[完結]拝啓パパ上マエストロ様。トリニティでも私は元気です。 作:がくらん
うむむ……スーツケースの中って、狭いんですねぇ。
いくら大容量のタイプだと言ったって、狭いものは狭いんです。
窓がないどころか、ひざを抱えてやっと入れるような真っ暗な箱の中で。
がらごろがらごろ、石畳の上を走るキャスターの音と振動だけを感じます。
そうっとそうっと慎重に、ファスナーを少しだけ開けて、お外をのぞいてみちゃいましょう。
すると小さな隙間から見えてくるのは、フル装備姿なアリウス生ちゃんのお背中と。
その向こうへと長々と続く、妙に歴史を感じさせる作りをした薄暗い通路……カタコンベ内の景色です。
そしてこんなちょびっとな隙間からは、位置が悪くて見られませんが。
このスーツケースを引いて歩いているのって、実は私のパパでして。
アリウス生ちゃんに先導されて、古聖堂の地下を進んでいるというわけです。
お二人の間に会話はありません。
アリウス生ちゃんは振り向きさえしないので、私はしばらくのぞき続けます。
進む道順にはブラフも挟まれていたのでしょうか。
無駄に蛇行するように、ひたすら歩き続けたその後に。
カタコンベの中でも一際に開けた大広間……古代の祭儀場のような場所にたどり着きました。
……おっとっと、アリウス生ちゃんがこっちを向こうとするそぶりを見せましたね。
慌ててチャックを閉じて引っ込みます。
「……こちらになります」
「ふむ、文献通りの空間だ。……この荘厳な気配。……不明確ではあるが、“太古の教義”は、確かにここに存在するらしい」
「……では、後ほど我々から指示を出しますのでそれまでは待機をーー」
「立ち去り賜え」
「え?」
「私の芸術活動を妨害する気か? ……早急にこの場から消えろと言っているのだ」
「……承知しました。……通信には、くれぐれも忘れずにご返答ください」
アリウス生ちゃんは素直に、ですが苛立ちを感じさせる足音を伴って、この場を去っていきました。
本日のパパ上はアリウスにとって、ベアトリーチェの姐さんから招聘された貴重な外部戦力でございます。
パパがどれほどの無礼を働いても、かわいそうな下っ端アリウス生ちゃんには逆らう権限がありません。
そのままゆっくり、100ほどは数えたでしょうか。
アリウス生ちゃんの気配が完全になくなってから、パパは私の入ったスーツケースの留め金をはずしてくださいました。
「ぷはー! パパ、開けてくれてありがとうございます! いやー、息苦しかった!」
「……息災か?」
「問題ないですよー。でもやっぱりあんまり居心地はよくないですねぇ。これ」
ケースから這い出てくるのに、パパが手を貸してくれました。
そのままぐいっと引き上げられて、気分は連行される宇宙人です。
「でもあんなに無愛想にしてよかったんです? 一応、「遊園アオは保護下にあって、無事だ」って言われて、騙されてるフリをしてるんですよね?」
「あのような者どもに、かける礼儀は存在しない」
「あはは……まぁ、パパからしたら、そうもなりますかぁ」
「……この件が終われば、お前の完全な補修に手をかける。……もう少しの辛抱だ」
「はい! えへへ、そしたらついでに少しだけ、足とか長くしちゃおっかなぁ……!」
「うむ、それくらいはいいだろう」
「え!? ほんとにです? やったぁ!」
「……今日という一日を越えた後ならば、その程度の褒美は必要だろう」
「ふふふ、そうですね! 全てはエデン条約を守りきってからですね!」
ベア姐さんとアリウスのみなさまの計画は、すでに完全に丸裸でございます。
情報ルートは二つございまして。
“太古の教義”への案内の見返りに、外部戦力として協力を約束しているパパと。
アリウス内部で完全にスパイと化している、人形派のよっちゃん達と。
二種の情報で裏をとりながら、調印式急襲計画の全容は、しっかり明らかにされました。
それに対応するための準備は万端です!
今日は皆さん組織ぐるみで、対策会議で決まった持ち場へ、各々向かっているはずです。
あとは開幕の“花火”を待つばかり、と言った具合でございます!
