ダンジョンで英雄に成るのは間違っているだろうか   作:葛城 大河

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一人の男の独白

 

世界は危険でいっぱいだ。いや、もうね何処を見ても『死』って奴が転がってるのよ。命が軽いなんてもんじゃない。そんな世界に転生してしまったもんだから、さぁ大変だ。勿論だがオレは死にたくない。誰だってそうだ。むしろ死にたいとか思ってるやつは死んだことのないやつだ。

 

 

一度でもあの体験をすれば嫌でも理解できる。『死』っていうのは何もない。あの瞬間だけは何処までも孤独になっちまう。あれだけは耐えられそうにない。だから、オレは必死に生き抜いたさ。

 

 

生存を勝ち取る為に、やれることはやった。数多くの武器にも手を出したし、魔法にも触れた。それでも如何しようもない怪物ってのが存在するのがこの世界だ。

 

 

────《七大災厄》。

 

 

一体でも現れれば経った数刻で大陸を滅ぼす程の化け物。理解なんて出来ない。凡そ生物としての範疇を超える怪物。埓外の獣。一定の周期で眠りから覚めて、世界を初期化するとか言われる終末装置。

 

 

なんていうかね。ほんとオレって奴は運が悪いと思ったよねあの時は。つまるところ、そんな厄災がオレが生きてる時代に眠りから覚めた訳だ。

 

 

世界は阿鼻叫喚に落ちたよね。一夜にして複数の国が滅びたりもした。それでも世界が初期化されなかったのは冒険者たちが頑張ったからだ。

 

 

強い奴らが頑張って耐え抜いた。世界の危機的状況に、いざこざが起きていた国同士でさえ手を取り合った。世界連合軍が結成された。オレ?  勿論、オレもそこに参加したさ。死ぬのが怖いのになんでか?  

 

 

そんなの決まってる。参加しなくても死ぬのなら、人として活躍して死にたいよな。んでまぁ、持てる限りの力を使って対応した。

 

 

そしたらよ、トントン拍子で何でか知らんが怪物共を殺す事に成功しちまったんだ。気付けば『怪物殺し』なんていう異名が付きやがる。

 

 

オレなんかを英雄とか呼んで持ち上げてくる始末だ。こちとら死にたくない一心で必死に戦ってただけなのにな。んでだ、英雄って奴はどうも休めないらしい。

 

 

みんなが言いやがる。助けてください。どうか救ってください。はっきり言って精神が如何にかなりそうだったわ。物語に出てくる英雄共はよく耐えたもんだ。オレには無理だった。そこを含めて器ではないんだろうなオレは。とはいえ、戦える力を持っているのは事実だ。なら戦うしかないわな。

 

 

彼等がオレたちの為に料理を提供し、住む場所を維持し続けるならやるしかない。本当は嫌だけど。

 

 

オレたちが引いちまえば全滅すると分かっちまう。小さい子供たちが元気よく遊んでいる光景が脳裏を過る。はぁ、本当に損な役回りだぜ。

 

 

連合軍の奴らと共に前に出た。相手は当然────厄災のくそったれ共。当たり前の権利かのように世界法則を変えちまう怪物。誓って言うが、ちっぽけな人間が戦って良い存在ではない。そんな奴を相手に皆が武器を手に持つ。

 

 

直剣、刀、槍、大剣、双剣、大槌、果てには無手で挑む奴もいた。オレは何を使ったって?  全部だ。今あげたものとそうでないもの全部を用いて戦った。そして国喰らいの蛇とぶつかった。熾烈な激戦だったが、最後は大剣で首をぶった切った。ざまぁみやがれ。

 

 

次に戦ったのは忘却の蟲だ。これが非常に厄介な性質を持ってやがる。群体にして個、個にして群体。身体から湧き出る蟲共が全部本体とかいう鬼畜仕様。

 

 

一匹でも生き残ればまたわんさか湧き出やがる。無限ループって怖くね?  しかもソイツ一匹一匹がえげつない力を有してると来たもんだ。

 

 

