今日は珍しく雲ひとつ無い晴天だった。
深く透き通るような青空がどこまでも広がり、烙陽の街を照らし出す。街のあちこちからはキャラキャラと子供達の笑い声と駆け回る足音が響き渡る。
だが、江鷹の家は例外だった。重く垂れ下がったカーテンが窓を覆い、外の光を一切通さない。昼間であるにもかかわらず家の中は薄暗く、静かな空気が漂っている。理由はただ一つ。夜兎族にとって太陽は天敵だからだ。その光に晒されればたちまち皮膚が焼け崩れ、命をも奪いかねない。外の子供達が陽光の下で無邪気に笑うその時間、彼らは陰に潜むしかないのだ。
少し逡巡したのち、江鷹はそれでも今日出かけることを決めた。川の向こう、町外れの丘に珍しい花が咲いていると聞いたのだ。赤、黄、オレンジと色とりどりの花々は、この辺りでは滅多に見られない種類である。母、江華は花が好きだ。だが最近は病状が目に見えて悪化し、父と兄の神威が何やら深刻な様子で話し合っているのを江鷹は知っていた。自分にできることはないかと考えた末、見舞いの品として花を持ち帰ることを思い立ったのだ。
衣服を整え、乱れのないよう髪を編み、羽飾りの付いたお気に入りの紐できゅっと縛る。傘を手に取り、母へ「行ってきます」と声をかけようとしたその瞬間、腰に小さな腕が回された。振り返れば、神楽だった。
「江鷹また1人でお出かけしようとしてる! 神楽も〜、神楽も行く!」
幼い神楽は不満げに唇を尖らせている。最近は神威が外で誰かと過ごすことが増え、父は仕事に出てしまい、母は病に伏せている。甘えられる相手は江鷹しか残っていないのだ。
「結構歩くよ? 神楽着いて来られるの?」
「平気だもん! 神楽もう子供じゃないヨ!」
そう言い張ると、神楽は急いで自分の部屋へ戻り、あっという間に着替えて傘を掴んで戻ってきた。しかし慌てたせいで髪が乱れており、額にかかった毛がちぐはぐに揺れている。どうしたものかと江鷹が眉を寄せていると、家の奥から江華がゆったりとした足取りで現れた。
「おいで」と声をかけられ、神楽は嬉しそうに駆け寄る。江華は慣れた手付きで神楽の髪を撫でつけ、器用に結い直してやった。
「江鷹、よかったら神楽も連れていってあげて」
「母さん」
「ごめんね。貴方に任せる事になってしまって」
「いいよ別に。みんな大変なのは分かってるから」
「そう、ありがとう江鷹。あまり遠くへと行っちゃダメよ。神楽も、我儘を言ってお兄ちゃんを困らせないであげてね」
「うん! 行ってきますマミー!」
「行ってきます、母さん」
「行ってらっしゃい」
江華はゆっくりと手を振り、二人は元気いっぱいに手を振り返した。その笑顔を背に、彼らは小走りに街の方へ駆け出していった。
* * *
太陽が容赦なく照りつける。砂ぼこりの舞う道を、二つの小さな影が並んで歩いていた。傘を差してはいるものの、熱はじりじりと足元から伝わってくる。10分ほど歩いた頃だった。江鷹はふと、妙な違和感を覚えた。
街が、不自然なほど静まり返っている。
思わず振り返る。しかし背後には誰もいない。人の姿はおろか、犬や猫すら一匹見当たらなかった。
おかしい。やけに静かだ。
本来なら市場や往来に人の声があふれ、建物の軋む音や木々の騒めき、獣の鳴き声が混じるはずなのに。今はまるで街全体がひとつの影に怯えて息を潜めているかのようだった。
そういえば、近頃この辺りに宇宙海賊が現れていると噂で聞いたことがある。何を目的にしているのかは分からない。だが、数日前も似たように街全体が凍りついたような空気を纏っていたのを思い出す。
