[完結]拝啓パパ上マエストロ様。トリニティでも私は元気です。   作:がくらん

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中編⑦ウイさんと小さな祝勝会!

 今、正実では文通が空前絶後の大ブームです!

 

 警邏や書類仕事の合間には、どの子もこぞって可愛らしい便せんや、字が綺麗にかける万年筆なんかを探しに行ったり。

 それからどこから引っ張り出したか、ご立派な封蝋とシーリングスタンプのセットまで並べて見せちゃったり。

 そして当たり前ですが、もっとも盛り上がるのは、やり取りしたお手紙の内容についてですね!

 

 みなさん文通のお相手はもちろん! それぞれ演習で組んだゲヘナっ子ちゃんです!

 ゲヘナの不思議な習慣について、教えてもらえて面白かった。

 あちらはトリニティの、こんな当たり前を知らなくって新鮮だった。

 あっちの流行が楽しそうだから、トリニティでもやってみたい、などなど。

 文化の違いを思う存分浴びるように、文字のやり取りに余念がありません。

 

 通信だってできるはずなのにお手紙がメインなのは、そっちのほうがなんかレトロでカワイイから、だとか。

 あとは、以前から私がアコさんとのお手紙を自慢してたのが、みなさん羨ましかったのかもしれません……っていうのは、さすがに私のうぬぼれでしょうか?

 

 まあさすがに、あの演習の全ての組が交流を深くしているわけではありません。

 それでも正実の委員会室にて、こんなにもゲヘナのお話が蔓延しておりまして。

 それをだれも不快には思わず、文句も言わないご様子は、なんだか以前とは隔世の感がありますねぇ。

 

 最近では、学区の境界付近のお仕事にはみなさんこぞって参加します。

 というのも、あわよくば現場で出くわした風紀委員の子……それはもちろん、文通相手とは違う子とも、ちょっとした雑談なんかが楽しめるから、だったりします。

 

 ふへへ……だなんて、私のお口がニンマリと歪んでしまいます。

 私はこの景色のために、演習を企画したと言っても過言ではありません。

 ここ数ヶ月の準備期間に加えて、あの怒濤のような演習当日を、懸命にもがき抜いたご褒美が、日々目の前に転がってくるわけです……!

 嬉しさと楽しさに、毎日おぼれてしまいそうです!

 

 でもって、ゲヘナとの文通に関して言えば、私ったらいわば第一人者というか?

 パイオニアというか? ファッションリーダーというか?

 ……いや、ファッションリーダーはちょっと違いますか。……とにかく!

 だれよりも嗜んでいるという、自負があるわけでございます!

 

 だからちょっと先輩風を吹かせたいというか、少しはカッコをつけたいというか……

 なんかこう意味もなく、「えー!? すごーい! アオちゃんさっすがー!」みたいに、きゃあきゃあとされたい乙女心があるのです!

 私ったら、ミーハーなもので!

 

 だから本日お邪魔いたしますのは、こちら、知識の泉たる古書館と。

 図書委員のなかでもすっかり貫禄が出てきた、ウイさんのところでございます!

 へっへっへー!

 

「ウイさーん! なんかこう、お手紙に引用できる可憐な詩集とか、飾り文字の手引き本とか、あったら貸してくださいな!」

「……え、そりゃあ探せばそんな子もいるとは思いますが……アオさんは読めないのでは? どの子もほとんど古代語なので」

「え゛っ……!」

「……いや、そもそもなんで最初に中央図書館の方へ行かなかったんですか。古書館ですよ、ここ」

「や、だって……せっかく本を借りに来るし、ウイさんともおしゃべりしたいなぁって思って……」

「…………」

「な、なにか言ってくださいよぅ……!」

「……どうせそうやって、手放しで好意を見せれば受け入れられると思っているんでしょう……! 私は簡単には、ほだされませんよ」

「し、辛辣!」

 

 そんなやり取りをしながらも、突然の訪問にもかかわらず、やれやれといった様子でお出迎えをしていただけました。

 ウイさんは古書館のソファに座って、私は空いていたイスを近くへ寄せて、コーヒーをすすりながら世間話を楽しみます。

 

 こうやって会話をしていると思い出します。

 そうです。ウイさんはいつだって私にちょびっと厳しめなのです……

 

 私のことを、多少ぞんざいで邪険にするくらいの遠慮のなさ。

 このウイさんの態度には、ちょっとだけ助けられることもありまして。

 

 ……実は私、心の中に小さいウイさんに住んでもらっているんです。

 私が調子に乗りすぎたり、場違いに浮かれてしまったりしているとき。

 「アホですね」とか「もっとしっかりするべきでは?」とかって言ってくれる、妄想のウイさんです。

 

 これが辛辣だけれどかわいいんですよねぇ。

 舞い上がった私にブレーキをかけてくれる、頼りにできるしっかり者です。

 なんだったら今度本当に木工でちっちゃいウイさんを作って、私の胴の中に入れておいてもいいかもしれません。

 あ、でも固定しないとカラカラカラって転がっちゃうかな?

