私の母はすごい人なんです!   作:高田竹高

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最終話ですよ。


温かかった

 

「……先生、私は母に会いたいわけではないのですが。」

母との思い出が蘇る、暗い冬の寝床、寒さに震える私の手を母は握ってくれていた、朝になっても、私と母の両方が起きるまで、ずっと握ってくれていた。

冷えていた私の手は、母の手から熱を奪っていっただろう、そうして、私は母から命も奪っていった。

"……そうだっけ?まあ、会ってみなよ。"

 

コンコンコン

"どうぞ、入って"

「…失礼します、連邦生徒会防衛室長の不知火カヤです。」

母が部屋に入ってきた。

数年ぶりに見る母は、記憶の中の姿とは違っていた。

背は記憶と同じくらいの高さで、身体は記憶と同じくらい細くて、顔は記憶の中の母みたいに笑っているけど、何故か母とは違うような気がした。

 

「はじめまして、先生。」

"はじめまして、カヤ。"

"君には迷惑をかけてしまったね。"

「はい、ですが何事もなく事態が収束して何よりです。」

話す声も記憶と同じだ。話すときの動きも同じ、話し方は少し違うけれど、記憶と違うように感じるのには他にも理由がありそうだ。

 

「それで、あなたは誰なのでしょうか?」

……誰?

「先生を誘拐した、私と瓜二つの人間、私と何か関係があるのでしょうか?」

「リン首席行政官は教えてくれませんでしたから、あなたに教えていただきたいのですが」

誰……誰…………そうだ、今の母は私のことを知らない。

「私は、……」

なんと言えばいいのか分からない。

リンおばさんに言ったことは嘘だから母に言うのは良くない。

だけど、本当のことを、私があなたの娘だと言うのも良くない、母は私を生かすために弱っていった。

母が死んだのは…苦しんで死んでいったのは私のせいでもある。

私に、母を殺した私に……娘と名乗る権利はあるのだろうか。

 

"話に割り込んで申し訳ないけど"

"彼女が誰なのかを言う事はできない。"

"でも、カヤにやってほしいことがあるんだ。"

……やってほしいこと?母に?

 

「やってほしいこと?私にですか?」

母も、同じことを思うんですね。

 

"彼女と握手してほしい"

"少しでいいんだ、少しで "

……握手?

「……握手?握手のためにあのような事態を起こしたのですか」

"いや、事態が起こった後に思ったことだよ"

"君と握手することで、彼女が前に進めるようになると思ったんだ"

「……よく分かりませんが、握手くらいなら大丈夫でしょう、手を出してください。」

おかあさんがこっちに手を伸ばす、伸ばされた手は薄くて、細くて、白くて、記憶の中の母とは違った。

 

……私は握ってもいいのだろうか、記憶の中の手よりもっと儚い手を、握っても母は死なないだろうか、記憶の中のように、私に命を奪われて、消えてしまわないだろうか、母は私の

"大丈夫、大丈夫だよ、絶対、私を信じて。"

……少し、少しだけ、都合のいいことを信じようと思った。

手を伸ばして、母の手を握る。

記憶の中よりずっと儚い手は、冷たかった。

 

母との思い出、暗い冬の寝床、寒さに震える私の手を母は握ってくれていた、朝になっても、私と母の両方が起きるまで、ずっと握ってくれていた。

暖かい手だった、優しい手だった、私は愛されていた、母の手は愛の温もりがあった。

 

でも、彼女の手は冷たい手、愛の温もりのない、冷たい手、私は彼女に愛されていない。

さっき初めて会ったのだから当たり前だ、でも、彼女が記憶の中の母と同じ人だと思えないのは違う理由がありそうだ、どうしてだろう、どうして、どうして母は

"マヤ、"

先生の声が聞こえる。

"君は今困惑していると思う"

"記憶の中と違う手に、わけが分からなくなっていると思う"

この疑問に答えはあるのだろうか

 

"あのね、マヤ"

"人の根っこの部分ってなかなか変わらないんだ。"

"君が今感じているのは人の根っこ、"

"君が昔感じたのも人の根っこ。"

"全然、違うよね"

何の話をしているか分かっていない母を置いて、先生の言葉に頷く。

"その違いはね、君がつくったんだ"

私?

 

"君のお母さんは、初めはそんな風に冷たかったと思う。"

"でも、君といて、少しづつ変わっていったんだ。"

"お母さんの手、温かかっただろう、でも、温かかったのは君だけじゃない"

"君は、お母さんから温かさを奪ってばかりだったと思っているかもしれない、"

"でも、お母さんも君から温かさを感じていたんだ"

"根っこから温かくなるくらいね。"

"奪ってたんじゃなくて、伝え合ってたんだ、ぬくもりを"

"君のおかあさんは、温かかっただろうね。"

 

「……あの、痛いのですが」

私は、手の力を強めていた。

痛そうにする母に気づき、手を離したあと、私は母に抱きついていた。

「キャッ!!離してください!!」

身体も少し冷たかった、少しでも、温かくなってほしかった、おかあさんを感じたかった、おかあさんに会いたかった。

"ごめんね、カヤ、少しだけ、そうさせてあげて"

「制服が汚れるのですが。」

やっぱり、冷たい。

 

 

それから、母に仕事が入るまで、母を抱きしめていた。

母から離れた後は先生に別れの言葉と感謝を言って、「廃墟」から自分の時代へ帰った。

1日空けたから心配したのだろう、友人達と、先輩と、父がいる。

やっぱり、このタイムマシーンで過去に行っても現在は変わらないみたいだった。

母を想うと寂しくなるけれど、温かくもなるから大丈夫だろう。

私に抱きついてくるみんなに向けて、ふと言いたい言葉が浮かんだ、「ありがとう」や、「ごめん」や、「ただいま」の代わり

 

 

「制服が汚れるのですが。」

先輩に引っ叩かれた。

そして、みんな笑った。

 




これまで読んで頂き、ありがとうございました。
番外編が増えるので、それも読んで頂けると嬉しいです。

「やっぱり、このタイムマシーンで過去に行っても現在は変わらないみたいだった。」
というのはそのまんまの意味です。
マヤの生きる現在は変わっていません、でも「マヤが過去に行った未来の世界」以外の「未来の世界」は大きく変わっています。

ご都合主義です、マヤが変えられてほしくなかった。寂しさを越えたマヤに父と接して欲しかった。
それだけです。
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