術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る 作:藍沢カナリヤ
ーーーー????ーーーー
『…………』
「あなたは誰?」
『…………』
「ここはどこ?」
『…………』
「寒い……暗い……足元が濡れててイヤ……ホントになにここ……?」
『…………』
「……もしかして、死後の世界?」
『…………』
「ねぇ、なんとか言ってよ」
『ア…………』
ーープツンーー
ーーーー呪術高専東京校内 霊安室ーーーー
「はっ!」
急激に覚醒した私は飛び起きる。混乱している私の目の前には2人の人物、
「五条先生と伊地知さん……?」
「や、よく眠れたかい?」
「ひぃぃぃっ!? 羽々場さんもっ!?」
五条悟と伊地知さんがいた。五条悟はどこか満足げに、伊地知さんは悲鳴をあげていた。対照的なその様子はどこかで見たことがある気がするんだけど、如何せん寝起きの頭では考えられない。
「まさかこっちも生き返るとはね」
「あ、硝子さん……」
「おはよう、ねこ」
家入硝子さんがいた。呪術師の中でも数少ない『反転術式』の使い手で、現在高専にいる術師の中で唯一他人を治せる貴重な人材である。実は冥さんに鍛えられていた2年間で何度か治してもらっていたこともあり、顔見知り、なんだったら、私にとってはお姉さん的なポジションの女性だ。
と、その面子を見たことでやっと理解した。ここ、もしかして高専の霊安室か? ふぅむ、辺りを見渡すとストレッチャーや壁に備わってるソレ用の引き出しがあり、ここが霊安室であることを確信する。だとすると……。
「あ、やっぱり服着てない……」
私、全裸。私が全裸だからか、五条悟と伊地知さんは私から目を反らしてくれている。まぁ、私も年頃の乙女だ。2人が目を反らしてくれているうちに、硝子さんから服でも借りてーー
ーーガチャーー
「五条せんせー! 俺の服なんだけどさー」
「へ?」
不意に霊安室の扉を開けて、入ってきた彼と目が合う。彼ーー虎杖くんも私同様真っ裸である。
「な、なんで羽々場、ハダカでっ!?!?」
「見るなァァァァ!! その目潰れろォォ!!」
コンマ2秒。私は虎杖くんの両目を潰しにかかったのであった。
くそがぁっ!! 精神年齢は26だから恥ずかしさなんざ一切ないが、それでも私の裸を見ていいのは、伏黒くんだけなんだよッ!!
ーーーーーーーー
「ごめんなさい。不可抗力だったんです」
「ふむ、許す」
引き続き霊安室にて。
五体投地で謝る虎杖くんのことを、私は河口湖よりも広い心で許す。乙女の柔肌を伏黒くんより先に見たのは許せんが、不可抗力であるのは事実。それに私も油断していたからね。
「それで、話は終わった?」
どうやら五条悟は私達のやり取りが終わるのを待っていたようで、頃合いを見計らって口を挟んできた。虎杖くんの謝罪も一段落したし、話を進めるとしようか。私は虎杖くんを隣に座らせて、話を切り出した。
「はい。それで五条先生、聞きたいことがあるんですけど」
「うん、君たち2人とも死んでたよ」
「っ」
「…………はぁぁぁぁぁ」
単刀直入に言う五条。それを聞いて、虎杖くんはどこかバツの悪そうな顔をし、私はクソデカため息を吐く。
まぁ、この状況だし、そういう結末になってしまったのは、なんとなく察してはいた。でも、納得はいかない。特級は私が引き付けていたはず。野薔薇ちゃんを引きずり込んだ呪霊は、野薔薇ちゃんと伏黒くん2人がかりなら突破できる相手だろうと思う。その後、合流できたならば、虎杖くんが死ぬ要素はないはずなのに……。それを確かめるために、口を開く。
「あのさ、虎杖くんはなんで死んだの?」
「……あの後無事、伏黒と釘崎と合流できたんだ。2人とも消耗はしてたけど、少年院を脱出できた」
「なら、なんで? もしかして、私を助けに戻って、あの特級にやられたとか……?」
お人好しな虎杖くんのことだ。残った私を助けに行くって言いだしかねない。ただその場合はきっと伏黒くんが止めるはず。だから、その可能性は低いと思ったんだけど。
「少年院から出た後、俺だけまた引きずり込まれたんだよ」