「いやぁそれにしてもこちらが、私がさんざんに探し回っていた、
「……それについては、無茶な探索をさせたな。…謝罪しよう」
「いえいえ、おかげでいろんなお友達と出会えましたから! もーまんたいというやつです!」
「ふむ……」
それでもパパは、少しだけ申し訳なさげでしたが、私は本当に気にしてなんかおりません!
「どうりで見つからなかったわけですねぇ……」なんて、のんびり呟きながら、入学当初のいろんなことを思い出します。
一年生の頃は、“太古の教義”を見つけたらパパが喜んでくれると意気込んで。
正実に入って活動したり、シスターさんたちとも仲良くなったり、ほかにもいろんな人とお話をしたり……
そういえば一時期は「正実のタイ子ちゃん」なんて呼ばれていた時期もありました。
最近はすっかりみんな忘れていますが、本当に定着しなくてよかったです。
……そんなことも、今ではいい思い出というやつですね。
その後二年生、三年生へと上がっていっても、思い出は日々増えるばかりです。
「……あはは。学園生活、ずっと楽しかったなぁ。……パパ、私をトリニティに入れてくれて、ありがとうございました」
「……楽しめたのは全て、お前自身の努力の賜物であろう」
「それでも、きっかけをくれたのはパパですから! えへへ!」
「……そうか」
私が素直な感謝を述べますと、パパったら黙りこくってしまいまして。
あはは、戦闘開始も近いというのに、なんだかしんみりしてしまいましたね。
……さてさて、そろそろ気合いを入れていかなければ!
「それではパパ上!私たちもそろそろ準備を整えましょう! “太古の教義”、作戦前に完成させるんですよね!」
「その通りだ……ベアトリーチェは、切り札として温存するつもりでいるが……私たちで早々に起動し利用する。娘よ、手伝ってくれるな?」
「はい! ……でもいいんです? せっかくパパの単独作品になるはずだったのに……未熟な私なんかが手を出して……」
「無論」
不安を感じる私を前に、パパは断言をしてくれます。
そのままパパはゆっくりと、祭祀場の中心へと足を進めながら。
背を向けたまま。私に対して語りかけます。
「……娘よ。お前は私に感謝を述べるが……礼を言いたいのは私も同様だ」
「えっ……パパも?」
「キヴォトスに来たばかりの私であれば、せいぜいが同じ大人……この場合で言えば唯一先生にのみ、私は私の「芸術」を提示しただろう」
「……それは、なんだか寂しいですね」
「だがお前を通して、私はキヴォトスの様々な生徒達とも交流を得た。そして彼女らが間違いなく知性と品格を備えた者達であると、気がつくことができた」
「そりゃあ、私の自慢のお友達ですし? みんな立派な方々です!」
「然り。よって私は、先生だけではなく、キヴォトスの生徒達にも向けて、制作をすべきだと考えを改めた」
「うんうん! いいですねぇ!」
「このキヴォトスという世界に捧げる作品……その鍵となるエッセンスがお前だ、娘よ」
「……はへ、私?」
「生徒でありミメシスでもある。そのような繊細な混沌を宿すお前が、“太古の教義”へと与える影響はいかほどか……。結果として至るであろう「崇高」は、はたしてどれほどの存在となるか!」
「おおー!」
思わず、口から歓声が飛び出てしまいます!
きっとパパが万感の思いを込めて作る芸術に、私が不可欠だと言ってもらえて。
こんなに嬉しいことはありません!
「……時に問うが、娘よ」
「はい、なんでしょう?」
ここで急に、いつになく自信がなさそうに。
二つの頭でどことなくそっぽを向きながら、パパは私に問いかけます。
「反対に、お前には忌諱はないだろうか……。父と共に興した作品を、友人一同に披露するという行為に、拒否感はないか……?」
「……ぷっ、あははは! なに言ってるんですか! パパったら!」
失礼だと思いつつも、どうしても笑いが飛び出してしまいました。
とっても不安そうなご様子で、なにを聞くのかと思ったらそんなこと。
たしかに私はもう、パパ離れするような歳になりました。
遊園地だって、パパとよりもお友達と一緒に行きたいですし、自分の体だって自分でいじるのがしっくりくるようになってきました。
ですがそれはそれ、これはこれ。
私がいくつになったって、変わらない事実がございまして!