 

 ただこの心のウイさんにも欠点がありまして……

 しばらく本物のウイさんに会っていないと、だんだんと私に都合の良いウイさんに変わっていってしまうのです。

 

 ここのところ忙しくって、前にウイさんに会えてからかなりの期間が空いてしまいました。

 するとどうでしょう、なんか最近の心のウイさんってば……

 「大変だったのに偉いですね!」とか「天才ですか! いっぱい誉めますよ! 自慢の友達なので!」とか……

 めーっちゃいい笑顔で言ってくれる、甘やかし100%のスペシャルウイさんになってしまっていました!

 

 それが本物のウイさんに触れられて、おうどんを作る時の小麦粉のようにこねて叩いて延ばして切られて、ちゃんとしたウイさんっぽいものに修正されていきます。

 

「……どうして黙ってニヤニヤしているんですか。バカっぽく見えますよ」

「ああー、容赦ない言葉が身にしみますー……」

「うわ……近寄らないでくれます? ……気色悪いので」

「ふふふ、これぞウイさんだぁ……うへへ」

「……のれんに腕押し……これだから、遊園アオは……」

 

 机にぐでーっと寄りかかりながら、久しぶりのウイを堪能していましたが……

 これ以上かみ合わない会話を続けると、ウイさんが気味悪がってどこかへ行ってしまいますね。

 さすがにこのくらいで気を引き締めませんといけません。

 

「さて、改めましてウイさん! これもせっかくの機会ですし、古代語の雅で風流な詩歌とか、ご教授いただけないでしょうか……?」

「はぁ……少しだけですよ。私も暇ではないので……」

「えへへ、わぁい! ありがとうございます!」

「でもいきなりどうしたんですか? 手紙なんて書き慣れているでしょう? なにか事情でも?」

「ふふふ、実はいろいろとありまして……聞いてくれますか? この私の大活躍から!」

「……なんですかそれ。……でもまぁたまには、外の様子を聞くのもいいですかね」

「ではでは、事の発端は先日のゲヘナとの交流会、もとい、合同火力演習での出来事でしてーー」

 

 そうして、すでにまぁまぁ過去になった、演習の様子をお伝えしていきます。

 特に一番の盛り上がりどころ、私とアバンギャルド君の合体シーンなんかは、実演も込めて披露してあげたり!

 

「こう……っとう! って感じで、飛び上がってですね!」

「……古書館ではあんまり暴れないでください。本棚の子達にぶつかったらどうするんですか」

「あっ、はい……ごめんなさい、おとなしくします……」

「……はぁ、わかってくれれば良いんです……それで、続きは?」

「……っはい! それでですね!」

 

 危うく机に乗りかかろうとしたところを、ウイさんが止めてくれました。

 少し、感情を平静に近づけて、その後のお話をしていきます。

 

 まず大前提として、ミレニアムの防衛は成功いたしました。

 戦闘中、いろんな危ない場面もありましたが、ついぞトリニティとゲヘナで仲違いを起こすことはなく、機械兵を退ける事ができました。

 

 そりゃあもう、最後の方では私も正実も風紀委員も、アバンギャルド君も全員が全員ボロボロです。

 でもだからこそ、だったのでしょうか。

 リオさんからの作戦成功の報が発せられたときの、大きくこだました大歓声は忘れられません。

 みながみな、だれそれ構わず抱き合って、勝利を喜び合いました。

 

 特に最後まで補給基地を滞りなくまわし切ったユウカさんは、一皮むけた風貌を身につけておりました。

 それを通信越しに見つめるリオさんも、なんだかとっても満足そうで、今後のセミナーの活躍が楽しみになる一幕でしたね。

 

 機械兵発生の経緯については不明な点も多いようですが、原因の痕跡もかすかに見つかったようです。

 リオさん曰く、今後は特異現象捜査部という組織を立ち上げて、捜査を行っていくのだとか。

 ミレニアムでも著名な、「全知」の称号を持つお方が部長を務めるそうです。

 

