この物語はとある既婚男性の愚痴である。
ピンクのミニTシャツは非常にピーキーで着る人を選ぶ。男性目線・・・いや、文化的、生物学的見解から、生成AIの画像を使って、ピンクについて紐解く一大抒情詩である。
アラサー以降の人なら見に覚えがあるかと思いますが、若い子にはわからんかもしれない。
R15指定は迷いましたが直接的な性表現もないし、古き時代の少年ジャンプよりもマイルドなので、全年齢版にしておきました。
忠告あればR指定のタグつけます。
残業をやっと終えた帰り道。大きな溜息を男はついた。
「福田くんどうしたんだい?深々と溜息なんてついて」
「いやぁ。先日、妻がピンク色のTシャツを着ていたんですよ」
「ほう、そりゃなかなかアレだね」
「アレですよねぇ!?」
「俺に同意を求められても、なんだか溜まっているようだし、どうだい一杯やってくかい?」
「いいですかね、妻の愚痴なんかして」
「なんだか面白そうな話じゃないか、いこいこ」
福田は中肉中背の優男。都内の会社に勤めるそろそろアラサーのサラリーマン。もう一人は穴熊というなの男で背も高く老け顔、一個上の先輩だがずいぶんと貫録があるように見える。
2人は赤ちょうちんをつるした焼き鳥屋に入っていった。
※ ※ ※
とりあえずビールと、いくつかのつまみを頼み、2人は「お疲れ様」っとグイッとビールを飲んだ。
世間話や会社の話しなどしつつ、酔いがほどよく回ってきたところで穴熊が切り出した。
「それで、奥さんとケンカでもしたのかい」
「ケンカってほどでもないんですが、最近ずっとすれ違いが続いていて」
「夜がご無沙汰っと」
「まぁ・・・はい」
「結婚何年目だっけ?」
「2年目です」
「まだまだ新婚じゃないか」
「それが・・・息子が産まれてから・・・」
「ああ、子供が産まれるとなぁ・・・」
穴熊には子供が2人いる。早く結婚したの上の子はもう小学校に通っている。
一杯目の生ジョッキを飲み干して、「すみませんー、もう一杯ずつ」と注文してから、「妻がね・・・ピンクのTシャツを着ていたんですよ」と福田が切りだした。
「うんうん。若いねぇ・・・奥さんいくつだっけ?」
「今は24かな・・・」
「食べごろのいい時期じゃないか」
「穴熊先輩だって奥さん若いでしょ」
「うちは年上女房だからね、もう今年の冬には30になる」
穴熊は新しいビールを受け取って、グイッと飲んだ。同僚の福田とは気が合うので家族同士の付き合いも多少はあるが、お互いにあまり家庭内の問題には深く立ち入らない。何かあればこうやってお互いに愚痴を聞くくぐらいだ。
「妻がやっと子供を寝かしつけたところで、一緒に寝てしまうことも多いし、僕は僕で仕事が忙しくてなかなか」
「タイミングな、間が空くとなかなか難しいんだよねぇ」
「それで先日ですよ。妻がピンクのTシャツを着ていたんですよ」
「誘ってるねぇ」
「ですよねぇ~、そう思いますよね・・・」
「違ったのかい」
「違ったんですよ」
「そりゃ、酷だね」
「酷ですよ」
「それで、いつ着てたんだい?」
「平日の夜。残業の仕事が終わってやっとアパートに帰ったら妻がキッチンで料理してくれて」
「遅くまで待ってくれるなんて、いい奥さんじゃないか」
「息子ももう寝てしまったみたいで」
「何歳だっけ?」
「まだ8か月」
「大変な時期だ。朝まで寝てくれると楽になるんだけどねぇ」
「それで、妻がピンクTシャツに白いエプロンですよ」
「うんうん、いいねぇ。それで下はミニスカートかい?」
参考画像① ピンクTシャツとエプロンの妻
「うーん・・・デニムのズボンだったような」
「ジーパンかい。そりゃいけないね」
「でも妻は元々運動が得意でいいケツしているんですよ」
「はっはっはっ、のろけるね」
「ジーンズも実によく似合うんです」
「でも、エプロンにジーンズはいけないね」
「ですかねぇ・・・」
焼き鳥をクシからはずしバラバラにしていく。福田も穴熊もじみじみと「女はわからんなぁ」と思いつつ、焼き鳥を口に放り込んだ。
「それで僕はね・・・後ろから抱き着いちゃったわけです」
「うん。まぁ気持ちはわかるよ。そのシチュエーションで適正だったかどうかまではわからないけど」
「それだって、仕事で疲れているけど、半ば義務みたいな感じで抱きしめたわけで」
「あるある。そういう時あるのはわかる。で、違ったと」
「・・・はい」
「福田くん。ホッケの干物も頼んでいいかい?」
「いいですねぇ。あとタコわさも」
明日は休みだ。ゆっくり過ごせる。それに家には遅くなるから夕食を外で済ます事も連絡済だ。福田は羽を伸ばしていた。
「それでなんて断られたの?」
「料理中に邪魔するなって」
「はははっ、そりゃそうだ」
「笑いごとじゃないですよ。つい、『なんだその言い方は』って口論になってしまって」
「若いなぁ。うちのかみさんだったら無言のままお玉で殴ってくるからね」