胸の奥にじわりと不安が広がった。だが、母から神楽を任されたのだ。今さら怖気づいて引き返すわけにはいかない。せっかく神楽は楽しそうに歩いているし、ここで戻ればきっと神威に臆病者だと馬鹿にされるだろう。
江鷹が内心を押し隠していると、不安を敏感に感じ取った神楽がふと兄の顔を覗き込んだ。気付いた江鷹は軽く笑って見せ、歩みを早めた。
「ねえ江鷹、マミー遠くへは行っちゃダメって言ってたヨ」
「うん? まだそんな遠くじゃないよ」
「どこ向かってるの?」
ぎゅっと袖を掴む神楽。その幼い瞳を見つめ返し、江鷹は唇に笑みを浮かべた。
「みんなには内緒だよ?」
「ん? うん」
「いま俺たちは、秘密の花畑へと向かっているんだ!」
「秘密の花畑!?」
神楽の丸い瞳がぱっと輝く。花畑など、この荒れた星では滅多に見られるものではない。
「川の向こうの、丘の近くにあるんだけどね、すっごいキレイな花だったんだ。黄色とかオレンジとか赤とかあって、持って帰ったら母さん喜ぶと思う」
「わぁ、見てみたいヨそのお花!」
江鷹の目論見通り、神楽はすぐに不安を忘れ、胸を弾ませて歩調を早めた。やがて二人の前に目的の丘が姿を現す。
しかしその道中、一人として人影とすれ違うことはなかった。視界に映る生き物といえば、遠くで屍肉を漁る不吉な鳥だけである。
青空はあれほど高く、澄み渡っているというのに、どうにも落ち着かない。不気味なほどの静けさが支配する日であった。
そのままある程度歩き、この先に花畑があったと告げれば、神楽はぱっと顔を輝かせ、まるでその言葉を待っていたかのように楽しそうに駆け出した。小さな体が陽光の下を跳ねるように進んでいく。その後ろ姿を見ながら江鷹は、転ばないようにと声をかけて足を早める。案の定、丘の斜面の上あたりで神楽は足をもつれさせ、前のめりに倒れてしまった。
江鷹は瞬時に脚へ力を込め、一気に駆け寄ると倒れた神楽を抱き上げ、そのまま勢い余って二人して斜面を転がり落ちてしまう。乾いた草の匂いが鼻を掠め、耳元で風が鳴り、視界がぐるぐると回る。
ドサッという鈍い音と共に、二人は丘の最下まで辿り着き、ようやく止まった。江鷹は反射的に傘を掴み直し、すぐに広げて陽光を遮る。汗ばんだ手の感触と、脈打つ心臓の音が自分を急かす。
「ごめんヨ江鷹!」
神楽が涙目で謝る声に、江鷹は呼吸を整えながら首を振った。
「いいよいいよ、怪我はない?」
「うん!」
「それよりほら、見て!」
江鷹は顎で前方を示した。神楽はそちらへ視線を向け、その瞬間大きく瞳を見開いた。
目の前に広がっていたのは、小さな花畑だった。太陽の光を一心に受け、鮮やかな黄色やオレンジ、赤の花々が風に揺れている。乾いた風に乗って、この花特有の甘くもどこか鋭さを感じさせる香りが漂い、辺りを満たしている。
「すごいすごい!」
神楽は歓声をあげて駆け出し、花々の間を縫うように走り回った。顔いっぱいに笑みを浮かべて無邪気に花を覗き込み、手を伸ばしては香りを嗅いでいる。その姿を見て、江鷹は胸の奥の重苦しさが少しだけ解けていくのを感じた。ああ見えて神楽は聡い子で、最近は不安を隠せず曇った顔を見せる事も多かった。それが今は笑顔を輝かせている。
ふと、江鷹の目に映ったのは、神楽の頭に無造作に引っかかっていた一輪の花だった。先ほど転んだ時に付いたのだろう。彼はそれを見て、ふとある事を思いつく。花畑の中にしゃがみ込み、いくつかの花を手際よく摘み取り、指先で器用に編み込んでいく。茎が交わり、柔らかな花弁が重なって形を作り出す。やがて、小さなリースのような輪が完成した。
