暗チ問題児トリオは捻じれた世界で奔走する   作:雨言

7 / 11
第6話 早朝、異世界にて

 

 突如として、魔法などという非科学的な力が横行する異世界へ飛ばされてしまった、ギアッチョ、メローネ、ミアの三人は、元いた世界へ帰る方法が分かるまでの間、学園のそばに建てられた屋敷風の建物で生活することを余儀なくされた。

 案内の際、「趣がある」なんてそれらしい事を言っていたクロウリーだが、なんてことはない。中身はいわゆる『廃墟』そのものである。

 元は寮であったというその屋敷は一体いつから放置されていたのか……机やソファ、ベッドといった家具全般はそのままに。全体的にホコリにまみれ、床板は軋み、壁や天井は隙間だらけで雨漏りまでする始末。

 挙句の果てにはゴーストなどといういらぬオマケまで住み着いていて……それらに関して管理者であるクロウリーは「私は忙しいので」と我関せずの姿勢。

 ……あまりの酷さにギアッチョも怒り疲れたのか、ついには黙って部屋の掃除に精を出していた。

 

 これにはさすがのメローネとミアも同情した。

 

 途中、入学式の際に学園外へ追い出されたはずのグリムが寮内に忍び込んできて、身の上話を始めたり、一緒になってゴーストを追い出そうとしたりと一波乱あり、最終的には彼の監視役もかねて三人は『雑用係』として学園に出入りすることを許されたのだった。

 

 ――そんなエスプレッソよりも濃い一日を終えた翌朝。

 前日の掃除によりかろうじて人が暮らせる状態になった寝室で眠るグリムとメローネに、忍び寄る影が三つ……。

 

「ヒッヒッヒッ……」

 

 不気味な笑い声とともに姿を現したのは、昨晩、一同が寮から追い出したはずのゴースト三人組だ。

 グリムの炎魔法を受け「消されちまう!」と大慌てで逃げ出したはずの彼らだったが、性懲りもなく戻ってきたらしい。

 

「よ~く眠っているなぁ~」

「昨日のことで俺たちを追い出せたと思って、安心しているんだろう」

「どぉれ。ちょっとばかしおどかしてやろうか」

 

 魔法が横行する世界に相応しいファンタジー要素の塊のような見た目をした彼らは、昨晩の仕返しとばかりにメローネとグリムに近づいていく。

 そしてそのまま大きな声を出して驚かしてやろう……と、思ったところで、ふと異変に気が付いた。

 

「…………なんか、妙に静かじゃないかい?」

 

 ゴーストの内の一人が発した言葉に、他の二人も耳を澄ます。

 すると確かに。だらしなく口をあけながらイビキをかくグリムとは違い、隣で眠るメローネからは寝息のひとつも聞こえてこない。

 胎児のように小さく丸まって、ぴくりとも動かない彼の姿にゴーストたちは揃って顔を見合わせた。

 

「え、死んでる……?」

 

 『退治されかけた仕返しに少しイタズラしてやろう』程度に考えていたゴーストたちだったが、いくら待っても身動き一つしないメローネの姿に徐々に不安が募り始める。

 もしかして、自分たちは知らずしらずのうちにこの子の生命力を吸い取ってしまったのか?

 いやでもそんなまさか。

 確かに昨日、久しぶりの来客にはしゃいで、つい「お前さんたちも俺たちの仲間になるかい?」なんて口走ってしまったが……あれは言葉のアヤというか。ただ少しそれっぽいことを言って脅かしてやろうと思っただけで。

 ほら、なんていったって俺たち、ゴーストだし?

 現世で生きる人間たちに悪戯して、驚かして、怖がってもらうのが仕事みたいなところがあるし?

 だから、決して悪いようにしようとしたわけではなくて……なんて脳内で言い訳を並べながら、どうするどうすると顔を突き合わせていると、背後の扉が荒々しく開かれた。

 

「ヒィッ!?」

「ぶなッ!? な、なんだぁ!?」

 

 思わず情けない声を上げるゴーストたちと共に、今まで爆睡していたはずのグリムまでもが飛び起きる。

 慌てて音のした方向へ視線を向ければ、そこにはギアッチョが立っていた。

 他の人間が寝ている間にランニングでもしてきたのか、首からタオルを下げた彼はいつも通りの仏頂面でゴーストたちを睨みつける。

 

「あ゛? テメーら、昨日の……まだいやがったんか」

「にゃ!? 言われてみれば、いつの間に! またオレ様たちをビビらせにきたのか!?」

「最初は確かにそのつもりだったけど~……」

「この坊や、さっきからピクリとも動かないんだよぉ」

「寝息も聞こえないし……大丈夫なのかい?」

 

 ギアッチョの言葉にようやくゴーストたちの存在に気が付いたらしいグリムが騒ぎだす。

 一方、ゴーストたちの方はといえば、相変わらず無機物のように静かなメローネの姿を不安そうに眺めている。

 そんな彼らの様子にギアッチョはどこか面倒くさそうに視線を泳がせたあと、舌打ちと共にメローネが眠るベッドへと歩み寄った。

 

「コイツはいっつもこうなんだよ」

「え?」

「気にする必要はねぇ。おいメローネ、起きろ」

 

 頬を叩いても起きず。肩を揺すっても起きず。しまいには布団をはぎ取っても一向に目を覚まさないので、仕方なく耳元で「メローネぇ!!」と叫べば、ようやく目が覚めたのか「う゛ぅ」とうめき声を上げた。

 

「ったく……ようやく起きたか。寝坊助が」

「い、今のでやっと起きたのか? なんて目覚めの悪いヤツなんだゾ……」

「よかったぁ~、ただ眠ってただけだったのかぁ~」

「てっきりこのまま俺たちの仲間になっちまうのかと思ったよ」

「まったく、寿命が縮んだわい」

「ゴーストジョークのつもりか? ソレ……」

 

 ゴーストたちの小粋なブラックジョークに半ば呆れた表情でグリムが呟く。

 その横でメローネがうわ言のように何か言っていたが、明らかに支離滅裂な発言だったため、ギアッチョはいつも通りスルーした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。