「そういうもんですか」
「福田くんもそのうちわかるさ」
タコわさはすぐに出てきた。ツンとしたわさびの辛さが酒によく合い、焼き鳥の脂っこさを爽やかにしてくれる。
「『そんなつもりはなかった』っていうんですよ。『女が自由にファッションを楽しんじゃいけないのか』って」
「ずいぶん難しい問題に発展したね?なんだいそりゃ」
「ピンクだからって、なんでその気だと思ったのか、まったくわからないって」
「福田くんとこの奥さんもまだまだウブだねぇ」
「世間知らずなんですよ」
「そういう言い方はよくないね。口論なんかせずにさっさと謝っちまえばいいんだ」
「ですよねぇ・・・わかってはいるんですけど」
「お互いにイライラしてても先は長いんだし」
ホッケの干物はなかなか出てこない。
※ ※ ※
「ピンクの服なんていうのは、子供が着るものでしょ?そうですよね?」
「いやいや、大人が着てもいいもんだよ」
「いやいやいや、大人は着ないですよ。レディース売り場にピンクの服なんてそんなにないけど、女の子の子供服売り場はほぼピンクじゃないですか」
「そりゃ、売れ筋を揃えるのが商売だからね」
「そう、だからピンクなんていうのは女の子が着てカワイイ服なんです。元気で眺めているだけでほんわかこちらも笑顔になってしまうような・・・せいぜい小学生ぐらいまで」
「うん。まぁ一理あるとは思う」
参考画像② ピンクTシャツの幼女
「だってそうでしょ、プリキュアだって魔法少女だってピンク。女の子のカラーがピンクなんです。なんでピンクだか知ってますか?」
「だいぶ酔いが回ってきたねぇ」
「すみませーん。焼酎とグラス二つ。あと氷もお願い」
「大丈夫かい?」
「さぁさぁ、飲みましょ。明日はひさびさの休みだし、家に帰っても妻は寝ているし・・・」
「飲むのは構わないが・・・」
ホッケの干物を炭火で焼いてくれたのはいいが、少し焦げているところが気になる。穴熊は焦げを箸でけずって身を食べる。味は美味い。
「日本では『赤ちゃん』っていうでしょう。小さいうちは皮膚が薄いから血が透けてみえるんです。大人の酔っ払いが赤くなるのと同じ理由ですけどね」
「へぇ」
「女性って赤ちゃんが好きでしょう。そうやって先祖代々子育てをしてきたから子供がカワイイわけです。自分の子はもちろんだけど、他人の子だってカワイイ。そういう遺伝子、本能があるんですよ。だからピンクが好きなんです」
「うーん・・・。ピンクがカワイイからピンクが好きなんだろう」
「だから、ピンクのものをカワイイと思う遺伝子が生き残ったから、ピンクをカワイイと思うんですよ」
「どう違うんだ?」
福田もホッケの干物を食べるが焦げはあまり気にならないらしい。焦げごと口に入れてビールで流し込んでいる。
「でも、いつまでも赤ちゃんでいられないし、少女でいられないんです」
「うん。気が付けばおばちゃんだ」
「うちの妻はまだ若いですよ」
「君の妻の話をしているわけじゃない」
「僕の妻がピンクTシャツを着た話をしているんですよ」
「まだ、その話だったんだ・・・」
「成長するじゃないですか。肉体的にも精神的にも。幼児がやがてアンパンマンをみなくなるように、プリキュアだって見なくなる。見るのはもちろん自由だし、好きに見てていい。別に悪いって言ってるわけじゃない。でも、だんだんとみんな卒業していく。そうでしょう?」
「そうかもしれないな」
「僕らはもうウルトラマンも仮面ライダーも見ないんですよ。少なくとも楽しみにわくわくして見る事ができない」
「それ、ピンクTシャツと関係ある?」
福田は返事をせずに物を思いにふけながら、ホッケの頭をつまらなそうに箸でつついていた。
※ ※ ※
「年頃の子が着ても可愛いと思うけどな~」
「そりゃカワイイですよ?でも、それが無自覚なのか、意図的なのかによってずいぶんと話が変るんです」
「福田くん・・・ピンクにこだわりがあるね」
「ええ、いいですか?先ほど言ったようにピンクには『幼さ』の要素があるんです。なので中学生ぐらい・・・あるいは小学生の高学年ぐらいからメルヘンなピンクに囲まれると、精神的に幼い印象を与えてしまうんですよ」
「でも、好きならいいだろ?」
「そりゃ自由ですよ。でも無知識というのは罪です。自覚とか意図するところ・・・コンセプトが大事なんです」
「うーん」
「例えば年頃の子が海辺でデートするとします。衣装はピンクのTシャツに白いスカート。無難だと思うでしょ?」
「そうだね。女の子らしくていいんじゃないか」
「『女の子』に甘んじるならそれでもいいと思いますよ。でも少し背伸びしたい、大人に近づきたい年頃なら逆効果です。ヘソ出しなんかした日にはファッションセンスの無さを知らせるみたいなものです」
「そんなにかい?」
参考画像③ 年頃少女のピンクTシャツ
「ほら」