「私ってば、いつまでだってパパのこと大好きですからね! むしろみんなに、自慢のパパの作品、見せつけちゃうんですから!」
「…………ふっ」
「……パパ?」
「……ふふふっ……アーッハッハッハッハ!」
「ぱ、パパが声だして笑ってるー!?」
低くてとっても聞き心地の良い笑い声が、祭祀場に大きく木霊します。
笑い声どころかそもそもこんな大声を出すパパを、私は初めて見るはずです!
わ、わ……! どうしよう、パパおかしくなっちゃった……!?
私、そんなにおかしなこと言いましたか!?
「ふっふっふ……なに、すまない。驚かせたか」
「そりゃあもうびっくりですって! え? どうしちゃったんです?」
「いや……私はどうやら、不世出な素晴らしい娘を得たようだと、気がついてな」
「え? ええー? そんなそんな、誉めても何も出ませんよ? ……でへへへ」
パパからこんなにもストレートなお褒めの言葉をいただいてしまって、思わずだらしない姿を見せてしまいます。
ですがそんな私へ届くパパの雰囲気が、とっても優しくってそれがまたうれしくなっちゃって……
口こそ手で押さえて、なんとか声を閉じこめても、にやけた頬が戻りません。
むにむにとほっぺたに手をやって整えて、眉毛もいじって無理矢理キリっとさせまして!
「ではではっ! パパ、さっそく取りかかりましょうか!」
「ああ、まずは“教義”をミメシス化して、造形を整えるところからだ」
「がってん承知! あいあいさー!」
気勢を上げて、パパと手を取り合って“教義”の気配へと臨みまして。
いまだ姿のない漂う気配そのものな“太古の教義”に、作品としての生命を吹き込んでいくとしましょうか!
「「どうぞみなさま、いまこそ喝采の準備を!!」」
とってもカッコいい、パパお決まりのキメ台詞!
パパとハモってうれしさ倍増!
「娘よ、操縦はぶっつけ本番になるが本能に従え。お前なら問題なく動けるはずだ」
「操縦……?」
「融合時には気をしっかりと持て。飲み込まれはしないであろうが、念のために」
「融合……?」
「さて、まずはこの場で祈りを捧げてーー」
「……ん-??」
ええっと、ええっと……操縦? 融合?
……あれー? そういうお話でしたっけ?
ーーー
その出来上がりかけた高層ビルは、何らかの理由にて建設を放棄されていたらしい。
雨風にさらされ、錆が浮き始めているタワークレーンの先端にサオリは陣取り、下界を見下ろしていた。
いくらか離れた下方には、調印式が行われる予定の古聖堂。ティーパーティーのナギサを筆頭に、多くの参加者がすでに入場している。
かすみがかった遠方には、ゲヘナから向かってきている飛行船。万魔殿の面々と……満載の爆薬を運んでいる。
ここはその双方が視界に入る、絶好のポイントだ。
ふと、マエストロと名乗った、哀れな人形風情について思い出す。
ベアトリーチェが呼び寄せたあの大人の、なんと滑稽なことか。
アレは今頃、古聖堂の地下で“教義”とやらの完成に勤しんでいるはずだ。
安全を約束されたはずの娘が、もうとうの昔にこの世を去っているとも知らずに。
……Vanitas vanitatum et omia vanitas. やはり世界はあまねく、虚しい。
だがあの人形がいくら愚かといっても、有用な面もある。
ミメシスの運用についての、特異な知識がそうだ。
特に“ユスティナ聖徒会”の利用……姫が宿すロイヤルブラッドが、本来の意義を発揮するための準備の際には、人形の助力は大いに役立った。
弾圧されてきたアリウスが……尊き血統を有する姫が表舞台にあがるのを、サオリは心待ちにしていた。
エデン条約機構……ETOの奪取により、トリニティとゲヘナを世界から蹴落として、アリウスこそが正統となる。
