[完結]拝啓パパ上マエストロ様。トリニティでも私は元気です。   作:がくらん

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今話は先生視点、ブルーアーカイブのゲーム風味です。


幕間 メインストーリーvol.3 エデン条約編 ※遊園アオ添え

 

[ 1.ティーパーティからの捜査依頼 ]

 ナギサからの要請を受け、先生はティーパーティーのテラスへ赴いた。

 化粧では隠しきれない濃いクマをたたえたナギサが、先生を迎える。

 先生は、ナギサの鋭くも()()()な眼光を危ぶみながら、依頼について尋ねる。

 

「先生、ようこそお越しくださいました」

「お恥ずかしながら、前置きをする余裕はございません。単刀直入にお伝えします」

「先生には、連邦捜査局たるシャーレには、トリニティのティーパーティーを代表して、ひとつお願いがあるのです」

「……遊園アオの行方を、探してください」

 

 “アオ……いなくなってから、だいぶ経つね。無事だといいんだけど……”

 

「そうですね、先生も彼女とは顔見知りでありました」

「……この期に及んで隠し立てはいたしません。先生には全てをつまびらかにいたしましょう」

「……はっきりと言えば、彼女の生存は絶望的かと思われます」

 

 “……それはなぜ?”

 

「……時に先生、エデン条約についてはご存じでしょうか」

「詳細は資料にまとめて後ほど提示いたしますが……簡単に言えば、トリニティとゲヘナの間で結ばれる予定の平和条約です」

 

「しかしトリニティには、ゲヘナとの友好に異を唱える者も多い」

「かねてより、エデン条約の締結妨害を意図した事件もありました。その始まりは……セイアさんへの襲撃と、ヘイローの破壊」

 

 “ヘイローの破壊!? セイアは療養のため入院中だと聞いていたけど……”

 

「混乱を防ぐために、表向きはそのようにさせていただきました」

「しかし……セイアさんが目を覚ますことはもうないでしょう……」

「それほどにひどい状態だと、救護騎士団の長からは聞き及んでおります」

 

「平和条約を拒む襲撃犯……ここではあえて“トリニティの裏切り者”と称しましょうか」

「裏切り者が次に狙うとすれば、それは私だと予想しておりましたが……実際には遊園アオが襲われたようです」

 

「昨今のトリニティにて、遊園アオは本人が意図せずとも親ゲヘナの旗頭のような存在になっておりました」

「公式には行方不明とされていますが……おそらく、彼女はもうこの世にはいないのでしょう……」

 

「遊園アオの失踪からこちら、学園の生徒たちは、ゲヘナに対するスタンスの違いにて未曾有の分断を強いられております」

「これも裏切り者の思惑通りといったところでしょうか」

 

 “…………”

 

「しかし、しかしです……!」

「今まで気配だけの存在であった裏切り者が、沈黙を破りこれほどまでに大きな事件を引き起こしました……!」

「調印式も間近になって、とうとう尻尾を見せたのです!」

「遊園アオの捜索は、すなわち裏切り者の発見につながるでしょう……!」

 

「……先生、私や正義実現委員会は現状、学園の安定化に腐心しておりほとんど動く事ができません」

「恥を承知でお願いいたします」

「どうか、裏切り者の摘発に……エデン条約の死守に、協力してはいただけないでしょうか……!」

 

 “……わかったよ。引き受ける。私にまかせて”

 

「……ありがとうございます。大変心強く感じます」

「先生には、学園内で自由に過ごすためのカバーストーリーとして、「補習授業部」の顧問に就任していただきましょう」

「そこに所属する四人の生徒を、自由に捜査に使ってください」

 

 “それは、どんな子たちなの?”

