[完結]拝啓パパ上マエストロ様。トリニティでも私は元気です。   作:がくらん

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中編⑥トリゲヘ合同火力演習!後編

 臨時の緊急会議場となった、スタジアムの事務室。

 こちらの壁にかかるモニターに、ミレニアムの偵察ドローンがとらえた、謎の機械兵達の映像が流されます。

 私とユウカさん、ヒナさんの三名をはじめとした、この演習の運営を担っていたスタッフ各位が、その様子を食い入るように見つめました。

 

 銃身を備えただけの浮遊ドローンから、人型の戦闘オートマタ、はたまたスイーパー状の小型ロボットなど、多種多様……もっといえば統一感のない、雑多な構成の兵隊達。

 隊列も組まずてんでばらばらに、しかし真っすぐにスタジアムへと向かって進んできます。

 驚くべきはその数です。

 まばらに地面を埋める無数の機械兵は、偵察ドローンのカメラの解像度限界まで、延々と奥まで連なっています。

 

 全員が映像に釘付けになるなか、最前列に立っていたユウカさんが皆へと体の向きを返して、強ばった声を発しました。

 

「ご覧いただいているのは、リアルタイムの映像です。幸い機械兵の進行スピードは遅いですが、廃墟地区を出るのは時間の問題……予断を許さない状況です」

「……見た限り、あまり強くはなさそうね」

「はい。我が校のエージェントによる威力偵察でも、個々の機械兵の脅威はさほどではないと報告されています。ただ……」

「数が多い……厄介ね」

「その通りです……。あっ! リオ会長から通信が入りました! 繋ぎます!」

 

 ユウカさんがモニターを操作し、敵兵に代わって映し出されるのはリオさんです。

 ただでさえ鋭いその目が、普段にも増して険しく光ります。

 

『みな、集まっているわね。悪いけれど手短に。先ほどトリニティ、ゲヘナ両学園へ、正義実現委員会および風紀委員会の戦闘派遣依頼を提出し、受理されたわ』

「早いわね。万魔殿やティーパーティーは渋らなかったの?」

『ずいぶんとふっかけられたわね。人員、装備の実費補償はもちろん、後日には諸々の技術供与の約束まで。けれど全て飲んだわ。それでミレニアム生徒の安全が買えるのならば高くはない』

「……剛胆ね」

 

 仕方ないですが、こんな場面でも見返りをたっぷりと要求する我らが学園の上層部には、少し困ってしまいますね……

 トリニティ、ゲヘナそれぞれの代表となってしまう私とヒナさんで、少し肩身がせまくなります。

 ですがこれで、二つの委員会がミレニアム内で堂々と活動できるようになりました。

 

『おかげで両委員会の現場指揮権も得られた。もちろん、無茶な作戦は各委員長が拒否できるとの条件付き、ではあるけれど』

「……なるほど」

『よってそちらはあなたたち、合同火力演習運営委員会の人員をそのまま、機械兵対策指揮支部として設置するわ。ユウカを筆頭に協議して作戦を立案し、機械兵の掃討を担うように』

「わ、私が筆頭ですか!? リオ会長は!?」

『私はC&Cと共にこの機械兵発生の大本を断つ。それまでの防波堤を、あなたたちにお願いしたい』

「そ、そんな……」

 

 ユウカさんが戸惑いを隠せず、身を震わせます。

 しかし、そんなユウカさんを画面越しに見るリオさんの表情は、とても柔らかく微笑んでいまして。

 

『ユウカ、そこの二人をよく頼って事にあたりなさい。大丈夫、こちらで根本を解決するまでの、たかが時間稼ぎよ。あなたならできる。……信頼しているわ』

「……っ! もう、そうまで言われたら覚悟を決めます! わかりました! お任せください!」

『……ありがとう』

 

 『では、頼んだわよ』と、その言葉を発しきるのも待たれずに、リオさんからの通信は切断されました。

 リオさんの優しく励ます言葉と、それを聞いて改めて気合いを入れているユウカさん。

 私はそれを見ていて、セミナーにて育まれつつある、彼女たちの絆を感じます。

 ……ちょびっとだけでしたが、私がお世話を焼いたかいも、あったのかもしれませんね。

 