 それから次に取り掛かったのが、トリニティ上層部への騒動の報告なのですが……

 どれだけ詳細な報告書を提出しても無限に修正を指示されるのには、ほとほと困ってしまいました。

 曰く、信じられない。でたらめを書くな、と。

 

 最終的には私がティーパーティーへと直接招待されて、自らの口から説明をいたしましたが……

 それでも何度同じ事を話しても、全く信用していただけず……

 

 正実委員長を召集して確認し、ミレニアムとゲヘナへとその場で問い合わせて、それでもまだ半信半疑で。

 最終的には連邦生徒会にまで連絡をとって、どうにかこうにか納得してもらえました。

 なんでもお忍びでこっそり様子を見ていた連邦生徒会長がじきじきに、私の報告が正しいと証言してくれたとか。

 

 ……いや連邦生徒会長さん、あの場にいたなら戦闘を手伝って欲しかったんですけど、まぁそれはさておいて。

 あのナギサさんが口を半開きにして紅茶をこぼす様なんて、後にも先にも、もう見られることはないでしょうねぇ。

 

 なんて、経緯をざっくりとウイさんへお話したところ。

 真っ先に返ってきたお言葉といえば。

 

「いや……端的に頭がおかしいのでは? さすがにティーパーティーに同情しますよ」

「あ、あはは……」

 

 私は苦笑するしかありません。

 ですがウイさん、私が曖昧に笑ってごまかすのを許してはくれません。

 

「そもそも作戦のリスク高すぎます。なんですか即席でゲヘナとペアと組ませるって……うまくいかなかったらどうするつもりだったんですか」

「……いやまぁそこはほら……やる前から失敗する気になっていたら負けといいますか……」

「それじゃ甘いと言っているんです。こんな無茶をするのなら、次善の策を用意しないのは怠慢です」

「そ、それは、そうですよね……」

「後顧の憂いたっぷりじゃないですか。参加者のだれか一人でも理性が足りていなかったら……ああ恐ろしい」

「で、でもぉ……」

「無事に終わったの、ほぼ奇跡ですよそれ……アオさんは多くの人を危険に巻き込んだことを、もっと自覚するべきです」

「むむむ……ふみゅぅ……」

 

 ウイさんのお説教。正論がきっちりと私を詰めていきます。

 ウイさんの言うことはもっともです。返す言葉もありません。

 でもでもだって……。

 そんなふうに言い訳をしたくなりますが……それをぐっとこらえます。

 

 言われて考え直して、思います。

 確かにあのときの私は、考えが浅かったのかもしれません。

 いちおう戦闘中になにかまずい事態が起こったときには、私とアバンギャルド君で対応をするつもりでした。

 ですがそれでも、手に負えなくなる可能性も十分にあったのです。

 

 ……やっぱり、ウイさんと直接お話できてよかったです。

 こうやってちゃんと叱ってくれる人がいないと、私ったら、図に乗りすぎてしまいます。

 増長していらぬプライドばかりが肥大して、いつか大失敗を犯してしまいます。

 しっかり校正された心の中のウイさんも「身の程をわきまえるべきでは?」と言ってくれています。

 

「…………」

「…………」

 

 情けなくも、私はしょんぼりと落ち込んでしまいます。

 顔を伏せて床ばかり見て、ちゃんとお説教へのお礼でも、反省の言葉でも発しなければいけないのに、何もしゃべれなくなってしまいまして。

 お話は途切れてしまって、お部屋の中は無音でいっぱいです……

 

「……まぁでも」

「……?」

 

 なけなしの情けでもあったのでしょうか。

 ウイさんが少しだけ声音を柔らかくして、かけてくれたお言葉は……

 

「がんばりましたよね。アオさん」

「……え?」

「危ういところもあったとはいえ、結果としてアオさんの力量ですべて丸くおさめたのも事実ですから。……短い時間でかけずり回って、各校との調整に、当日の特大なトラブルに……きっと相当に苦労したのでしょう?」

「は、はいぃ……」

「それでも完璧に成しとげたのですから……さすがの私でも、よくがんばりましたねと誉めますよ。その努力と功績は、認められるべきですので」

「う、ウイさぁん……!」

 

 ささやかですが、れっきとしたお褒め言葉でございました……

 

 思い起こせば、この件に関しては企画自体も推移も結果も、あまりに前例のないものばかりでした。

 だからでしょうか。だれに結果を報告をしても、驚かれたり呆然とされたりするばかり。

 記憶にある限り、しっかりと誉めてもらえたのって、実は初めてだったかもしれません。

 