 

「一人目は、浦和ハナコさん。次代のティーパーティーを率いる予定の生徒です。捜査では特に頼りになるでしょう」

「しかし彼女は、たぐいまれな能力を有しているのは間違いがないのですが……」

「決まって3かその倍数がつく日には……その、申し上げにくいのですが……」

「非常に、ハレンチになります……」

 

「前回のテストの実施日がちょうど先月の30日でしたので……」

「彼女ならば本来満点のはずところ、7教科合計で081(おっぱい)点……」

「……偶然ですが、都合良く補習の対象です」

 

「二人目は下江コハルさん。遊園アオの所属する、正義実現委員会の一員です」

「当の組織に接触するならば、彼女を通すのがスムーズでしょう」

 

「三人目は阿慈谷ヒフミさん。私が懇意にしている生徒です。ティーパーティーへの連絡は、彼女からお願いします」

「……先生と私の頻繁な接触は、まだ見ぬ裏切り者を刺激しかねませんので」

 

「四人目は白洲アズサさん。彼女は単に成績が壊滅的な一般生徒です。生活態度は模範的らしいのですが……」

「補習授業部としてのカモフラージュ要員ですね。よければ他の生徒と共に勉強を見てあげてください」

 

 “なるほど、わかったよ。ありがとう”

 

「いえ、お礼を言われるほどのことでは……」

「このような重大な案件にもかかわらず、外部の力をお借りせねばならない」

「その時点で、すでに誉められたものではございません……」

「必要な措置などあれば、遠慮なくお申しつけください。全力でサポートいたします」

 

「……先生、裏切り者が次に狙うのは、今度こそ間違いなく私です」

「先生が裏切り者を突き止めるのが先か、それとも私が襲撃されるのが先か」

「……トリニティの未来は、あなたにかかっているといっても過言ではありません」

「どうぞ、よろしくお願いします」

 

 

 

[ 2.密告 ]

 先生がティーパーティーのテラスを去る。帰りの道中、先生はミカに呼び止められた。

 明るくも、不自然に他の生徒がいなくなった廊下の真ん中にて。

 先生はミカと依頼について話をする。

 

「こんにちは☆ 初めましてだね。先生」

「私はティーパーティーの残りの一人。聖園ミカだよ。よろしくね」

「いやぁ、今のナギちゃん怖かったでしょ。なんか最近ぴりぴりしちゃっててさ」

「それできっと、なんかやっかいな依頼でもされちゃったんじゃない?」

「たとえば、“遊園アオの捜索”、とか」

 

 “……うん。たしかに依頼されたよ”

 

「やっぱり☆ もー、ナギちゃんったら、外部の人に無茶言っちゃってー」

「遊園アオについては触れない方がいいって言ってるのに……」

「ごめんね? 先生。トリニティの薄暗いとこに巻き込んじゃってさ」

 

「……ね、それでさ。遊園アオにちょっと耳寄りな情報があるんだ」

「だれにも言えない、秘密のこと。先生には特別」

 

 “秘密の……?”

 

「遊園アオが失踪したのってさ、実のところ別に、裏切り者に襲われたからじゃないんだ」

「本当はあの夜……遊園アオは私の部屋へ押し入って、私を亡き者にしようとしてきた」

 

 “……っ!? ミカを!?”

 

「みんなが思うほどあの子、いい子なんかじゃなかったんだよ」

「きっと、親ゲヘナってよりも、ゲヘナの傀儡かなにかなんだ」

 

「私ってエデン条約には消極的反対って立場でさ」

「だって相手はあのゲヘナだよ? 締結後すぐに反故にされるかもしれないじゃない?」

「それが怖いから、もっと慎重になるべき! ってスタンスなの」

 

「遊園アオはそんな私を排除して、ティーパーティーをエデン条約推進派のナギちゃんだけにしたかったみたい」

「けど私、あんな子にやられるほど弱くないからさ」

「めっためたにして追い返しちゃった」

「いまごろボロボロの体をひきずって、どこかに潜伏してるんじゃないかな」

 

 “それをどうして私だけに? ナギサには伝えないの?”