「うーん。たまたまそういう画像ってだけだろう?」
「でも、『ダサさ』があるでしょう?」
「言われてみればあるのかなぁ。可愛いと思うが」
「大人でおっさんの僕らから見たら、年下の子なんてみんな可愛いです。でも、この子が意図するコンセプトはこんな幼児的なファッションだったと思います?」
「この子もまさか、こんなところで酒のつまみにされるとはねぇ」
検索した拾い物画像で福田が論評していた。穴熊はあんまりマジマジとネットの画像などを見る事もなかった。下らないことを真剣に考えるやつがいるもんだと思った。
「たしかに、どこかに『ダサさ』があるような気がしてきた。なんでだろ?」
「年相応のファッションをしていないからですよ。年頃の子が幼児みたいな恰好をすれば、それはおばちゃんがJKコスプレしているのと変らないわけです」
「ああ、なるほど・・・でも、そこまでひどくはないだろう?」
「そこが無自覚の怖いところです。なんとなく知っている『セクシーさ』をプラスしたことで、より歪になっているわけです」
「へそ?」
「そう。へそ。これがロングTシャツで、海の水で濡れてしまわないように少し結んだ・・・というなら、へそ出しファッションも効果的かもしれません。けど、最初からこのプリントTシャツでへそ出しはちぐはぐでしょ」
「うーん」
「言い方を変えるなら、お子様ランチに旗を立てても問題ないが、タラコパスタに旗は立てないでしょ?。それと一緒。彼女はファッションの方向性を間違えた。自分を客観視できない。時代や流行ともミスマッチだと思いませんか」
「野暮ったい印象を与えるのはそういうことか」
「カワイイ顔をしているし、スタイルもいい。自信があるからこそのへそ出しファッション。でも、そのあけっらかんとした露出が逆に幼児性を引きたててしまっている・・・」
穴熊はタコわさの最期の1つをつまみつつ、画像の少女を眺めた。幼児なのか少女なのか微妙で、確かにもっと魅力的なファッションはあるように思えてきた。
※ ※ ※
焼酎に梅干しを入れてかき混ぜる。福田は改めて別の画像を用意した。
画像④ ピンクの服をあざとく着こなす
「ピンクっていうのは諸刃の剣なんです。だからこそ扱いに気を付けないといけない。この少女の画像を見てください。さっきと同じピンクと白の組み合わせ。だけど、ぜんぜん印象が違うでしょ?」
「どれどれ・・・ほう・・・この子はアイドルか何かじゃないのかい?」
「確かにモデルの差はあるかもしれない。けど、大事なのは第一印象。この計算しつくされたピンクが最大限に彼女の魅力を惹き出している」
「そんなに計算されてる?どこにでもある普通の服の気がするけど」
「さっきのは幼過ぎるけど、こちらは落ち着きもあるでしょう?それにこういう雰囲気の女性を好きな男性も多いはず」
「うん。嫌いじゃない」
「さっきの子よりもずっとピンクを着こなしているでしょう?」
「そうだね、何が違うんだい?」
メニューをみつつ何か頼むか、それとも別の店に行くか考える。
「一言で言うなら『あざとい』んです」
「・・・なるほど・・・?ん?あざとい?」
「もう何もかも計算されている。『男子ってこういうの好きでしょ?』と心を見透かしているようにさえみえる。同性の女の子からは陰口を叩かれるタイプ。男性から押し付けられた「女の子らしさ」を体現するファッションは、どこか男性に媚びているように見えるからです」
「考えずぎじゃないかい?」
「いえ、女性受けがいいファッションやメイクと、男性受けがいいファッションやメイクは違います。これがさっきの無自覚と違うところ。意図的ということです」
「なるほど・・・」
「仮に彼女が本当に家庭的で、料理が好きで、大人しくて、読書や映画鑑賞を嗜んで、ピンクが好きだけど少し我慢して大人になろうとしている少女だとしても、こんな風に着こなしたら『あざとさ』とは無縁ではいられない」
「あざとさねぇ・・・」
梅焼酎を飲みつつ、穴熊は同僚の福田がまだ言いたいことがたくさんありそうだと感じた。追加注文はせずに店を変えることにする。
「胸にプリントがないでしょう。これによって幼さからだいぶ離れることができてる。何かロゴが入ったり、小さな刺繍がワンポイントある程度なら問題ない。アニメや動物のプリントなどでは『幼いピンク』から脱却できない。もう一つは服の作り。ミニTシャツのように無用な露出はいらない。肌を隠す事で逆に大人らしいそこはかとないエロスが内在している」
「内在・・・??」
「そこにあるということです。隠しても隠しれ切れないものが。さっきの少女なんかよりもずっとエロいでしょう?」
「うん。まぁそうだね」
「肌の露出が多いからエロいわけじゃないという証明です」
「福田くん、もう一軒いこうか?」
