結論から言うと、エースとグリムが喧嘩をして、ハートの女王の石像が黒焦げになった。
何を言っているのかわからないと思うが、事実そうなのだ。
「ビッグマウスの押しかけモンスターと魔力無しの劣等生三人組をからかってやろう!」と意気揚々と話しかけたはいいものの、ギアッチョたちの言葉に出来ない『スゴ味』に怯んでしまったエース。
しかし、グレートセブンの石像について語っている間、意外にも素直に話を聞く三人の姿に「あれ?こいつら実は思っていたよりもヤバイ奴らじゃないのかも?」と再び調子に乗ってしまった。
「入学式で寮長たちにシメられた挙句、雑用係なんてダッセーことやってるタヌキが何いってんだか!」
そうしてつい口から出してしまった侮辱の言葉に、案の定、グリムがキレた。
怒りに任せ吹き出したグリムの炎がエースの風魔法によって煽られ、それがハートの女王の像に直撃。
運悪く騒ぎを聞きつけた学園長がすっ飛んできて、二人は昨日も見た『愛のムチ』の餌食となり、罰として放課後に窓拭き掃除百枚の刑を命じられてしまった。
……もちろん、ギアッチョたちも巻き込んで。
「一日中掃除してもうクタクタなんだゾ~……それなのに、これから窓拭き百枚だなんて……」
「テメ~~……どの口が言ってんだァ~~……?」
放課後。学園長の指示に従い、大食堂に集まっていたギアッチョはグリムの発言にピシリと青筋を立てた。
「昨日からよォ~~~~散々『騒ぎは起こすな』つったよなァァ~~~~?? なのにあんなくだらねー挑発に簡単に乗りやがって……テメーの脳みそは殻の剥かれたピスタチオかァ~~?? えぇ!?」
「オレ様だけが悪いんじゃないんだもんね!! そもそも、アイツがオレ様をバカにしたのが悪いんだゾ!!」
「だからンな事で一々キレて炎吹き散らかしてんじゃねーっつてんだよ、ボケがッ!! そんなに追い出してほしいんだったらなァ~~……今すぐにでも追ン出してやったっていいんだぜぇ~~~~!?」
「ぶなあ゛ぁぁ~~~~ッ!!」
「それくらいにしなさい、ギアッチョ。傍から見たら動物虐待のソレにしか見えないわよ」
グリムの首根っこを捕まえ宙ぶらりんの状態にしながら凄むギアッチョに、見かねたミアが咎めるように言う。
すれば、彼は鋭い目つきのまま今度はミアを睨みつけた。
「じゃあオメー、こいつと一緒にあのエースとかいうガキ探して来いよ。いくらなんでも遅すぎる。朝見たあの様子じゃあ、ぜってートンズラこいてるに違いねぇ」
「は? なんで私が」
「そもそも、オメーとメローネがあのガキの話を聞きたいなんて言わなければこんな事にはなってなかったんだろーが」
「それならメローネが行ってきなさいよ。そこのトラブルメーカーの面倒を引き受けたのだってメローネなんだから」
確かに。昨晩、オンボロ寮に忍び込んだグリムをクロウリーが追い出そうとした時、「彼もここに住まわせてもらえないか」と提案したのはメローネだった。
だがしかし。それは彼の境遇を知って可哀そうになったとか、そんな心優しい理由ではなく。ただ単純に体内で炎を生み出し操るモンスターの存在が、『息子』の学習に役立つかもと思ったからである。
「それを言うなら、ギアッチョが力ずくで二人の喧嘩を止めればよかったじゃあねぇか。『止める』のは得意分野だろ?」
「アホか。あんなバカみてーに野次馬のいる場所でおめおめと自分の能力を晒すわけねーだろ」
「じゃあもう、ここは公平に『モッラ・チネーゼ』で決めようぜ」
「え~~……」
「言っとくがオレはやんねーぞ。オメーら二人でやれ」
「チッ……しかたないわね」
何と言おうが自分は無関係であるというスタンスを崩さないギアッチョに、ミアは渋々といった様子でメローネと向き合った。
ちなみに『モッラ・チネーゼ』が何かと言えば、なんてことはない。イタリアでいう『ジャンケン』のことである。
ルールは皆が知っているものとほぼ同じ内容のため割愛するとして……勝負の結果、勝利したミアはギアッチョと大食堂に残って待機。負けたメローネはグリムと共にエースを探しに行くことに決まった。
「まさか負けるとは思わなかった」
先ほどの勝負を思い返しながら「ギアッチョ相手なら負け知らずなんだがなぁ」と首を傾げるメローネの足元では、ついに大食堂に姿を見せることのなかったエースに対する怒りで燃えるグリムがいた。
「罰をオレ様たちだけに任せて逃げるなんて許さないんだゾ! 行くんだゾメローネ! エースをとっ捕まえて窓掃除させてやる!」
「う~~む……こういう面倒ごとはオレの担当じゃあないんだが……」
「うおぉ~~~~~~!!」
面倒くささを隠そうともせずにボヤくメローネのことなど完全無視し、エースへの怒りを糧に走り出すグリム。
そんな彼の小さな背中をメローネは仕方なく追いかけ始めた。