 さて、モニターに映る景色はリオさんのお顔から、進行中の機械兵のものへと戻りました。

 数秒、沈黙が部屋に降り、各々が思考に時間を割きます。

 対立する二つの組織を利用する、防御作戦の立案。

 この難しい課題に対して、まずはユウカさんが口火を切ります。

 

「……やはり、もっとも危惧される状況は、両委員会間で戦闘が発生してしまうことでしょうか」

「そうね。……ただ戦闘予測地点がよくないわ。こんなに狭く入り組んだ廃墟群では防御陣地が作りづらい。どう考えても二つの委員会が近くなりすぎる」

「さらにこの敵の数では……時間が経てば必ず乱戦になりますね。その時に誤射のひとつでも起これば……」

「あっという間に、委員会同士の本格的な仲間割れの始まりね」

 

「……ではいっそ最初から、両委員会を統合して作戦を行うのはどうでしょう?」

「論外よ。間違いなく命令系統が混乱するし……よしんば強引に実行できたとしても、作戦中はいたる所で諍いが生じるでしょうね」

「そうですよね……」

 

 お二人が会話を通して案を練る中、私は一人、思考を続けます。

 最悪を推定すれば、敵はほぼ無限です。

 リオさんと、ミレニアムの最高戦力と名高いC&Cが動いてくれてはおりますが、作戦達成までの時間ははっきりとしません。

 すなわち、先の見えない戦闘でストレスがかかり続ける状況です。

 

 おそらく戦闘が始まって最初のしばらくは、組織立ってみなさん動けるはずです。

 ですが最悪なのは、疲労が溜まってしんどくなってくるタイミングでしょう。

 戦線は乱れ、個々人での乱戦へと移っていく、そんな中で。

 みなさんが反目せずに戦闘を継続し、時間を稼ぎ続けるためには、なにか相応の工夫が必要となります。

 

 その工夫を、私は考えます。

 今、私のなかでは、とても難しいパズルのような私案が一つ、ようやくまとまりつつあります。

 この方法がうまく行くかどうかは、正直わかりません。

 

「アオ、どうしたの? まったく言葉がないけれど」

「……いえ。いえ……すみません。ちょっと考え事を……」

「黙っていても結論はでないわ。その考えを口に出しなさい」

「……はい。はい……! では聞いてください! この私の妙案を!」

「妙案?」

 

 しかし、腹をくくりましょう……!

 ほかの誰でもない、私になら、できるかもしれません……!

 いえ、きっとやりとげて見せましょう!

 

「今から話す作戦なんですが……正直なところ、ギャンブルもいいところです。でもあえて私は、必ず成功すると断言します。私なら成し遂げてみせると宣言をします!」

「アオさん?」

「アオ……」

「だから二人とも、心して聞いてください。そしてさらに言えば、この状況で私に全てを賭けてほしいんです!」

 

 ーーお二人への、私からの“お願い”です……!

 

 弱気になりそうな自分を心の中ではっ倒して、勇気を振り絞って、不適に笑ってみせましょう。

 目の前のお二人に、私は自信や確信をきちんと持っていると、はったりを利かせましょう。

 

 お二人にこの“お願い”を聞いてもらえるかが、まずは試金石となります。

 この作戦では強力な戦闘力ではなく、大局的な作戦立案能力でもなく、みなさんからの()()()()()()()が、もっとも大切です。

 たった二人にさえ私の“お願い”を聞いてもらえないのなら、そもそもこの作戦は成立しないのです……!

 

 そうして、ヒナさんとユウカさんに、私の案を聞かせていきます。

 お二人は聞いている間、驚きか当惑か怪訝そうなのか、よくわからない表情をしていたと思います。

 どちらもしかめた眉毛で、額の中央がしわしわになってしまうほどでした。

 

 ……でも最終的には、頷いてくださいました。

 この大博打で、私に賭けてくださいました。

 こんなめちゃくちゃな作戦でも、遊園アオにならできると判断をしてくれました。

 

 とならば、です! そのご期待に、応えなくてはなりません!

 私は私の理想をこれから、形にせねばなりません!

