もう1人のバカ兄貴   作:佐倉シキ

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花屋敷

 

 

 

 

銀時達は花屋敷の中で手分けして捜索を進めていた。神楽と新八、そしてベルの3人は見せ物小屋周辺を中心に動き、通りに響く笑い声や怪しげな呼び込みの声に耳を澄ませながら、兄の手がかりを必死に探していた。一方、銀時は単身で剣闘場へと向かっていた。

 

道すがら、彼はオークション会場にも立ち寄ったが、今日は開催日ではないらしく、広い建物の中は不気味なほど静まり返っていた。その静けさの中、背後を歩いていた数人の天人の客の会話が耳に入る。曰く、この花屋敷を仕切る長、龍宮と呼ばれる女が剣闘場に顔を出すという。その理由は、彼女の臣下のひとりが今宵の剣闘に参戦するためらしい。

 

銀時はその話を聞きながら足を止め、面倒くさげに頭を掻いた。こんな悪趣味な街を仕切る人間の顔を見ておくのも悪くはない。それに、ベルが口にしていた「兄は龍宮に売られるかもしれない」という言葉も頭の隅に残っている。相手の顔を知っておくに越したことはない、と判断したのだ。

 

(まったく、悪趣味な街だぜ……)

 

心の中で毒を吐きつつ、銀時は剣闘場の入り口をくぐった。途端、むわりとした熱気が全身にまとわりつく。闇に沈んだ通路を進むごとに、その熱気は濃さを増し、やがて視界が開けると同時に巨大な光景が広がった。

 

そこにあったのは、石造りの壁と階段が幾重にも重なる広大なスタジアムだった。まるで古代の遺跡をそのまま蘇らせたかのような圧倒的な造形。その場に踏み入れた瞬間、観客の熱狂が波のように押し寄せ、銀時の肌にまで響いてくる。

 

 

オオオォォォオオォォォォォ───────

 

 

押し殺していた息が一気に爆ぜるように、観客席のあちこちから歓声が飛び交う。通路を抜け、銀時が見下ろすと、スタジアム全体が息を呑んでその瞬間を待っているのがはっきりと分かった。石壁に掛けられた松明がぼんやりと揺れ、その炎が無数の顔を赤く照らし、狂気じみた期待を浮かび上がらせている。囁き声、笑い声、歓声。すべてが渦を巻き、試合開始前の独特の高揚感が場を支配していた。

 

やがて、低く鳴り響く太鼓の音が遠くから鼓動のように届き始めた。観客たちの体が自然とそのリズムに揺れ、心臓の鼓動さえ支配されているような錯覚を覚える。

 

(試合が始まるのか……)

 

銀時が思った瞬間、ひときわ甲高い声がスタジアムに響き渡った。

 

『お待たせ致しましたァァッ!!』

 

司会席と思しき場所に姿を現したのは、魚のような顔を持つ天人だった。大きな口を震わせ、会場全体に響き渡る声を放つ。それに合わせるように、観客が一斉に叫び始めた。

 

悪魏奴(アギト)ォっ!!」

「悪魏奴ッ!!」

「悪魏奴!!」

「悪魏奴ォォ!!」

 

地鳴りのようなコールが繰り返される中、ひとりの戦士が姿を現した。筋骨隆々とした巨躯。青黒い肌には荼吉尼特有の硬質な光沢があり、赤い瞳が爛々と燃えている。黒い強膜のその目は、見下ろすだけで相手を威圧する迫力を備えていた。

 

「荼吉尼か……」

 

銀時は眉をひそめ、近所に住む荼吉尼の男の顔を思い浮かべる。だが、目の前の戦士はその比ではない。棍棒を大地に突き立て、喉の奥から響かせた雄叫びは、まるで怪物そのものだった。

 

『花屋敷にて行われる剣闘試合!! 全戦全勝の鬼神!! 最強伝説はどこまで続くのか!? 遂に赤龍の刃に挑戦状を叩きつけたぞッ!! 荼吉尼の戦士! 悪魏奴ッ!!!』

 

