もう1人のバカ兄貴   作:佐倉シキ

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焼痕、焼尽

 

 

 

 

 

 

「放てぇぇッ!!」

 

魈雲の号令を聞き逃さず、上層に潜んでいた辰羅達が一斉に暗器を放つ。飛び交う刃の群れは、龍宮の巨体を狙い澄まして走り、特に先ほど刻まれた傷跡へと正確に突き立てられる。鉄が彼女の鱗を打ち、甲高い音が響く。龍宮はすぐさま火炎放射を止めると、巨大な身を軋ませて回転させ、その尾と腕で暗器を弾き飛ばした。しかし全てを防ぎきれるわけもなく、数本は確実に彼女の肉へと突き立ち、傷をさらに抉った。

 

炎が止んだその瞬間、塔の内部の光景は一変していた。星海坊主の傘が守った狭い円形の空間を除けば、かつて絢爛豪華を誇った大広間は跡形もなく、黒焦げの瓦礫と灰の山と化していた。天井から垂れていた絹の垂れ幕は燃え尽き、金箔を施された壁も、もはや黒い炭の塊に過ぎない。豪奢な調度品は全て炎に呑まれ、塔を彩っていた絵画や織物も虚しく消滅した。赤々と残るのは、未だに広がり続ける火の海。火炎はなおも塔の奥深くへと燃え移り、やがて下層の花屋敷にまで炎を伸ばし始める。まるでこの地下都市全体の終末を映すかのように、不夜城赤龍そのものが炎に包まれ、灯りが消え失せようとしていた。

 

「ぉおッ!」

 

星海坊主が焦げつく床板を力強く踏み抜き、そこから飛び出すように龍宮の顔面へ拳を叩き込む。巨体が仰け反った瞬間を見逃さず、銀時たちも一斉に攻撃を仕掛けた。剣閃が閃き、拳と蹴りが雨のように降り注ぐ。肉を裂く音、鱗を削る音が絶え間なく響き、戦場は怒号と衝撃に満たされる。だが龍宮はただ防御に徹しているように見せかけ、その瞳の奥で鋭く狙いを定めていた。

彼女が狙ったのは神楽。しかし星海坊主が咄嗟に傘を差し込み娘を庇う。だが龍宮の真の狙いはまさにそこだった。鋭い牙で傘を噛み取り、力強く咥えると、そのまま上層へと投げ飛ばしてしまう。防御の要を失ったその瞬間、彼女は躊躇なく星海坊主を足で踏み潰し、爪を腹へと突き立てた。

 

「ぅぎッ……!」

 

鋭爪が臓腑を抉る生々しい感触と共に、星海坊主の口から鮮血が吹き出す。熱い血が床に飛び散り、焦げた地面に蒸気を上げる。首を噛み砕かんと迫る龍宮の牙。その顔面を、江鷹が全力の蹴りで弾き飛ばした。

 

(相手に考える時間を与えるなッ!!)

 

次の瞬間、夕染が上空から振り下ろすように金棒を叩き込み、銀時は横合いから鋭い斬撃を浴びせる。連撃が間断なく降り注ぎ、血と火花が舞った。

 

(反撃する暇は与えねぇッ!)

(ここで決めねば私達は負けるッ!!)

 

傘は失われた。次の炎に晒されれば全員が焼き尽くされる。だからこそ、この連撃で決着をつけねばならなかった。巨体が揺れ、龍宮の爪が一瞬持ち上がる。その隙を神楽は逃さず、必死の力でその爪を押し上げ、星海坊主の体を引き抜いた。新八がすぐさま駆け寄り、傷口を押さえて止血する。

 

その時、銀時の目が鋭く光った。連撃で揺さぶられ続ける龍宮の巨大な頭。その顎の下、ただ一枚だけ逆さに生えた鱗、逆鱗。そこを狙わぬ理由はない。江鷹たちが作り出した刹那の隙に、銀時は一気に刀を突き立てた。