 

 やるぞやるぞ! と、震える足に渇を入れて、私はスタジアムの事務室を飛び出しました。

 

 

ーーー

 

 

 先ほど、ユウカさんが敵襲の第一報を放送してくださったとき。

 立ち尽くして動けなくなった私へ向けて、ツルギちゃんは言いました。

 

『……アオ、お前はリーダーに向いてない……正確には、上から命令を下すのに向いていない。……それは私の領分だ』

『……だが代わりに……お前の“お願い”を断る奴は、正義実現委員会には絶対にいない。断言する』

『……ゲヘナではどうだ? ……どれだけが、お前の“お願い”を聞いてくれる?』

『……まずお前は、お前個人が持っている力について、よく考えて理解しろ』

『……その上で、気負うな。……お前はお前にできることをしろ』

 

 そう伝えてくれて、私の背中を強く叩いて、ツルギちゃんは正実の陣営へ去っていきました。

 その背中を思い出します。

 猫背のせいで身長の割に小さい背中が語る、私への叱咤激励を受け取ります。

 

 ……さぁ、心を奮わせるための回想はここまでです!

 今の私は、事務室を出てすぐ、スタジアム全体を見渡せる場所に立っています。

 緊張ですくみそうになる足をひっぱたいて、しっかり動くように言い聞かせます。

 グラウンドの中央に目を向ければ、出撃を今か今かと待ちながら、整然と待機する二つの集団が見えました。

 

 時間を無駄にはできません。今にも機械兵はこちらへと迫ってきているのです。

 それでも一回だけ、大きく息を吸って、吐いて。

 お腹の底から声を出せるように、のどと腹筋の調子を整えて。

 

 まずは登場のインパクトで、みなさんの度肝をぬきます!

 

「ヘーイ、カモン! アバンギャルド君!!」

 

 私の大声とイカした指パッチンの音をきっかけに、堂々たる偉容を誇るアバンギャルド君が、機材準備室の扉をぶち破って飛び出してきました!

 

 唸るキャタピラ! まっすぐにのばされた4本の腕!

 ドリフトをかましてスタジアムの地面に黒い軌跡を刻み、摩擦で生じた煙に淡く包まれて!

 集めた注目を一身に受けるアバンギャルド君が、両委員会の間、そのちょうど中央に達するタイミングをしっかりと狙って!

 

「とーうっ! 合体っ! 遊園アオfeat.アバンギャルド君! 登場ですっ!!」

 

 私は高く高く飛び上がって、アバンギャルド君の肩へ着地します!

 みなさんを見下ろしながら、仁王立ちして腕を組み! 堂々と! 名乗りを上げます!

 そしてその勢いのまま……!

 

「はーい、ではみなさん二人組を作りますよー!」

『……?』

「私がお名前を読んだら、前へ出てきてくださいね! 最初の一組は、羽川ハスミさんと天雨アコさん! さあどうぞこちらのスペースへ!」

「……え?」

「……は?」

「はいはい! 時間ないから早く早くー! 次は剣先ツルギさんと空崎ヒナさんで、その次はーー」

『…………』

 

 困惑の表情のまま、各陣営からのこのこと出てきたお二人ずつを、スタジアムの空いている方へ誘導します。

 そして間をおかずに次々と、正実と風紀委員会から1人ずつを選び出した二人組を、高速で発表していきます。

 

 選定条件は……なんと私の独断です!

 私の今までの人つき合いの中で感じた、みなさん個々人の人となりを鑑みて……

 

 たとえば、お互いおとなしくて寛容な方同士。

 たとえば、性格は真反対だけれど、共通の趣味を持つ方々。

 たとえば、一緒に戦えば、お互いを補いあって最高の戦力を見込める組み合わせ。

 たとえば、当初はいがみ合っても、ゆくゆくは必ず相棒として分かり合えそうな二人組。

 たとえば、……もしかしたら甘酸っぱい関係になるかもしれない、ロマンチックなお二方。

 

 この場のトリニティ生とゲヘナ生のなかで、私から見た()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を、量産しているわけでございます!

