ダンジョンで英雄に成るのは間違っているだろうか   作:葛城 大河

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序章──ベル・クラネル──

 

とある村に一人の少年がいた。年齢はまだ二桁にもいっていないだろう。少年の名前は────ベル・クラネル。祖父と共にこの村で住む一人だ。

 

 

娯楽のない村に置いて、少年が唯一楽しみにしてたのが祖父が読み聞かせてくれる英雄譚だった。祖父が読む英雄譚は、何処か変で少年が買ってきた物とは少し内容が違うけれど、こっちの方が現実味があって面白かった。

 

 

まるで近くでその物語を見てきたかのように語る祖父に、ワクワクしたのを覚えている。今でも英雄譚の内容はすぐにでも思い出せる。祖父との毎日は楽しさでいっぱいだった。時折、口癖のように男ならばハーレムを目指さないとなと祖父が言うから何時しかベルもダンジョンに夢を見ていた。

 

 

つまり、ヒロインとの出会いである。悲しいかな。純粋無垢な少年は祖父を疑うこともせず、少しずつ染まっていった。純粋であることに変化はないが。要するに祖父の教育によって、ダンジョンは出会いを求める場であり男ならハーレムを目指すものという認識を得てしまった訳である。

 

 

だからこそ少年がダンジョンに夢を見るのも仕方ない。そして、この世界には唯一のダンジョンが存在する。迷宮都市オラリオ。『世界の中心』と称される都市であり、数多くの冒険者と種族、神様たちが住む場所。神の眷属になり恩恵を授かってダンジョンに潜る。そんな夢を求める都市がオラリオだ。

 

 

何時かその都市に行くことを夢想して、ベルは英雄譚を胸にベットで眠る。よく寝る前にやるルーティーンだ。こうすればよく眠れるし、寝起きも良くなる。だけど、今回は何時もと違った。眼を開ける。そこは見慣れた部屋ではなかった。というより、部屋ですらない。

 

 

何処までも白い世界。そして────蒼い瞳と眼があった。驚いて後退する。眼の前に一人の男が居た。年上の男性だ。銀の髪に蒼い眼をした人間。

 

 

「…………だ、誰ですか?」

 

「いや…………こっちも同じ心境だわ」

 

 

おずおずと尋ねれば困惑が返ってきた。この人も今の状況が分かっていないらしい。男性は顎に手を添えて考える仕草をする。それに邪魔はせずキョトンとベルは待つことにした。

 

 

「駄目だ。やっぱり何度考えても分からねぇ。あの時、オレは死んだはずなんだけどなぁ」

 

「────えぇっ⁉  死んじゃったんですかぁ!!」

 

 

黙って聞いてたら驚きな台詞が出てきて、びっくりする。死んだはずって如何いうこと?  ここにこの人は確かにいるのに。すると、ベルの声で居たことを思い出したのか男性は視線を向ける。

 

 

「あぁ、そうそう………君って何者?」

 

「え、あっ、そのベル・クラネルといいます」

 

「おぉ、これはご丁寧に。オレはアルスだ」

 

 

互いに自己紹介を交わし、やはり首を傾げる。お互いに聞いたことのない名前だ。こうして顔を合わせるのも初めて。完全に初対面である。なのに、なんだこの状況は?  とアルスは頭を掻く。そして、なにかに気付いた。

 

 

「ってか、場所には見に覚えはないけど、この感じどっかで」

 

 

記憶にはこの場所は知らない。それでも肌に感じるこの魔力というか、魂魄の流れ(・・・・・)には覚えがある。

 

 

「………………ん?  魂魄の流れ?」

 

 

ふと、口にした単語にアルスはすぐに自身の身体の状況を確かめた。具体的に魔力を用いて身体検査をした。そして理解した。道理で覚えがあるはずだ。魂を扱う魔法、死霊術を使う奴を何人か知っていたから納得できた。簡単に言えば、

 

 

「うん、やっぱりオレ死んでるわ」

 

「……………え?」

 

「そしてあれだベル少年。何の因果か、如何やらオレはベル少年に取り憑いたらしいわ。めんご」

 

「えぇぇぇぇぇ────ッ!!」

 

 

余りにも軽く告げられる事実に、ベル・クラネルはただ叫ぶことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

あの日を境にベルの毎日が少し変化した。というのも、ベルの精神世界に住民が住み着いてしまったからだ。でも最初は驚いたもののベルはすぐに慣れていき、自分に兄が出来た気分だった。なにより彼が話す異世界の内容に圧倒された。

 

 

知らない物語があった。壮大な冒険譚があった。命が軽い世界で起きた数多くの事件をアルスは語り、それをベルは眼を輝かせて聞いていた。空を飛ぶワイバーンとの戦い。石化能力を持つコカトリスとの激戦。なにより世界の命運を分けた七つの戦闘。どれもがベルにとって刺激的で、毎日が楽しみで仕方なかった。

 

 

アルスはそれに苦笑して、英雄に憧れる少年を見る。純粋だ。何処までも無垢な少年。彼は知っている。英雄というものが、そこまで良いものではないということを。憧れるまでにした方がいい、と口に出そうとして彼はやめる。部外者が否定するのは駄目だなと首を振る。

 

 

「なぁ、ベル。……………英雄譚は好きか?」

 

「はい!  好きです。僕もお祖父ちゃんやアルスさんが語った英雄譚みたいな冒険がしたい」

 

 

眩しい笑顔で少年はそう言う。英雄にはならない方がいい。だが、それを決めるのは今じゃなくてもいいだろう。それなら────

 

 

「────時にベル少年」

 

「なんですか?  アルスさん」

 

「英雄に憧れてるなら、ちょっと強くなってみないか」

 

 

なんで死んだ筈の自分がこうして魂だけとはいえ、この少年に取り憑くことになったのか。誰の意図かも分からないが、それなら好きに行動させてもらう。この純粋で真っ直ぐな少年を鍛えるのも悪くはないだろうな。

 

 

「────え?」

 

「いっちょ、英雄より強くなってみようぜベル」

 

 

呆然とするベル・クラネルに彼は満面の笑顔を浮かべて親指を立てたのであった。こうして、少年は祖父がいなくなりオラリオに行くまでの数年間、一人の大英雄によって鍛えられていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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