術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る   作:藍沢カナリヤ

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第23話 渋谷事変ー肆ー

ーーーーーーーー

 

 

『……領域展開ーー『蕩蘊平線(たううんへいせん)』』

 

 

『舌抽』を再び突き刺したその瞬間、奴は『領域』を展開した。同時に広がる浜辺と海の『生得領域』。見渡す限りの青は穏やかでいて、恐ろしさすら感じる。

 

 

『術式解放『死累累湧軍(しるるゆうぐん)』』

 

「っ、ヤバ!?」

ーースッーー

 

 

それを確認してすぐ私は憂憂から教わった『簡易領域』を発動する。勿論、憂憂ほどの練度はない。あくまで付け焼刃だ。一応、必中効果は消せるが、特級相手だとすぐに剥がされる。効果が出るのに時間がかかるであろう『舌抽』では決定打に欠ける。ならば、私のとるべき選択は1つ。奴の無尽蔵の式神『死累累湧軍』を迎撃しつつ、奴の眼前で『いえねこ』を叩き込む!

 

 

『海は万物の生命。その源……』

ーーズズズズズッーー

 

「っ」

 

『人間に防ぎきれるはずもない』

 

 

夥しい数の魚が現れる。ヤツメウナギ、アンボイナ、ウツボ。どれも巨大で、予想よりもずっと速い。必中ではないとはいえ、それでもかなりの速さで魚共が喰らい付こうとしてくる。それを呪力を込めた蹴りや拳で迎撃するが、

 

 

ーーゴリゴリゴリゴリッーー

 

「簡単に剥がしやがってっ!?」

 

 

私の『簡易領域』はどんどん剥がされていく。実力差があり過ぎるっ! このペースだと保って十数秒程度。にもかかわらず、『いえねこ』を直接ぶち込める近さまで接近できてない。

……仕方がない。一か八か賭けだ!!

 

 

ーーガッーー

 

ーーザクッーー

ーーバグッーー

 

ーーザクッーー

ーーバグッーー

 

「痛ッ」

 

 

魚が刺さり、喰らいついてくるのを覚悟して、無理矢理前進する。腹と腕に奴の術式2匹分が直撃する。激痛ではあるが、どうにか耐えられる。ここなら十分だ。いける!

 

 

「術式解放『いえねこ』ッ!」

 

『ねこですよろしくおねがいします』

 

 

『縛り』で私には見えない『いえねこ』は、確かに奴の眼前へ。単純に奴の視界から距離が近い。その分、術式効果は高まっているはずで。

 

 

『ねこはいますねこはいます』

 

『……これは、猫か?』

 

『ねこです』

 

 

発動はした。これで、どうだ!?

 

 

『ねこはいますねこです』

 

『ふんっ!』

ーーザクッーー

ーーザクッーー

 

『ねこはいますねこでーー』

 

ーーブチッ、ブチッーー

「ぐ、が……ッ」

 

 

薙ぎ払うように放たれた2匹の式神。1匹は『いえねこ』へ。勿論、その程度では『いえねこ』は消えない。だが、私への攻撃は当たる。魚は私の左肘から先を喰い千切った。意識が一瞬飛び、術式が途切れる。『簡易領域』も完全に削られ切った。

 

 

「っ、くそッ」

 

『……必中効果が戻ったか。ならば、これにて終幕だ』

 

 

ダメだ。さっきのでは『いえねこ』の速度が足りない。術式効果を上げるには、『縛り』を捨てるッ!

 

 

「まだだっ、術式解放『いえねこ』ッ!」

 

『ねこですよろしくおねがいしますねこはいます』

 

 

今度は私にも見える。私にも効果が及ぶ可能性のあるリスクをとって、術式効果を上げたのだ。これで術式が奴に及ぶ速度が上がってーー

 

 

ーーブチブチブチッーー

 

 

気づけば、私の右足は喰い千切られていた。奴の言う通り、『領域』の必中効果が復活している。当たる瞬間まで現れない人喰い魚。私には自動迎撃する『落花の情』は使えないから、対応できない。呼吸が荒く、気を失いそうになる。けれど、激痛で気を失うことすら……。

 

 

「はっ……は……っ、ふぅ……っ」

 

『何を考えているかは分からないが、もう策がないのだろう』

 

「はぁっ……ぐ……ッ」

 

 

大丈夫大丈夫。『縛り』をつけて、術式効果を上げるんだ。

 

 

「……術式……解放『いえ、ねこ』……」

 

『……ね、こで、すねこ、はい……ま、す』

 

 

息も絶え絶えに『いえねこ』を解放した。今度は私にも相手と同程度の影響が出るように『縛り』を設ける。これでリスクを上げて、術式効果も上げる。

 

 

『また同じ術式か。無駄だ。術式効果を上げたのだろうが、それでも私には通用しない』

 

「分かってる……ね、こです……ねこは……」

 

『……しかも、術式効果を上げたことで、むしろ自らの精神を蝕んでいる。皮肉なものだな』

 

「ねこで、す……よろし、くおね……がい……ねこは、いま、す」

 

 

意識はある。けれど、私の頭の中にあるのは『いえねこ』のことですだけ。ねこですによる支配が始まってますねこはいます。ねこですねこです。

 

 

「ねこ、です……」

 

『?』

 

 

ーーーーーーーー

 

 

暗い。冷たい。

唯一光の入る遥か頭上の穴。

そこから誰かが覗き込んでいるのが分かった。

 

あなたは、だれ……?

