もう1人のバカ兄貴   作:佐倉シキ

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兄弟喧嘩

 

 

 

雨が黄色い花畑に静かに降り注いでいた。しとしとと優しく大地を濡らすはずの雨は、しかし今、花々を潰し泥に沈める血の滴りと混ざり合い、異様な戦場を作り出している。

その花畑のただ中で、二人の男が拳を交えていた。

 

それは嵐そのものだった。

 

拳が突き出される度に空気が震え、蹴りが繰り出される度に花畑が裂ける。打撃一つで骨が軋み、肉が裂け、血が鮮烈に舞い散る。普通の人間ならば一撃で絶命するはずの攻防を、二人は当たり前のように受け、返し、笑みすら浮かべて続けていた。

 

花々は無残に踏みにじられ、鮮やかな黄色い花びらは雨に混じり宙を舞う。その一枚一枚が血と混ざり合いながら散っていく様は、凄惨であると同時に異様な美しさを帯びていた。踏み荒らされる度に花畑は大地ごと震え、しかしそれでも残った花たちは雨に揺れ、必死に立ち続ける。自然と暴力、美と破壊が同じ舞台で交錯する光景に、龍宮はキャラキャラと楽しそうな笑い声を漏らした。

 

足りない。そう、まだ足りない。

 

燕心は己の中で呟いた。

 

眼前で笑いながら拳を振るう神威を倒すには、ほんの一歩が足りなかった。今は拮抗している。しかしこの均衡は一瞬だ。このままでは押し負ける。技術は自分の方が上だと理解している。だが力と経験。それだけは神威に及ばない。その差を覆す何かが欲しい。あと一歩、踏み込むための何かが。

 

燕心は迫る拳を寸前でかわし、鋭く脚を振り上げて神威の頭を狙った。鋭い一撃。だが神威はわずかに身を沈めてそれを回避すると、足払いを仕掛けた。燕心の体が大きくよろける。体勢を崩しながらも、燕心は無理やり身を捻じり、地面を蹴って着地する。

 

しかし神威は着地した燕心に追いついていた。しなやかな動きで飛び上がると、宙を裂く勢いでハイキックが振り下ろされる。その一撃はまるで斧のように重く速い。燕心は咄嗟に両腕を上げて防御する。だが受け止めた瞬間、骨が軋み悲鳴を上げた。嫌な感触が腕を駆け抜け、微細なヒビが走ったことを悟る。砕かれる前に反撃しなければならない。

 

神威の体がわずかに揺れる。ハイキックの反動で、隙が生じた。燕心はその隙を逃さなかった。神威の脚を掴み引き寄せ、勢いのまま己の額を振り抜く。頭突きが鋭く鼻梁を打ち砕き、乾いた衝撃音が雨音の中で響いた。神威の顔に鮮血が弾ける。しかし彼は苦悶するどころか、すぐに燕心の腹を蹴り飛ばして距離を取った。

 

鼻から垂れる血を袖で拭えば、当然だが布が赤く汚れていく。それを神威は確認すると、ニコニコと楽しげに笑った。夜兎の驚異的な回復力。数十秒と経たずに傷は塞がり、血も止まる。神威にとって今のダメージなど、ただのかすり傷に過ぎなかった。

 

「どうしたの江鷹。攻撃が緩くなって来てるよ。ひょっとしてもう疲れちゃった?」

 

挑発めいた声が雨に溶ける。燕心は黙したまま、神威を射抜くように睨みつけた。体力はまだ残っている。だが問題は別にあった。拳を振るうたび、血が流れるたび、脳裏を何かが掠めるのだ。古い記憶が頭をかき乱す。視界にノイズが走り、神威の声と共に、江鷹と呼ばれる度に、頭を裂かれるような痛みに襲われる。

 

それは自分の名前ではないはずなのに。

 

