[完結]拝啓パパ上マエストロ様。トリニティでも私は元気です。   作:がくらん

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サクラコさんとざんげ室

 

[拝啓パパ上 マエストロ様

 夏のお外はまぶしいですね! この前なんて私のヘイローもどきのプロジェクター、光量が足りなくって見えにくくなっちゃって、危うく救護されちゃうところでした。

 パパも日射病にはお気をつけて。

 

 さて、私はとうとう覚悟を決めることにいたしました。

 やはり待つばかりではいけません。世は攻めの時代……! 今度、シスターフッドへ乗り込もうかと考えています!

 ……もし私が帰らなければ、骨は探して拾ってくださいね?

 だなんて、あんまりにもお近づきになれないものだから、いつのまにかシスターフッドが怨敵の本拠地みたいな気分になってきてました。別にそんなことはないんでしたよね。

 外部からじゃあ、情報収集もなんとなるかはわかりません。ですがまずは、ちょっとお散歩気分でお話ししてきます。

 最近いろんな人と話すのにも慣れてきました。シスターのだれかさんとも仲良くなれたらいいなぁ、って思ってます。

 

 それでは、私の覚悟の成り行きはまた今度、ですね。待て、次回!  敬具

 

p.s. おまんじゅうとお洋服と、あとお返事のお手紙ありがとうございました! とってもとってもうれしかったです! あいらびゅーパパ上ー!]

 

「……順調なようだ」

 

 決して「太古の教義」について、なにか進展があったわけではない。

 しかしマエストロは、自然とそう呟いていた。

 

 

―――

 

 

[簡易ざんげ室やってます! 

 ・ちょっとした悩みはあるけど、懺悔ってほどではないんだよなぁ。

 ・なんか寂しいし、だれかとお話したい気分だなぁ。

 ・今日は暇だし、ちょっと寄ってみるか。

 そんな感じで大丈夫です! シスターさんが顔を隠さず対応します!

 どなたでも気になった方はいつでもどうぞ!

  簡易ざんげ室、待ってます!]

 

 部活動の募集や、学務の簡単な連絡事項が張ってある掲示板の片隅に、ひっそりと居座っていた1枚のポスター。

 可愛らしくデフォルメされたシスターさんの絵が添えられたそれを見つけたとき、思わず「これだ!」と叫んでしまいました。

 

 パパには覚悟を決めたといいつつも、さてはてではでは、どうやって「教義」について探りを入れるか、具体的な方法を考えねばと、しばし頭を悩ませておりました。

 たとえばシスターフッドへの簡単な接点として、毎週日曜開催のミサがあります。

 これは誰でも参加自由の啓発の場ですが、けれどやはり、ミサというのは敬虔な生徒のみなさんの大切な時間。これをジャマしてしまうのは、はばかれます。

 次に考えられるのは懺悔室ですが、こちらも本当に懺悔が必要な、深い悩みを抱えた人がいるはずなのです。いくらパパの頼み事のためといえ、たとえ一席でも奪ってしまうわけにいきません。

 

 うむうむうんうん、どうしたものかといった所で、唐突に目についたのが件のポスターでございます。

 はっ、としました。これなら雑談混じりにちょっとした会話の流れから、「教義」について聞いてみられればいいのです。

 私の華麗な話術にかかれば、改まった場よりも簡単に、ぽろりとひとこと、ふたこと、ついでにみこと、なにか教えてくれるかもしれません!

 それになにより一番は、シスターさんとの気軽なおしゃべり、

 

「結構楽しみなんですよね!」

 

 もしかしたら、お友達になれるかもしれませんから!

 そんな期待を胸に、やってきましたはトリニティ大聖堂の別館2階、階段のぼってすぐ手前の第3多目的室!

 本当の懺悔室なら専用の部屋があるところ、こちらはもう場所の設定からして適当で、堅さのカケラもありません。

 そうそうそう、この感じが欲しかったのです!

