私の母はすごい人なんです!   作:高田竹高

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 お盆特別編、というわけで後日談を書きました。蛇足かもしれませんが、私は書けてよかったと思っています。



後日談

 

 たまに、本当にたまにですが、自分が過去に行った事に、「意味はあったのか」と悩む事があります。父に会っても、私の生きている今は変わりませんでした。母に会っても、彼女は冷たいままでした。それでも、私はまた過去に行っていました。

 

 これで何回目かも分かりませんが、私はよく、過去に行っています。結局、母は子ウサギ駅を爆破しようとしたようで、先生はよく会いに行っているそうです。私も会いに行こうかと悩んだのですが、二人の邪魔になってはいけないと思い、先生に様子を聞くだけですませています。

 

──────────────────────

 

 ポーン。と、目的地に着いた事を示す音がなりました。私の生きている時代に帰ったのです。機械から出て、手足を伸ばして、それから周りを見ると、後ろにサオリ先生が居ました。

 

「先生…!」

 サオリ先生に迎えてもらうなんて、私にとっては舞い上がるほど嬉しいことですが、過去に行った時だけは別です。なぜなら、

「随分と遅い帰りだったな、マヤ。行く前に私がお前と約束したことを覚えているか?」

 サオリ先生が待っているのは、私にお説教する為だからです。

 

「えっ…えっと」

 必死に脳を回転させるものの、まったく思い出せません。サオリ先生と行く前に話したのは1週間も前の事です、思い出せる気がしません。

「やはり、忘れていたようだな。」

 サオリ先生から幾らかの呆れが伝わってきます。この反応から推察するに、私は相当大切な約束を破ってしまったようです。

 

「マヤ、私は、2日に1回はリンさんに会いに行きなさい、と約束したんだ。1週間ずっと向こうに居たら心配で心配でたまらないだろうから、夕飯を食べにでも帰りなさい。と、そう言ったんだ。」

「あっ。」

 そういえば、そうでした。また行方不明騒動を起こさないように、過去に居る日数を伝えに行った際、そう約束をしていました。

「申し訳ありません、先生。約束を破ってしまって」

「マヤ、私に謝る必要はない。お前と約束したのは私だが、私はその後リンさんに約束を伝えた。そもそも、あの約束は彼女の為だったからな。」

 ……!

「お前が約束を破った相手は私ではなく、リンさんだ。早く家に帰って顔を見せてあげなさい、心配してたぞ。」

「はい!」

 走り出した私のまぶたの裏には、機械のある「廃墟」の外、「廃墟」のあるミレニアムの外、DUにある家が映っていました。

 

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「はぁ、はぁ……ただいま!リンおばさん!!」

 「廃墟」から家までは、電車での移動も何度か挟むとは言っても遠く、家に着いた頃にはクタクタになってしまいます。何kmも走ったせいで痛む呼吸器官でなんとか声を出し、私は自分の帰りを告げました。

「……リンおばさん?」

 普段なら、リンおばさんはすぐに玄関に来て、おかえりなさい、おつかれさま、と言った後、その日の晩ごはんが何かを教えてくれるのですが、今日は一向に来る気配がありません。

「リンおばさーん!1週間ぶりに帰ったよー!」

 ………返事すらありません。腕時計を見ると時刻は6時30分、寝るには早い時間です。

 

 とりあえず家にあがると、台所の方に気配を感じました。微動だにしていません……あぁ、思い出しました、リンおばさんは怒っている時、こうなるんです。自分からは動かず、私が何か言うたびに、まるでボクサーのように的確なカウンターをごちそうされるのです。

 

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 少しの時間を覚悟の準備に費やした後、私は、恐る恐る台所の扉を開けました。

 

