クロウリーの必死の説得に根負けした(?)ギアッチョ、メローネ、ミアの三人は入学式が行われるという『鏡の間』に向かっていた。
ちなみにグリムはといえば、相変わらずクロウリーのムチで拘束されている。
先ほど『万一の時の保険』という名目で切りつけられたことがよほど嫌だったのだろう。
クロウリーは道中も……
「学園長である私を脅す生徒なら今までにも何人かいました! けれど、こんな風に物理的な危害を加えてくるおバカさんは初めてです!」
とご立腹だった。
まあ、だからといって彼らが反省したり謝罪することは天地がひっくり返ってもあり得ないのだが。
「こほん。……いいですか? この先には新入生だけではなく、在校生や職員を含むたくさんの人たちがいます。くれぐれも、先ほどのように魔法を使って暴れたりしないように! いいですね!」
まるで聞き分けのない子供を相手にしているかのようなクロウリーの態度に、三人は揃って「魔法なんて使えるわけがないだろ」と思ったりもしたが、口に出したらそれはそれで面倒なことになりそうな気がしたので大人しく従うことにした。
『鏡の間』と呼ばれたそこは、三人が意識を取り戻した時にいた棺だらけの部屋だった。
天井から吊り下がる無数の蝋燭によって照らされた室内。
その中央では一際巨大な『闇の鏡』が鎮座しており、黒いローブのような礼服を身に纏った生徒たちが大勢集まっている。
「どいつもこいつも胡散臭せぇカルト集団みてーなナリしてんな」
「今の私たちも同じ格好だけどね」
「でも本当にいるんだな、生徒」
『話に乗ってやる』と言ってついて来たは良いものの、その実、クロウリーの言葉など一欠けらも信用していなかった三人。
しかしこの部屋に来て、こうして大勢の人間たちが集まっている光景を見ると……あながち全てが嘘だというわけでもないのでは? と思えてきた。
「さあ、寮分けがまだなのは君たちだけですよ。タヌキくんは私が預かっておきますから、早く闇の鏡の前へ。……いいですか? くれぐれもお行儀よくお願いしますよ」
さあさあ、と言いながら三人を鏡の前へ行くように急かすクロウリー。
どうやら、予定していた時間よりも大幅におしているためとっとと終わらせたいらしい。
本来なら一人ずつ行うはずであろう寮分けの儀式も、この際まとめて済ませようとしているようだ。
「汝らの名を告げよ」
三人が並び立つや否や、鏡の中に浮かんだ顔が厳かな声で尋ねてくる。
まさか、鏡が話しかけてくるとは思っていなかった三人は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに落ち着きを取り戻して順番に自分たちの名前を告げていった。
「汝らの魂のかたちは………………わからぬ」
「なんですって」
しばしの沈黙のあと、ようやく口を開いた鏡の言葉に、少し離れた場所で事の成り行きを見守っていたクロウリーが驚愕の声を上げる。
「この者たちからは魔力の波長が一切感じられない……色も、形も、一切の無である。よって、どの寮にもふさわしくない!」
瞬間、まわりに鎮座していた人の群れがざわざわと騒めき出す。
室内にいる全ての人間の視線がギアッチョたちへと注がれ、困惑や嘲笑のような声が聞こえてくる。
イマイチ状況を呑み込めていなかった三人も、騒めきだす周囲の様子を目に『自分たちは今、とんでもないことを告げられたのだ』と悟った。
「彼らに魔力がないなんて、そんなまさか! なにかの間違いでしょう!?」
「間違いではない。事実だ」
「しかし、魔力のない者を黒き馬車が迎えにいくなどありえない! なにより私は彼が実際に魔法を使うところをこの目で見ているんですよ!」
そう言いながら、ビシッと傍にいたギアッチョを指差すクロウリー。
晒し者扱いされているだけでは飽き足らず、指まで差されていることにイラ立ったギアッチョが怒気を孕んだ瞳でクロウリーを睨むが、当の本人はこのありえない展開に慌てふためくばかりで気付きもしない。
「それに、反抗的ではありますがこうして使い魔だって連れてますし!」
「だから! オレ様はコイツらの使い魔なんかじゃ――」
「これを魔法士と言わずしてなんと言うのです! 鏡よ! もう一度よく見てごらんなさい!」
「何度問われても同じだ。この者たちからは魔力の波長が一切感じられない。この学園の生徒として不適格である」
クロウリーの言葉にも、鏡は淡々とした口調で『魔力がない』という事実を繰り返すばかり。
鏡が口を開くたび、周囲から向けられる好奇の眼も増えていく。
あんまりな出来事の連続に、ギアッチョだけではなくミアやメローネまでもが不快感を示し始めた頃、今までクロウリーの腕の中にいたグリムがついにその拘束を破り、鏡の前へと躍り出た。
「だったらその席、オレ様に譲るんだゾ!!」
「あっ待ちなさい! このタヌキ!」
「そこのニンゲンと違ってオレ様は魔法が使えるんだゾ! だから代わりにオレ様を学校に入れろ! 魔法ならとびっきりのを今見せてやるんだゾ!」
「みんな伏せて!」
そんな誰かの声が響いたかと思えば、「ん゛な゛~~~!!」というお馴染みの掛け声と共にグリムの口から大きな炎が噴き出す。
騒然となる室内。焦げ臭い匂いが鼻をついて思わず顔を顰めた。
「相変わらず無茶苦茶やるなぁ。あのタヌキ」
「このままでは学園が火の海です! 誰かあのタヌキを捕まえてください!」
叫ぶクロウリーの言葉は聞こえているはずなのに、誰一人として行動を起こす人間はいない。
まあ確かに。あんな口から火を吹く得体の知れないモンスターの相手など誰もしたくないのだろうが、それにしても避難するわけでもなくノンキに会話しているのはどういうつもりなのだろうか。
ちらりと漂わせた視線の先では、尻に炎が燃え移った少年が慌てた様子で走り回っていて、三人はただ呆れたようにその光景を眺めていた。