「神楽、ちょっとおいで」
呼び寄せられた神楽の頭に、江鷹は花の輪をそっと乗せた。鮮やかな花冠が小さな頭を飾る。
「すごいヨ! これどうやって作ったの?」
神楽の目は丸く、驚きと喜びに満ちている。
「この間会ったお姉さんに教えてもらったんだよね。結構簡単に出来るから神楽にも教えてあげる」
江鷹は花畑に腰を下ろし、傍らに神楽を座らせて花冠の作り方を教え始めた。花を選び、茎を交えて編み込む手順を繰り返し見せる。最初は不器用に花を折ってしまったり、輪にならなかったりしたが、やがて神楽も不恰好ながら花冠を作れるようになった。出来上がった花冠を抱えた神楽は、にんまりと笑って江鷹の頭にちょこんと乗せた。
「あらら?」
「プレゼント!」
「俺は男の子だよ?」
「関係ないヨ、似合ってるヨ」
「そう?」
江鷹は苦笑を浮かべる。格好良くなりたいと願う彼にとっては微妙な心地だが、神楽が心から楽しそうにしているのを見れば、それ以上は何も言えなかった。神楽はその後も夢中で花を編み、次々と花冠を作っていく。「これは神威の分、これはパピーの分、これはマミーの分!」と元気に言いながら選り分け、最後に一番美しく仕上がった花冠を江華に送ることにしたようだ。
その時、不意に空気を裂くようなガァガァという声が辺りに響いた。黒い鳥たちが一斉に舞い上がり、濃い影を地面に落として空へ去っていく。神楽は驚いて肩を大きく跳ねさせ、怯えたように辺りを見回した。先程までの幸福な時間が急に冷たい空気にさらわれたように思え、胸の内に嫌な気分が広がる。江鷹は花を摘んで帰るつもりだったが、神楽が作った花冠があれば十分だと判断した。
「そろそろ帰ろう」
声を掛けると、神楽は言葉もなく頷き、花冠を大事そうに抱えてぴたりと江鷹に寄り添った。その小さな足取りは先程までの軽やかさを失い、往路とは打って変わって足早に進む。江鷹の背筋には嫌な汗が滲み、心臓は速く打ち始めていた。理由は分からない。ただ、胸の奥に張り付くような予感が逃げ場を与えてくれない。
更に歩を速めようとした時、後ろからか細い声が追いかけてきた。
「江鷹もう少しゆっくり歩いて欲しいヨ」
「ご、ごめん神楽」
江鷹は足を止め、神楽が息を整えるのを待ってから再び歩き出した。だが心臓はなおもバクバクと暴れ、胸の奥で何かを告げている。まるで、不可避の出来事を先んじて知らせるかのように。
その時、
「あら? 探したわよ。夜兎族の坊や」
突然、背後から声がした。江鷹は咄嗟に神楽を抱え込み、反射的に身を翻して飛び退く。その視線の先に立っていたのは、先日出会い、花冠の作り方を教えてくれた女だった。空のように澄んだ青い髪に尖った耳が特徴的な姿は、この地では滅多に見られない品性を纏っている。
だが今、その女を前にした江鷹の全身は鋭く警戒を示していた。夜兎族としての本能が告げている。
この女からは、死の匂いがする。
「探したわよぉ、本当に。お名前は何て言ったかしら? お父さんが神晃、星海坊主だって事は忘れていないのだけれど」
「……」
「あら? 無視? 酷いわね、この間はあんなに楽しくおしゃべりしたのに。お姉さん傷付いちゃうわ」
女の声音は柔らかく、微笑は上品ですらあったが、その一つ一つが今の江鷹には薄っぺらな嘘にしか見えなかった。背後に庇われた神楽は怯えた声で震えながら「江鷹」と名を呼び、その震えを聞き取った女は嬉しそうに手を打った。