すなわち憎きトリニティとゲヘナを、キヴォトスから永遠に消し去る。
幼少よりの辛く厳しい訓練の日々が、実を結ぶときは近い。
サオリは懐から通信機を取り出した。
「工作班。巡航ミサイルの発射準備はできているな?」
『はい。問題ありません』
「ミサキおよび実働班。古聖堂を囲む配置にはつけているか? それから、カタコンベから古聖堂への突入の準備は?」
『どちらも問題ないよ。外での襲撃準備は少し心配だったけど、少し外周なら、警備も予想以上に手薄みたいだ』
「ヒヨリと姫、加えて地下待機班。エデン条約を奪取する手はずは進んでいるな?」
『順調です……ああ、トリニティとゲヘナの方々、これからきっと辛いですよね、悲しいですよね……。姫ちゃんが「戒律」を成立させれば、すべては塵と消えてしまいますものね……』
「アズサ、陽動班。トリニティへの潜入はすんでいるな。作戦時には学園本部を混乱させろ」
『……分かった』
「よし、では作戦を開始する……! ミサイルを発射させろ。着弾後すぐ古聖堂の制圧にかかれ。万魔殿の乗る飛行船も同時に墜落させる。各々、決められたターゲットを確実にしとめろ」
『はっ!』
作戦前、最後の定時連絡が完了した。
ミサイルは発射された。十分な速度を獲得したミサイルは、誰にも止めることなどできない。
きっかり五分後、古聖堂は炎と灰に包まれたガレキと化す。
アリウスは、直撃を受けて混乱するはずの両校首脳部および治安維持組織を、不意を打って撃破する。
……先日、ナギサがシャーレに連行されたことは予想外であったが、それも悪いことではない。
トリニティにてクーデターのために用意していた人員が、この日まで温存できていた。
それらはトリニティに残り、陽動を担う。
陽動班にはアズサ率いる精鋭部隊も同行する。与えられた任務は、聖園ミカの排除だ。
ティーパーティーが壊滅すればそれぞれの派閥は必ず暴走し、トリニティはまともに動かなくなる。
その間に、ETOとなったアリウスが全てを掌握し、支配する。
「……間もなくだ」
賽は投げられた。
サオリは細めた目で、ミサイルが飛んで来るであろう空の先を見つめる。
ミサイルは、防衛迎撃システムで反応ができないほどの速度を発揮する。
いくら高所から遠見したところで、視認できた瞬間には標的へと命中しているはずである。
サオリはそれでも、直撃の瞬間を見逃すまいと目を凝らすが……
――そのとき……! まるで街をつんざくかのようにっ!
――サオリの集中を妨害する「者」が……!
――サオリの視野の中心付近を、地から天まで縦にまっすぐ貫く「者」が……!
――なんの前触れもなく、出現した!
『ふわああぁぁぁーーー! なにこれ、たっかーい! おっきーい!!』
「な、なんだ!?」
未だ静閑であったはずのキヴォトスという領域に、途方もなく大きな「声」が轟く。
その「声」の発生源は……!
古聖堂間際のとある地点から、瞬きをする間もかけず、刹那の内に現れたのは……!
『これぞパパと私の合体芸術! “ヒエロニムス:アオ式”! ここに見参です!!』
全身を真紅のローブで覆われ、後光じみた金環を背負う、4本腕の巨人!
その巨体の大きさは、隣にそびえ立つ古聖堂の尖塔をも軽く凌駕し、ゆうゆうと街を見下ろしていた……!
「ヒエロニムス……? もしやあれは、完成した“教義”か!? バカな! あの人形めっ、なぜこのタイミングで!」
サオリは動揺を隠せない。
人形……マエストロの役割は、ユスティナ聖徒会顕現のサポートが主だ。
“太古の教義”の戦力利用は、想定外の事態へ備えた、いざというときのサブプランであったはず……!
しかしマエストロを詰問したり、あの真紅の巨像をどうにかしている時間はない……!
あと数秒もないうちに、ミサイルは着弾するはず……!