 

「───────ッ!!」

 

咽喉の奥から絞り出されるような絶叫。顎下を貫く激痛に龍宮は巨体をのけぞらせ、暴れ狂った。即座に下手人を見つけ出し、豪腕を振り回して銀時を弾き飛ばす。巻き付けていた布が解け、刀が宙に舞い、彼は武器を失った。

 

「触るなぁァッ!!!」

 

穏やかさを装っていた龍宮の態度が一変する。逆鱗を突かれた怒りが理性を吹き飛ばし、銀時だけを狙う。巨体は狂暴な猛獣のように銀時へと襲いかかる。踏みつけ、引き裂き、噛み砕き、尾で叩き潰す。全ての攻撃は確実に彼を肉片へと変えるためだけに繰り出されていた。銀時は瓦礫に足を取られよろめく。その頭上に覆いかぶさる龍宮の影。巨体が持ち上がり、全重量で押し潰そうと迫る。だが寸前のところで江鷹が彼を抱きかかえ、プレスを回避させた。

 

「悪ぃな」

「別にいい」

「逆鱗に触れるなんて言葉があるが、まさしくこれだな。マジでこんなにキレると思わなかったぜ」

 

銀時は口の中の血を吐き捨てる。その彼に魈雲が木刀を投げ渡した。洞爺湖と彫られた、馴染み深い相棒。既に彼が武器を失った瞬間から探し出していたのだろう。銀時は布を借り、再び手に縛り付ける。

 

「貴方だっていきなり睾丸を握り潰されたら本気で怒るでしょう」

「え!? 逆鱗ってそんな感じなの!? 龍ってあそこに金◯ぶら下げてんの!?」

「モノの例えに決まってるでしょう、龍宮は女です。金◯は無い」

 

冗談を交わすように聞こえても、その顔には一切の笑みはなかった。皆の表情は緊張と決意に引き締まり、攻防はなお続く。だが龍宮の反撃は凄まじく、薙ぎ払う尾、叩き潰す腕、振り回す巨体。その一撃一撃は嵐のように重く、誰もが次々に傷を負っていく。投げ飛ばされ、壁に叩きつけられ、瓦礫に埋もれ、血が散る。龍宮はまるで獲物を弄ぶ猛獣のように彼らを翻弄し、その動きで少しずつ少しずつ、全員を塔の一角へと追い詰めていった。広大な塔の内部を自在に動き回り、さらに炎を吐き出すことで逃げ道を塞ぎ、銀時たちは炎の薄い狭い空間へと集められていく。

 

(やべぇッ)

 

銀時の心に焦燥が走る。だが気づいた時にはもう遅かった。龍宮が大きく息を吸い込む。喉奥から灼熱が漏れ、空気が一気に熱せられる。次の瞬間、彼女の巨口から轟々と炎が解き放たれた。塔全体が再び揺れる。黒く焼け焦げた壁も床も再び燃え立ち、赤々と炭火のように輝きを増す。焦げ臭い煙が喉を焼き、熱気が空間を歪ませ、皮膚を焦がす。

 

逃げろ!

 

そう叫ぼうとした銀時の前に、江鷹が踏み出した。その手には彼自身の傘が握られていた。

 

逃げ場はない。

やるしかない。

 

「お前ッ」

 

銀時が驚愕に目を見開いたその刹那、江鷹は迷うことなく前へ躍り出ていた。炎を吐き出す龍の前に立ちふさがり、片腕を大きく広げて傘を展開する。その黒い布は灼熱を真正面から受け止め、火炎が傘へと叩きつけられた。

先ほど星海坊主が行ったように、江鷹もまたその身一つで仲間を守ろうとする。だが彼の体にはすでに幾度も負った傷と疲労が重なり、全身は血と煤で覆われていた。星海坊主の時よりも明らかに脆く、傘を支える腕も今にも折れそうに震えていた。

 

「あ゛あ゛ぁぁぁぁああぁぁぁ!!」

 