 

「ナギちゃん、裏切り者への対応でずっと疑心暗鬼になってたから……」

 

「まず私、遊園アオのこと、あんまり簡単にやっつけちゃったからさ」

「部屋も別に荒れてなくって……襲撃されたって証拠は、私の証言以外にはほとんどないんだ」

 

「こんな状態で遊園アオ……親ゲヘナ派の凶行なんて下手に告発したら……」

「私までナギちゃんに裏切り者判定されちゃうよ……」

「エデン条約を妨害するための狂言だって」

 

「それこそ条約締結まで何もできないように、投獄されたっておかしくない」

 

 “…………”

 

「だから先生、遊園アオの捜査はほどほどでいいと思うよ?」

「適当に時間をつぶす感じでさ」

「むしろ補習授業部の方に精を出してもいいかもね! みんなお勉強が苦手なだけのいい子だから、助けてあげてよ」

 

「そもそも“トリニティの裏切り者”なんて、本当にいるのかな?」

「セイアちゃんを襲った犯人だって、実は別の理由があったのかも」

「エデン条約を妨害する誰かの意志なんて、全部ナギちゃんの妄想の産物かもしれない」

 

「……なんてね☆ 参考になったかな?」

「それじゃ先生、条約締結までがんばってね」

「じゃあね☆」

 

 

 

[ 3.ハレンチな協力者 ]

 依頼を受けた翌日、先生は学園の入り口で協力者たる浦和ハナコと合流する。

 ひとまず学園の様子を確認するべき、と主張するハナコに従って、二人は学園内を散策する。

 

「こんにちは、先生。よろしくお願いしますね」

 

 “ハナコ、その格好は……”

 

「ふふふ、どうですか? この制服。型はそのまま、私がレース生地で仕立てたんです」

「ちょっと透けちゃってますが……ふふふふ、下に着てるのは水着ですから、たーくさん見ていただいても問題ありませんよ?」

 

 “は、ハレンチって……こういうこと……”

 

「ふふふふ。きょうは12日ですから。明日の13日はまた別の()()()()で参りますよ」

「私、12、13、ひとつ休んで15の、この日の並びが好きなんです」

「短い期間で、いーっぱい楽しめますからね」

 

 “ほ、ほどほどにね……?”

 

「ふふ、はぁい」

 

「さて、戯れはほどほどにしまして……まずは足で捜査といきましょうか」

「先生、トリニティのデートスポット代表の、噴水広場に参りましょう?」

「今日はそこで、大変愉快なイベントが起こるようですので」

 

 “は、ははは……”

 

「あ、見えてきましたね。わぁ、人がいっぱい」

 

『正義実現委員会はもうダメ! ゲヘナとべったりの危険組織!』

『遊園アオは、学園を売るつもりだー!』

『新しい治安維持組織を! ティーパーティーは一般生徒の声を聞け!』

 

『アオちゃんがそんなことするわけないでしょー!』

『ゲヘナにだって良いところもあるよ! 悪いとこばっかじゃないってば!』

『毎日毎日デモするなー! ちゃんと許可とってるのかー!』

 

「うーん、にぎやかですねぇ」

 

 “……ハナコ、これは?”

 

「ご覧の通り反ゲヘナ派のデモ隊と、それに反発するみなさんの衝突ですよ」

「……いえ、もっと正確に表現するなら」

「遊園アオさん個人と“親しい人”と“親しくない人”の諍い、でしょうか」

 

「反ゲヘナを標榜する方の中でも、アオさんと交流がある方は、デモ隊ほどまでは過激にはなりません」

「むしろ多少は、ゲヘナを擁護するほうへ回るようです」

「たいてい、「生理的にはムリだけど、まぁ悪い奴らではないのも知っている」、くらいの考え方に落ちつくんだとか」

 

 “それはなんというか……すごいね”

 

「ね。すごいですよねぇ。アオさん」

「あの方がいなくなってから、学園はずっとこんな感じです」

「みんな気がついていませんでしたが……」

「アオさんという個人の存在だけで、昨年から急激に増えてきた親ゲヘナ派と、保守的な反ゲヘナ派……二つの考え方は、いままで共存できていたんです」

 

 “なるほど……”

 

「まずはこの現状を、先生に理解してほしかったんです」

「アオさんが学園へ及ぼしていた影響を実感してください」

「そうしてやっと、アオさんへ危害を加える方の動機を、想像することができると思うんです」

 

 “うん、ありがとう”

 “でもそれはちょっと置いといて、少し待っていてくれるかな”

 “私は少し、あの子たちを止めてくるよ”

 

「え? 先生、いったい何を……」

 

 “おーい、みんな! ケンカはやめて!”