「ええ、そうですね。『へそ出し』なんてもっての他で、肌の露出を増やす事で幼さが出てしまう。いや、肌を露出させるのにも知識が必要でしょう。隠す事によって大人びた雰囲気を纏いつつ、ピンクによって女の子らしさを表現する。大人になり切れない自分をどこか認めて欲しい・・・そんな心情が見て取れるわけで・・・」
「すみませーん、あおいそお願い」
穴熊が会計をすませた。割り勘なんてせこいマネはしない。だいたい2人で奢ったり奢られたりで同じぐらいになるようにしている。暗黙の了解ってやつだ。
※ ※ ※
「さて、どこに入ろうか?」
「バーにしましょ、バー」
「女の子のいる店?」
「いない店。女はね・・・めんどいんですよ。知ってます?」
「ああ、知ってるとも。じゃあ、このビルの上に落ち着いたバーがあるから、そこにしよう」
「うい。キャバクラなんていうのはねぇ・・・独身とか、もっともてないやつがいくとこなんですよ・・・」
「それは知らんが、幼い子供のいる既婚男性がいく店じゃないわな」
狭いエレベーターで雑居ビルの5階へと上がる。そこには都会の喧騒から離れた静かなバーがあった。
「やや、さては穴熊先輩・・・謀ったな」
「まさか、偶然だよ」
いらっしゃいませと迎えてくれた店員は女性だった。それも2人が会ったことないぐらい・・・テレビの中でもみかけないような絶世の美人。しかもピンクのミニTシャツを着てヘソを出していた。
参考画像⑤ ピンクミニTシャツを着こなすブロンド
「店・・・変えようか」
「とりあえず一杯は飲んでいこう」
ツンとした美人。新入りのバイトだろうか。
「カウンターにどうぞ」と案内された。金髪碧眼とはいえ日本語が通じるどころか、堪能というよりはなんの訛りもない日本語だった。
「どうする?」
「僕らおじさんは隅っこで飲もう」
「そうだなぁ・・・」
名残り推しそうに女性眺めつつ、隅の席に座った。カウンターでこの女の子と会話をできるほど自分たちに自信がない。物静かな爺さんマスターは知らん顔をして見て見ぬふりをしていた。
「穴熊先輩。こういうのを諺でなんというか知ってます?」
「いや・・・」
「百聞は一見に如かず」
「ああ、確かに」
「あれが完璧なピンクTシャツの着こなしです。幼さとエロさが同居しているでしょ?『ちぐはぐさ』も『ダサさ』も小さい問題で、すべてをひっくるめて完璧」
「ほめ過ぎじゃないかい?」
「なんとかなると思います?」
「無理だな」
「そう、完璧な女は時に男性に絶望を与える・・・」
オーダーは、ジントニックを二つとナッツ、それから女の子に進められるままに牛肉の煮込み料理を頼んだ。
「この店も隠家でいられなくなるな」
「まったく、あとでマスターに問い詰めないとですね」
2人は女が振り返ってから、同時に溜息をついた。
※ ※ ※
「福田くん。まだピンクのTシャツについて話すのかい?」
「うーん・・・」
ピスタチオの皮を割りながら、福田は悩んだ。完璧を前にして、完璧じゃないものを語るのは気が乗らない。
「だからですね・・・普通はああなれないわけじゃないですか」
「そりゃそうだろうね。うちのかみさんがあの恰好をしたら、ちょっとしたテロだ」
「それ、後でちくりますよ」
「冗談だ。だが、気持ちもわかるだろ」
「うちの妻なら・・・いやぁ・・・無理ですね・・・」
美人がフロアにいるだけで浮かれてしまう。悲しい男のサガを感じながら酒を飲む。
「ファッションは自由であるようで窮屈なんです。社会通念、常識、流行、性別、TPO・・・、がんじがらめの状況から、なんとか個性を出そうと、あるいは個性を押し殺そうとしている」
「そんなに考えているかい?」
「カッコいいからって鎧を着てデートに行かないでしょう?スーツにネクタイだからって、黄色いスーツに赤いネクタイはしないでしょ?」
「あたりまえじゃないか」
「女の子だって一緒です。大人の女性はピンク色の服は着なくなる。子供服売り場の女の子コーナーはピンクに染まっているのに、大人のコーナーではピンクが激減する。辛うじてパステルカラーの淡いピンクのブラウスやフレアスカートがあるだけ。なぜか?」
「幼く見えるからだろう?」
「それも大きな理由の一つ。他にはもう環境がそれを許さないから。大人の女性だってピンクが好きな人は多いのに。むしろ嫌いな人なんていないはずなのに。ピンクには『幼さ』と『セクシーさ』が同居していて、そのどちらかに引き寄せられてしまう。非常に難しいんです。一歩間違えば芸人のような奇抜なファッションになってしまい、『可愛らしさ』も『セクシーさ』も消え失せてなくなる」
「ピンクの服の芸人は確かに何人かいたね」
「だからだんだんとピンクから離れていく。それが無難だから。芸人にはなりたくない。幼く見られたくない、エロい目で見られたくない。もうあらゆる価値観がせまってきてピンク色の服は着なくなる」
「なるほどねぇ。言われてみればそうかもしれない」
