。 作:がくらん
さんさんと降り注ぐお天道様の陽気に照らされて、秋の日差しをいっぱいに浴びるスタジアム。
陸上競技用トラックの中心に備えられた朝礼台……よく校庭で偉い人が上ってお話をする台ですね。
その上を、トリニティ正義実現委員会とゲヘナ風紀委員会の精鋭部隊が、大きな二つの隊列に分かれて見上げます。
全員の視線の先に、スイッチがオンになったマイクを握ってらっしゃる方が、おひとり。
「あ、あ、あー……みなさん、おはようございます。ゲヘナ風紀委員の天雨アコです」
「アコー! がんばれー!」
「もっと声張ってこー! トリニティに舐められちゃうよー!」
「ちょっと! 恥ずかしいからやめてください!」
「わ、あれが噂のアコさんなんだ!」
「うーん、まだキツそうに見えるなぁ。あれで実は優しいって話だよね?」
「アコさーん! こないだのお菓子の「ゲヘナの恋人」、分けてもらったけど美味しかったよー! ありがとねー!」
「はぁ!? トリニティはトリニティで様子がおかしい! さては遊園アオの差し金ですね!?」
『おー……! それっぽい!』
「だから! その反応はなんなんですか! もう!」
双方からの軽快なヤジへ果敢に立ち向かうは、そう! みなさんご存じ、アコさんです!
さて本日は、私やヒナさんユウカさんなどが苦労に苦労を重ねてこぎ着けました、“合同火力演習”の当日でございます。
朝一番、まずは開会のご挨拶と諸注意の伝達について、アコさんに登壇をお願いをしたのですが……
いやはやこれほどまでに盛り上がるとは! ふふふ、これもひとえにアコさんの人徳のおかげですね!
私も微力ながら、正実のみなさんへ地道にアコさんの評判を流し続けてきたかいがありました。
アコさんが一言話すごとに、どこからともなく「おー!」とか「いいぞー!」とか歓声があがります。
それに対してアコさんは、指を突きつけ、胸を反らし腰に手を当てて、ぷんすこと体全体で憤慨を表しますが……
やっぱり根が真面目なんですよねぇ。漏れなくしっかりと、注意事項を伝えきってくださいました。
「そーれーでーは! ……本日はくれぐれも! く、れ、ぐ、れ、も! 危険な行為のないように! みなさまどうぞよろしくお願いいたします!」
『よろしくお願いしまーす!』
アコさんの綺麗な礼に合わせて、トリニティとゲヘナ双方から、まばらな礼が返されます。
会場全体から拍手を受けて、朝礼台を降りていくアコさんを見送りまして。
次に登ってきたのは演習運営の、ちょっと緊張ぎみのユウカさん。
「それでは、次の集合は30分後です。それまでに各委員会指定のエリアにて、個人の装備や弾薬の準備をお願いします」
うんうん、ユウカさんも自然体で聞きやすい声ですね。
土壇場ではしっかり動けるあたり、彼女もさすがミレニアムはセミナーの一角といったところでしょう。
それでは私も、今の内に運営本部テントから正実に割り振られた一角へ、様子を見にへと戻ります。
正実エリアでは三々五々に人が集まり、みんなが談笑しながら準備を進めておりました。
……あ! あちらにおわしますは、我が愛しの親友ちゃんではございませんか!
「おーい、ハスミちゃーん!」
「アオちゃん!」
私に呼ばれて振り向いたハスミちゃんへ、いの一番に抱きつきます!
優しい腕と大きな羽で包み込むように受け止めてもらえまして、全力でハスミちゃんを堪能します。
柔らかくも体幹筋の芯を感じる、とっても素晴らしい抱き心地です。
私よりも頭一つ分は高い位置にあるお顔を、胸元から見上げて目があって、なんだか「にへへ!」と笑っちゃう。
「うわぁなんか久しぶり! 最近なかなか会えなかったよねぇ」
「本当だよ、もう……心配したんだから」
「へへへ、ごめんね? ……実は私、まぁまぁ? そこそこ? がんばったから、今は甘えちゃう!」
「はいはい。おいでアオちゃん、どうぞ遠慮なく」
「やったやった! ……あ、もしかしてハスミちゃん、また背が大きくなった? すごいねぇ! 前よりもっと、かわいくってかっこいいねぇ!」
「誉めすぎだよ……でもたしかにちょっと身長は伸びたかな? ……っは! もしかして余計なお肉がついてそう見えてるだけかも……?」
「だーかーら、そういうこと気にしすぎたらダメっていつも言ってるでしょ! 正実で運動もいっぱいしてるんだから大丈夫! スタイル抜群! みんなの憧れ!」
「そ、そうかな……うん、ありがとうね」
「うん!」
えへえへ、なんて、自分の笑顔がだらしなくなっていないか、ちょっと心配なくらいです。
この演習のための準備が始まって、連邦生徒会やらゲヘナやらへと飛び出した頃から、気が付けば早1ヶ月ほどは経ったでしょうか?