「そうそう江鷹君! 江鷹君だったわね!」
その楽しげな声に、江鷹の警戒心はさらに研ぎ澄まされる。神楽の小さな手は震えながらもしっかりと彼の服を掴んで離さない。相手の纏う空気は、今まで対峙してきた路地裏のチンピラとは格が違った。これは直感だが、間違いなく何人もの命を奪ってきた者の気配だ。
「改めて、ワタシは
「ッ! 逃げるぞ!!」
江鷹は躊躇なく地を蹴り、弾かれたように駆け出した。抱え込まれた神楽は花冠を握っていた手を思わず離してしまう。地面に落ちた花冠は霧紅の連れていた手下たちの足に踏みつけられ、無惨に潰れてしまった。花弁が潰れる湿った音が響き、グシャリと無情に散らばった花を見て、神楽は耐えきれず悲しい声を上げた。
だが江鷹には、そんな悠長なことを考えている余裕はなかった。右から、左から、さらには頭上からも鋭い刃物が襲いかかってくる。殺すつもりはないのだろう、明らかに力を加減した軌道。しかしそれでも、刃は命を奪うに足る凶器であり、一歩でも読み違えれば即座に血飛沫を上げることになる。かろうじて防げているのは、彼らが手を抜いているからに過ぎない。このままでは長くは持たないだろう。
何よりも今の江鷹は神楽を抱えている。少しでもしくじれば、恐らく二人まとめて捕らえられてしまう。それだけは絶対にあってはならない。江鷹は己に言い聞かせる。江華から神楽を託されたのだ。そして何より、自分は神楽の兄なのだ。弟や妹を守ることが兄の役目。だからこそ、この子だけは必ず逃してやらなければならない。
覚悟を決めれば、次の行動は早かった。敵もこの辺りの地形を下調べしているのだろう。しかし江鷹には絶対の自信があった。散歩が日課だった彼にとって、この一帯は庭も同然。路地の一本一本、塀の高さや抜け道の場所まで。文字通りこの辺りに知らぬ場所などないと言って良いほどに詳しい。
しかし、走り続ける江鷹の肌は既にひび割れ始めていた。追われる途中で傘を落としてしまったせいで直に陽光を浴びている。皮膚がジリジリと焼け、ひび割れ、痛みを超えて崩れていく。神楽は彼の影に庇われているためまだ無事だが、いずれ彼女も陽の光を避けられなくなるだろう。青空の下で走り回ることを夢見たことはあった。けれど、こんな形でそれを味わいたかったわけではない。
角を曲がり、入り組んだ住宅街へ飛び込む。狭い路地の奥には、子供しか通れないような小さな隙間があった。江鷹は迷いなくそこへ駆け込み、見えてきた古びた家の脇に置かれた大きなゴミ箱の前で足を止める。瞬時に決断し、神楽の小さな身体をその中へと放り込んだ。
「…にっ…」
「此処には抜け道がある。そこを通って逃げろ」
神楽が恐る恐る下を覗き込むと、確かに狭いながらも小さな穴があり、子供一人ならば通れそうな空間が奥へ続いていた。
「大丈夫、一本道だから。まっすぐ進めば知っている場所に出るから。振り向かないで早く行け」
「でも、江鷹が」
「良いからッ! 早く行けッ!」
江鷹の怒鳴り声は鋭く、神楽の胸を強く揺さぶった。驚いたように彼女は目を大きく開き、そのまま涙を堪えながら穴へと身を滑り込ませていった。江鷹は確認することもなくゴミ箱の蓋を閉じ、近くに積まれていたゴミを布で雑にまとめると、それを抱えて走り出した。見た目には、彼がまだ神楽を抱えているようにしか映らないだろう。囮の完成だった。