だが記憶の奥底で、確かに誰かが呼んでいる。涼やかな女の声だ。幼い悲鳴や、遠い雨音、宇宙船の雑音と共に聞こえていたあの声だけは、いつだって消えなかった。おそらくは、何よりも大切だった家族の記憶。奴隷として引き裂かれる前の、失われた日々の名残。己の源流。

 

──だが今はただの邪魔だった。

 

「江鷹」と声が呼ぶ。女の声が、何度も何度も。

頭が割れそうになる。

 

(違う、俺は江鷹じゃない。俺は燕心だ)

 

そう繰り返す。しかし分からなくなる。自分が誰であるかが。

 

(でも、目の前で拳を振るうこの男の事を俺は知っている気がする)

 

蹴りが地面を砕き、拳が骨を裂く。

分からない。だが知っている感覚。

 

──本当に兄弟なのか?

 

いや、違う。そんなはずはない。だが、どうしてそう言い切れる?

 

分からない。頭の奥で何かが蠢き、雑念が殺意を鈍らせていく。

 

「殺し合いの最中に考え事とは余裕だね。そんなんじゃ俺は殺せないヨ? 江鷹!」

 

神威の目が獲物を射抜いた。燕心の思考の隙を逃さず、強烈な蹴りが振り抜かれる。鋼鉄の塊のような衝撃が腹部に炸裂し、臓腑が潰れるかのような痛みが全身に走った。呼吸が詰まり、燕心の体は無様に地面を転がる。土と花びらと血にまみれ、泥に沈むように止まる。

 

立ち上がらねば、と必死に手を突いたその瞬間、神威の影が覆い被さった。冷徹な視線の下、燕心の頭は容赦なく踏みつけられた。

 

雨がなおも降り続け、花畑は血と泥に沈み、凄惨な兄弟の戦いを静かに照らしていた。

 

「期待外れだよ江鷹」

 

神威の嘲笑が突き刺さる。頭蓋に圧し掛かる脚は石のように重く、骨ごと押し潰そうとする。

 

「俺は江鷹じゃ…」

「じゃあ何をそんなに悩んでんの? 急に殺意まで曇っちゃってガッカリだヨ。己の過去を認めるのがそんなに怖いの? 恐怖と苦痛こそが日常だったから、自分にも平穏な過去があったって認めたくないの? 辛くなるから? 

自分を否定して否定して、そんな奴が強いわけが無いじゃないか。失くしたのなら受け入れて、無理矢理にでも納得して、後はもう前に進むしかないんだヨ。本能に従え、自分を認めろ。

それが出来ないのなら大人しく死ね。弱いヤツに用はない」

 

ギリギリと頭骨が悲鳴を上げる。軋む音が耳の奥で反響し、視界は赤黒く染まり、呼吸すら浅くなった。脳を直接掴まれるような痛みが爆ぜる。

 

このままでは殺される。一体、何が、何が足りないのか。ガンガンと頭蓋の内側を殴りつけられるような痛みに耐えていると、不意にバキリ、と嫌な音がして罅が入った感覚が走った。瞬間、目の裏に光が散り、古い記憶が奔流のように駆け巡る。

 

走馬灯というやつだろうか。

 

そこには美しく繊細で優しい母がいた。母に似た柔らかい笑みを浮かべる妹がいた。自分より二つ年上の兄がいた。家に帰るたびに周囲の空気を変えるほど強い父がいた。顔も名前もはっきりとは思い出せない。だが、それでも確かに存在した“江鷹”の家族。

 

「江鷹」と、

 

頭の奥深くで母が呼ぶ声がする。暖かで、優しく、懐かしい響き。胸の奥に沁み込むその声は、雨のざわめきすら遠ざけていく。

 

──きっと、自分は愛されていた。

──多分、自分は大好きだった。

 

ずっと、帰りたかった。

 

ただひたすらに……

 

「……だから、何だってんだよ」

 