 

「わ! あれもしかしてシャーレの先生じゃない!?」

「え!? なんでこんなとこに?」

「やばっ! みんな解散! かいさーん!」

「恥ずかしいとこ見られちゃったじゃん! にげろー!」

 

 “み、みんな待って……! お互い話し合いを……! ああ……”

 

「みなさん、散っていってしまいましたね」

「……先生、さきほどは危険でしたよ?」

「最悪の場合、デモ隊の殺気立った生徒に、とっさに撃たれてしまったかも知れません」

 

 “それでも、あのケンカは良くないケンカだったから”

 “お互いが相手のことを考えられない、話を聞いてあげられない状況だったから”

 “そういうのは大人として、止めてあげなきゃいけなかった”

 

「……先生は、そういう考え方をするんですね」

「ふふふ、思ったよりも頼りにできる方なのかもしれません」

 

「……ではこの情報は、実はもう少し後になってからお伝えするつもりだったんですが」

「せっかくですし、先に教えちゃいましょう」

 

 “えっと……なんだろう?”

 

「あのデモは、とある噂を震源にして巻き起こっています」

「曰く「遊園アオは、ゲヘナのスパイである」との、根も葉もない噂」

「そこから尾鰭がついて、さきほどのような、遊園アオおよび正義実現委員会への不信感を煽るような様相になっているのですが……」

 

「先生知ってますか?」

「噂って、誰から聞いたかを個人個人に尋ねてたどっていけば、案外その発端を突き止めることができるんです」

 

「……結論から言いますと、あの噂は遊園アオを貶めるために、意図して創作された流言です」

「それを言い出したのは、パテル分派のみなさま」

「ティーパーティーのミカさんの所属する派閥ですね」

「この方々が、一般生徒を誘導してこそ、今の騒動は起こっているんです」

 

「ふふふ、不思議ですねぇ」

 

 

 

[ 4.正義実現委員会 ]

 補習授業部に割り当てられた教室で、もくもくと勉強をするコハル。

 先生は指導の合間に、コハルへと問いかける。

 

 “コハル。今の正義実現委員会の雰囲気はどうだい?”

 

「え? ……お、女の子の普段の生活について知りたいなんて! 先生のエッチ! 変態!」

「……え? 捜査のため? ……そっか先生、私たちの成績の事だけじゃなくって、アオ先輩のことも調べなきゃ、なんだよね……」

 

「……アオ先輩がいなくなってから、委員会のみんな、すごく取り乱してる」

「優しかった先輩がよく怒鳴ってたりとか、先輩同士で口論してたりとか……」

「だいたい内容は、「アオ先輩をどうやって見つけるか」ってことについて」

 

「みんな真剣すぎて、なかなか折り合いがつかないみたい」

「こないだも誰かがぼそっと、「もう、戻ってこれないのかも……」って、こぼしちゃって……」

「委員会室の中、すごく暗くなっちゃった……」

 

「でも、ツルギ委員長とハスミ副委員長はちょっと違うみたい」

 

 “違う? どういうところが?”

 

「なんか、外部の人たち……シスターフッドとか、救護騎士団とか、あとはなんでか図書委員会の人とか」

「決まった何人かを頻繁に招いて、よく会議してるのを見かけるの」

 

「その人たちは、他の先輩たちみたいに悲観まじりに、とかじゃなくって……」

「なんか、アオ先輩の無事を信じてる、みたいな」

「まだまだ諦めない! って、気迫が出てる感じ」

 

「アオ先輩と一番仲が良かったの、ツルギ先輩とハスミ先輩だったのに……落ち込まないでいるのってすごいよね」

「その二人がしっかりしてるから、まだ委員会全体が沈みきってはないのかも」

「みんながんばって、お仕事を回してる」

 