喉を引き裂くような絶叫が迸る。炎の圧力は凄絶で、押し寄せる熱気が皮膚を瞬く間に焼き尽くそうとする。それでも江鷹は一歩も退かず、歯を食いしばってその猛火に抗った。傘の金属骨は音を立てて軋み、布は燃え上がる寸前でかろうじて持ちこたえる。だが炎は無慈悲に彼の体を包み込み、皮膚はみるみる赤黒く焼け爛れ、肉が焦げる臭いが辺りに漂った。

 

「江鷹ッ!!」

「江鷹!!」

 

星海坊主と神楽が絶望の叫びを上げる。二人の声は火炎の轟音にかき消されそうになりながらも、必死に彼へ届こうとした。

 

しかし江鷹は振り返らない。血走った瞳の奥には、仲間を守り抜くという一心だけが宿っていた。全身を襲う焼けるような痛みは無視する。皮膚はただれ、滲み出す汗と血が高温で蒸発し、呼吸さえもままならぬ。喉は乾き、息を吸うたびに肺が焼けるように苦しい。それでも彼は踏みとどまった。決して後退せず、己の体ごと炎を受け止め続けた。

 

やがて、咆哮のごとき火炎は徐々に衰えていく。龍宮の喉奥で燃え盛る炎が尽きたかのように、烈火は唐突にその勢いを失い、ついに炎の奔流が途絶えた。静寂が戻ると同時に、江鷹は腕を振り下ろし、ボロボロになった傘を床へと叩き捨てた。布地は半ば溶け、骨は歪み、もはや原型をとどめていない。

 

肩で荒く息をしながら、江鷹は笑い声をあげた。

 

「ははッ!! はははは!! はははははッ!! やってやったぜ、やってやったぞ!!」

 

その笑いは苦痛に震えながらも、勝利の喜びに満ちていた。己の身を削って炎を退けた達成感に酔うように。

 

「敵ながら天晴れだよぉ、よく耐えたねぇ燕心」

 

龍宮が軽く咳き込みながらも、その声に愉悦をにじませた。銀の瞳が細められ、燃え尽きた灰の中でその赤き龍の姿がゆったりと揺れる。

 

「真っ黒黒な黒焦げになっちゃうと思ったのに……でも痛いよねぇ燕心、痛いねぇ」

 

挑発するような声音。だが江鷹はその言葉に真っ向から吠え返した。

 

「江鷹様を舐めんじゃねぇッ! 痛いのには慣れてんだよッ!!」

 

しかし強がりとは裏腹に、その体はすでに限界を超えていた。焼けただれた皮膚は黒く裂け、苦しげに咳き込むと血が喉奥から溢れ出した。口端を赤に染め、彼は膝をつく。「兄ちゃん!!」と叫ぶ神楽が駆け寄り、その背を必死に摩る。焦げ臭い空気の中、江鷹は赤黒く炭化した床に膝をつき、両手を地に突いた。汗は滝のように流れ、肩は激しく上下する。今にも倒れそうなほど衰弱しながらも、まだ瞳の奥に消えぬ闘志を宿していた。

 

「頑張って偉いけど、無意味だねぇ」

 

龍宮は悠然と立ち上がり、巨体を伸ばして前足をゆるりと上げる。その動きは残酷なまでに優雅だった。

 

「だってもう、皆限界だもの。命の炎は文字通り風前の灯。貴方達の起こす弱々しい風じゃぁこの不夜城の灯りは消せないよ! 私の炎は、貴方達みたいなそよ風じゃあ消せないッ!!