「……………」

「えっと、ただいま、リンおばさん。」

「遅かったですね、マヤ。」

 やはり、台所にはリンおばさんが居ました。こちらには背中を向けていて、表情は見えませんが、声音からは、凄い圧が伝わってきます。

「ごめんなさい!その、」

 ぐううぅぅ~ 

「……………」

 まずい、非常にまずい、リンおばさんは本気で怒っているのに、こんな緊張感のない音を鳴らしてしまったら、火に油を注ぐことになるのでは

「……はぁ、まったく。」

 まずいまずいまずい!このままじゃきっととんでもない事に

「おかえりなさい、おつかれさま。今日の晩ごはんはカレーです。今から温めますから、先に着替えてきてください。」

「えっ」

「えっ、じゃありません。走って帰ってきたんでしょう、汗でびっしょりの服でご飯を食べるつもりですか。」

 その言葉にさっきまでと同じくらいの圧を感じたので、

「すぐに着替えてきます!」

と答えて自分の部屋へ急いで向かいました。

 

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「着替えてきました!」

「座って待っていてください、すぐに温まりますから。」

 リンおばさんは、圧は感じるものの、さっきよりずっと優しい声音で答えました。

 

 少し、いや、だいぶ怖いです、ダイニングキッチンの我が家は、座った私の斜め後ろに、カレーを温めるリンおばさんが居ます。振り返ってもリンおばさんの顔は見えません。

 

 何もせずカレーが温まり、リンおばさんが話し始めるのを待つのも良いように思われましたが、勇気をだして、こちらから話しを始めることにしました。

「リンおばさん」

「なんですか」

 勇気をだした甲斐があり、リンおばさんから返事が返ってきました。後一歩です、頑張れ。

「全然帰って来なかったこと、もう怒ってないんですか?」

 私が勇気を振り絞って聞いた問いの答えは、ため息の後に返ってきました。長く、浅く、「やっぱりわからないか〜」、もしくは、「やれやれ、親はつらいよ〜」、というような感じのため息でした。

 

 そんなため息を吐いた後、リンおばさんはカレーを温めるのを中断して、私の前の椅子に座り、微笑みながら話し始めました。 

 

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「最初から、怒ってはいません。」

「えっ!!!!」

 あんなに圧を出していていたのに!

「怒っていないと言っても、怒りを感じなかったわけではありませんよ。」

「はい、ごめんなさい。」

「私には謝らなくても構いません。サオリ先生とした約束でしょう。」

 どうにも、大人同士の意見は食い違います。

「話を戻しますが、怒りを感じたのなら、どうしてあなたに怒っていないのか、わかりませんよね、マヤ。」

「はい…」 

 リンおばさんの言葉は、正直悔しいのですがまったく検討もつかないので、おとなしく答えを聞くことにします。

 リンおばさんは、真面目な顔になってから、話しを始めました。

「あなたのことが心配で心配でたまらなかったからです。」

「2日に1回は帰る約束をしたとサオリ先生から聞いた2日後、あなたは帰ってきませんでした。……3日後も4日後も、6日後の今日まであなたは帰ってきませんでした。」

「どれだけ心配したと思ってるんです、あの子のことだから、きっと約束の事を忘れているだけ、そうわかっていても、心配せずにはいられないのが、”親”というものです。覚えておいてください。」

 

 リンおばさんは話を終えた後、私の斜め後ろに移動して、またカレーを温め始めました。

 

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「出来ましたよ、マヤ。」

「ありがとうございます」

 

 私の頭の中は、”親”という言葉でいっぱいになっていました。私は、リンおばさんも母親なんだとずっと想ってて、でもきっと、そう想っているのは私の方だけだと、その想いを伝えないでいました。

 でも、リンおばさんも、私の事を自分の子どもだと思ってくれていたんです。

 今、私の心は幸せでいっぱいです。でも、私ばかり幸せにされるのは悔しいから、なんとかして、リンおばさんも………そうだ!

「いつもありがとう………おかあさん」

 

父に会っても、私の生きている今は変わりませんでした

母に会っても、彼女は冷たいままでした

 それでも、自分が過去に行った事に、意味はありました。

 

それは、ずっと私の事を支えてくれている(愛してくれている)人を、おかあさんと呼べるようになったことと、

 

「ええ…どういたしまして」

大切な人を笑顔にさせられるようになったことです。

 




 それでは、これでお別れです。また会う人はまた会いましょう。
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