トリニティに帰ってからもお互いに忙しくてタイミングが合わなくって、ハスミちゃんとは久々の再会です。
ハスミちゃんとの会話って、そういえばこんな風だったなぁなんて、ちょっと嬉しくなっちゃいます。
「今日が終われば、アオちゃんも落ち着くかな?」
「万事無事に済めば、だね! あとちょっと、気合い入れて行きます!」
「ふふ、燃え尽きないように、ほどほどにね? 通常業務にちゃんと戻ってこられるように。アオちゃんがいない間、結構大変だったんだから。特にほら、後任予定のイチカが……」
「あー、確かに。演習準備にかまけて、普段のお外関係のお仕事そのまま任せちゃってますね。……大丈夫かな?」
「……ぜんぜん大丈夫じゃないっすよぉ」
「うわぁ! びっくり! イチカちゃん!?」
ぬぼーっ……、という表現が適切でしょうか。
気配も感じさせずにいつの間にか近寄ってきたイチカちゃんが、私とハスミちゃんに割って入るように現れます。
そのお顔の目の周り、かわいそうに、深いクマでくぼんだところがパンダのようになっちゃって。
……こんなお顔、以前どこかの誰かがしていたような。……あ、そうだ。
「ははは、なんだか昔の私みたいな顔してますね、イチカちゃん」
「あ、確かに去年の今頃、アオちゃんもこんなだったね。……先輩に連れられていろんな人に会ってたころ」
「そうそう! いやぁ、大変なんですよねぇ」
「いや、そんなノンキなやつじゃないっすよ! ほんと大変なんすから! まだまだアオちゃん先輩じゃないとムリっすこの仕事!」
「またまたー。イチカちゃんってば私よりずっと飲み込み早いから、もうちょっとすれば楽勝だって」
「もー! これだから自己評価がぐだぐだな、おとぼけアオちゃん先輩はー!」
「これはたぶん、イチカの方に理があるかな……?」
「えー?」
……ちょっと納得がいきませんが、まぁここまで真に迫ってイチカちゃんが訴えるのですから、そうなんですかね?
「私もお偉いさんのとこ、いくらかアオちゃん先輩に連れ回されてなんだかんだ慣れてきて、これはそろそろ一人でもいけるかな? って、勘違いしてたんっすよ……」
「勘違い?」
「そうっす。会う人会う人、アオちゃん先輩がいるといないでぜんぜん感じが違うんすもん……私だけで対面すると……これ、良くない言い方っすけど……陰湿っていうか、一筋縄では行かないっていうか……」
そう言って顔を伏せるイチカちゃんが本当に悲壮感たっぷりで、私はちょっと反省します。
「あちゃーそっか、イチカちゃんはまだいろんな派閥の方と“仲良し”にはなれてなかったかー」
「政治なのに“仲良し”ってなんっすか……物騒な隠語かなにかっすか……?」
「ごめんね。もうちょっと紹介してまわるから、来週からはもっと頼ってね!」
「ううう、アオちゃん先輩のせいで苦労してるのに、アオちゃん先輩が救いの神さまにみえるっす……これ絶対マッチポンプっす……」
「失敬な!」
イチカちゃん、本当にできる子なので、ちょっと期待してお仕事を任せすぎちゃったかもしれません。
……ああなんか、去年の私に、お外関係のお仕事を回してくれた先輩の気持ちが、少しわかってしまいます。
いい後輩が努力してくれて、しっかりと育ってくれるのって想像以上にうれしくって……ついもっと、かわいがりたくなっちゃいますね……
当時の先輩も、ひーこら言ってた私をこんな風にみてたんですかね?