「は?」
「なんだっけほら……そうだ、『生得領域』ってやつに」
「!」
つまり、私を殺した後に、あの『虫』野郎は虎杖くんたちを追って『領域』を拡大したってことか? いや、でも、あの『領域』はたぶん宿舎を中心に展開したもの。伏黒くんがいつかやるように、建物を外郭として構築したものだと考えられる。だから、あの『虫』に『領域』の範囲を拡大するような器用さも実力もないと思ったけど……。
ともかくこれは誤算。私の読み違えが招いたことなのだろう。そう思い、私は虎杖くんに頭を下げた。
「私じゃあの呪霊を止められなかったってことだよね。デカイ口叩いといて……ごめん」
「あ、いや、そうじゃなくて……」
「?」
何がそうじゃないのかと訊ねる前に、ここまで静観してた五条悟が口を開いた。
「悠仁からは2種類の強い呪力の残穢がある。ねこの残穢と比べるとハッキリ分かる。脱出した悠仁を『生得領域』に引き込んだのは、別の呪霊だ」
「なっ!?」
別の個体!? しかも、『生得領域』を展開できるほどの呪力をもった呪霊がもう一体発生したってこと!?
「そ」
おかしい! そんな展開、私は知らない!
確かに、仙台での一件では私が介入したことで、本編と流れが多少変わってはいた。だが、これはどう考えてもおかしいだろ。もう一体の特級クラスの呪霊の発生なんて、イレギュラーにも程がある。虎杖くんからこの後の話を聞くに、その後の展開はほぼ原作通りのようだった。『縛り』なしで虎杖くんと代わった『宿儺』は、もう一体の特級を瞬殺し、その後伏黒くんと戦闘になり、時間でまた虎杖くんが『宿儺』を抑え込んだ、と。
「…………そっか」
「羽々場?」
「…………」
歴史の強制力。そんな言葉が頭に浮かぶ。
結局、虎杖くんは一度死に、また生き返った。たぶん『契闊』も結ばれてしまっているのだろう。くそっ、なんだこの展開はっ!
まだ若干モヤのかかった頭をどうにかフル回転させ、何が起きているのか考えていた私だったが、
「ま、その辺は僕が調査しておくさ」
五条悟の一言で、思考を遮られてしまう。正直、まだ混乱はしているが、今の私にできることなんて限られているし、ここで考えていても埒が明かないことは分かってはいる。
……うん、ここは五条悟大先生に投げておくのもまぁ、ありか。適当なことを言うのに定評のある彼だが、自分の生徒が2人も死んだのだ。いつもよりもマジに調べてはくれるだろう。
「特級クラスの呪霊が2体も出たんだ。それこそ、僕レベルの案件だしね」
「……分かりました。もし何か分かったら教えてください」
「オッケー」
軽い返答に些か不快感を感じるも、今は……うん、任せるしかないだろう。
「てな訳でぇ! 君達にはこれから修行を受けてもらうよ~!」
ここからは見知った流れだ。
「あ、ねこは別メニューね! 極秘に任務をいくつか受けてもらうよ」
「へ?」
と思ったら肩透かしを食らってしまった。なぜかと訊ねると、
「だって、悠仁とねこじゃ、呪術への理解度が違うからね。悠仁は呪術の基礎を教えるけど、ねこには必要ないでしょ?」
そんなことを言われてしまう。まぁ、一理ある。私は冥さんに鍛えられ、呪術の基礎と体術については、ある程度のレベルにあるわけだし。
だから、と五条悟は言葉を続ける。
「ねこは実践編さ。重めの任務をこなしてもらう。そして、君は……」
「自分の術式と向き合っておいで」
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自分の術式と向き合う。
普段は五条悟の言うことをあまり信用していない私ではあるが、この時ばかりは、その言葉がストンと自分の中に落ちるのを感じていた。
そうだ。私は自分の術式のことを何も知らない。
向き合う必要がある。私の『ほのぼのにゃんにゃん』と。
………………この名前どうにかならんかなぁ。
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呪胎戴天編終了。
次回、新章です。
ねこが向かう任務とは!?