 

「ええっとなになに? [簡易ざんげ室はこちら! 本日の担当:[歌住サクラコ]]っと、うん、ここで間違いないですね! ではではごほん……こんにちはー! 入ってもよろしいですかー?」

「ひゃ、ひゃあい!! どうぞぅ!!」

「……?」

 

 ノックと共に呼びかけますと、返ってきたのは妙に裏がえったお返事でした。

 ……まぁ疑問はひとまず脇に置いて、っと。

 

 そろりと扉を開けてみれば、こじんまりした部屋の中、いくつかの授業机を並べてテーブルクロスを敷いただけの簡素な机を挟んで、シスターさんが一人待ってくれておりました。

 銀の髪をおしとやかにウインプルに包んでチラ見せしつつ、小さな花柄があしらわれたミニスカートの修道服が可愛らしいです。

 部屋は大変に質素なのに、そのシスターさんが一人立っていてくれるだけで、断然可憐に感じるのは私の錯覚ではないはずです!

 

「あ、えへへどうもこんにちはー。ええと、それじゃあひとまず座らせてもらっても――」

「……っ! ふぅっ……! はいどうぞぜひ座ってくださいこんにちはこちら簡易ざんげ室になります私たちシスターはあなたの秘密は絶対に守ります絶対に他人へまたはたとえ私のシスター仲間にさえももらすことはございせん安心してなんでも話してくださって大丈夫ですただし注意事項として私たちシスターへの迷惑行為とされることがなされましたらただちにーー」

「まってまってまって、早口すぎですって! 緊張してます!? なんかおかしいですよ!?」

「おかしい!? し、失敬な! 緊張なんてしておりません! むしろそうおっしゃるあなたが逆に緊張しているのでは!?」

「ええっ!? い、言われてみれば確かにちょっと緊張してたかも……?」

「ほら! これでおあいこです!」

「おあいこって、それならあなたもやっぱり緊張してるんじゃないですかー!」

「ふ、普通です! いたって! 普段どおりです!!」

「いやいやいや、そんなわけあるかーい!」

「はぁ、はぁ……!」

「ふぅ、ふぅ……!」

 

 ……な、なんでしょう今の一連のやりとりは……?

 一瞬で通り過ぎていった奇妙過ぎる空気に、呆気にとられて言葉が出ません。

 走ってもいないのに肩で息をして、たった数秒の発言で吐ききった酸素を取り込んで、

 

「ふふ、ふふふ……ふふふふふ……!」

「くっ、くっ……あっはっははは……!」

 

 笑いがこみ上げてきたのは、私だけじゃなかったようです。

 私はシスターさんへ弱く指をさし、シスターさんは両手で口をおさえて、ひぃひぃとひきつった笑い声をあげます。

 もう、意味がわからないのに笑い過ぎて涙が出そうです。

 ああもうお願い笑いよ止まって……! 私はこんなに苦しいですってぇ……!

 

「ふふふ…ふぅ……やっと落ち着いてきました…… ごめんなさい、やっぱり私、緊張していたみたいです」

「ははは、はぁ……やっぱりぃ! もう、びっくりしたんですからね? あんなにムキになることないじゃないですかー!」

「ふふ……おっしゃるとおりです。反省します。……実は初めてのざんげ室担当で、ちょっと意気込みすぎてしまったようで……」

「ああ、なるほどそれで」

 

 「改めて、すみませんでした」と、頭をさげてもらったので、「いえいえお気になさらず」と返してあげて、あがった顔同士で目があったらまたおかしくなって来ちゃって、二人してちょっと笑って、そんな感じで一段落。

 

 シスターさん、がんばり過ぎてから回っちゃったんですねぇ。

 雰囲気を見るに、この簡易ざんげ室自体が、新人さんの教育半分で担当させられる催しなのかもしれません。

 それにしたって、ちょっとびっくりしましたけれど。

 はー、疲れました。おなか痛い。

 

「ではこんにちは。本日の簡易ざんげ室担当の、歌住サクラコです。今日はどんなお話をしましょうか?」

「遊園アオです。特に悩みとかはないんですが、気になって来ちゃいました。よければおしゃべりしたってくださいな」

「それはもちろん、私でよければよろこんで」

「ありがとうございますー!」

 

