術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る 作:藍沢カナリヤ
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「ぬぅぅぅんんっ」
頭を抱えながら歩く。決して攻撃を受けているわけではない。いや、攻撃といえば攻撃か。精神攻撃ではあるけど。
私の苦悩の理由、それはーー
「なぜ奇声をあげているんですか」
「ああ?」
隣を歩く女・来栖華の質問に、メンチを返す私。そう。この女が私の精神的苦痛の原因である。
『舌抽』を手にした私は、都内の児童養護施設を探し回り、この女を見つけ出すことができた。親が殺されているという予想と東京にいるという情報だけで見つけるのは、手間だったが、まぁ、見つかったからよしとする。問題はこの女の中にいる『天使』がまだ目覚めないことだ。
「で、まだ?」
「まだか……と言われても……」
「ほら、あるでしょ。自分の内側に何かがいる感覚とか、その何かが自分に話しかけてくるとかさ!」
「…………」
「来栖?」
「もしかして、羽々場さんって『厨二病』ってやつですか? その歳で……可哀想……」
「(#^ω^)」
このアマァァ……ッ、今すぐ『黒閃』撃ち込んだろか!?
……い、いや、我慢だ、私。すべては伏黒くんのため、すべては伏黒くんのため。深呼吸深呼吸。
「すぅぅぅ、ふぅぅぅ、すぅぅぅ、ふぅぅぅ」
「?」
「よしっ! 来栖!」
「はい?」
「とりあえず呪霊との戦いを見せるから、それ見て勉強してよ」
「見たこと自体はありますが、まぁ、分かりました」
「…………」
前の一文いるか、ごらぁぁ! まったく……ああ言えばこう言いやがる。あー、私、この女キラーイ。
その後、伊地知さんに連絡をとり、近場にいる手頃な呪霊祓除任務を斡旋してもらって、私達は近くの廃ビルへ向かうことにした。
ーーーー都内某所・廃ビル内ーーーー
「気味が悪いところですね」
「呪霊が出るところなんてそんなものだよ」
「……そうでした」
きっと幼少期のことを思い出しているのだろう。たしか彼女は昔、親を殺され、その呪霊に1年近く飼われていたという過去をもっていたはずだ。文字通り飼われていた、だ。私はその一部しか知らないから、彼女の心中は察して余りある。
「それでその呪霊はどこに?」
キョロキョロと周りを見渡す来栖。普通、非術師には見えないだろうが、既に『舌抽』を使い、中にいる『天使』を叩き起こしている。覚醒こそまだだけど、視える条件は揃ってるのだ。だから、
ーーぞわっーー
「っ」
「……うん、来たよ」
『バァァァァッ!』
天井からぶら下がるように現れた呪霊。呪力は高くない。高く見積もっても準2級……3級かな。うん、これは簡単に祓えるね。
「来栖、私から…………来栖?」
「…………っ」
横を見ると、来栖はガクガクと自分の身体を抱きながら震えていた。流石の私でもそこまで腐ってはないようで、ザマアとは思えなかった。むしろ少しだけ後悔する。荒療治すぎた、か。
「大丈夫。来栖を傷つけさせないから」
「っ、羽々場さん」
「『ほのぼのにゃんにゃん』」
『にゃんっ!』
『にゃー!』
言うと同時に、私は術式を発動させる。2匹の『猫』が駆け出していく……って、ありゃ?
『にゃぁぁ』
「……白い猫ちゃん?」
2匹のうちの1匹、白い方の『猫』は来栖の足元にすり寄っている。そういう指示は出していないけど……。
『にゃっ』
来栖はしゃがみ、『白猫』を撫でる。
「不思議、です。近くにはあんなに恐ろしい呪霊がいるというのに、この子から目が離せない」
「……そういう術式だからね」
「ありがとうございます。気遣ってくれて」
別にそういうつもりはないけど。そう返すも、来栖は微笑む。
「貴女は、私の過去を知っているんですよね」
「まぁ、うん」
「あの時、本当に怖かったんです。いえ、その感情すら殺して生き残ることだけを考えていました」
「…………」
「だから、あの白いもふもふが……彼が私を助けてくれたとき、私はあの人が本物のヒーローだと思いました」
昔を懐かしむような声と表情。認めたくはないが、来栖の伏黒くんへの思いは本物なのだと理解してしまう。
「それから、名前も分からない彼の隣に立てる人間になるように、私は他の人に手を差し伸べてきました。そして、今日、貴女から彼のことをーー伏黒恵くんのことを聞いた」
「…………」
「私の力で彼を救えるのなら、私はーー」
ーースッーー
来栖が呪霊へ向けて、掌を向ける。そして、唱える。
「『邪去侮の梯子』」
上空より光の梯子が現れ、『黒猫』に翻弄されていた呪霊へと降り注いだ。受けた呪霊は一瞬で消滅、塵と化していた。
「羽々場さん」
「なに?」
「今度は私が恵を救います」
目の色が変わった。もう彼女の中に怯えはない。代わりにあるのは、決意だ。今度は自分が恩人を救うのだという決意。