「……そっか私ってば、がんばって、それで……最後までやりきったんですねぇ」

「いや、何を言っているんですか。そりゃあそうでしょう」

「ふふ……なんか気がついていませんでした」

「そんなことあります?」

「あったんですよーだ」

 

 ……あ、なんか私、泣きそう。

 たぶん、ずっと張りつめていた気が抜けそうになっているのですね。

 思わず目頭が熱くなるのを、ぎゅっと目を閉じて我慢します。

 

 人が涙を流すのは、持て余した大きすぎる感情を発散するため、と聞いたことがあります。

 

 でも今のこの気持ちは。

 ここ数ヶ月の達成感とか、うまくいった安堵の気持ちとか、苦労を思い返した余韻とか。

 それから次々と浮かぶ、私を信じてくれたみなさんのお顔とか、そういうものは。

 

 涙に溶かしてしまうには、あまりにも惜しいものばかりです。

 だから、お水になって私の中からこぼれてしまわないように、必死になって瞼を押さえます。

 

「えっと、大丈夫です? ……少しキツく言い過ぎましたか?」

「いえ、いえ……そんなことはありません。大丈夫です……!」

「……まぁ、そう言うのなら」

 

 声が震えるのもギリギリまで抑えて、心配そうなウイさんへお返事します。

 ゆっくり深呼吸して、しゃくりあげそうになる体をなだめてあげて。

 

「……ウイさん、ありがとうございます」

「……これくらいでお礼を言われても困ります。大したことは言っていないので」

「それでも、です」

「そうですか。……でもまぁ、よかったですね。みんな、うまくいって」

「はいっ!」

 

 あたりさわりのない会話をしながら、こみ上げた感情をどうにか飲み干しました。

 これで、大丈夫。この気持ちは私の大切なもの。

 容易に体の外へ、逃がしてあげたりなんかいたしません!

 

 これから先、トリニティとゲヘナの、学園全体の仲がどうなるかはまだわかりません。

 ですが正実と風紀委員という二つの組織は、きっと地に足のついた交流を続けていくことになるでしょう。

 

 結局私は、ほんの些細なきっかけをつくっただけです。

 でも本当に小さな一歩とはいえ、0を1にすることができました。

 あとは自然に、この1が10になって100になって、100万にも1000億にもなって、いつか無限にまで育つはず……です!

 

 私の在学中にどこまで到達するかはわかりません。

 でもいつか、学園同士の優しい融和が成ったとき、私は胸を張って言うんです。

 

「まあっ! 元をたどれば全部私のおかげですよね! って!」

「むっ! ここは古書館ですよ! 急に大声ださないでください!」

「あいたっ!」

 

 イスを蹴って立ち上がった私の足を、ウイさんが軽く蹴りました。

 ふんぞり返るのがキャンセルされて、すねを押さえてうずくまります。

 そんな自分の行動が、なんだかコミカルでおかしくって。

 

「ふふ……ふふふ、あははは!」

「なんですか急に笑い出して」

「いえ、いえ……ごめんなさい……! あはははは!」

「……はぁ、まあいいですけどね。ふふっ」

「ははははは!」

 

 ウイさんも私につられてか、小さく笑ってくれていて。

 それがまたなぜか可笑しくなって、私はもっと笑っちゃって。

 

 たくさん笑って、笑った拍子に結局涙がちょっとだけこぼれて。

 でもこれは笑い泣きだからノーカンってことにして。

 お腹の底からわき上がる、混ざり合った色々な感情を、たっぷりと反芻して私の中で噛みしめます。

 

 ……この日は後は、たいしたことはしませんでした。

 ただの日常の一つとして、私はウイさんと一緒に詩集を読んで、たくさんおしゃべりをしてから帰りました。

 

 次の私の人生の、青春の山場が何になるか、未来の事はわかりません。

 でも今しばらくは仲良しのお友達と、ちょっとの休憩を挟むことにいたしましょう。

 英気を養って、またいつか起こるであろう、大イベントに備えましょう。

 

 なにはともあれ日常に戻った学園生活を、これからも私は思う存分、謳歌したいと思います!

 

 

 さぁて、一件落着! 

 遊園アオちゃんのトリゲヘ仲良し大作戦! おーしまい!








これにて中編「トリゲヘ仲良し大作戦!」編は完結です。
今後とも遊園アオの物語を、どうぞよろしくお願いします。
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