 

その声と共に龍宮は咆哮を上げた。天地を裂くかのような轟音が塔を揺るがし、崩れかけた壁が悲鳴を上げる。雷鳴にも似たその声は耳をつんざき、骨の髄まで震わせる。炎の残滓がその響きに応じるように揺らめき、まるで龍の怒りそのものが炎に形を与えたかのようだった。鼓膜を破りかねぬ音に、誰もが思わず耳を塞ぐ。だがそれでも咆哮は止まず、空間全てを埋め尽くす。

 

その直後、銀時の目前に鋭い爪が振り下ろされた。迫る一撃を避けるには、あまりにも遅い。銀時は直感した、このままでは肉が無残に引き裂かれる。だがその瞬間、赤い影が飛び込んだ。

 

「夕染ッ!!」

 

銀時の眼前で、赤い少女の体が裂かれる。龍宮の爪が彼女の肉を深々と切り裂き、その鮮烈な赤が空間に飛び散った。体は無残に弾き飛ばされ、壁へ叩きつけられる。夕染は口から夥しい血を吐き出し、床に崩れ落ちた。

 

「大人しく繋がれたままでいれば可愛がってあげたけどッ! 逃げるなら、刃向かうのなら、叩き潰して殺すだけッ! 悪い子はちゃぁんと叱らないとねぇ! 下らない死に損ないに感化されるなんて、愚かと言うしかないよッ!!」

 

龍宮の声は怒りと嘲笑が混じり合い、轟き渡る。巨体に再び力が込められ、尾が高々と振り上げられた。その気配を感じ取った魈雲は咄嗟に叫ぶ。

 

「お前達ッ!」

 

その声に応じ、辰羅の部下達は新八や他の仲間を抱えて上層へと避難させる。だが龍宮はその行動を許さない。巨尾が瓦礫を巻き上げるように振り払われ、逃げ遅れた辰羅達の体を粉砕する。血と肉片が飛び散り、悲鳴すら瞬時にかき消された。魈雲自身もまた巻き込まれ、瓦礫の上を転がって止まる。胸が焼けるように痛み、折れた肋骨が肺へと突き刺さる。呼吸のたびにゴロゴロころころと異様な音が響き、まるで陸にいながら溺れるような苦しみだ。肺に溜まる血が呼吸を奪っていった。

 

「結局人型は弱く脆い。元よりない勝機を求めて足掻く様は愚かしくて可愛いけど、そろそろ終わりだねぇ」

 

龍宮の声が、勝利を確信した者の冷酷な響きを帯びる。だが銀時は睨み返し、声を張り上げた。

 

「終わらねぇよ。例えそれぞれが微風のように弱く細やかな風だろうとな、合わさりゃそれは旋風にだってなりえるのさ。テメーの蝋燭みてぇな炎消すだけならそれで十分だろう」

 

言葉を吐いたその瞬間、龍宮の視界がぐにゃりと歪んだ。巨体が揺らぎ、平衡を失って体勢を崩す。

 

(やっぱり毒……今来たか……)

 

想定はしていた。辰羅達の刃には毒が塗られていると。しかし思った以上に強力で、龍の体すら蝕む猛毒だった。龍宮は口から大量の血を吐き散らした。

 

「はは、やっと効いてきた」

 

呻きながらも姿を現したのは魈雲だった。顔も衣も血に塗れ、眼鏡は砕けてどこかへ消えていた。胸の奥には耐え難い痛みが走るが、もはや気に留めない。

 

「貴女を倒すのに手段は選べない。正々堂々、毒殺させていただきますよ」

 

そう告げ、再び暗器を構える。その姿は血に濡れてなお凛然としていた。

 

「う〜ん、前作ってた毒よりもずっと強いね。ふふふ、ふふふふ。頑張ったねぇ」

 

龍宮は吐血しながらも、愉悦を含んだ笑みを浮かべる。その横で、銀時が魈雲に声をかけた。

 

「大丈夫かよ」

「ええ大丈夫です。ちょっとした致命傷ですから」

「引っ込んでた方が良いんじゃねぇの? 死ぬぞ」

「お互い様でしょうソレは。皆死ぬ気で立ち上がっているのです。ここで下がれば男が廃る」

 