魚の天人の紹介に、会場が一斉に爆発する。轟音のような歓声が剣闘場を揺るがした。

 

その時、銀時の目に別の存在が映った。反対側の通路から、ゆったりとした足取りで現れる小柄な人影。その姿から放たれる気配は、悪魏奴とは別種の異様なものだった。

 

『対するは!!』

 

司会の声が場を揺らす。視線が一斉にその小柄な戦士へと注がれた。

 

『現在の花屋敷の主人、龍宮様の三つの刃のうちの一つ!こちらもまた戦ってきた剣闘試合の全てに勝利してきた圧倒的な強者!! 夜の兎は鬼を制するか!? 燕心ッ!!』

 

スポットライトのような灯りに照らされ、燕心と呼ばれた男が姿を現す。

 

悪魏奴の巨体と比べれば遥かに小柄な体躯。しかし、その身から発せられる気配は決して小さくはなかった。艶やかに揺れる黒い長髪。首元までを覆う黒いノースリーブの服に、白いズボン、腰に巻かれたストール。手足には鋼の鎧が光を放ち、何より目を引くのは両腕に彫られた龍の刺青だった。しなやかな筋肉に沿って刻まれたそれは、まるで生きているかのようにうごめき、観客の視線を釘付けにした。

 

その顔は鬼のような仮面に覆われ、素顔は窺えない。だが、その仮面越しに漂う空気から、若さと同時に鋭利な殺気が感じ取れる。

 

(夜兎対荼吉尼って訳か……)

 

銀時は腰を下ろし、しばし成り行きを見届けることにした。龍宮の部下の実力が分かる良い機会だと考えたのだ。

 

ふと視線を上げると、スタジアムの上階、豪奢な装飾が施された席にひときわ目を引く存在がいた。赤い艶やかな髪、透き通るような白い肌、そして蜂蜜のように濃厚で美しい黄金の瞳を持つ女。その存在感だけで周囲の空気を支配していた。

 

次の瞬間、その黄金の瞳が真っ直ぐに銀時を射抜いた。

 

(……ッ!?)

 

遠く離れたVIP席から、確かに自分を見ている。肉食獣に睨まれたような錯覚に、銀時は思わず目を見開いた。これだけの距離で気配を察するなど常人にはあり得ない。

 

(マジかよ、この距離で視線に気づくのか……)

 

あれはただの悪趣味な金持ちではない。怪物だ。銀時は即座にそう理解する。彼女が龍宮。今、自分が相対しようとしている相手は想像以上に手強い。口元にそっと手を当て、銀時は考え込む。この仕事は、一筋縄ではいかない。

 

 

『それではッ!! 試合開始ッ!!』

 

場内に響き渡る司会の声。その瞬間、張り詰めていた空気が一気に爆ぜ、観客たちの熱が一斉に燃え上がった。無数の視線が闘技場の中央に注がれる。

 

「その仮面は何だ? ふざけているのか?」

 

悪魏奴が燕心を真っ直ぐに指差した。獲物を挑発する獣のように、声には怒気が籠もっている。

 

「鬼、鬼神……」

「ん?」

「鬼神の如き強さ、鬼の如き怪力。お前はそう呼ばれているのだろう?」

「それが何だと言うのか」

「どちらの方が鬼のように強いのか此処の連中に教えてやろうと思ってな、“鬼神”と言う称号、奪いに来た」

 

「俺の方が鬼強い」と燕心は笑い、挑発するように両腕を大きく広げた。その言葉と態度に観客がどよめく。悪魏奴の顔に怒りが走り、筋肉が波打った。次の瞬間、巨躯が動き、棍棒が唸りを上げながら振り下ろされた。

 

地を裂くような轟音。

 

『これはッ!! 凄まじい怪力だ!!』

 

実況が叫ぶより早く、地面は砕け、石片や砂が爆ぜるように飛び散り、土煙が闘技場を覆った。だが、そこに燕心の姿はない。

 

「なにッ!?」

 