「誰でもない普通の私を見て欲しい。清楚なら白、シックなら黒、赤ならワンポイントでつかって・・・あとは淡い色のベージュやパステルカラーが合わせやすい。ほんとはピンクが好きなのに。いろいろ考えてピンクを遠ざけてしまう」
「なんだか悲しいな」
「そこで大人の女性はピンクを少しだけ身に着ける。例えばアクセサリー。大人のアクセサリーでもピンクは人気が高い。まるで心の奥底にしまった少女の心を魅せるかのように」
「確かにワンポイントでのピンクなら見かけるね。うちのOLでもピンクのボールペン使っている子がいるし、バックに小さいキーホルダーがピンクの子もいた」
「もしピンクがなければ、どこかツンケンと尖った印象を与えてしまう。あんまり強い印象も与えたくない。そんな時にピンクは有効なんでしょうね」
画像⑥ ピンク時計の女の子
「ほら、この子」
「これはプロのモデルだろう?」
「そう。でも何の宣伝かわかると思う」
「腕時計か・・・」
「この画像はちょっと目力の強い女性が青い服を着ている。どこか冷たい印象を与えそうだが、そうはならないでしょう?」
「うん。クールだけどカワイイが同居している」
「腕にあるピンク色の時計がそれらの難しい仕事をしているんです。女の子らしさを残しつつ、『大人の女性』を表現できている」
牛肉の煮込みは西洋風チャーシューといった感じで、ジントニックとは合わないな・・・と思いつつ、ついばむ。味は悪くないが。
「『可愛いね』って褒めてもらえないような女性でも、その時計を『可愛いね』って褒めてもらえる時がある。男性だって時計なら褒めやすいでしょう?ちょっとしたコミュニケーションの一貫として」
「もう髪型を褒める事もダメな時代だからなぁ。ほんと難しくなったよ。でも時計なら確かに話題にしやすいだろうね。同性間でも話題にしそうだし」
「うん。『その腕時計、可愛いね』って言われたら、それはもう内面を褒めているのと同義なんです。時計を褒めているんじゃない。そのセンスや奥ゆかしさに同感して褒めているんです。女もそれがわかるから嬉しい・・・」
「女もずいぶんとややこしんだな・・・」
「このワンポイントのピンクは『女心』そのものといってもいいでしょう」
「もう一杯飲む?」
「飲む。でも、この牛肉に何が合うのかわからない」
「あの子に任せようか」
「ええそうしましょうか」
穴熊は女の子を呼んで追加のオーダーした。女の子はそのままマスターに話した。でてきたのは黒いビールとサラミハムもついてきた。
それは確かに料理ぴったりと合った。
「組み合わせが無数の場合は、専門家に任せるのも手だな」
「まったくですね」
女の子の黒いミニスカートから伸びるすらりとした足を見てまた2人は溜息をつく。
※ ※ ※
「ピンクっていうのはですね。エロいんですよ」
「ピンク映画っていうぐらいだしな。でも、文化的なものなんだろう?」
「ええそうですね。国によって違う所もあるみたいですけど。大人になるとなかなかピンクが着れないけど、あの子じゃないけど、水商売の女性にはよく似合います」
「なんだい?キャバクラにでも行きたくなったのかい」
「ちがいますよ。ピンクには『幼さ』の他に『セクシーさ』があるから、夜の女性には似合う。そこは非日常的だから」
「よくわからないな」
「品がないほどにエロさを前面に出したら、似合うって話です。例えばこの女性なんてどうですか」
「どれどれ」
画像⑦ ピンクのワンピース
「これはホステスか何かかい?」
「そうでしょうね」
「やっぱりブロンドなんだな」
「モデルとしては最強でしょう。あの子とはまた別の雰囲気だけど様になってる。日本人の黒髪ではなかなかこうは着こなせない。もっと田舎くさくなってしまう」
「わかる。でも、そんなにセクシーって感じでもないな」
「美人すぎるんでしょうね。どこか人形的で」
黒ビールが美味い。肉料理も引き立つ。これと同じで日本酒とあぶった干物や、ワインとチーズなどの組み合わせも合う。自由だけど王道からそれすぎてはダメだ。台無しになってしまう。
「いい女だなぁ・・・」
「僕らには無縁ですよ。だいたい奥様いるでしょ」
「それとこれとは別だろう。だいたい画面の中だし」
「この女性こそ『非日常』と言えるかもしれない」
「非日常ってなんだい?またえらく難しいね」
「特別ってことです。なぜピンクが『セクシーさ』を表わすようになったのか」
「もう一杯飲む?」
「いやぁ・・・」
流石に飲み過ぎたのか、頭がぼんやりとしていた。肉も食べきれずに皿に残ったままだ。
※ ※ ※
「時は原始時代まで遡ります。自然淘汰が働き、僕らはその選ばれた子孫ですよね。生存本能・・・ピンクをエロいと思う本能・・・それは、炎の揺らめきだと思うんです」
「なんの学説だい?」