口から零れた声は低く、怒りに震えていた。心臓が焼けるように熱くなり、血管を走る熱は怒りへと昇華する。言われた通りだった。足りなかったのは、受け入れる心だったのだ。

 

燕心は頭を踏み潰そうとする脚を掴み取った。指が沈み込むほど強烈に握りしめ、バキリと骨を握力だけで粉砕した。神威の瞳が大きく見開かれる。

 

そのまま燕心は脚を掴んだまま無理矢理に起き上がり、全身の腕力に任せて神威の体を思い切り地面へ叩きつけた。轟音と共に土煙が巻き上がり、黄色い花弁が雨と共に激しく宙を舞った。

 

「しつこいな、どいつもこいつも。そうだよ、俺は江鷹だ。でも江鷹は、もうとっくに死んだんだ」

 

昏い翡翠色の瞳に、狂気すら帯びた殺意が宿る。胸の奥底で気付かぬふりをしていた未練。“江鷹”と呼ばれていた頃への執着。それが確かにあった。だが、もうどうでもいい。今この場で死ぬわけにはいかない。

 

あれから何年経ったと思っている。今の自分の日常は血と闘争の中にある。家族も、名前も、記憶も、とうに失った。ならば江鷹は既に死んだのだ。

 

下らない過去に縋る必要などない。だからこそ理解した上で、再び捨てる。

 

「我が身は既に骸。全てを失った空の器なればこそ、文字通り余分は全て捨てて往く」

 

やっと真に理解した。燕心の中に残っていた江鷹の記憶(余計な部分)が、足を引っ張っていたのだと。夢も希望も思い出も願いも、必要ない。頭を締め付けていた痛みは、もはや消えていた。

 

神威は地面から起き上がり、血混じりの唾を吐き捨てる。砕けた脚をぷらぷらと揺らし、動きを確かめてニヤリと笑った。

 

「俺は燕心。不夜城が主、龍宮様が臣、燕心だ」

 

その言葉は確信に満ちていた。全てを知り、全てを受け入れ、前に進む。足りなかったのは心だ。短期間に幾度も死線を越え、今この戦いで本当に死にかけたことで燕心は完成した。枷は外れた。全身が羽のように軽い。清々しい気分で、口元が歪んだ。

 

「そうか。俺は神威。春雨第七師団が団長、神威だ」

 

神威もまた笑う。その笑みは獰猛で、血に濡れた犬のように狂っていた。ようやく“同等”と呼べる相手に辿り着いたのだ。弱者と戦う価値はない。ここにいるのは己と同じ修羅。

 

二人の修羅が、雨に煙る花畑で向かい合う。片や獰猛に嗤い、片や陰惨に嗤う。

 

次の瞬間、地響きのような衝突音が辺りを揺らした。

 

始まったのは死闘だった。凡人なら瞬く間に粉々になるほどの猛撃が、矢継ぎ早に降り注ぐ。拳と拳が交わるたびに衝撃波が走り、雨粒ごと大地を跳ね飛ばす。土が砕け、泥が跳ね、血潮が飛び散る。ぶつかり合う拳の数はあっという間に百を数えようとしていた。

 

戦っているのは、もはや人の姿をした獣。二人の少年ではなく、二人の修羅だ。

 

ただひたすらに壊し、殺す。肉を裂き、骨を砕き、夜兎の血に従って体を躍動させる。しかし永遠のように続く殺し合いにも、終わりは来る。

 

互いに一度距離を取り、再び向かい合った。今度こそ最後の一撃となる。全身の筋肉が悲鳴を上げながらも渾身の力を振り絞る。雨は激しさを増し、世界は二人だけになった。

 

だが──

 

「そこまでだ」

「そこまでです」

 

二つの影が間に割り込み、激突を止めた。

 

阿伏兎の傘が神威の拳を、夕染の棍棒が燕心の拳を受け止めていた。

 