銀時は、荒い息を整えながら、己の内に残された力を搾り出すように木刀を構え直した。その背後ではな仲間達も立ち上がる。

江鷹との死闘で全身にあざを刻まれ、さらに龍宮の一撃で骨を折られた神楽は、苦痛に歯を食いしばりながら傘を支える。その横に立つのは、頭蓋にヒビを負い、腹を貫かれ切り裂かれながらも、なお龍宮を睨み据える星海坊主。新八もまた、何度も瓦礫に叩きつけられ、その体を血で染めながらも視線を逸らさない。眼鏡の奥の瞳には、恐怖ではなく闘志が宿っている。

江鷹は皮膚を焼かれ、肉を爛れさせられながらも、再び立ち上がる。足は震え、呼吸は荒くとも、倒れない。そして夕染。つい先ほど体を切り裂かれ臓腑が溢れ出しそうなその腹を自らの手で縫い合わせ、よろめきながらも棍棒を構え直す。その赤い体は血でさらに鮮やかに染まっている。

 

誰ひとり、まだ死んでいない。誰ひとり、眼の光を失ってはいなかった。

 

「ふふ、あははは、うふふふ。良いね、可愛いねぇ、頑張るねぇ。久々にすっごく楽しいねぇ。もっともっと頑張れるんなら、もっともっと付き合ってあげるよ。その旋風、私が焼き焦がして消し飛ばしてあげるからッ!!」

 

龍宮の声が炎の轟きと共に響き渡る。挑発とも愉悦ともつかぬその笑みは、敵意よりもむしろ快楽に満ちていた。だが、それでも7人は恐れず、全身の痛みを押し殺し、互いに呼吸を合わせるように散開して動き出した。

 

銀時が木刀を振り下ろし、新八が切りかかる。神楽は傘を渾身の力で叩きつけ、夕染は棍棒を骨を砕く勢いで振り抜いた。江鷹は鋭く蹴りを放ち、魈雲は血まみれの手で暗器を次々と投げ放つ。そのすべてが絡み合い、わずかに生じた隙を見逃さず、最後に星海坊主が渾身の拳を龍宮へ叩き込む。全員の攻撃が怒涛のごとく押し寄せる。

 

「アハハハハハッ!!」

 

それでも龍宮は哄笑した。その鱗はなお分厚く、どれだけの攻撃を浴びてもそうそう容易く砕けない。もはや防御すら不要とばかりに、己の巨躯と硬質な鱗にすべてを任せ、反撃に転じる。振るわれる爪は壁を裂き、振り下ろされる尾は床を割る。圧倒的な体躯と膂力から繰り出される一撃一撃は、すべてが致命傷になり得る暴風であった。

 

血が噴き出し、骨がきしみを上げる。

 

(嵐かよッ)

 

銀時は腕で薙ぎ払われ、地面を転がりながら口から血を吐いた。視界が霞む中で、直感する。これは人智の及ぶ戦いではない。災厄そのものとの戦いだ。かつて寄生型の異星生命体を倒した時、自分は強者を討ち果たしたと思っていた。だがそれは宇宙の広さにおいては、取るに足らぬ弱者に過ぎなかったのだ。こうした龍のような怪物こそが、宇宙に蠢く真の強者。そして、それを幾度となく打ち破ってきたのが、星海坊主という男だった。そんな相手に、地球人ごときが挑むのは最初から無謀。

 

(それが、なんだってんだよッ)

 

銀時は唇を噛み、己のを奮い立たせる。そんなことは百も承知。だが、それでもやらねばならぬ時があるのだ。血走った瞳で龍宮を睨み、雄叫びを上げて再び突撃する。

 

だが、届かない。毒に蝕まれてなお衰えぬその力。龍宮は血を吐きながらも、7人を一方的に追い詰める。

 

「はは、うふふ。毒も効かなかったねぇ! もう治っちゃったよ? 残念でしたァッ!」

 