「狩猟や農作を終え家に戻ってくる。電気のない時代の光は炎ですよね。炎の揺らめきに映し出せた女性はほのかに朱に染まっているように見える」
画像⑧ 焚火の少女
「何もない時代にやることは1つ」
「はははっ。ネットが普及する前の田舎はやることないからすぐエッチするみたいな話しもあったな」
「そう。それに近いかもしれない。男性ならこの画像から『エロス』を感じるでしょう?女性のどこにもエロ要素なんてないはずで、普通に着物を着ているだけの女性なのに。肌の露出もほとんどない。生物学的なエロさはゼロでしょう?でも、エロが・・・」
「内包している?内在だっけ?」
「そそ。内在。炎の揺らめきによってエロくなる。これぞ原始的な本能でしょう」
「炎を見ると男も女も興奮するみたいだな」
「炎を見ると少し興奮する。それは危険で、温かくて、エロい。僕らは文明社会に長く染まっていて焚火なんてそうそう見る事もなくなったけど、炎の揺らめきこそ『エロス』の根源的なスイッチだと言えると思います」
「スイッチ?」
「そう。炎に照らされた女性を見て興奮した男性の方が子孫を残しやすい」
「いつだって興奮していた方がいいんじゃないのか?人間はいつも発情しているみたいなことを聞いた事があるが」
「狩猟に出かける前にエロいことする夫婦と、無事に戻ってからエロいことする夫婦がいるとして、どっちの方が子孫を残せるだろうか?」
「力はとっておけってことか」
「そう。仕事を終えたら酒で一杯やって落ち着けるのもスイッチの一つ」
「お風呂にはいるのも」
「就寝にはね」
「妻とヤる時も風呂には入るだろ」
「まったく・・・そうですね」
いよいよ酔いが回ってきて、そろそろお開きとしたい。酒を飲む気にもなれず、2人は困った顔で皿に残った肉をフォークでいじる。
店を出る気になれないのは、あのブロンドの小悪魔がカワイイからである。歩いているのを見るだけで目の保養になる。
※ ※ ※
「断れよ」
「穴熊先輩こそ断ってください」
「やれやれ、こりゃ考え物だな」
ピンクミニTシャツの小悪魔風の女の子が、「次もビールになさいますか?」と訪ねてきたのだ。断れるはずもなく追加オーダーをした。
「炎の揺らめきがエロいというのは、君の勝手な学説だろう?」
「探せばあるんじゃないですかねぇ。焚火は実感としてわかなくても、花火大会の時を想像すると分かりやすいですよ」
「ああ・・・なるほど」
画像⑨ 花火大会の浴衣少女
「花火大会を誘われた女子は、浴衣を着ていくか着ていかないかで悩むでしょ」
「悩むだろうな」
「浴衣を着ていけば本気過ぎる感じがするし、浴衣を着なくていい相手なら、そもそも一緒にいかなくてもいいかと自己嫌悪も混ざるし」
「女心だね」
「この女の子も、どこか色っぽいでしょ?」
「色っぽい。なるほどね。艶があるね。セクシーというよりは色気がある」
「そそ。日本語の妙ですね。ニュアンスが少し違う。セクシャルなものでなくて、ほんの少しだけ『色』がある」
「なるほど。確かにピンクかもしれない」
ビールグラスに口をつけてみるものの、もう飲む気がしなかった。
「ねっ、だからピンク色ってスイッチなんですよ。そう考えたら僕らがピンクの服にそわそわする気持ちが説明できます」
「ふむ・・・店出ようか」
「・・・そうですね。ここは僕が出しますよ」
2人が席を立った。レジ打ちをする女の子に世間話の1つもすることができなかった。名前もわからない。
※ ※ ※
2人で繁華街を歩いていると、エッチなお店からの誘いがある。もちろん2人はそれらを無視して駅へ向かう。
「はぁ・・・」と2人して溜息を同時についたのは、2人とも小悪魔風の美人をついつい眺めていたからである。キャバクラで女の子に気を使いながら飲むよりもずっと良かった。あの店はすごく混むことになるだろう。あのままあの子が働いていたらだが・・・
「今日は良かったなぁ」
「そうですね。僕もだいぶすっきりしました」
「そりゃあ良かった。なかなか興味深い学説を聞いたよ」
「ほんとはここからが本題なんですけどね」
「なんだい?終電まではまだ時間があることだし、聞かせてくれ」
2人は駅のベンチにどかっと座った。もう何もやる気が起きない。タクシーに乗って寝てしまいたい。脱力しかない。
「ピンクがセクシーな女性を象徴する理由はわかりましたよね。ゆえに夜の情事にはピンクは最適になるますよね」
「夜のピンクといえば・・・ネグリジェか」
「奥様もってます?」
「いいや、うちはそんなの着ないな」
「うちもです」
「はははっ、あれも都市伝説かね」
画像⑩ ネグリジェの女①
「こんな女が『ねぇ、あなた・・・今夜は疲れている?』と言ったら、GOサインですよね」
「そりゃそうだろう。据え膳食わぬは男の恥というしな」
「そこで『ああ疲れてるから寝る』と言って、布団に潜ろうものなら夫婦仲は冷え込む一方で離婚手前、恋人同士ならそろそろ別れ時」