『あははー! すっごいですねぇこれ! ……あ、ミサイルも来た来た!』
「……見えたっ!」
空の先、ミサイルがケシ粒ほどの大きさに見えてきた。
そして轟音をあげながら数瞬後には、直撃寸前にまで古聖堂へと迫る。
しかし……
『必殺っ! “ウルガーッタ、アッパー”!! ……たーっまやー!』
「な、なにぃい!?」
ミサイルは“教義”の巨人に下方からカチ上げられ、はるか上空で爆発する。
地上へはかすかな爆風のみが届き、少し遅れて、空を不思議そうに見上げる生徒がでた程度。
あまりに規格外な方法で、最も重要な奇襲が防がれた。
この事態にサオリは思考が止まりそうになるが……ここで彼女に施された訓練がモノを言った。
サオリはほぼ無意識に、即座に次の手を打つ。
「……っ! とにかく、ゲヘナの飛行船の爆破だけでも……!」
古聖堂の制圧を完遂するためには、なによりもまず、現場を混乱させる必要がある。
サオリは手元の起爆装置を起動した。
爆音と共に、万魔殿を乗せて会場へと近づきつつあった飛行船が火を噴いた。
ミサイルに比べれば規模は小さい……
しかしだとしても、会場へ墜落する巨大な質量は、人々を惑わせるのには十分。
……のはずであったが。
『ふっふっふ……またまた必殺! “ダマススの招請レスキュー”!』
「……な、なんてことだ!」
巨人は意味の不明な文言を伴って、その腕を長く伸ばし、落ち行く飛行船を拾い上げた。
火の手は払いのけられ、乗務スペースはゆっくりと地上へと降ろされる。
船内からは万魔殿の面々が、戸惑ったように、しかし無傷で脱出する。
「こんなことが……!」
『スクワッド! 応答せよ! こちらトリニティ陽動班!』
「なんだ、どうした!」
『あ、アズサが裏切りを……! シスターフッドに包囲されて……ぎゃああ!』
「裏切り!? ……っく!」
『サオリ、こっちも少しまずいかもしれない』
「ミサキっ!?」
『正実と風紀委員が古聖堂から出動してきた。まっすぐこちらに向かってる……いったん持ち場を離れるよ』
「……っ!」
サオリはなにも答えられない。
各地から情報が怒濤のように舞い込むが、全てがアリウスの劣勢を伝えてくる。
強く、奥歯が欠けんばかりに歯噛みをし、この元凶と思われる不愉快で理不尽な巨人をにらみつける。
『あ、錠前サオリ、みーつけた!』
「……なっ!?」
名を、呼ばれた。発見され、認識されてしまった。
真紅のローブの頭部、フードに隠された暗闇の奥底と、視線がぶつかり合ったような気配を感じて……
『ちょっと遠いけど……届けっ! “砂漠の苦痛スマーッシュ”!』
「……がああっ!!」
巨人の腕が、再度伸びて。
サオリはクレーンの先という高みから、直前まで自身が見下げていたはずの地の底へと。
すさまじい威力を誇る巨人の平手にて、あまりにも大きな衝撃を伴いながら、無情にもはたき落とされた……!
「ぐ、ぐうぅぅ……!」
叩きつけられた地面には、大きな穴ともヒビともつかない窪みが形成され。
その中心にて、サオリはかろうじて意識を保つ。
全身を激痛が襲うが、まるで奇跡のように、手足はちぎれ飛んではいなかった。
「なんなんだ……いったい……これは……っ!」
どうにか立ち上がろうともがくサオリだが。
そこで、うまく動かせない自身の体を見下ろしてくる、いくつもの気配を感じた。
鈍い動作でどうにかその相手を確認すると……
「き、着ぐるみ……!? お、おまえ達は、いったい……!?」
『…………!』
『……? ……!!』
そこには戦場にはあまりに場違いな、遊園地の着ぐるみ達……
ウサギやクマのパペットが、ケラケラと無音の笑声をあげながら、サオリへと迫る。
「ぐ……っ!」
『!!』
着ぐるみ達の、決して変化することのない不気味な笑顔に晒されつつ。
サオリは拘束されて、クマの肩に担がれた。
身じろぎも不可能なほどにきつく固定されたサオリは、暴れるが。
どこかへと運ばれる途中にて、とうとう気力を使い果たし。
……ゆっくりと意識を失った。