「邪魔はするなって言ったよね。阿伏兎、殺されたいの?」

「そうは言ってもなぁ、団長。俺を吹っ飛ばす事も出来なかったあたり結構キテんだろ? これ以上は次の仕事に響く。ここまでだ」

「ちぇ。良いところだったのに……」

 

 

「何のつもりか夕染殿。そこの無礼者の首を捩じ切らねば俺の気は収まらない」

「どちらかが死すれば後に起こるは赤龍と春雨の戦争です。其れを望まれますか?」

「……すまん。浅慮だった」

 

神威はしぶしぶと、燕心は黙って大人しく引き下がった。

 

二人の体はどう見ても満身創痍だった。だが、夜兎特有の頑丈さで、何事もなかったかのように立っている。雨の花畑に、まだ荒々しい息遣いだけが響いていた。

 

神威は鼻梁が無残に潰れて骨が折れ、血で顔を汚していた。左足はあり得ない方向へ折れ曲がり、筋が断たれた右腕は力を入れる度にぎしぎしと嫌な音を立てる。拳を握ろうとすれば痺れが走り、動きは明らかに鈍っていた。

燕心の顔はと言えば、鮮血に塗れていた。額から頬にかけては裂けた皮膚から流れる血が乾ききらず、顎へと滴り落ちる。頭蓋の罅割れは今になって鋭い痛みを脳髄へ突き刺し、呼吸の度に胸が痛み、砕けた肋骨が肺を圧迫するせいか、息は苦しげに掠れていた。

二人の身体にこびり付いた土と泥、そして赤黒く染みついた血潮が、どれほど苛烈で常軌を逸した死闘であったかを雄弁に物語っていた。

 

「俺達は何も殺し合いをしに来たわけじゃあない。さっさと取引終わらせて船に戻るぞ。そろそろあのアホ提督も焦れてくる」

 

阿伏兎の声が冷ややかに割って入ると、神威は鼻血に濡れた顔のまま軽く笑った。

 

「……まあ、いいか。なかなか面白かったしね」

「俺は甚だ不愉快だったがな」

 

燕心は顔を拭うこともなく吐き捨てる。だがその声音には、燃え尽きた直後の残火のような余韻が宿っていた。

 

「はは、そう言うなよ燕心。男兄弟はどいつもこいつも喧嘩をするもんだ。それに夜兎にとって戦闘はお遊びみたいなもんだろ? みんな本能的に戦闘が好きだし」

「そうなのか?」

 

燕心がわずかに眉を顰めると、阿伏兎は肩を竦め鼻で笑った。

 

「団長平気な顔して嘘つくな。それはサ◯ヤ人の習性だ」

「そうだっけ」

 

神威は態とらしく首を傾げ、わざと惚けた仕草を見せる。張り詰めていた空気は不思議なほど容易く緩み、それまでの惨烈な闘争がまるで幻だったかのように、事は淡々と進んでいった。龍宮の侍女たちが血に塗れた二人の身体へ薬を塗り、包帯を巻きながら治療を施す。隣では阿伏兎が無表情に書類を交わし、静かに取引を終えた。やがて危険極まりない薬品は春雨の手に渡り、この銀河にさらなる混沌を呼び込むこととなる。全てが完了し、手当も終わると、双方は無言のうちに帰り支度を始めた。

 

「燕心」

「何だ?」

「決着はお預けになった。でも、次は殺す。だからちゃんと強くなっておいてね」

 

神威の口元には、血で濡れたままの笑みが浮かんでいた。

 

「それは此方のセリフという奴だ。次に見えた時こそはその命を頂く。首を洗って待っておけ」

 

燕心の翡翠の瞳は昏く、だが凄烈な光を宿していた。神威はその眼を正面から受け止め、楽しげに笑みを深めると、「楽しみにしてる」とだけ言った。阿伏兎は大きく溜息をつきながら嫌そうに顔を顰める。

 

「取引は終了だ。じゃあな。2度と会わない事を願ってるよ」

 