「男の甲斐性としてもそうだろうな」
まったくバカな話をしているなと福田は思った。こんなことなら風俗でも行ってしまった方が良かった。家に帰るのが少し怖い。
「女性からは率直に誘うことは難しいんだろうな」
「そう、だからサインを出すだけで男はそれを察知しないといけない。男は四六時中発情できる動物だが、女性はそうはいかないダメな時はダメですから」
「逆にこのピンクネグリジェを着た女を押し倒して、キスをした時に・・・『そんなつもりぜんぜんないんだけど!?あたし疲れてて眠いんだけど!?』っと、断ってきたらちょっとした事件だな」
「『えっ、今夜はそういうプレイ???』って混乱しますね。特殊な性癖の夫婦関係でもない限り、これはOKサインでしょうね。そうでないと夫婦なんて成り立たない」
「まったくだ。そっか・・・知らず知らずに夫婦のルールがあるのかもな」
電車に乗らず、通り過ぎていくのをぼんやりと眺める。何を話しているのか自分たちでもよくわからなくなってきた。
仕事もしんどい。家庭もしんどい。どちらも大切で楽しいこともあるけれど、つかの間の男の子時間にぼんやりと身を任せて漂う。
切れかかったネオンサインがジリジリと小さな音を立てて瞬いているのがみえた。
※ ※ ※
ケータイが鳴っている。上司からだ。出たくない。
「難しいケースですけど。残業、残業、残業。ブラック企業バンサーイって少しおかしくなっている時に終電ギリギリで帰宅する。食事はいらないことは連絡済。子供を寝かしつけた妻はくたびれたのか先に眠っている・・・みたいな時」
「そりゃ、そのまま寝かせてやんないと」
「が、しかしネグリジェだったらどうでしょうか? GOサインが出ている。それもずいぶんとひさびさの・・・」
「なるほど・・・難しいな」
参考画像⑪ ネグリジェの女②
「明日も休日出勤になってしまったけど、本当は休みだった。最期に妻を抱いたのはいつだっただろうか?みたいな時」
「それ、今の福田くんね」
ケータイ電話は無視したがメッセージが届いた。残酷にも明日の休みが消えて出勤するように指示があった。
「だぁ~、ケータイ鳴って嫌な予感したら、ほんとこれだよ!」
「どんまい」
今日の飲み会の流れ上、穴熊は福田を慰めたが、自分の休日出勤を命じられていた。
「この画像の妻はおそらく男を待っていて・・・それが5分前なのか、1時間前なのかはわからない。家事を終え、育児終えて一段落。自分の時間で録画してあるドラマでも観て、尚余った時間に疲れて少し横になった・・・」
「ずいぶん核心に迫る設定だね」
「そんな妻がベッドで寝ていた。セクシーなネグリジェに着替えて待っていたのかな・・・と妄想する」
「まぁそうなんだろう」
「そんなことを考えながら男は冷蔵庫から缶ビールを空けて飲む。このままスーツを脱いで寝てしまいたいが、そのまま寝ると叱られるので風呂には入る。全自動で沸いたままはガス代もバカにならないので、ビールを飲みながら追い炊きをして風呂が沸くのを待つ」
「おいおい福田くん大丈夫かい・・・」
福田が妄想言っているのか、自分のことを話しているのか判然としない。少し涙ぐんでいるようにみえる。
「そんな風に待っていたら妻が起きるかな?とそわそわしたりして・・・疲れているけど、ピンクネグリジェの妻のせいで脳内本能スイッチはオンになっている。明日も満員電車で通うこととか、仕事が溜まっているとか、お得意様に謝罪してまわるとか、そんなことは関係ない・・・」
穴熊が福田の背中をポンポンと叩く。休日が直前で仕事になったこと、夫婦の誰もが通るような些細な問題。気持ちが痛いほどわかった。
「問題は妻がこの状況下で寝てしまったことで・・・」
「奥さんと話し合った方がいいぞ」
「『起こすべきか、寝かせておくべきか?』それが問題だ」
「シェイクスピアだねぇ」
「風呂に入ったが、妻は眠ったままだった」
「難しいなぁ。その場合は起こしても怒られないと思うが」
「正解はわからない。耳元で名前を読んでみるも起きない・・・余り大きな音を出せば子供が起きる・・・」
「しかし、主婦なら起こしてもいいんじゃないか?」
「時代に合わない発言ですね」
「そうかい?」
福田は電車が来たので立ち上がった。いつまでも逃げてはいられない。
「そして、もう諦めたときに、妻の目がパチリと開くんです・・・『あなた・・・おかえり』という・・・」
穴熊は別の電車だ。福田が電車に乗るのを見届けた。
「おい、仕事なんてなんとかなるんだ。明日はそのまま休んでしまえ」
「はははっ、明日考えますよ」
「おう、じゃあな!」
「ありがとうでした」
福田が頭を下げる。電車のドアが閉まる。
電車が出発するときにガタンと揺れた。よろめく自分の足取りはふわふわと浮いているようだ。酔っているせいなのはわかる。でも自分が『どこへ』向かっているのかは、よくわからない。