まっすぐ走ればやがて道幅が広がり、大人でも問題なく通れる開けた場所に出る。仕掛けてくるとすれば間違いなくそこだ。江鷹は息を切らせながら覚悟を固めた。
そして路地を抜けた瞬間、予感は現実となった。
空気を裂いて飛来する刃物。初撃は身を捻って辛うじて躱せた。しかし次に襲いかかった刃物は彼の肉体を容赦なく貫いた。鋭い金属音と共に刃が肩と脚に深く突き刺さる。焼けるような痛みに江鷹は歯を強く食いしばり、声にならない唸りを漏らした。
脚が痺れ、支えきれずに地面へと崩れ落ちる。抱えていたゴミが辺りに散らばり、偽装は簡単に暴かれた。視界の端に、霧紅の姿がゆったりと歩み寄ってくるのが映る。
「あら、やっぱり妹とは別れて来たのね。良いわぁ、健気で可愛い。可愛い子は好きよ、ワタシ」
部下のひとりが問う。
「頭領、妹の方も探しますか? すぐに見つかると思いますが」
「要らないわぁ。ただでさえ星海坊主の子を攫おうってだけでも危険なのに、2人は欲張りすぎよ。それに、誰だって娘は可愛いものよ。この子1人より、余程血眼になってワタシ達を探そうとするに違いないわ」
「顔が知られてしまいましたが?」
「この世界に辰羅が何人いると思っているのよ。さっきのだって偽名だし。見つかりっこないわぁ。まあ見つかったら見つかったで、その時はその時よ」
彼女達は神楽を追うつもりはない。耳に入ったその事実に、江鷹は一瞬だけ安堵した。しかし同時に、急激に視界が揺らぎ始める。身体の感覚が痺れ、力が抜けていく。刃に毒が塗られていたのだと理解するのに時間はかからなかった。
「安心してるのぉ? 妹を追わないことに。可愛いわねぇ貴方。ワタシ達は星海坊主に弱みを残してるだけなのよ、奥さんが病気な事も、子供が3人いる事も調べ済み。全部敵に知られているその中で、貴方1人の為だけに家族全てを危険に晒す度胸があるのかしらねぇ?」
霧紅は地に伏す江鷹の三つ編みを掴み、顔を強引に持ち上げると楽しそうに笑った。
「態々娘を見逃してあげた意味が分からないほど星海坊主は愚かじゃないわ。貴方は見捨てられる事になるの。いいわねぇ、可哀想で可愛くて、唆るわぁ」
江鷹は反抗的な眼差しを向け、必死に気丈さを装う。だが霧紅はそれをみて嗤い、刃を閃かせて彼の三つ編みを切り取った。支えを失った身体が地面に崩れ、呻き声が漏れる。すぐさま部下の一人が襟首を掴み、ぐいと持ち上げた。
「今日から貴方は奴隷よぉ、大人しく従う事ね」
「……嫌だね」
「あらぁ、本当に可愛いわねぇ貴方」
精一杯の虚勢。だが霧紅の目には、それすら愛らしく見える。彼女は艶やかに笑った。
そして、
ザシュッ───
「は?」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。左腕に、感覚がない。気づいた時には深く斬り裂かれていた。あまりに鮮やかで、痛みすら遅れて訪れる。だが溢れる血は残酷に現実を示した。
ダラダラと、勢いよく流れ落ちる赤。瞬く間に袖は真紅に染まり、熱が奪われて身体が急激に冷えていく。震えが止まらない。
(え?……え? 死ぬ?…え? 死ぬじゃん……ッ)
視線は自然と下へと落ち、血溜まりが広がっていく様をぼんやりと眺める。意識が遠のき、世界の輪郭が滲んでいった。
霧紅は無造作に、切り落とした三つ編みを血の海へ投げ捨てる。
「今日から、貴方は、奴隷よ。ようこそ、畜生共と同等の世界に」
その言葉が耳に届いたのを最後に、江鷹の意識は完全に途絶えた。