「でもどうしても、ほら……」

「いろんな噂とかデモとかもあって、警備のお仕事が忙しくって……」

「あんまり捜索には、時間を割けてないんだって」

 

 “噂なら……私の方で少し対処してみるよ”

 “もう少ししたら、落ち着くと思う”

 

「ほんと!?」

「……よかったぁ。ちょっとひどいのもあったから、これでハスミ先輩も動きやすくなると良いな」

 

「こないだなんか、ハスミ先輩が深夜に郊外を徘徊してるって噂されて……」

「なんか「ゲヘナの2つ首妖怪と密会してた! 私はこの目で見たんだ!」って、騒いでる人がいて……」

「さすがにみんな信じてなかったけど」

 

「そういうの、減るといいね……みんな、どうしてケンカばっかりしてるんだろう……」

「もともとはエデン条約のための……みんなで仲良くしようって取り決めのためのはずなのに……」

「ちょっと、悲しいよね……」

 

 

 

[ 5.一般生徒(?)を代表して ]

 補習授業部の活動が終わったあと、先生はヒフミとアズサを寮まで送る。

 人のいない、もの悲しい夕暮れを背景に、先生は二人と話をする。

 

 “二人は、エデン条約についてどう思う?”

 

「エデン条約ですか……? うーん……」

「…………」

 

 “あ、答えにくいならノーコメントでも構わないよ”

 

「あ、いえ! 答えにくいとかではなくって……」

「エデン条約とか政治のお話って、正直私たちにはなんか、雲の上のことみたいに感じちゃって……」

「あはは……不真面目ですみません、ちゃんと考えなきゃですよね」

 

 “いや、それでもいいと思うよ。難しいよね”

 “でも雲の上か……よければどんな感じか、もう少し詳しく聞けるかな?”

 

「あ、はい……」

「私たち一般の生徒って、そもそもほとんどゲヘナの子たちと関わる事ってなくってですね」

「ブラックマーケットとかに行けば、もちろん会うことはできますが……」

「あそこは所属学園とか関係なく、みんな怖い人たちだから関係ありませんし」

「だから、ゲヘナが好きか嫌いかとか聞かれても、なんともかんとも言いにくいんです……」

 

「あ、でも前よりは「なんとなくヤダ。できれば近づきたくない」って言う子は減った気がします」

「きっかけは……なんでしょうね? わかりません。自然とそうなってきたってだけで……」

 

「そういえば私も、この間珍しく普通のゲヘナの方とお会いしたんですよ」

「なんと、ゲヘナ限定ペロロ様グッズの出張店が、トリニティにまで来ていたんです!」

「もちろん危険がないように、正実の方が周りを固めてくれてたんですが……」

 

「そこの店員さんはゲヘナ生でしたが、ペロロ様への熱意は本物でした」

「グッズを見ながらたくさんお話をして、すっごく楽しくて……」

「あと、ゲヘナのペロロ様ファンコミュニティについても詳しく教えてくれまして!」

「まだちょっと勇気が出ないけど……いつかそちらの会合にも参加したいなぁと、私は思ってます」

 

「そういう意味で言えば私も、エデン条約には賛成ってことになるのかもしれません」

「ちょっと仲良くしたい誰かが、ゲヘナにもいる」

「こんな動機で賛成しちゃうのは、ちょっと不謹慎ですかね……?」

 

 “ううん、私は素敵な動機だと思うよ”

 

「あはは……先生、ありがとうございます」

 

「あ、そしたら私のお見送りはここまでで大丈夫ですので」

「先生、あとはアズサちゃんをお願いしますね」

「それでは、また明日!」

 

 “はい、また明日”

 

「…………」

 

 “アズサはずっと黙っていたね”

 “なにか思うところがあるのかい?”

 

「……いや、私にはエデン条約についてとやかく言う資格はない」

「……私は、去年この学校に来たばかりの転入生だから」

 

「……でも遊園アオについては、先生に伝えておきたい事がある」

 

 “アオについて?”