ニヤニヤしてるのがイチカちゃんにばれちゃうと、怒られちゃうかもしれません。
そう思って口元を隠しましたが……ハスミちゃんには横目でじとーっと見られてしまいました。
お口の周りを手で覆ったまま、ちょびっと舌をだして片目を閉じて、おどけて見せたりしちゃいます。
「とりあえず次のお仕事はナギサさんへのご挨拶かな? イチカちゃんは初対面になるよね?」
「ナギサさんって……あのティーパーティーのっすか!?」
「そうそう。この演習の費用、連邦生徒会からの補助金でだいたい賄えたけど、それでも多少は臨時予算とか通してもらったから。お礼を言いに行かなきゃ」
「うう、想像以上に重いっすけど、がんばるっす……」
現在この会場には、ティーパーティーや万魔殿といった、両校の政治的に重い立場なお方はいらっしゃりません。
というより、わざと排除しました。
「現場同士の関係作り」という実益重視のこの演習に、変に政治的なメッセージが付与されると困っちゃいますからね。
ナギサさん、企画当初はこの演習については無関心だったんです。
でもいつだったかな? 私の名前で予算申請の最終稿を出したあたりで、急に援助の打診をただきまして。
突然な申し出に驚いて直接お話を伺いに行きましたが、ナギサさん、なぜかずいぶんと慌てたご様子でした。
「ティーパーティとしてなにか手を貸せませんか?」と言っていただけたのですが……正直この期に及べば、お偉いさんが関与してしまう方がやっかいだったんですよねぇ。
そういうお話をやんわりと伝えたら、「では最低限、ゲヘナの万魔殿からも干渉が少なくなるように動きましょう」って。
さすが我らがトリニティの、ティーパーティー今年度ホスト様! 頼もしかったですねぇ。
そんなこんなを思い返しながら、イチカちゃんと手帳のカレンダーをのぞき込んで、今後の予定を軽く決めていきます。
……と、そのとき、正実準備エリアのはずれの方が、にわかに騒がしくなるのに気が付きます。
ーーあれ、ゲヘナの子? なんでこっちに……?
ーーゲヘナか……いきなり暴れないといいけど……
ーーどうする? 念のため銃口向けとく……?
ーーいや、さすがにそれはダメじゃない……? うーんでも……?
不安げな声ほど耳に入りやすく大きく木霊し、緊張感が空間に伝播していきます。
うわうわ、まずいまずい! なんか物騒な事を言っている子がいるようです!
なにか事件になる前に止めなければと慌てて、声の元へ走りだそうとする私ですが……その必要はありませんでした。
集団の外周からの不穏なざわめきは、私がわざわざ向かう必要もなく、だんだんとこちらへ近づいてきまして。
「アオ、おじゃまするわ」
「え!? ヒナさん! いらっしゃいませ!」
「えっとアオちゃん、お友達?」
「です! ゲヘナのヒナさん、運営を手伝ってくれました!」
「そうなんだ……」
ゲヘナ風紀委員の制服をさっそうと翻しながら現れたのは、なんとヒナさんでした。
周りから、「なんだアオの友達かー」だとか「なら大丈夫だねー」だとか安堵の声が聞こえてきて、一気に空気が弛緩していきます。
ひとまず暴発の気配はどこかに去りましたが……やっぱりまだまだみなさんの、ゲヘナへの警戒心を感じさせる一幕です……
ちょっと危ないところでした。詰まっていた息を吐いて、冷や汗を軽く拭います。
「ヒナさんすみません、こんな雰囲気で……それで、なにか私にご用時ですか?」
「ええ、頼みなのだけれど、少し一緒にゲヘナのエリアまで来てくれないかしら」
「それは、別にかまいませんが……なにかございましたか?」
「トリニティの生徒が一人、迷ったのかこちらへ入りこんできたのだけれど……たたずんだまま黙り込んでしまって。アオなら話ができるかと思って」
「なんと……わかりました、お任せください! すぐに行きましょう!」
「そう、ありがとう。けれど行く前に……」
ちょっと状況が奇妙ですが、きっとそのトリニティの子は困っていますからね。善は急げ! です!
……と私は思っているのですが、ヒナさんはすぐには動きませんでした。
その視線がハスミちゃんの方へ向けられて、ハスミちゃんもなにかの気持ちを込めた視線でお返しをしてて……?