 まぁ、両委員会の人数がぴったり同じではないので、いくつかは3人組になってしまうのはご愛敬ということで。

 

「では、最後に……トリニティ正実委員長と、ゲヘナ風紀委員長! はい、こちらへお越しくださいー!」

「…………」

「…………」

 

 たいした時間もかからずに、全組み合わせの発表が終わりました。

 

 私が先ほど登場した際の、アバンギャルド君との合体シーンのインパクトはとっくに過去になりまして。

 みなさんが勢いだけで言うことを聞いてくれる環境は、すでに収まってしまっています。

 

 二つの委員会の隊列は完全に崩れて、それぞれの二人組は、お互い警戒しながら微妙な距離を保ったまま。

 気まずい沈黙が漂い、視線を介して私への無言の抗議が集まっています。

 

 さぁあとは、私が真摯に作戦をお伝えいたしましょう。

 みなさんが受け入れてくれると信じて、ゆっくりと言葉を紡いでいきます。

 

「合同火力演習運営委員あらため、機械兵対策委員を代表して、これから私がこの度の作戦をお伝えします」

 

「スタジアムの大型モニターでも、お外の様子が映っていますね。皆さんのご想像に違わず、たった今作りました二人組をベースに、あの機械兵団への対処をしていくことになります」

 

「そこで一つ、守ってほしいルールがあるのです」

 

「それは、「いま組んでいる“自分の相方”だけは必ず守り抜くこと」、です」

 

「おそらく長い乱戦が予想されます。敵味方入り乱れ、誤って味方へ向けて弾丸を放ってしまうこともあるでしょう。もうそれは仕方がありません」

 

「ですが、敵からも味方の誤射からも、どうかお互いに“パートナー”だけは庇ってあげてほしいのです。それ以外の戦い方は、各々みなさんにお任せします。ただ、今あなた方の横に立っている“あなたのお相手”にだけは、絶対に味方でいてあげてください」

 

「初対面で、しかも大嫌いな学園の相手を前に、思うところは山ほどあるかと思います。たった今「そんなのふざけるな」、「やってられるか」と、考えているかと思います。でも……」

 

「どうか私の……トリニティ正義実現委員会の遊園アオの、ゲヘナ給食部の公園アカの顔に免じて……すこしだけ、今日この戦闘の間だけでいいんです。その不満を、どうか我慢してください」

 

 ーーそんな私の“お願い”を、どうか聞いてほしいんです……!

 

『…………』

 

 これが私のたどり着いた、穴だらけの妙策です。

 

 私の“お願い”どおりにみなさんが動いてくれれば、各委員は小さな組に分かれて、組織だった対立は起こらないはず……

 みなさんがそれぞれたった一人の相手へのみ、敵意を我慢してくれれば、最小単位で両学園が協力しあえるはず……

 

 さらに私の目算通りなら……! 私が全身全霊で選び出した組み合わせでなら!

 個々の組で、みなさんが持っている能力を最適に引き出せますし、なんだったら二人の相乗効果で何倍にも強くなる……! と、思われます!

 

 ……いやな静けさがあたりを支配します。

 正直なところ、この作戦についてみなさんが無言で考えてくれている、この時間が一番しんどいです。

 良いとも、悪いとも、なかなかだれも声を上げてくれません。

 委員長でもだれでも、なにか反応を返してくれるのを私は待つつもり、なのでしたが……

 

「まあ? 私の考えた組分けですから? もう完璧に? 全員が仲良くなるのは確定なんですが!?」

 

 ……我慢できなくなって茶化してしまいました!

 ああ、ユウカさんが事務室の前で「あちゃー……」って顔を覆うのが見えますねぇ!

 

「ふ、ふざけるなー!」

「そうだそうだー! 真面目にやるなら最後までやれー!」

「めちゃくちゃな作戦たてるなー! ほんとにできると思ってんのかー!」

「いくらアオちゃんだからって限界があるぞー!」

 

「ひぃん! ごめんなさいー! でもホントにがんばって考えたんですよぅ! ……ほら見て! 隣の人! なんかこう……魅力的でしょう??」

 

「バカ言わないで! この人ゲヘナだよ!」

「うるせぇな! 羽がうっとおしいんだよ引っ込めろトリニティ!」

「はい!? 今あなたなんて言った!? ヤギみたいな角して! 草でも食べてろ!」

「なんだとー!」

 

「うわぁん、ケンカはやめて! お願い! このとおり! 土下座しますから! うえーん!」

 

 我慢が利かなかった私に向かって、当たり前ですが非難が飛び交います。

 

 一斉にわき上がったみなさんからのヤジを受けて、涙目をこらえて謝ります。

 ほら! アバンギャルド君も一緒に謝って!