※ ※ ※
【ここから福田のモノローグ】
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電車に揺られながら新婚時代のことを思い出す。ケータイから昔の画像を探す。写真ボックス内はなんでもない妻の笑顔で溢れていた。明るくてよく笑う。喜怒哀楽が激しいから怒る時は怒るが、けっこうさっぱりして後を引かないのもいいところだ。
子供もいないので邪魔するものはいない。恋の営みは自由意志によって行われる。両者同意の元・・・あるいは妻の同意の元にのみ行われるべきなのである。
『行われるべき』この強く堅苦しい言い回しこそ、心に留めておく。
あの頃は共働きなので妻と家事は分担していたものの、ついつい家事は妻に押し付けてしまう・・・反省しつつ、休日にはできるだけ妻のわがままをきく。恋人関係はラブラブで良好だったと思いたい。
仕事の遅くなったある日、妻は家事を終えて先にベッドで横なっていた。ベッドサイドのランプだけが部屋に優しく灯っている。
ピンク色の枕は新婚の勢いで買ったものだ。
妻はベージュのパジャマを着ている。なんでもない機能性にすぐれたパジャマだ。セクシーさとは無縁ななはずの服装。
画像⑫ 眠そうな女
けど、胸の膨らみがある。ピンク色の枕が脳を混乱させる。最近はお互いに忙しくて少しご無沙汰している。俺は明日休みだ。妻は仕事だ。分かっている。分かってはいたのだ。
風呂にも入らずに、服の上か胸を揉む。妻が寝ているのに。
当然妻の目が覚める。眠たそうな目で、少し恨めしそうに
「今日は疲れているから寝る。また今度ね」とやんわりと断る。
そう、妻らからシグナルは何も出ていない。言葉ではっきりと断られた。
しかし、こっちはスイットが入ってしまった。問答無用に服の中に手をいれて・・・
「明日も仕事なの!」と声を荒げる妻。
かくして押し問答がはじまり、めんどくさくなった妻が僕を受け入れた・・・
それは愛の営みでなく、惰性であり、コントロールの効かない性欲である。ラブラブではなく行為の最中も夫婦間は冷めていく・・・
ああ、どうしてこんなことになってしまったのか。妻の休日をなぜ待てなかったのか・・・
そう。発端は些細なことなのだ。『寝室のピンク色の枕』これが本能に火をつけた。サイドランプの微かな灯りが妻の頬を少し朱に染めていたのだ。
いつもみたいに真っ暗にして・・・せめて豆球ぐらいにして寝ていてくれれば、こんな風にはならなかったのに・・・
画像を見て溜息をついた。家に帰るのが怖い。拒絶されたことが強く尾を引いているのを自覚する。
※ ※ ※
最寄りの駅からアパートまでの帰り道、心地良かった酔いが覚めてきているのを感じていた。
「ピンク色とはスイッチなんだよ・・・」と呟く。納得がいかなかった。
ゆえに大人の女性は不用意にピンク色の服は着なくなる。それは経験的に、あるいは社会的にそうならざる得ないのだ。
キッチンにピンクのTシャツを着た妻がいて、勘違いとはいえ本能的に発情しそうになった。それはもうしょうがないことだから、妻に分かってほしかった。
後ろから抱き着いた僕は間違っていただろうか?
妻に落ち度はなかったといえるだろうか・・・
静かに鍵を開け、そぉーと中にはいる。午前様である。
「ただいまぁ」と小さい声で消え入るようにつぶやく。
リビングには小さい灯りで妻が音を消してテレビを見ていた。
「あら、おかえり。お風呂・・・沸いてるわよ」
「ああうん。遅くなってごめん」
妻は立ち上がって、脱いだ背広をハンガーにかけてくれた。僕はシャツを洗濯機に放り込み風呂に浸かった。
どうせ今日もヤらないし、明日は仕事なのだ。
バスタオルで頭を吹きながらリビングにでると、妻が立っていた。
「あのね・・・あなた」
「おまえ・・・その恰好」
「ごめん。昨日は突然でぜんぜん心の準備もできなかったし、料理中だったし」
「ああ、僕の方こそごめんよ」
灯りは暗かったが、妻がピンクのミニTシャツを着ていた。しかも・・・ブラは付けていないように見える。
「あなた疲れてる?」
「ああ、疲れているし、明日も仕事だよっ」
イラッとした口調で言ってしまった。妻は何も悪くないのに。
「ごめんね・・・」
「でも・・・」
妻に近づいて抱きしめる。何しろ下は黒い下着姿だったのだ。今日の反省を大いに生かすべきだ。
明日のことは明日考えよう。
画像⑬ ピンクTシャツのエロい妻
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こうして久々に夫婦仲を取り戻し、翌日は穴熊先輩の意見に従って仕事を断って休んだ。
(了)
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