それを感じ取った私は、彼女に改めて告げる。
「調子乗んな、伏黒くんを救うのは私だ」
「は?」
「お前のことなんか伏黒くんは覚えてないし! 所詮は昔救った有象無象の1人ですぅぅ! それに比べてぇ、私は同級生! 彼と机を並べて勉学に励むそんな青春に打ち込んでいまーす。どっちが彼と結ばれるかは考えるまでもありませんよねぇぇぇぇ!!」
「むむむっ! お、お言葉ですが、知り合って何年も経つというのに、名字にくん付けで呼んでいる時点でお察しだと思いますが?」
「うぐっ」
「それで、羽々場さんは彼からなんて呼ばれてるんですぅ? まさかそんなマウントをとってくるんだから、さぞ親密な関係なんですよねぇぇ」
「っ………………ば」
「は? 聞こえませんけど?」
「羽々場……って呼ばれてるけど(小声)」
「フッ、名字呼び。流石は『同級生』ですね、ちゃんと名字を認知されて羨ましいです」
「ぐ、ぬぬぬぬっ」
『議論をしているところすまない。私は『天使』……状況を教えてくーー』
「外野は黙ってて!!」
「外野は黙っててください!!」
『…………』
そうして、私と来栖は小一時間、どちらが伏黒くんにふさわしい女なのか言い合いをして。その間、目覚めた『天使』は空気をよんで待ってくれたのだった。
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『なるほど。『羂索』がそんなことを……』
任務からの帰り道。私は『羂索』による企みを来栖と『天使』に改めて説明した。流石に詳細まで話すと、私はなぜそれを知っているという話になってしまうので、概略ではあるけれど。それでも、『天使』自身が受肉していることもあって、納得はしてくれた。
「とにかく私は伏黒くんの姉である津美紀さんの中にいる術師『万』さえ殺せればいい。協力してくれるよね、『天使』さん」
『それは勿論。元の人格を殺し、受肉するなど不文律を侵す行為は見過ごせない』
「そう言ってくれると思ってたよ。それで来栖は?」
一応、彼女にも話を振る。それに愚問だと返してくる来栖。まぁ、こっちも想像通りだ。問題は、
「どう切り出すか、でしょうか」
「まぁ、そうだね」
津美紀さんの中に呪術師がいて、そいつを殺したい。
伏黒くんにそう言って伝わるだろうか。話は聞いてはくれるだろうが、じゃあ、なんでそんなことを知っているかとか、本当に津美紀さんに危険はないのかとか、その辺りを詰められたら正直厳しい。
「……伏黒くん、なんやかんやシスコンだからなぁ」
「彼、シスコンなんですか?」
「! そ、そうそう! もうめっちゃシスコン! ドン引くレベルよ!」
しめた! これでこいつの伏黒くんへの恋心が冷めてしまえばーー
「家族を大切にできる……素敵なことです」
「チッ」
恋は盲目。このアマ、中々に手強そうだ。
『正直に伝えればよいのでは?』
反れかけた話題を元に戻す『天使』の一言。友人のいうことなら信じてくれるだろう。『天使』の言葉も尤もではある。ただ、今日は10月29日。つまり、『渋谷事変』が起こるまであと2日しかないのだ。
「ねぇ、『天使』。来栖の身体で『邪去侮の梯子』をフルパワーで打てるようになるのにどのくらいかかる?」
『………………5日は見た方がいい』
「だよね」
想定通り。『死滅廻游』編よりもずっと早く覚醒したとはいえ、まだ目覚めて日が浅い『天使』の力が完全に戻るまでは時間がかかる。その間に『渋谷事変』が起こってしまう。ただでさえ一大事件なのだ。伏黒くんを混乱させるようなことは今は言えない。それは彼自身の命を脅かすリスクになる。
「来栖は『天使』に術式の使い方とか色々学んで慣らしといて」
「羽々場は?」
「……数日後に大きな事件が起こる。そこで私は伏黒くんを守る必要があるんだ」
「………………」
「万が一のことがあったら、合図はする。その時は助けにきて」
「……はい」
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そうして、私は『渋谷事変』を迎えることになる。
術式『ほのぼのにゃんにゃん』と『簡易領域』。
術式解放『いえねこ』と『黒閃』。
呪具『舌抽』と協力者・『天使』来栖華。
そしてなにより『原作知識』がある。
準備できる手札は揃えた。
私のすべてをもって『渋谷事変』を乗り切るんだ。
伏黒くん達と笑い合える未来を手に入れるために。
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次回から『渋谷事変』開幕。
ちなみに、第2話前書きと小説情報にキャラクターイラストを貼らせていただきました。
絵師様→紅香様 https://skima.jp/profile?id=184673
Xアカウント→紅様 @kou130km