 私と一緒に頭を下げさせたアバンギャルド君の、後頭部の平らになった場所で、死にものぐるいで土下座をかまします……!

 ううう、こんなはずじゃなかったのにぃ。

 もっとカッコよくシリアスに決めるはずだったのにぃ……!

 

「ご、ごめんなさいぃ、許してくださいぃ……!」

『はああぁぁ……』

「ううう、ぐしゅぐしゅ……」

 

 私の醜態と引き替えに起こった、会場全体にまでおよぶ特大のため息。

 それが吐き出してくれたのは、不満だとか不信感だとか、なにかそういう負の感情だったのかもしれません。

 まさにほんの一瞬、明らかに空気が変化した感覚がありまして。

 

「……はぁ、仕方ないですね。私は乗ってあげてもいいですよ?」

「あ、アコさん!」

「けひゃっ! ……私も従う。……アオの言うことだ……まず悪くはならない」

「つ、ツルギちゃぁん!」

 

 その一瞬の弛緩した空気を逃さずに、もうこれ以上ないほどに的確なタイミングで、アコさんとツルギちゃんが声を上げてくださいました。

 

 すると次々と、「……はぁ。アオちゃんの頼みなら、仕方ないかぁ」とか、「アカー! あとでなんか埋め合わせすんだよー!」とか、ところどころから立ち上がる了承の言葉が。

 「アオちゃん先輩ー! 泣きやむっすよー!」とか、「アカちゃーん! 自業自得だけど元気だしてー!」とか、呆れた調子を含んだ励ましの言葉が。

 だんだんと大きな流れのようになって、私へ届けられるようになってくれて。

 

「うぅ、ううう! みなさん、ありがとうございますー! 私、とってもうれしいですぅ……!」

 

 なんかうやむやのウチに、承知していただける感じになってきました!

 あとは拒否権を持つ二人の委員長をこっそりと伺いますと……

 

「……ッチ、まさか3年の風紀委員の長にまでなってから、テメェと組むことになるとはなぁ……なぁ、正実委員長様よぅ?」

「……はいはい、風紀委員長さんは相変わらず口が悪いこと。……はぁ、1年の頃から積みつづけた、私たちの因縁の集大成かもねぇ」

「うっせぇ、テメェとの因縁とか気持ち悪いわ。殺すぞ」

「ヤルなら後でね。ウチのアオの顔に泥塗りたくないし」

「はぁ? あれはその内、ウチのアカになるんだよ。いつか引き抜いてやる」

「あ? ケンカ売ってる?」

「お? 最初から売ってんだろバカ」

 

「あ、委員長さん方! いいですねその掛け合い! 私、二人ともなんだかんだで相性良さそうって、実は前々から思ってたんです! さすがです!」

『はぁ!?』

「うきゃあ! に、睨まないでください、すみませんでしたー!」

『はぁ……』

 

 調子に乗ってこっぴどく睨まれて。

 ちょっと間をおいてから恐る恐る顔をあげれば、アバンギャルド君のてっぺんから眺める景色の中で。

 みなさんがぎこちなく、それでも確かに、それぞれの相手とコミュニケーションをとろうと、がんばってくれています。

 

 まだまだうまく行かない組も多いでしょう。きっとまだ、みなさんの中には偏見も嫌悪もしっかりと残っているでしょう。

 ……でもきっと、あとは時間が解決してくれると信じて! 今は修羅場につっこむべし!

 

「はいではみなさん! 弾薬は持ちましたか? 盾は? 爆薬は? 医療セットは? それぞれしっかり用意しましたか?」

『はーい!』

「良いお返事です! 敵はすぐそこまで迫ってきています! 私とした約束は覚えていますね? みなさんは隣の相棒をー?」

『絶対に守る!』

「素晴らしい! あとは敵を蹴散らすだけ! さぁみなさん、出撃です!」

『おー!』

 

 アバンギャルド君に指令をだして、私はスタジアムを飛び出し、みなさんを先導します!