忘却の蟲。名前の通りソイツは忘却を司る。ただ忘れる事の何が恐ろしいのかって?  分かってないな。忘却の力を甘く見過ぎだ。戦闘中に武器の振り方を、魔法の使い方を、魔力の扱い方を、いや、自分の存在を忘れてみろ。そうなったら戦いの参加資格すら失う。反則(チート)にも程がある。

 

 

だからまぁ、双剣で全ての蟲をはたき落として最後の蟲も斬り刻んでやった。あの時はスカッとしたもんだ。蛇との戦いでも結構な人間が死んだが、一番被害を与えたのはこの蟲だ。なにしろ、戦闘に参加してない人間にも忘却を与えやがる。蟲を倒せば行使された力が無くなり、元通りになるとかいうご都合展開すらない。

 

 

んでだ。次に戦ったのが六体目。不死王。読んで字の如し。ソイツは不死だ。────???

 

 

ま、頭に疑問符を浮かべるよな。完全な不朽不滅の存在相手に如何すればいいってんだくそが。そう奴は完全なんだ。ただの不死であれば、こんなに悩んでいない。この世界にも不死を謳う奴が何人も居るからな。

 

 

そういう奴には決まって弱点が存在したし、なによりアーティファクトの不死殺しが効いた。説明しなくても分かる通り不死に対して特攻を持つ武器だ。だけど、この厄災は何度も言うが完全な不朽不滅。そもそも『死』という概念が存在しない怪物だった訳で──── 

 

 

如何しろと?  いやマジで無理だろ。討伐可能か不可能かじゃない。始めからその選択肢が除外されている。どんなに攻撃しても意味がない。どんなに魔法をぶつけても平然としやがる。オレの切り札である『極大魔法』────《ケラウノス》が直撃しても無傷だった時は絶望したね。蛇でさえ火傷したってのに。なのに相手と来たら扱う力が『死』そのものときた。

 

 

奴の放つ攻撃に『死』が宿っている。触れれば終わり。クソゲーの完成だ。こちらの攻撃は効かず、あちらの攻撃は防げない。まじでね、ほんま死ねと言いたくなる。こんな状況が続けばオレたちの手札は限られてくる。封印しかない。それしかアイツに対処する方法がない。でも封印するには術式を起動する奴が必要だ。

 

 

そして、そいつはあの怪物に近付かなければならない。誰がその役目をやるのかと議論すれば、全員がオレを見てやがる。何が大英雄のお前なら信用できるだ。人類最強の威厳を見せ付けてやれとか言われても知るか。………だけど、やれる奴がオレしか居ないってならやってやるよ。もうこうなったらヤケクソだこんちくしょう。

 

 

オレは一人で不死王と対峙する。奴は嗤う。生贄にでもなりにきたのか?  なんて言いやがる。厄災の中で唯一喋る奴だ。ふざけんな。誰が生贄になるかよ。お前をぶっ飛ばしに来たんだよカスと言えば、不死王の奴、顔をキョトンとした。その顔が見れただけでも溜飲が下がったね。話し合いは終わりだ。

 

 

オレは両手に槍を持つ。不死王相手に生き残るためにはこの武器がベストだと思った。始まる戦闘。魔力の糸を巻き付けて槍を投擲。当然、避ける素振りすらみせない。奴の身体に槍が突き刺さるが傷一つない。舌打ちしながら糸を引いて槍を手元に戻してから肉薄する。

 

 

その間、魔法の雨を降らして来やがる。文字通りの雨だ。魔法で天候を操って雨を降らしている。しかも厄介なことにその雨粒一つ一つに『死』を付与してるときたもんだ。つまり、触れれば最後。苦しんで死ぬということだ。即座に槍を回転。雨粒に触れないように全てを弾く。

 

 

それを見ながら呑気に拍手する不死王に苛つく。発散する為にもう一つの槍を顔面に投擲すると、奴の顔が変な風に歪む。少し面白くて吹いたのはここだけの話だ。と、そんな時だ。封印部隊から準備が整ったと連絡が念話で入る。なら、後はこいつを閉じ込めておく空間が必要だ。封印をしやすくする為に。

 

 