 

「うん。アオは、ここに来たばかりの私に、とても良くしてくれた」

「学園内でたまたま会っただけなのに、ここでの常識とかを、たくさん教えてくれた」

「……まるで私に常識がないことを、会う前から知ってたみたいに」

 

 “…………”

 

「あんまり詳しくは言えないけれど、私の前の学校は、とても危険な場所だったんだ」

「みんながみんな、戦う事だけを考えていた」

「Vanitas vanitatum et omnia vanitas.……“すべてはみな、どこまで行っても虚しいもの”だと、教えられていた」

 

「……そんな場所で昔、遊園アオを見たことがある気がする」

「ほんの何年か前……学校の指導者に連れられて、ニコニコと場違いに笑いながら歩くのを」

 

 “それは……”

 

「アオは、私の出身校を知っていたのかもしれない」

「それから、あの学校の関係者なのかもしれない」

「……だとしたら、決してまともな生徒ではない」

「ゲヘナとも、トリニティのいろいろな派閥とも違う、なにか異質な正体を持っているのかもしれない」

 

 “…………”

 

「先生……私は、アオが悪い人間とは思えない」

「でも、くれぐれも警戒は怠らないでほしい」

「先生はいろんな業務で忙しいのに、私に……私たちに楽しい時間をくれる優しい大人だから」

「先生が傷つくのは、見たくない。……身体はもちろん、心のほうも」

「どうか、気をつけて……」

 

 

 

[ 6.陰の知り合いたち ]

 先生は通信機を見つめていた。

 しばし躊躇の時間を過ごした後、意を決して、とある番号を発信する。

 

『おや先生、連絡をいただけるとは珍しい。お話するのは、春のアビドス以来でしょうか』

『しかしどうにも間が悪い……』

『少しでも時間がずれていれば、楽しい会話に興じることもできたのでしょうが……』

 

『つい先ほど、ゲマトリアの会合がありまして』

『そちらへナメた伝達だけを放りこんで、会合自体は欠席したヤカラがおりましてね』

 

『クックックックッ……いらだちも度が過ぎれば笑いとなってしまうようですね』

『私自身、これほどまでに怒りの感情が高ぶるのは、いやはや初めての経験でして……』

『大変興味深いですね。クククッ……』

 

『つきましては、今から怒り狂うマエストロをなだめて、我々の今後の方針を定める会議を行うのです』

『お忙しい中、連絡をいただけたというのに、申し訳ありません』

 

 “ま、まって黒服! ひとつだけ!”

 “遊園アオの行方について、なにか知っていたら教えてほしい!”

 

『……おや、先生もその件についてのお話でしたか。……ククッ……クックックックックッ……』

 

『遊園アオの所在については、現在我々も確認がとれておりません』

『もちろん私ども……少なくとも私、マエストロ、ゴルコンダおよびデカルコマニーの4名は、彼女に危害を加えていないと断言いたしましょう』

 

『……ですが一つ、お伝えできる情報がございます』

 

『私の同僚の作成した品に“ヘイローを破壊する爆弾”と呼ばれる代物がございます』

『おっと、“爆弾”の詳細については今は省かせていただきますよ。企業秘密とでも言えるものです』

『こちら作動した際には、遠隔で制作者へも知らせが入る仕様となっているのですが……』

 

『つい先日これが作動した日付と、アオさんが失踪したとされる日付』

『これらが、同日となっております』

 

 “……っ!?”