嗤いながら巨体を揺さぶり、尾を叩きつける。その一撃は床を粉砕し、広間全体を揺らす。崩落の轟音が響き渡り、足場が軋む。7人は避ける術なく、崩れる床と共に下層へと落ちていった。

 

塔の最上階から数度に渡り落下し、今度はおよそ700メートル付近の広間へ叩きつけられる。100メートル以上を落下した衝撃が骨に突き刺さる。落下したそこはすでに炎が広がっていた。

 

瓦礫の中で呻き声が上がる。銀時は仰向けに潰され、腹の上に乗る太い柱を必死に押し退けようともがく。星海坊主と夕染、魈雲は完全に瓦礫に呑まれ、姿すら見えない。神楽は何とか瓦礫を退けて立ち上がり、江鷹も壁を支えにしながら苦しげに立ち上がる。新八は足を挟まれ、必死に這い出そうと汗を流していた。

 

「じゃあまずは、貴方からだねぇ」

 

龍宮の冷酷な声が広間に響く。狙いは、新八。瓦礫に足を挟まれ、身動きの取れぬ彼の頭上に、巨大な前足が振り上げられる。未来を悟った新八は思わず叫び声を上げる。

 

「新八ィィィィッ!!!」

「やめろぉぉぉぉぉッ!!!」

 

絶望の中で、真っ先に動いたのは神楽だった。地を蹴り新八の前へと飛び込む。迫る爪を傘で受け止めた瞬間、骨が悲鳴を上げ、全身に凄まじい圧力がのしかかる。押し潰されれば瞬時に肉塊と化す。

 

「ぅぎィッ」

 

神楽の口から声が漏れる。龍宮は更に力を込める。だがその時、横から飛び込んだ江鷹の蹴りが迫るのを視界に捉え、龍宮は咄嗟に尾を振って江鷹を弾き飛ばした。その一瞬、神楽にかかる圧が緩み、彼女は新八を抱え上げ、その場から転がるように離脱する。

 

だが、龍宮の瞳がふと床に向いた。ミシミシと音を立て、地面に亀裂が走っていた。この広間は塔の外に突き出した構造をしており、その脆さは激戦に耐えきれず限界に達していたのだ。龍宮はそれを理解すると、戦いに紛れて尾を何度も叩きつけた。揺れる床、鳴り響く亀裂。星海坊主、神楽、江鷹の三人が迎え撃つも、その度に大地が大きく震えた。

 

 

不運だったのは、江鷹だった。

 

二人の攻撃に合わせ、追撃を仕掛けようと強く足を踏み込んだ瞬間、床が耐えきれずに崩れ落ちた。

 

「ッ!?」

 

江鷹は驚愕に目を見開く。足元が空へと変わり、支えを失った体が宙に浮いた。重力が彼を無慈悲に引きずり込み、奈落へと落ちていく。

 

「江鷹!!」

 

仲間たちの叫びが、遠ざかるように耳に響く。崩れ落ちる瓦礫が激しくぶつかり合い、彼は必死に手を伸ばす。辛うじて掴んだ一片に体を預ける。だが、無情にも掴んだ部分までもが音を立てて崩れていく。

 

(あ……こりゃダメだ。死ぬわ)

 

手に伝わる崩壊の感触が、否応なく死の確信を突き付ける。支えを失い、再び体が闇へと引きずり込まれる。

 

「江鷹ッ!!!」

 

星海坊主が咆哮し、飛び出そうとする。だが、その巨体を龍宮が押し潰した。

 

「黙って見てなよ。龍の巣を荒らす事の意味、その魂に教えてあげるから」

 

軋む音、骨の折れる音。星海坊主の体が圧に押し潰され、苦悶の声を上げる。それでも彼の視界は江鷹を追い続けていた。その端を、橙色の髪が稲妻のように駆け抜けた。

 

少女、神楽は迷わなかった。思考するよりも速く、体は動いていた。彼女は炎と瓦礫が渦巻く空中に身を投げ、落ちゆく兄を追って飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

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