オレは動きながら魔法を使用する。詠唱しなければこれは使えない。奴はまだこちらの意図に気付いてない。だからこそ見逃す。結局何をしても無駄だと理解しているが故に、油断する。かくしてオレは詠唱を終えて魔法を行使した。

 

 

大地に巨大な魔法陣が展開される。今から繰り出すのは一つの地獄の具現。『極大魔法』の一つ。あらゆるものを閉ざし、閉じ込める銀嶺の世界。その名も────氷結地獄(ニヴルヘイム)。その一角に氷雪が巻き起こった。全てが銀に染まる。凍り付く。不死王でさえ例外ではない。奴は抵抗せず、凍るのに身を任せていた。

 

 

事実。抜け出そうと思えば何時でも抜け出せるのだろう。だが、経った数秒あれば十分だ。続けて魔法を使用。凍り付いた不死王を巻き込むように光の鉄鎖が出現する。二重三重に縛る。氷像の中で未だに奴は笑みを浮かべている。だが、オレが取り出したモノを眼にした瞬間、分かりやすく取り乱した。瞬時に理解したんだろうな。

 

 

オレたちがなにをしようとしてたのか。だけど、もう遅い。今更足掻いても時間が足りない。取り出したモノ────魔水晶をオレは掲げる。術式はもう完成しているから、後はオレが魔力を注ぎ込むだけでソレは起動した。

 

 

氷像のまま、不死王の奴は絶叫を上げて魔水晶に吸い込まれていく。それが面白くて煽るように笑ってやったわ。これで六体目の厄災とも決着が付いた。

 

 

そして────いよいよ最後だ。七体目の厄災。ソレは一匹の竜だった。どの時代に置いても最強と謳われる幻想種。黄金の巨躯を持つ世界竜。それが最後の厄災。一目見ただけで、存在がネジ曲がった。格が違う。次元が違う。

 

 

今まで出会ってきた厄災なんかとは比べ物にならない。アレは事実────世界そのものだ。竜の周りの空間が歪み、ただそこに在るだけで世界法則が塗り替わっていく。顔を動かし、竜が一瞥する。たったそれだけで連合軍の半分以上が死滅した。鳥肌が立ったねあれは。見ただけで殺しやがった。

 

 

生き残ったのは確かな実力者のみだ。それでもオレたちの胸中は絶望しかなかった。理解しちまったからだ。結末が分かっちまったから。アレには勝てない、と。誰もが微動だにしない。オレも足が地面に縫い付けられて動けずに居た。

 

 

今までなんとかやってこれた。知恵を振り絞り、力の限りを尽くした。厄災に対抗できていた。なのに………これはないだろ。なんだってこんな怪物が当たり前のように居るんだよ。

 

 

沈黙を貫くように一人の冒険者が雄叫びを上げた。身の丈を超える大剣を掲げ、世界竜の元に走る。誰かが言う。やめろ、と。死ぬぞ、と。それでも尚、その冒険者は未来の為に絶望と戦う道を選んだのだ。ここでなにもしなければ結局死ぬ。…………オレは戦いに参加した理由を思い出した。

 

 

そうだよな。結局死ぬのなら、活躍して逝きてぇよな。全員が同じ気持ちだった。世界竜に突っ込んだ冒険者(バカ)に遅れを取らぬように、オレたちもまた駆け出す。

 

 

ハッ、今日は死ぬには良い日だ。そう口ずさみながら。

 

 

まず初めに大剣の冒険者が死んだ。振るわれた鉤爪によって次元ごと割断された。次に死んだのは魔法部隊の連中だ。竜の息吹(ドラゴンブレス)で塵さえ残りはしなかった。その次に死んだのが、今まで世話になった僧侶やシスター、回復を担う者たちだった。黄金の波動が彼女たちを呑み込み、魂ごと圧殺した。

 

 

残ったのはオレを含めて五人。あんなに居た連合軍が今では一桁だ。笑うしかない。加えて世界竜は無傷。当然だ。まだ一度たりとも奴に攻撃が当たっていないのだから。勝ち目などない。それでも────

 

 

────オレたちは立ち向かうしかない。もうオレたちしか居ないのだ。オレたちが最後の砦。負ければ世界が滅ぶ。単純明快。実にシンプルだ。全身に力を込める。

 