「悪いけどアオを連れて行くわね……大丈夫よ、誓って、誰にも危害を加えさせたりはしないわ」
「……そうですか。……いえ、ごめんなさい。私も少し神経質になっていたようです」
「気にしないで。……運営の準備でのつき合いもあって、アオのことは私もある程度はわかっているつもり。……アオ、無警戒でよく徘徊するのでしょう? 心配するのも無理はない。苦労しているのね」
「わかっていただけて嬉しいです。ホントにもう、アオちゃんは……」
「あれ? なんか私の悪口のお話をしてます?」
「……アオちゃん先輩はちょっと黙ってるっす」
「えー!」
二人の間にあった張りつめた気配が、少ない会話で霧散していきました。
私が不満と抗議の声をあげるのもまったく響きません。
まったく、人をまぬけなタヌキか何かのようにおっしゃいまして、失礼しちゃいます!
でもなぜか、二人がわかり会うきっかけになれたようなので……まぁ、許してはあげますが。
「むー、私だってきちんと考えて動いてますもん」
『……はぁ』
「なんでみんなため息ー!? ……もう! ほらほら、ヒナさん早く行きますよ!」
「……そうね」
ハスミちゃん達に小さく手を振って、私は今度こそ歩き出したヒナさんの背を追います。
向かうはゲヘナへ用意されたスペースですが、着ている制服が異なるくらいで、にぎやかな雰囲気はトリニティと変わりません。
「あ、アカちゃんじゃーん! やっほー」
「え? アカちゃん? おひさー!」
「ちょっとー! アカちゃんいなくなってから学食さびしいんだけどー!」
「みなさんお久しぶりですー! せっかくだからおしゃべりしたいんですが……」
「アオ、急いで……」
「ちょっと緊急なようなのでまた後ほどー! ごめんなさーい!」
『えー!』
集団の中へ入ってすぐ、給食部を通して顔見知りになったみなさんが声をかけてくださいます。
まこと残念なのですが、ゆっくりお話するのはまたの機会にいたしまして。
人をかき分け歩き進むたびに、会う人会う人へ挨拶をし続けながら、現場へと急ぎます。
しかしそんな緩い様子もすぐに途切れて、異様な空気を発している一角に近づいてきました。
どうやら一人のトリニティ生を円状の人垣で囲んでいるようです。
ずいぶんと警戒をされているのでしょう、周囲の人の壁からはたいぶ距離をとられて、大きな円のその中心には……
「わ! ツルギちゃんじゃないですか!?」
「…………アオか、っ、きひっ……!」
「お、抑えて抑えて! どうどうどう!」
「……っひぃ」
緊張でお顔がこわばって、いかにも“狂気に染まった”と形容されるような凶相を携えたツルギちゃんが、一人うずくまっていました。
周りの風紀委員の方々からは、恐怖と緊張を感じます。
今、ツルギちゃんがいつもの奇声をあげれば、周囲を大いに刺激するでしょう。それは間違いなく危険な事です。
私はツルギちゃんへ顔を近づけ、内緒話をするように、ゆっくりと事情を聞いていきます。
「ツルギちゃん、ゆっくり落ち着いてお話してください。私が丁寧な口調にして、みんなにお伝えしますから」
「………………きひぃ」
「えっと、なになに……「次年度からのトリニティ正義実現委員会の幹部として、ゲヘナ風紀委員会のみなさまにご挨拶がしたくて参りました、剣先ツルギです」……なるほど?」
「………………きひきひぃ」
「さらに……「興奮すると奇声を発する悪癖があるので、うまくお話ができませんでした。すみません」……はいはい」
「………………きっひきひぃ」
「それから……「ゲヘナのみなさんと演習ができるのを楽しみにしておりました。本日はどうぞよろしくお願いします」……ですって!」
「……アオ、その……剣先ツルギは本当にそう言っているの?」
「はい! 間違いありません! ……みなさま、お騒がせして申し訳ありませんでしたー! 今日はよろしくお願いします!」
私とツルギちゃんが同時に、きっちりと周囲へ頭を下げて見せます。
すると、「まぁ、アカちゃんがそう言うなら……」とか「あのツルギって人、意外とまともなんだ……」とか、ざわざわと漏れ出た感想が聞こえてきます。
ふう、危機一髪……どうにか、この場を切り抜ける事ができたようです。
「……すまない、アオ。……助かった」
「いえいえ。ツルギちゃんってば、こういうの苦手なんですから……次からは私やハスミちゃんをもっと頼ってくれていいですからね」
「……肝に銘じる」
「剣先ツルギね。私は空崎ヒナ。あなたの勇名は情報部でも良く耳にしていたわ。出会えて光栄よ」