 

『……早とちりはいけませんよ。先生』

『安易にこれらの事象を結びつけるのは感心しません』

『確証を得ていない事柄を、前提とするのは大変よろしくない』

 

『ですがどうか()()()()()()という、この()()のみは、ご留意いただけますよう……』

 

『では、また後ほど……クックック……クックックックック……!!』

 

 

ーーー

 

 

 日が沈んでもいっこうに気温が下がらず、ひたすらに蒸し暑い夏の夜。

 街灯の光の下、はびこる羽虫の群を手で払いながら、先生は一時帰路につく。

 

 ナギサから依頼を受けて数日、先生は精力的に調査を行った。

 さまざまな生徒から、目撃談や噂や憶測などが集まっている。

 これらを精査するため、一人シャーレのオフィスへと向かっていた。

 

 捜査は難航していた。

 情報が足りないのではない。多すぎるのだ。

 遊園アオから見れば、トリニティの全ての生徒は「友達」もしくは「友達の友達」だ。

 そのあまりに莫大なアオの友好関係が、本来注目すべきであろう情報を覆い隠してしまっている。

 

 加えて調べれば調べるほどに、遊園アオと言う人物はあまりに不可解であった。

 

 書類上はアビドスから転入してきたとあるが、そんな事実はない。

 さらにゲマトリアに親族がいる。おそらくアズサの出身校と関係がある。

 1年生のころには数ヶ月の失踪騒ぎまで起こしている。

 

 他に考慮すべきキーワードをあげるならば。

 「襲われたというミカの証言」と、「ヘイロー破壊爆弾について」の諸々と。

 「トリニティの裏切り者」の有無や、「アオや正実についての悪い噂」についてなど。

 

 仮説をたてることすら困難なほどに、情報は錯綜していた。

 頭のなかでいくつもの要素がぐるぐると巡り、結論に至らず無限に繰り返される。

 

 そうしてひたすらに頭脳に負荷をかけながら、虚空を見つつ歩いていると。

 いつの間にやらシャーレへたどり着いていた。

 

 ……ひとまず一度、シャワーでも浴びて思考をリセットしよう。

 その後、アロナの手を借りながら、情報の取捨選択をしなければ。

 今日も寝る時間が削られそうだ。けれど、今は一刻も無駄にはできない。

 

 先生はひとつ気合いを入れなおして、扉を開けてオフィスへと足を踏み入れる。

 ……入った瞬間に、違和感。

 電気の消えた暗闇の向こうから、生暖かい風を感じる。

 ……風? なぜ室内から? どこか窓が開いている?

 

「こんばんは!」

「…………うおおっ!?」

「あははは、先生びっくりしてる! あはははは!」

「あ、アオ!?」

「ですです! 遊園アオですよー!」

「…………っ」

 

 室内の奥、窓際には、外の街灯の光にうっすらと照らされたアオがたたずんでいた。

 まさかの失踪者本人の登場に戸惑いが隠せないが……とにかく無事でよかった。

 先生は胸をなで下ろす。

 

 しかしその時、外部からの頼りない光がアオの体を浮かび上がらせた。

 その姿を視認して、絶句する。

 

 制服は所々が焼き破れ、大きく露出した肩にできた縦の亀裂を()()()()……コの字の鉄の金具で留めてある。

 スカートは一部が縦に避けており、自慢だったはずの太ももがあらわになっているが……

 おそらく根元付近で折れたのか、ボンドかなにかで接着した跡がある。

 

 片腕に至っては、肘から先はおそらくアオのものではない……マネキンかなにかから拝借したようで、明らかに径が細いものがくっつけてある。

 顔もおそらく、二つに割れてしまったのであろうか。

 粘着テープのようなものでぐるぐる巻きにして固定しているが、片目が斜めにふさがり、眼帯じみているのが痛々しい。

 

 そしてその頭の上には……本来輝いているはずのヘイローが、存在しなかった。

 

「ありゃ、もしかして体、見えちゃいました? あはは、お見苦しい姿ですみません」

「いや、いいんだ……その、うまく聞けないんだけど……大丈夫なのかい?」

「ええ! ばっちり元気です! むしろなんか、タガが外れてハイになってるくらいです! あははは! たーのしー!」

「そ、そうなんだね……」

 

 先生は気が抜けて、ソファへと崩れるように座りこんだ。

 とても無事には見えないけれど、本人曰く、ひとまず命に別状はないらしい。

 

「さて先生! きっとがんばって地道に捜査をしていた先生には大変酷なんですがー? ふっふっふー! ネタばらしのお時間ですよ!」

「……ね、ネタばらし?」

 

