術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る   作:藍沢カナリヤ

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修行パートというものは総じて酷く退屈な時間である。


第12話 邁進躍進全速前進

ーーーーーーーー

 

 

「はっ、は……」

 

 

戦闘が始まって約1時間。私の息はもうあがっており、それに対して冥さんは息1つ乱していない。まったく……あのデカイ斧ブンブン振って、なんで余裕なんだよっ! 頭では分かってはいた。いや、分かっていたつもりだった。

 

 

「これが1級、か」

 

「防戦一方じゃないか。攻撃しないと『黒閃』は出せないよ」

 

「っ、はぁっ!」

 

 

一気に距離を詰める。呪力を纏わせた蹴り。

 

 

「……甘い」

 

「っ、まだっ!」

 

「!」

 

 

蹴りはフェイク。本命は私の体の陰、冥さんの死角から繰り出す掌底。手と足は冥さんの視界の一直線上にある。気づかれてない、入る!

 

 

ーーガシッーー

 

「な!?」

 

 

完全に不意を突いたはずだ。けど、その拳は掴まれていた。くっ、なんでっ!!

 

 

「出だしを隠した時間差攻撃。狙いは悪くない、狙いはね」

 

「……防御されてたら説得力ないですよっ」

 

「私は教師ではないが……あえて点数を付けるなら30点。落第だ」

ーーグググッーー

 

「ちょっ!?」

 

 

掴まれた拳をそのまま持ち上げられ、投げ飛ばされる。距離が開いたからか口をついて文句が出た。

 

 

「30点って低すぎません……?」

 

「ごちゃごちゃと考えている時点で『黒閃』は決まらない。集中力が必要だと言ったろう」

 

「ぐ、ぬぬっ」

 

 

分かってますよ。そう言い返したいところだったけど、残念ながら正論過ぎてぐうの音も出ない私。

 

 

「憂憂、時間は?」

 

「17時半です」

 

「……羽々場くん、今日はここまでだ」

 

「っ、まだやれます!」

 

 

私には時間がないんだ。冥さんは私が疲労困憊で集中力を欠いているのを見抜いているんだろうけど、それでも私はーー

 

 

「いいや、君がまだできるとかは関係ないよ。私はこれから為替レートの終値を確認しなくてはいけないからね」

 

「え、えぇ……」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

自分よりも為替の終値を優先された私は、翌日再び件の村に来ていた。

今日は残念ながら冥さんは別の任務が入っているようで、私だけ憂憂の術式でここに送られた。着いた時はまたもゲーゲーしていたが、だいぶ落ち着いた。背中さすってとお願いしたのに、放置して冥さんのところに戻りやがったあのクソガキは後でぶん殴るとしても……。ともかく『黒閃』の訓練のできない私は1人、村を練り歩く。1つ目の目標が進まなくても、私にはもう1つ目標があるのだ。そのための村歩き。でも、

 

 

「昔の記憶かぁ」

 

 

私には『羽々場ねこ』になる以前の記憶、所謂前世の記憶はある。けれど、この村で伏黒くんに助けられた以前の『羽々場ねこ』としての記憶はないのだ。忘れてるってよりも『抜け落ちている』って方がしっくりくるかな。だから、正直思い出せって言われてもなぁ……。

 

 

「…………一応、羽々場家に行ってみるかぁ」

 

 

五条悟から受け取り、そのままカバンに詰め込んだこの村の地図を引っ張り出す。この村について調べてもらってはいるから、その報告書を預かっていたのである。

 

 

「呪詛師『野本重三』による旧■村民102名の呪殺に関する報告」

 

 

その報告書の内容は次の通りである。

2016年3月、■県旧■村にて、大規模な呪力行使を観測。その調査のために、1級呪術師・冥冥及び準2級呪術師・伏黒恵を派遣した。現地到着後、呪詛師『野本重三』により村人102名が呪殺されていることが確認されたため、2名の呪術師が会敵、撃破した。

その際、1名の少女を保護した。

……とまぁ、知ってることしか書いてないなぁ。仕方ない。足で稼ぐしかないなと思いながら、歩いていたらいつの間にか目的の場所に辿り着いた。

 

 

「……ここ、だよね」

 

 

旧羽々場家。家屋は残っていることには残っているが、かなり荒れ放題だった。2年前まで人が住んでいたとは思えないくらい荒れ果てている。そのまま外観を見て回る。壁は一部剥げ、建物としての意味をなしていなかった。中にも入ったが、残念ながら収穫はなかった。どの部屋もうっすらと見覚えがあるようなないような……つまりは思い出したとは言えない。

収穫はなかったから、今日のところは引き上げるか。

……そんなことを思って、旧羽々場家玄関へと足を向けたとき、ふと目がとある場所に引き寄せられた。どこにでもあるような靴箱。朽ち果てていること以外は何の特異性もないそれに何故か目を奪われてしまった。

 

 

ーーずきっーー

 

「っ」

 

 

頭痛。と同時に記憶の断片が脳裏を過る。

 

 

「この靴箱……たしか……」

 

 

覚えのない記憶に従い、私は横開きであろう靴箱の戸を『押し込んだ』。すると、

 

 

ーーガコンッーー

 

「こんなところに……『穴』」

 

 