 スタジアムは補給拠点としてユウカさん他、ミレニアムのスタッフに管理をしてもらって、私たちは時間の限り、戦うだけでございます!

 

 あとはもう、この作戦がうまくいって、あわよくばそれぞれのパートナー同士で、かけがえのない友情が生まれるのを祈るばかり!

 もしどこかでケンカが始まるようなら……私とアバンギャルド君で止めてあげなきゃいけないでしょうか?

 ……まぁきっとそうはならないと、私は信じて駆け抜けるだけ!

 

「私たちの戦いは、はじまったばかりです!」

 

 興に乗って、いかにもネタにまみれた打ち切りセリフを吐いちゃったりして。

 それを唯一聞いてたアバンギャルド君が、なんか肩をすくめるような動作をした気もしましたが……まぁ、気のせいということで!

 

 とにかく私は自信を持って走り出します!

 仲良くなったトリニティとゲヘナに、もう敵はありません! いざ、すすめー!

 

 

ーーー

 

 

「クックック……相変わらずご息女は、なかなかにエキセントリックな行動をするものです。そうは思いませんか、マエストロ」

「……それも個性であろう」

「その通りです。いやはや、見ていて飽きません」

「……否定はしがたいな」

 

 マエストロ達の立つ廃ビルの屋上を、強い風が吹き抜ける。

 眼下には、廃墟の道路上に高く重なる機械の残骸と、士気高く奮戦する生徒たち。

 風に紛れてかすかにではあるが、ケセドの軍勢と生徒たちの戦闘音が、マエストロ達にたしかに届いていた。

 

 信じがたいことに、特に耳につくのは銃声でも爆音でもない。

 マエストロの娘の張り上げる、仲間を鼓舞する声援と……彼女の情けない悲鳴であった。

 

「……娘には、威厳というものを学ばせるべきであったか」

「いえいえ、いいじゃないですか。こちらのほうが、“らしい”というものです。……それに」

 

 黒服が、笑いでのどの奥を鳴らしながら続ける。

 

「クックッ……、あの悲鳴の後、ご息女を助けるために各組の二人が協力するそのプロセスが。それぞれの仲間意識の形成を促進しています。お上手なことで」

「……考慮から外れた、無意識の行動であろう」

「意識せず行っているならば、なおのこと、興味深いではないですか。……しかし、そろそろこの余興も終わるようです」

「……そうか」

 

 すでに太陽が南中を過ぎて幾ばくか。

 戦闘が始まって優に数時間がたとうとしているが、生徒たちの防御に破綻はない。

 そして黒服は、ミレニアムの用意した牙、C&Cがケセド本体に迫っていることを察知していた。

 

「デカグラマトンのパスのテストは十分です。いやはや、やはりご息女は良い働きをしてくれました」

「ケセド本体はどうなる?」

「ミレニアム生の接近を嫌って、予備の軍需工場へ移送されるようです。まだまだ彼らも、本腰をいれるタイミングではないのでしょう」

「……なるほど」

 

 生徒たちが戦場の上で察することはできないが、事態は収束へ向かっていた。

 それもマエストロの娘が、大いに活躍してのことである。

 やや格好のつかない場面こそあれど、それも愛嬌というものだ。

 

「おやおや、拍手をするくらいならば、いっそ彼女の前まで行ってあげればよいものを」

「……必要ない」

「本当に?」

「無論だ……!」

「クックックックック……!」

 

 からかわれているのを理解しつつも、マエストロはその場を動かず、小さく手を叩いた。

 カツカツカツと、木と木の打ち鳴らされる音が響く。

 

 この度の騒動、トラブルが起こりうる場面はとうに過ぎ去った。

 マエストロがこのまま経過を見続けたとしても、さして興味を引かれる展開に至ることはない。

 それを理解してなお、マエストロは最後まで見届けることにした。

 

 そして、苦難を乗り越えまたひとつ成長した娘へ、無言の喝采を送り続けた。

 








次回、中編のエピローグです。
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