悪魏奴の背後から殺気が迫る。燕心は既に回り込み、腰に差していた刃を閃かせて首を斬り落とさんと振り抜いた。だが、鋼のように振り返った棍棒がその一撃を叩き折った。鋼鉄を打ち砕くような音が鳴り響く。

 

「荼吉尼と夜兎の戦いだぞ。そのような玩具は無粋だろう」

 

悪魏奴の棍棒が唸りを上げて燕心の顔面を狙った。だが、それは届かない。

 

「玩具は無粋かい?」

 

燕心は棍棒の側面を鷲掴みにし、その巨体の怪力を正面から受け止めていた。まるで石壁に叩きつけられたかのように棍棒は動きを止め、その掴んだ掌の圧力だけでヒビが走っていく。

 

「ならこれも要らないよなッ!」

 

燕心の拳が振り下ろされ、棍棒は粉砕された。木片と鉄片が爆ぜるように四散し、破片が観客席にまで飛び散る。悪魏奴はそれを見て逆に愉快そうに笑い、折れた棍棒を投げ捨て、拳を固める。その姿はまさに拳そのものを武器とする猛獣だった。燕心もまた拳を構え、嗤う。

 

「夜兎に打撃戦で挑む事の意味、分かっているのかい?」

「貴様こそ荼吉尼の間合いに入る事の意味理解しておろうな?」

「知ってるよぉ」

「なら良し」

「そんじゃまぁ、楽しく死合おうぜ」

 

空気が一瞬にして張り詰め、観客のざわめきすら凍り付いた。次の瞬間、悪魏奴の巨体が地を踏み砕き、凄まじい轟音と共に大地がひび割れる。舞い上がる砂煙。その僅かな隙を衝いて燕心が飛び込んだ。

 

黒髪が宙を舞い、燕心の踏み込みで地面は蜘蛛の巣状に裂ける。矢のような速度で放たれる拳。空を切り裂く衝撃波が走るが悪魏奴はその拳を紙一重で躱し、返す拳を振るった。空気が破裂する音と共に衝撃が奔り、観客席の一部が震えるほどの風圧が吹き荒れる。

 

「──ッ!」

 

燕心は後方に飛び退く。しかし悪魏奴は容赦しない。さらに地を踏み砕き、爆発的な加速で間合いを詰める。その瞳が赤く光った刹那、拳が燕心の腹に直撃した。

 

「がッ──!」

 

凄絶な衝撃が全身を突き抜けた。胃が抉られるような激痛、骨が軋む音。燕心の体は宙を舞い、地面を砕きながら転がる。観客が一斉に歓声を上げる中、燕心は地に手を突き、咳き込みながら立ち上がった。口元に血が滲むが、怯えも焦りもない。むしろその瞳は冷静に相手を捉え、笑みさえ浮かべている。

 

「わざと受けたな?」

「その方が盛り上がる」

「小僧が、舐めおってッ!!」

 

悪魏奴の怒声が響き渡る。巨大な拳が連続で振り下ろされ、まるで山が崩れるような衝撃がスタジアムを揺るがす。空気を裂く音と共に、拳の一撃一撃がコンクリートを砕き、砂煙が激しく舞い上がる。しかし、燕心は一歩も引かず、その全ての攻撃をいなし続ける。

 

悪魏奴の拳が地を叩き、壁を削り、全てを破壊していくが、燕心は全く問題にしない。猛攻を紙一重で避け、時には寸前で受け流し、まるでその巨体を嘲笑うかのように身を翻す。いや、実際に嗤っていた。

 

「ははははは!! もう疲れたか!? 少しずつ遅くなってるぜ。大丈夫かよ、鬼神の旦那ァ?」

 

挑発の言葉が観客の熱をさらに煽る。悪魏奴の額には汗が浮かび、怒りで顔が紅潮していく。拳は荒々しく、そして苛烈さを増すが、その軌道は徐々に粗雑になりつつあった。

 

「うおおおおおッ!!」

 

咆哮と共に放たれた渾身の一撃。全身の筋肉が裂けんばかりに収縮し、拳はまるで隕石のように振り下ろされる。その速さと威力はこれまでの比ではない。

 