 お腹を抱えて一緒に笑った謎の一体感に包まれたまま、やっと私の求めていたおしゃべりが始まります。

 一波乱やりきったあとで、なんかもう気が抜けちゃっていたのでしょう。だらだらだべり、お互いの身の上話に花が咲きます。

 

 サクラコさんは、どうしてシスターに?ーー

 アオさんこそ、その制服、正義実現委員会ですよね? どういった経緯でーー

 正実でこの前おもしろいことがあってーー

 そういえば最近、シスターフッドの友人内でも流行りごとがありましてーー

 いいなぁそれ、今度正実でもーー

 こんど駅の前に新しくケーキ屋さんができるらしいとききましてーー

 あ、そういえばおまんじゅういります? アビドスのおみやげでーー

 わぁ、ザラメでしょうか? 甘くてじゃりじゃりしてておいしいですねーー

 でしょう! これ実はパパからのーー

 

 話は多岐にわたりました、と言っても、実際には女の子2人集まって、好きなことを好きなだけ、お話しただけなのですが。

 なかでも印象に残ったのはこんなお話。

 

「……私、シスターフッドをもっと身近な組織にするのが夢なんです」

「身近? いまでも優しいシスターさんのイメージですが」

「……そう言っていただける方も、もちろん多くいらっしゃいます。ですが、たとえば歴史の中で秘密が多いこと、たとえば学内の政治に対して一定の発言権があることなど、様々な噂や理由で、畏怖や偏見もございます」

「ほえぇ、知りませんでした」

「ですから、だれもの心のより所になってあげられるようなシスターフッドへ、いつか変えていけたらなぁ、なんて…… 新人がちょっと生意気ですけれど」

「いえいえ、生意気上等ですよ! どんどんがんばってください! で、この簡易ざんげ室もいっぱい開いてもらって、そうすれば私もたくさん来れますので!」

「あら、それは確かに。これはがんばらなきゃですね」

 

 サクラコさん、組織への印象を良くしようと自分で考えて、夢を持って、同じ一年生なのに立派というか、うらやましいというか……

 これをカリスマというんでしょうかね? 朗らかなのに力強い魅力を感じる一幕でした。

 

「はぁ……いっぱいしゃべりました……楽しかったーって、あれ? もう夕方近いです?」

「わあ、本当。あっという間でした」

「時間が駆け足さんですねぇ。今日はゆっくりでよかったのに」

 

 どなたか他にお客さんが来たら、そこでお暇するつもりだったのですが……

 逆に全然だれも来る気配がないので、それはもう、ひたすらに楽しくおしゃべりに興じてしまいました。

 何となく気がついていましたが、この簡易ざんげ室、あんまり知名度が高くはないようです。

 サクラコさんも、今日は朝から待機していてなんと待つこと数時間、なんかもう張り切り続けて、でも誰も来ず、かといって気は抜けず……

 そんな張りつめた気持ちにいきなり私が飛び込んだものだから、変な化学反応起こしてあの対応だったのだとか。

 

「今日はお越しいただいてありがとうございました」

「いえいえこちらこそ、たくさんのお話、楽しかったです。……よければまた来ても良いですか?」

「もちろん、遠慮なさらずに!」

「やったあ!」

 

 お腹もすいてきたのでそろそろお開きです。

 さてはて最後に忘れ物でもないかなぁと周りを見渡していると、頭にぱっとひらめきが飛び込みました。

 ーーそうだ! 「教義」のこと聞かなきゃ!

 

「そ、そういえば! ひとつ聞きたいことがあって……サクラコさんは「太古の教義」ってご存じです?」

「太古の……?」

「……あっ」

 

 思いつきで話すものではありません。

 もうどストレートに話題に出してしまいましたが、これ、聞いて大丈夫なやつでした……? もしかして、なにか機密とか関わってたりしませんか?