押し込まれた戸は、そのまま靴箱の裏側にあった空きスペースにはまる。そうして現れた『穴』は、恐らく地下へ続いているのだろう。大人1人がギリギリ通れる程度の直径で、誂えたような梯子もついていた。

明らかに不自然。あるはずのない場所にあるはずのない『穴』がある。本能は告げていた。ここに入るのは危険だと。けれど、『黒閃』も出せず、術式も弱い今の私にできることなんて、数えるほどしかない。なら、

 

 

「…………仕方ない」

 

 

スマホのライトをつけ、胸ポケットに入れる。よし、これで一応の光源は確保した。鬼が出るか蛇が出るか、ともかく伏黒くんを救えるくらい強くなるためには、ここで足踏みしていられない。私は『穴』にかかっている梯子に足をかけた。

 

 

ーーーー『穴』内部ーーーー

 

 

カツンカツンと、私が梯子を下る度に音が反響する。音からしてもまだ底が深いようだ。同時に呪力感知を巡らせて、呪霊の類いにも警戒を続ける。いない、とは思うけど。

 

 

「…………」

 

 

辿り着いた『穴』の底。明かりはない漆黒に、目が慣れるまで少し時間がかかった。やがて見えたその空間は、何もない場所……いいや、違う。『何か』ある。

 

 

「小屋?」

 

 

間違いない。小ぢんまりとした家屋だ。こんな地下深くに空間が広がっているのにも違和感があるというのに、小屋があるだって? 異常で異様だ。だが、その異様な光景に反して、その小屋から呪力は一切感じない。それが妙に不気味だった。ただここまで来てしまったのだ。毒を食らわば皿まで。私は躊躇しつつも、小屋の扉を開けた。

 

 

ーーキィィーー

 

「お邪魔、しまーす……」

 

 

中には『井戸』があった。それ以外は何もない。

 

 

「井戸? 井戸、ねぇ」

 

 

なんだろう、某井戸系の黒髪ロングな悪霊でも出てくるのか。それにしては未だに呪力を感じない。だから、私は少し油断して、その『井戸』を覗き込んでしまったのだ。

 

 

ーーぐんっーー

 

「ッ!?」

 

 

瞬間、引き摺り込まれる。抵抗できないほどの力だ。私は為す術もなく、そこまで深くない『井戸』の底に落ちた。

 

 

「いったいなぁっ! 何してくれとんねんっ、ごらぁ!!」

 

ーーびしゃっーー

 

「あ?」

 

 

足元に不快感。この『井戸』は枯れていなかったのだろう。足首まで水に浸ってしまっていて。ここに引き摺り込んだ張本人に文句の1つでも言ってやろうと思って…………止めた。

 

 

「なんだよ、お前っ」

 

『…………』

 

 

目の前にいたのは、人間ではない。姿は猫に近いが、普通の猫の姿とは違い、体毛が一切ない。そして、そいつの目はーー

 

 

「っ、『ほのぼのにゃんにゃん』ッ」

 

 

顔を背け、目が合いそうになるのを避けた。同時に、術式を解放する。足元に出でる2匹の『猫』。いつも気まぐれな仔たちだが、呪力を通せば従ってくれるし、敵を引き付けてもくれる。だから、いつものように呪力を通す。

 

 

『…………』

『…………』

 

「え? なんでお前ら……こっちを見てるんだよ……?」

 

 

けれど、式神『猫』は敵に向かわず、私の足元にいて、ただじっとこちらを見つめていた。そして、それらが口を開く。

 

 

『ねこですねこはいます』

『ねこはいますねこです』

 

「っ」

 

 

乗っ取られた!? そういう術式か!?

警戒してその場から飛び退いたんだけど、『そいつ』は音もなく私の足元に移動していて。

 

 

 

『ねこですよろしくおねがいします』

 

 

 

ーーーー10時間後・旧羽々場邸前ーーーー

 

 

待ち合わせの場所にいない羽々場くんを探し歩いて30分。辿り着いたのは、彼女の生家だった場所であった。そこで座り込む彼女を見つけたのだけれど、どうにも様子がおかしい。

 

 

「羽々場くん?」

 

「……こ…………すね…………いま……」

 

 

呼びかけには応えない。いつもの快活だけが取り柄の彼女にあるまじき様子。立ち上がった彼女は明らかに正気ではなく、何かをブツブツと呟いていた。

 

 

「……姉様」

 

「あぁ、『命がけ』で頼むよ、憂憂」

 

「……こ…………すね…………いま……」

 

 

憂憂に呪術の使用許可を出し、私も斧を構える。私が呪力を斧に纏わせたのとほぼ同時に、彼女から感じる呪力も跳ね上がった。

 

 

 

「ねこはいます」

 

 

 

ハッキリとその言葉が聞こえた次の瞬間、私達を囲うように呪力が展開されていく。これは!

 

 

「姉様、これはっ!!」

 

「『領域』だね…………そうか、はぁ」

 

 

1つ息を吐く。彼女には2年間の投資をした。その費用対効果があると思ったからだ。しかし、こうなってしまってはどうしようもないだろう。残念だが、切り替えよう。彼女は金脈、ダイヤモンドの原石だったのだけれど……。

 

 

 

「残念だよ。君を祓うことになってしまうなんてね」

 

 

 

間違いない。彼女は既に『呪霊』と化していた。

 

 

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