しかし燕心は、一瞬のしなやかな身の動きでそれをかわした。

 

「……ッ!」

 

悪魏奴の巨体が崩れる。その隙を逃す燕心ではない。仮面の奥の瞳が鋭く光り、拳が悪魏奴の顔面を撃ち抜いた。

 

「ガッ……!!」

 

鼻骨が砕け、歯が飛び散り、鮮血が噴き出す。悪魏奴の巨体が揺れ、観客たちが総立ちになって悲鳴と歓声を上げる。よろめきながらも膝を折らず立ち続ける悪魏奴。しかし、その瞳からは力が消えていた。

 

「一撃でノックアウトとはならなかったが、此処までだな。脳みそ揺れてる小鬼に負けるほど夜の兎は弱くない。此処から先は夜兎()の舞台だ」

 

燕心が嗤った次の瞬間、猛攻が始まった。拳、肘、膝、蹴り。全てが嵐のように悪魏奴の体を打ち据える。骨が砕ける鈍い音が何度も響き、青い肌は裂け、赤が滲み、霧のような血が宙に舞った。観客席の熱狂が爆ぜるように広がる中、かつて「鬼神」と呼ばれた巨体は、ただ蹂躙される人形のように打ち据えられ続けていた。

 

『ラッシュラッシュラッシュ!! 夜兎の怪力によるラッシュ!! 圧倒的暴力ッ!! 圧倒的蹂躙ッ!! 悪魏奴成す術なしか!!?』

 

実況の絶叫が会場を震わせる中、燕心の両腕は嵐のように振るわれていた。その拳は凄絶な重みを帯び、一撃ごとに悪魏奴の胸を抉り、腹を穿ち、骨を軋ませていた。

 

「ぐぅッ!」

 

悪魏奴の喉から獣のようなうめき声が漏れる。鋼のように鍛えられた筋肉は悲鳴をあげ、血管ははち切れんばかりに膨張し、砕けた骨が皮膚の下で不気味にずれ動く。燕心の拳が叩き込まれるたび、衝撃は彼の内臓を激しく揺さぶり、肺の奥から血混じりの息が噴き出した。

 

悪魏奴はその巨体を盾にするかのように両腕を振りかざし、必死に防御の姿勢を取る。しかし、容赦なく連打される怪力の嵐に抗うことは叶わず、腕は次第に形を保てなくなっていく。皮膚の下で骨が粉砕され、赤く腫れ上がり、血に濡れた腕はもう武器にも盾にもならなかった。後退するたび、足元の石畳が割れ、巨体は壁際へと追い詰められていく。

 

観客席からは歓声と悲鳴が入り混じる。しかし悪魏奴の瞳はまだ死んではいなかった。息も絶え絶えの中、彼は獣の本能のような執念で、ほんの刹那の隙を作り出す。肩を落とし、わずかに身を開いて燕心を誘い込んだのだ。

 

燕心はその隙を見逃さなかった。勝負を決めるべく、拳を打ち込もうと踏み込む。

 

悪魏奴の目にわずかな光が宿る。勝機だ。ここで奴の動きを止める。そう確信し、渾身のカウンターを繰り出そうとした瞬間。

 

「ははッ」

 

仮面の奥から零れた笑い声に、悪魏奴の背筋を氷が這った。

 

燕心の拳は寸前で軌道を変えた。まるで蛇のように滑らかに流れ、悪魏奴の腕を絡め取る。瞬間、燕心の腰が沈み、その怪力で巨体を翻した。

 

「ぐ、ぬぅッ──!?」

 

次の瞬間、悪魏奴の身体が宙に舞った。観客がどよめく。山のような巨体が空に持ち上げられるという現実離れした光景。そのまま地面に叩きつけられた悪魏奴は、岩盤ごと大地を砕き、轟音を響かせて転がった。肺の空気が一気に押し出され、口から大量の血と唾が飛び散る。

 