 

そして────裂帛の気合いと共にオレたちは駆け出した。

 

 

ぶつかる。せめぎ合う。一体、どれほどの時間が経過しただろう。恐らく数日は経っている。それでもオレたち五人はまだ生存していた。盗賊のシフがスキル《奪取》を行使して、世界竜の魔力を奪う。ドワーフのゴランは巨大な大槌で顎をかち上げる。

 

 

ハイエルフのエリスが精霊魔法で翻弄し、剣聖のジークハルトが迫り来る鉤爪や尾をいなす。オレは数多の武器を使って攻撃していた。だが、強靭な鱗に全てが弾かれる。オレの攻撃が決定打にならない。舌打ちを溢しながらそれでも魔力を操ることはやめない。

 

 

オレには現状を打破するようなスキルがない。オレに出来ることは己の魔力を操作し、強化することだけだ。今ので駄目ならより鋭利に、より薄く。魔力を手繰り寄せる。

 

 

魔力とはすべてに干渉ができる物質だ。魔法を使うにも、スキルを行使する為にも消費されるモノ。なら────もしも魔力を極めることが出来たのなら、ソレは世界を掌握するのと同義ではないのか?

 

 

瞬間。その時、オレの剣がすんなりと世界竜の身体を通り抜けた。遅れて鮮血を撒き散らし、左腕が滑り落ちる。斬れた。斬った、斬ってやった!!  オレの力が世界竜に届いたのだ。みんながそれを見て笑った。ゴランとシフの奴が「流石は『怪物殺し』」と冷やかしてくる。

 

 

後であの二人はぶん殴ると思いつつも、やっと見えた突破口に口が緩む。しかし、その緩みはすぐに恐怖に変わる。今までのは戦いではない。ただ虫と戯れていただけだ。オレという明確な敵を定めた竜は、その力を開放した。

 

 

空間に罅が入る。次元が割れる。空が黄金に染まり、世界が悲鳴を上げた。乾いた笑みを浮かべる。なんだよこれは。ここからが本番ってことかよ。冷や汗を垂らし、オレは直剣を握る。世界竜の瞳がこちらを捉える。次の瞬間────大陸が割れた。ナニカが通り過ぎる。

 

 

直感で躱したオレは、ソレを目撃した。地平線の向こうまで通り過ぎたナニカ。それによって大陸が、いや、世界が割れたのだ。出鱈目がすぎる。世界竜に視線を向ければ、奴はなにも映さない瞳を向けていた。それに腹が立つ。────ハッ、やってやろうじゃねぇか。

 

 

そう啖呵を切って、オレは駆け出した。

 

 

 

 

 

 

────────────

────────

────

 

 

 

 

 

まぁ、結果を語るとしよう。世界竜は殺した。オレがこの手で殺害してみせた。ま、オレも心臓を穿たれてもう少しで死ぬんだけどな。終わってみれば大したことはない。ただの相打ちだ。

 

 

本当ならオレは生き残って世界竜が死ぬハッピーエンドみたいな展開を期待したが、そんな上手く行くわけがなかったな。残った四人の仲間がオレを囲んで涙を流す。もう耳が聞こえないからなにを言ってるのか分からないが、聞こえなくなる前にジークハルトの奴がオレのことを後世に残すとか言ったのを耳にした。

 

 

やめろよ。後世に残すな。恥ずかしいだろ。そう言おうとしても口からは声がでない。あぁ………いよいよ終わりって気がするぜ。二度目の死だ。最初の時は孤独だったけど、二回目は仲間たちに囲まれている。なんつうかこういうのも悪くないのかもな。眼が重たい。めっちゃ眠たい。

 

 

死にたくなくて頑張ってきた人生だったが、こうして振り返って見ると中々順風満帆だったんじゃねーか。

 

 

 

 

────ブツンッ。

 

 

 

 

視界が暗転。

 

 

 

 

 

 

 

 

────そしてオレは白髪の髪に真紅(ルベライト)の瞳を持つ子供と眼を合わせていた。

 

 

は?  如何いうことだってばよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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