そう言って神威を促し、春雨の一団は背を向けた。

「ありがとうねぇ」と龍宮は手を軽く振り、その声に僅かな喜色を乗せて彼らを見送った。

 

 

 

 

    *    *    *

 

 

 

 

──そう、江鷹はもう死んだのだ。

 

もはや失われた記憶が脳裏を過ぎることもなく、優しい声が頭の中に響くこともなくなった。今はただ、主人の命ずるままに拳を振るうのみ。

 

ただ──

 

「やっぱり、気になっちゃう? 昔の家族の事は」

 

仕事を終え、船の廊下に設けられた椅子に腰掛け、ぼんやりと宇宙を眺めていた燕心に、龍宮が柔らかく声をかけた。

 

「そうですね。あの者が俺の兄だというのならばやはり、俺の父は星海坊主なのでしょう」

「そうだねぇ」

「色々、合点がいきました。だからこそ思うのです」

 

燕心はゆるやかに立ち上がり、翡翠の瞳に仄暗い影を宿らせた。

 

「星海坊主と戦ってみたい、と」

「あらあらぁ」

「俺は夜兎の男として、己の実力が如何程のものか試してみたいと思うのです。俺の拳はあの男に届くのかを知りたい。神威との戦いでようやく迷いは晴れました。俺は今が一等心地良い。血に従い、血を制し、闘争の中に身を置く事こそ我が天命でありましょう。 我が主よ、感謝します。俺がこの域に至れたのは貴女に奴隷から解放して頂けたからに違いない」

「へぇ、こうなったかぁ。なるほどねぇ、全部ちゃんと捨てれたんだねぇ。今までの燕心はまるで、自分が誰なのかも分かってない迷子みたいだったからねぇ。なんでも良いのにねぇ、難儀だねぇ」

「……お恥ずかしい限りで」

「ふふ。私は、迷子の燕心も可愛いとは思ってたけどねぇ。今も結局不安定で、それもまた面白いからそれでも良いよ。それより、来年は大きなお仕事があるんだ。その話をしに来たの」

 

龍宮が指を鳴らすと、侍女がすぐに現れ、抱えていた資料を燕心へ差し出した。そこには見覚えのない惑星の写真が載っていた。青と緑の大地が広がる、美しく豊かな星。

 

「その星は地球。自然が豊かで綺麗な星だよぅ。そこに2ヶ月間居を構えて見世物市場を経営する事になったからねぇ。場所は江戸。浅草奥山の地下都市を貸し切る事になったよぅ。魈雲と夕染、それと貴方には仕事を手伝って貰う予定なんだ。だから、その資料をよく読んで理解しておいてね」

「承知しました」

 

龍宮はそれだけ言うとひらりと手を振り、背を向けて去っていく。燕心は片膝を折り跪いてその姿を見送り、彼女の影が消えるのを待ってから再び椅子に腰を下ろした。手元の資料を開く。

 

「地球、か」

 

奴隷商船で耳にしたことがある。地球人は最も安く売買される存在だと。容姿が夜兎族に近いゆえ、よく見せしめとして殺されていたことも。幼い悲鳴が耳鳴りのように響き、意識の奥底をざわつかせる。あの女の声はもう聞こえない。だがこの耳鳴りだけは、どれだけ時を経ても止むことがない。これこそが燕心の罪の象徴なのだろうか。

 

舌打ちを一つ鳴らし、頭を振る。窓の向こうには、限りなく深く黒い、神秘の宇宙が広がっていた。

 

(天人達に支配され、碌な抵抗もできない弱虫共のいる星か)

 

退屈な仕事になりそうだ。

資料を細かく破り捨てると、紙片はごみ箱へ落ちていった。その底には、龍宮が不要と判断した魚の骸が幾つも転がっていた。中には、かつて燕心が気に入っていた緑の目の魚もあったが、今は何の感慨も湧かない。小さく吐息を漏らすと、燕心は資料を忘れ、静かに部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

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