「殺せッ!」

「こーろせ!!」

「殺せ燕心!!」

「やっちまえッ!」

 

地鳴りのような歓声が会場を包み込む。殺意を求める観客の欲望は熱狂となり、空気を震わせる。

 

燕心はその中心に立ち、両腕を大きく広げた。まるで暴力の舞台を支配する王のように、観衆に「もっと叫べ」と促す。その姿に応えるかのように、殺害を望むコールは狂気じみた熱を帯び、場内を満たしていった。

 

銀時は眉を顰め、舌打ちをした。その空気はただの娯楽ではなく、悪趣味と狂気に染まりきったものだった。

 

ゆったりと歩み寄った燕心は、倒れ伏す悪魏奴の頭部の傍に立つと、ためらいなく足を振り上げ、

 

グシャリ。

 

嫌悪を催す湿った音が場内に響き渡った。

 

燕心の足は何度も、何度も、何度も振り下ろされる。砕けた骨が皮膚を突き破り、血と脳漿が飛び散るたび、観客は歓声をあげ、さらに熱狂した。燕心は仮面の下で嗤いながら、まるで何かを発散するように徹底的にその頭蓋を破壊し続けた。

 

銀時は顔を顰めた。嫌なものを見た。胸の奥から吐き気がこみ上げる。最悪だ。そう思いながら席を立ったその時、彼は気づいた。

 

燕心の仮面に、いつのまにか細かなヒビが走っていた。拳を振るうたび、その亀裂は広がり、やがてポロポロと欠片が砕け落ちていく。

 

露わになった素顔。

吊り上がった目、光を宿さない翡翠色の瞳。目元の濃い隈は不健康さを際立たせるが、顔立ちは整っていた。返り血に濡れたその顔に、陰惨な笑みを浮かべる様は残酷さを体現していた。

 

「……っ」

 

銀時の足が止まった。一瞬、見間違いだと思いたかった。しかし、どうしても脳裏に浮かぶ。あの顔は、吉原で出会った少年に似ていた。髪の色も瞳の色も違う。仕草も、雰囲気も。だがどうしても否定できない。

 

(おいおいおい、嘘だろ……)

 

銀時の頭に、神楽の言葉がよみがえる。

 

──兄がいた。神威ではなく、もうひとりの兄。神楽と神威の間に生まれた、真ん中の兄弟。

 

名は江鷹。星海坊主と同じ黒髪に、母と同じ緑の瞳を持っていた。神威とはよく喧嘩したが、神楽を邪険に扱うことは決してなく、幼い彼女の手をいつも取ってくれた優しい兄だった。

 

花畑で花冠を編んだ。滅多に見られない黄色い花が一面に咲く草原で、無邪気に笑い合った。だが帰り道、奴隷商人に襲われた。江鷹は囮となり、血痕と切られた髪だけを残して行方不明になった。

 

神楽はその話を涙をこらえて語った。自分がいなければ助かったかもしれないと後悔を滲ませながら、ポケットから押し花のお守りを見せてくれた。花冠に編み込んでいた一輪を残したものだった。

 

【いつか絶対、連れ戻すアル。今度は私が、兄ちゃんを救ける!】

 

小さな手でその押し花を握りしめ、神楽はそう宣言していた。だからこそ、今回の仕事に強い意志を見せていたのだ。

 

(厄介な事になったな……)

 

銀時は額に手をやり、ため息をついた。やるべきことは変わらない。神楽が兄を救うと言うなら、自分も必ず手を貸す。だが──

 

そこに立っていたのは、優しい兄ではなく、無力な相手の頭骨を踏み砕き嗤う悪鬼のような少年だった。

 

もし、あれが本当に江鷹だとしたら。

 

(神楽になんて伝えりゃいいんだよ……)

 

銀時は乱れた天然パーマを掻き上げ、深く息を吐いた。だが迷いはない。もし彼が江鷹なら、殴ってでも連れ出し、神楽と星海坊主の元に帰らせる。

 

そのためにはまず、神楽に確かめなければならない。銀時は踵を返し、神楽たちの元へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

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