 

 

ーーーーーーーー

 

 

目の前の少女は自らの術式に呑まれた。誰がどう見ても勝敗は決している。このまま『死累累湧軍』で少女を喰らい尽くし、『漏瑚』の元に向かった他の呪術師を始末しに行く。それが『陀艮』の考えていることであったが……。

ふと『陀艮』が抱いた違和感。

『死累累湧軍』が発動しない。

まるで頭に靄がかかったようで、術式が上手く発動できない。それどころか呪力を練ることも……。

 

 

ーーーーゾワッーーーー

 

『!?』

 

 

悪寒。産まれ落ちたばかりの『陀艮』が初めて感じた命に届き得る何か。それを目の前の自らの術式に呑まれかけている少女から感じたのだ。その正体は、すぐに分かる。

 

 

 

「領域展開ーー『猫爾(びょうに)自惑閤(じわくごう)』」

 

 

 

その直後、『陀艮』の視界が黒に染まる。『蕩蘊平線』の青が、たった今発動した相手の領域『猫爾自惑閤』に押し切られたのだと理解した。目を凝らせば、黒い靄が『領域』には満ちており、その靄は『領域』の上下左右に無数に存在する大小の『井戸』から発生していることが分かった。分かってしまった。

 

 

『っ』

 

 

その瞬間に、意図せず『陀艮』の動きは止まる。呪力の放出も止まる。『陀艮』の脳はすべての思考を停止する。

代わりに脳に入りこんでくるのは『井戸』とその内に棲む『ねこ』に関する情報だ。強制的に脳にあるすべての知識・意識を『井戸』にすり替える。思考の強制統一化。それが『猫爾自惑閤』に付与された術式効果である。

 

 

『…………』

 

 

この領域『猫爾自惑閤』を防ぐ術はある。『井戸』から発生する黒の靄を五感で感じ取らないことだ。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚。そして、呪力でもこの靄に触れてはいけない。靄と関わった瞬間に脳は支配され、『井戸』のことしか考えられなくなる。

 

 

「ねこですねこはいますねこです」

 

『…………』

 

 

ユラユラと羽々場ねこは『陀艮』に迫る。この『領域』内では『ねこ』と『井戸』以外は存在することを許されない。この『領域』自身が存在してはならない者を排除する。彼女は今、『領域』の意思を遂行する。

 

 

ーーぐっーー

 

「よろしくおねがいしますねこですねこですねこです」

 

ーーぐ、ぐ、ぐぐぐぐっーー

 

 

無抵抗な『陀艮』の首を徐々に絞めていく羽々場ねこ。決して強い力ではない。だが、指はゆっくりと確実にその首に食い込んでいく。自身の力に耐えきれず指が折れていくのにも構わずに。

時間にして、30秒ほどして、

 

 

ーーめぎっ、めぎっーー

 

ーーゴロンッーー

 

 

『陀艮』の首が落ちた。『陀艮』は呪霊。本来ならば、すぐに呪力を巡らせ、治すことができる。

だが、その選択肢は思考を完全に支配された今の『陀艮』にはない。死の瀬戸際ですら、頭にあるのは『ねこ』と『井戸』のことだけ。呪力を練ることもせず、ただ緩やかに死んでいく。

やがて、その肉体は霧散し、黒い靄に溶けていった。

 

 

「……ね、こ…………はいま、す……ねこで…………す」

 

ーーーーバシュゥゥゥーーーー

 

 

次の瞬間に『領域』が崩れた。それは決して彼女の意思によるものではなく、単に呪力切れによる『領域』の崩壊だった。立ち尽くす羽々場ねこの頭にあるのは、依然として『ねこ』のこと。

術式解放『いえねこ』のそれとは比べ物にならないほどの支配力。そのままだと彼女は廃人に等しい、『ねこ』のことしか考えられない物体になる。だからーー

 

 

「…………羽々場さん!」

 

 

ーー猪野に連れられた来栖華がこの場に来たことは、まさに奇跡としか言いようがなかった。間一髪である。支配が取り返しのつかない領域に入る前に、彼女は間に合った。

 

 

「酷い怪我に、精神汚染も…………『天使』、行けますか」

 

『ああ、怪我の方はむりだが、彼女の中の『呪い』の残穢は完全に取り除ける』

 

「お願いします……『邪去侮の梯子』ッ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

転生者・羽々場ねこの参戦によって、この『渋谷事変』においては原作との差違が多く発生していた。

羽々場ねこの機転で、味方に引き込んだ禪院甚爾の高専側への協力。

重傷者はいるものの、死者ゼロでの特級呪霊『漏瑚』の祓除。

猪野琢真の戦闘続行と『天使』来栖華の参戦。

戦局は刻一刻と変化し続け、既に原作からは大きく解離している。

 

そして、『宿儺』と式神『魔虚羅』の戦闘の起こる、あの魔の刻が訪れる。

 

 

ーーーー同日 23:07ーーーー

 

 

「おい、オマエ! そいつから……虎杖から離れろッ!」

 

『ん? なに? 虎杖悠仁の仲間?』

 

 

渋谷駅構内。

『脹相』との戦闘に敗北し、気を失っている虎杖悠仁に手をかけようとしていた『真人』。禪院甚爾らから離れ、渋谷駅地下5階を目指していた伏黒恵が、それを見つけ、制止した。

 

 

『あー、あの下衆以下の情報にあったっけか? んんんんん? いいこと……思い付いたぁ!』

 

「……っ、『玉犬・渾』っ!」

 

 

虎杖を助けようとする伏黒。虎杖と親しい仲間を殺して、その死体を起きた虎杖の目の前に転がし、彼の心を殺すことを思い付く『真人』。

原作にない戦闘が始まろうとしていた。

 

 

ーーーーーーーー

殺伐としてきてるので、1年生それぞれとの日常パート入れていいですか?

  • 見たい
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