「はい! 私がどうしてこんな姿なのか! エデン条約の裏側でだれがどんな暗躍をしてるのか! ……きっと先生なら、あまたの苦労といくつものひらめきを経て、いつかは真実へとたどり着いたことでしょう……」

「……あ、はい」

 

「でも残念! 推理の時間はタイムアップです! このアオちゃんが来たからにはもう手っ取り早く答え合わせして、みんな解決しちゃいます!」

「う、うん……?」

 

「私、アリウスの子と仲良くなってベアトの姐さんの計画を聞いてきました! ここに来る前にミネさんを訪ねてセイアさんのことも知りましたし、ミカさんの思惑もだいたい理解しました!」

「……なるほど?」

 

「みーんな先生に教えちゃいますよ! なんと証拠もばっちりです! いえーい! 至れり尽くせり!」

「は、はぁ……」

 

 知らない情報と単語がとにかく矢継ぎ早に並べたてられて。

 とんでもなくテンションが高いアオに気圧される。

 

 アリウス? ベアト? セイアとミネ? ミカの思惑? だれかの暗躍?

 先生を省みないアオの言葉の数々が、まだ電気もつけられていない部屋で騒がしく響く。

 

 しかし先生は、アオのその様子から。

 どうやら本当に、体に支障はないようだと判断できた。

 

 安心とともに、忘れていたはずの疲労がのしかかってくる。

 先生は意識を失ってソファへと倒れそうになる。……が、アオはそれを許さない。

 

「あ、待ってください先生! まずは急いでナギサさんを確保しますよ! 理由はなんでもいいです! シャーレに軟禁して警備をがっちがちに固めます!」

「も、もう明日でいいかな……それ……?」

 

「だーめーでーすー! 今すぐです! そのあとはミカさんへ、無限の書類地獄をお見舞いするんです!」

「……えーっと?」

「ナギサさんがいなければ、ティーパーティーはミカさんだけになりますから。正実、シスターフッド、救護騎士団、その他いろんな部活にいろんな派閥に、他の学校にまで! 私が呼びかけてティーパーティーの権限でしか処理できない書類を量産します! 調印式までのミカさんはもう、余計なことはなにもできません!」

「うわぁ、えげつない……」

 

「でも私が生きてるってことはまだ隠しておきたいから……実働には先生の助けが必要なんです、だからほら早く動いて動いて!」

「ええー……今日はもう疲れたよ……いったん寝かせてよ……」

「だめー!」

 

 先生はアオに肩を揺さぶられて、むりやりに起こされる。

 アオはなにやら、これからのことをまくし立てているようだ。

 しかしそもそも事件の全貌がわからないので、いっこうに頭に入らない。

 

「最後の仕上げは調印式当日です。あちらの手札は丸裸! 全部つぶしてやりましょう!」

「うんうん、わかったわかった……」

 

「対策のための会議をしましょう。私のツテを全部使って、呼べる学園は全部呼びます! パパ達だって呼んじゃいます! とれる手段は無限大です!」

「うわぁ、それはすごいことになりそうだぁ」

 

「ふふふ、ふふふふふ……さぁ、反撃の時間です! 私は容赦をしませんよ! みんなみんな「歓喜」に染めちゃうんですから! あはは……あーはっはっは!」

「…………すやぁ」

「だから先生、寝ちゃだめですってー!」

 

 アオの高笑いを耳の右から左へ素通りさせながら、先生は眠りの世界へと落ちていく。

 

 翌朝、すべては夢だったのでは!? と飛び起きた先生だが。

 傍らにはアオが一緒になって寝ていたため、改めて安心して二度寝した。

 当然、補習授業部への講義はすっぽかした。

 

 心配して迎えにきたハナコが二人を発見し、にんまりとほくそ笑み。

 後日、「この前、先生が生徒と同衾してました!」と喧伝するのは、またまた、いろいろと騒動が収まった後のお話。

 









アオちゃんがカタコンベから生還してきた経緯は、また次のお話で。
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