 おそるおそる、サクラコさんの顔色を伺います。

 

「アオさん」

「は、はいっ! いやもし話せないならそれはそれでーー」

「太古とは、具体的にいつのことなのでしょうか……?」

「……へっ?」

 

いつ……? いつって言ったって、「太古」は、「太古」……?

 

「アオさんの知りたい具体的な年数がわかれば、資料を探せば当時の教義を参照はできると思うのですが……」

「え、ああ確かにそれはそうなんでが……太古は太古でして……」

「太古というと、10年や100年では利かないのでしょうか……? ちなみにどうしてアオさんはそのようなことにご興味を?」

「ぱ、パパが知りたいって言ってまして……」

「お父様は歴史家の方でいらっしゃる?」

「いえ、どちらかというと芸術家ですね……」

「芸術……となると、本当に太古の、土器や土偶や壁画を使った祭祀、もしくは当時の星座の伝承などに関する教義でしょうか?」

「ご、ごめんなさい、わかりません……」

「そ、そうですか……? お力になれずすみません」

「いえ、いえ……」

 

 な、なんか恥ずかしいですね……!

 「太古の教義」ってパパの言いぶりからして、それでひとつの固有名詞だろうと私は踏んでいました。だから心当たりがある人ならば、てっきり単語を出せばピンと来るのかと……

 たしかにまともに考えれば、「太古」って、いつでしょう?

 ひええ、ちゃんといろいろ聞いておくんでした!

 

「ちょっといろいろ確認します! だからまた今度!」

「あ、はい、承知しました。……帰り道も、お気をつけて」

「はーい! ありがとうございます!」

 

そう言いながら、足早に寮へ帰ります。

すぐにお手紙を書きましょうそうしましょう。

パパ、あなたのせい? で、恥ずかしかったんですからね! って書いてあげるんですからね!

 

 

ーーー

 

 

「できたー」

 

 帰り着き、すぐに書き終わった手紙を見て、ちょっと興奮気味で支離滅裂になりかけた文章に気がついて、落ち着いて全部書き直して、今は夜、もうすぐ寝る時間。

 この前文房具屋さんで見つけた、可愛らしいネズミとカラスのマスキングテープで封をします。

 ふとっちょ猫柄の切手を貼って、あとは明日にポストへでも。

 

「うーん、これで何通目でしたっけ? トリニティに来て結構たったなぁ…… いつもならそろそろ、パパに体を見てもらう時期でしたが……」

 

 遊園地で出会って、初めてパパへついて行ってから、しばらくたったいつ頃からか。

 だいたい数ヶ月に一度のペースで、パパは私の体を直してくれます。

 「直す」と言っても壊れたもの元に戻すのではなくって…… ほら、お洋服の裾上げのような、そういうタイプの「直す」です。

 私の情緒や精神の成長にあわせて体も大きくなるように、手足や胴や顔の作りを、追加の木材で少しずつ継いだりしてくれます。

 そうして私を、ちょっとずつ成長させてくれたわけです。

 お直しの後はいつも少しだけ長くなった腕の継ぎ目を、目の細かい紙やすりでパパになでてもらうのが好きでした。

 

「久しぶりにちゃんと会いたいな……」

 

 でも、がまんです……!

 少なくとも今日は、サクラコさんという強力な助っ人をゲットできました。

 これからも少しずつ、情報を集めてまいりましょう。

 それでパパのいるお家へと凱旋よろしく帰るのです!

 

「私は日々成長してますよ! パパは残念ですね、娘の成長を間近で見られないなんて……! 次のお直しの時は、身長追加、めざせ30cm!」

 

 トリニティでの生活で私の心が大きく成長してると、パパが見なしてくれたなら、それに合わせてたくさんたくさん、背丈も伸ばしてくれるはず……!

 ついでにバストやヒップも大きくしてもらって、ぼんきゅっぼんのナイスボディなモデル体型はすぐそこです!

 ふふふふふ。

 ハスミちゃんとのランウェイを妄想しながら、今日という日に、さようなら。

 

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