「きゃひひひーー! きぃいいえええ!! …………よろしく頼む」
「……独特なのね」
「ははは……」
突如とどろいたツルギちゃんの大声に、私は苦笑します。
周りの子達がなんだなんだと驚きますが、ツルギちゃんとヒナさんが握手するのを見て、どうやら危険はないようだと判断してくれた模様です。
その後さらに騒ぎが大きくなる前に、私はツルギちゃんの手を引いて、トリニティの区画へ戻ることといたしました。
ツルギちゃんはお気の毒に、いつもの猫背どころではないほどに、大きく肩を落としながらついてきます。
ツルギちゃん、実は最近、正実内で次期幹部の内定をもらったばかりです。
この度はその責任感から、行動が空回りしてしまったのかもしれません。
……ただ、そのちょっとした空回りが、ゲヘナのみなさまの暴走を誘因しかねなかったわけでして。
「この演習を成功させるのって、やっぱり難しいんですかねぇ……」
「…………」
この短い時間でのあれこれに疲労して、思わず弱音が漏れてしまいます。
ヒナさんへ過剰に反応した正実のみなさん。
ツルギちゃんを怖がった風紀委員のみなさん。
今はまだ、本格的に演習が始まっていない段階です。
それでもトリニティとゲヘナがそれぞれ少し関わっただけで、これほど騒動が起こってしまっています。
冒頭のアコさんの挨拶は平和でした。
これはきっと私の宣伝のおかげで、正実でアコさんの事がよく知られていたからです。
そうでなければあの一見トゲトゲしい口調に、なにか反発があったかもしれません。
ヒナさんが正実を訪れたとき、そしてツルギちゃんが風紀委員を訪れたとき。
これらは半ば一触即発の空気を、それぞれが発していました。
二人を良く知っている私が、ちょっと誤解を解けばすぐに収まりましたが……
「私、うまくやれているでしょうか……」
「アオ……」
この演習の間、きっと似たようなことは起こり続けます。
私はその全ての状況に、対処しきれる自信があります。
それだけ参加者みなさん個々人のことを、私は理解しています。
……でも、騒動の場に私が居合わせられなければ、そんな自信は意味がありません。
当然、残念なことに私の体は一つだけ。もし騒動が起こって、それがエスカレートするまでに私の仲裁が間に合わなかったら。
もし複数の騒動が、同時に起こってしまったら。
……この演習は、最悪の形で終わってしまうかもしれません。
もちろん演習のプログラムは、ケンカが起こりにくいように工夫をして組みました。
ですがそのプログラムの外では、こんなに簡単に、崩壊へのきっかけが生まれ続けます。
正実と風紀委員。それらが一緒に動く機会さえ作れてしまえば、合同演習さえ済ましてしまえば。
正実と風紀委員なら、お互いを知りさえすればきっと仲良くできると、私は信じてがんばってきました。
……それは甘い考えだったのでしょうか。
……不安が背中にのしかかってくるようです。
私はまだ、間違っていないでしょうか……?
それとももう、取り返しの付かないなにかを、してしまった後なのでしょうか……?
……いけません! ちょっとナーバスになりすぎましたね……!
病は弱気から、元気は口から言葉から! もっと明るいことを言って気分を切り替えなければいけません!
「そう、きっとみんな大丈夫、無事に済むはずだから頑張ろう! すみませんツルギちゃん、私ったら急に落ち込んで! 鬱陶しかったですよね!」
「……ちがう。アオ、聞け」
「はい! なんでしょう?」
そもそもこんな辛気臭くちゃ私っぽくありません! きっとツルギちゃんもそう思ったのでしょう、見かねてなにか、声をかけようとしてくれた……そのとき。
『み、ミレニアムの早瀬ユウカです! 演習運営本部から、みなさんに緊急のお知らせです!』
スタジアムの館内放送にて、ユウカさんの切羽詰まった声が響きわたります。
不必要に大きくなった声がハウリングを起こして、不快な音の反響が耳をつんざきます。
ですが、ユウカさんはそれが収まるを待つのもじれったいようで、無理矢理に放送は続けられます。
『スタジアムにほど近い廃墟地区にて、大規模な正体不明の機械兵団が確認されました! 各委員は即応態勢で待機を! 運営委員各位はすぐに本部テントまで集まるようお願いします!』
「……え?」
突然の凶報をきっかけに、大きなざわめきと混乱がスタジアムを覆い尽くします。
その場の人員すべてが、各々焦燥にかられながらも指揮系統に従って行動するなか。
私は頭が真っ白になって、ただ、その場に立ち尽くしました。