とにもかくにも。
今のままではにっちもさっちもいかないどころか、あらぬ疑いをかけられたままだと判断したクロウリーは三人とともに校舎外にある図書館へ移動し、『彼らの出身地』について調べることにした……のだが。
「やはり、ない」
机いっぱいに広げられた書物や地図たちを眺めながらクロウリーが呟く。
「世界地図どころか、有史以来どこにも貴方たちの出身地の名前は見当たりません。貴方たち、本当にそこから来たんですか? 嘘をついて…………は、ないですね。はい」
一瞬だけ、三人に疑惑の視線を向けそうになったクロウリーだったが、今にも噛みつかんばかりにこちらを睨みつけるギアッチョとミアの様子にすぐさま白旗を上げた。
「こうなってくると貴方たちが何らかのトラブルで別の惑星……あるいは異世界から招集された可能性が出てきましたね」
「はァ?? テメ~~……またそんな意味わかんねぇこと言いやがって……」
「まあギアッチョ、落ち着け」
クロウリーに対する不信感が拭えないギアッチョをメローネが宥めれば、彼は渋々ながらも口を閉ざし大人しくなる。
「異世界って、そんなことありえるのか?」
「少なくとも私の知る限りでは前例はありません。ですが、貴方たちが元いた場所の話や今の状況を整理する限り、そう考えるのが一番妥当でしょう」
「……」
クロウリーの言葉にメローネは考える。
二足歩行で炎を吐く猫や、質疑応答を完璧にこなす鏡。
入学式のドタバタの最中で見た不可思議な能力――魔法の存在。
それに、見たことも聞いたこともない国々が並ぶこの世界地図……。
どれもこれもまるで現実味のない話であるし、何度脳をフル回転させても理解出来そうもない出来事ばかりだが……確かに彼の言う通り、ここが本当に『異世界』だとしたら、ある程度辻褄が合うような気がする。
「……もしここが本当に別の世界なら、アジトへ帰るための『扉』が開けなかったのにも説明がつくわ」
「信じたくはないけれど」と、ミアが零せばその隣でギアッチョが舌打ちをする。
「オイオイ、オメーらよォ~~……マジに言ってんのかァ? 『気が付いたら異世界にいました』なんて漫画じゃあるめぇし、ありえねーだろ」
「だが、オレたちがこうしてここにいる以上、そう考えるのが一番妥当だろう。常識に当てはめて考えていたら埒が明かないぜ」
「そんなんで納得出来るかッ! 仮にもしここが異世界だったとして、一体どうやって元の世界に帰るっつーんだ? ええ!?」
「それはもちろん、そこの
にっこり、と先ほどまでの不機嫌さなどなかったかのような作り笑いを浮かべるミア。
そんな彼女の視線につられギアッチョとメローネの二人までもがクロウリーを見やれば、彼は「うっ」と罰の悪そうな声を上げた。
「そ、そうですね……確かに……。そもそも貴方たちがこの学園にやってきたのは、闇の鏡による選定ミスが原因ですからね。いや、私はまだ貴方たちが『魔力なし』だと信じてはいないんですがね? 生徒選定の手違いなどこの百年ただの一度もありませんでしたし。現に私、貴方の魔法で腕を凍らせられましたしね。あれが魔法でないなら一体なんだと……」
「アンタの個人的な感想なんかどーでもいい。重要なのは『事実』だ。『元いた世界へ帰る方法があるのか? ないのか?』……今のオレたちが求めるのはそんな『客観的事実』のみだ」
「それは…………今はなんとも……」
「つまり帰る方法は分からないってワケね」
「かッ! 役に立たねぇカラスだな!」
ギアッチョとミアの厳しい反応にクロウリーはムッと顔を顰める。
「そうは仰いますけどね! 持ち物も手掛かりもなにもない、どこからどうやって来たのかもわからない状態でそんなすぐに帰り方なんてわかるはずがないでしょう!?」
「元はと言えばテメーんとこのクソ鏡が間違えたのが原因だろーがッ!! この期に及んで開き直ってんじゃあねーぞボケがッッ!!」
「ちょっと!? やめてください!! 本棚が壊れる!!」
およそ素手での殴打では鳴らないであろう音を響かせながら、ギアッチョが近くにあった本棚を殴りつける。
「大体なんで異世界のくせに本や建物に書いてある文字が全部『英語』表記なんだァ~~!? もしここが本当に別の世界だったとしたら、文字だって言語だって、地球と異なるモノのはずだろーが!! なのになんでそこだけ共通なんだよ!! 中途半端なことしやがってクソッ! クソッ!!!」
「落ち着けよ、ギアッチョ。今はそんなことどうだっていいだろう? それにそんなこと言ったら、イタリア人であるオレらのスタンド名だってどうして英語なんだって話になるぜ?」
「納得いくかチクショーーッ!!」
「ねぇ私、お腹がすいたのだけれど。衣食住の面倒は当然みてくれるんでしょうね?」
「お願いですから、一度くらい静かに話を聞いてくださいよ〜〜〜〜ッ!!」
あまりにも自由過ぎる三人の様子にとうとうクロウリーはさめざめと泣き出してしまったが、この場に彼を慰めるような人間はいないため、しばらく彼は一人で泣く羽目になった。