その日、私はとてつもなく焦っていた。7時50分。これが新学期、つまり私の2学期始めの気象時間である。昨日夜更かしして宿題をしていたのがいけなかったのだろうか。しかしながら多分新学期そうそうに遅刻なんてしたら担任に殺されてしまう。そんなわけで私はまだ夏ですよと言わんばかりの日差しの中、自転車で学園島を爆走しているのだった。
私はいつも使わないような頭と土地勘をフルで活用しもう地元のタクシードライバーも知らないんじゃね、と言った裏路地を走って行った。
時間を確認するべく左腕の腕時計を確認する。そこには8時9分と表示されていた。まだ間に合う。朝の教師会が終わるのは8時15分。この距離と速度なら学校まで1分と少しくらいで到着するだろう。あと一息だと自分に言い聞かせながら最後の路地を曲がる。
いや、曲がろうとした。しかしその曲がり角の先には人がいた。身長は170と少しくらい。細身の男性だった。制服からして、と言うか学園島にいる時点でで武偵高の生徒だろう。私は咄嗟にブレーキを握る。しかし、時はすでに遅く、私の自転車とその男子生徒はぶつかってしまった。私のぶつかった男子生徒はもうビックリするくらいにぶっ飛んだ。3メートルくらい。それもそのはずだろう。私は競輪選手もビックリのスピードで相棒の自転車をこいでいたのだから。
幸いと言えるかどうか分からないが私にも自転車にも傷は付かなかった。しかし今は自分の無事喜んでいる場合じゃない。いくら防弾使用の制服と言えどかなりの衝撃だっただろう。とりあえず私のぶつかった男子生徒を介抱しないと。
「大丈夫ですか!」
私はその男子生徒に駆け寄る。いくら友人からものぐさしぃちゃんと呼ばれていてる私でもこれは流石に無視できるレベルじゃないし。
その男子生徒をまじまじと見ると、体型は平均よりちょっぴり大柄で細身、見知らぬ人にこんな評価をしていいのかは分からないが顔はいかにもフツーな顔。
しかしながら、フツーと言ってもある程度は整っているので微イケメンと言った感じだろうか。
幸いその男子生徒には目立った外傷はなかった。とりあえず私はほっと一息ついた。やがて気持ちも落ち着いて冷静な思考を取り戻すことが出来た。もう学校は完全に遅刻だな、と思いながらその男子生徒をに声をかける。
「あの、どこか怪我とかありませんかぁ」
と、まぁありきたりな言葉を掛けると
「うぅ、」
そのた男子生徒が呻き声を上げた。
「どこか痛むところはありますか!」
その男子生徒の返答はなんと言うか、会話になっていなかった。
「あぁ、大丈夫ですよ。心配かけてしまいましたね。そんなことより、武偵高の校舎ってどこですかね?」
私は驚愕した。確かに武偵高の制服は頑丈だが、あれほどまでに吹っ飛ばせれて、と言うか吹っ飛ばされるくらい細身なのにどうして、すぐケロっと意識が回復したのか。と言うか先輩だったらどうしよう。この人がもしも強襲科の人だったら私は半殺しではすまないだろう。この男子生徒を私は見かけたことがなかったので一抹の不安を覚えた。
私が思考に耽っているとその男子生徒は声をかけてきた。
「どうかしましたか?」
「少し考え事をしていて…」
その一言で我に返った。
「と言うか、えーとあなたはどうしてこんなところを自転車で?」
「今日は新学期早々寝坊しちゃって。」
「それは災難でしたね。」
その男子生徒は気さくな笑みを浮かべた。しかしその男子生徒の笑みは、と言うか表情は笑顔なのにも関わらず感情が読み取れないような、そんな表情だった。
私はそんな表情を見ていると少し不安になってきたので、今度はこちらから話題をふることにした。
「あなたはどうしてこんな時間に歩いていたんですか?」
相手が上級生であるかもしれないということを念頭に置き、なるべく落ちついた口調で言った。
「今日、こちらの東京武偵高校に転入することになったのですけど、職員室の場所が分からなくて、と言うか校舎がどこにあるのかも知らなくて、それで道に迷っていたんですよね。」
「はぁ。」
その男子生徒の言葉使いはどこか素っ気ないしゃべり方だった。
「それで、非常に申し訳ないのですが、案内をお願い出来ますかね?」
「だ、大丈夫です。」
私は考え事をしていたので声が上ずってしまった。私は少し赤面しながら答えた。
「えーと、それはOKと言うことでいいんですかね?」
「あっ、はい。案内します…」
「いやー。助かりますよ、ありがとうございます。」
その時の彼の少しはにかんだ表情はどこか無機質で少し失礼かもしれないがちょっぴり恐怖を感じてしまったのだった。