術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る   作:藍沢カナリヤ

27 / 40
『死滅回游』編が始まる。


死滅回游
第26話 黒柔


ーーーーーーーー

 

 

「もしもし、冥さんですか」

 

「はい、私です。羽々場です」

 

「私は無事です。どうにか逃げおおせて、今は高専にいます」

 

「……そうですね、東京は酷いことになってますよ。呪霊が溢れ返り、都市機能も録に動いてない。ゴーストタウン一直線って感じです」

 

「冥さん達はイスタンブール、でしたっけ?」

 

「……あ、そうでした。今日、電話したのはですね……実は近々、五条先生復活すると思うので、その時は戻ってきてくださいねって連絡でした」

 

「え? あぁ、実は私、こんなこともあろうかと五条先生の封印を解く手段を準備しておいたんですよ。五条先生がいれば、冥さんが戦った偽夏油傑も、『宿儺』も倒せるでしょう?」

 

「…………いえいえ、偶然です。買い被りすぎですよ、冥さん。私はただの2級術師……まぁ、等級なんてもうあってないようなものですけどね」

 

「ともかく封印を解く目処が立ったらまた連絡します!」

 

 

ーーーー首都高・道路上ーーーー

 

 

『……終わったか?』

 

「うん、こっちから会いに来たのに、待ってもらって悪いね、『脹相』」

 

『…………』

 

 

私の電話が終わったことを確認して、声をかけてくる男ーー特級呪物『呪胎九相図』の長兄・『脹相』。血色の悪い顔色と現代とは合わない和服。高専からわざわざ出向いてきた私を疑っているようで、その視線は非常に厳しい。

まぁ、無理もないね。今や虎杖くんの処刑を実行しようとする高専は虎杖くんの敵。この兄を名乗る不審者からしたら、私は敵の手先である。警戒もする。

 

 

「それで、虎杖くんたちは?」

 

『…………』

 

 

ノーコメント、だそうだ。けれど、注意深く呪力を感知すれば、ここから少し離れたところにある虎杖くんと東堂葵の呪力を感じることができた。ここにも原作との相違点があった。『渋谷事変』にて術式を殺されず生き残った彼が『超親友(ブラザー)』と共に東京の呪霊を祓って回っているらしい、という噂は本当だったようだ。

 

 

「いいの? あっちに行かなくて」

 

『悠仁はそこまで柔ではない。弟に害を為す可能性のある者を監視する方が優先度は高い』

 

「そりゃそっか」

 

 

肩を竦めて、そう返す。『脹相』はそういう奴だよね。知ってる知ってる。

 

 

「警戒してるところ悪いんですけど、私は虎杖くんの敵ではありません。むしろ、彼の力を借りたくてここに来たんですから」

 

『…………』

 

 

見定められている。でも、いくらでもどーぞって感じ。私の言葉に嘘はないのだから。

現在、進行している話は『死滅回游』編。本来であれば、伏黒くんの依頼を受けて、津美紀さんを救うため、虎杖くんはその戦いに身を投じる。けど、今、彼はいない。だから、私が伏黒くんの代わりに動いている。まず私がすべきは、虎杖くんに前を向いてもらうこと。彼に生きる目的を与えることだ。

 

 

「貴方も分かってるんじゃないですか。虎杖くんはきっと自分を責めながら戦っている。伏黒くんが『宿儺』に乗っ取られたことで、なんで自分は『あの時』死ななかったのかって」

 

『…………』

 

「贖罪で戦うなんて、それほど辛いものはない。だから、私は彼に伏黒くんを取り戻す手伝いをしてもらおうとしています」

 

『…………』

 

「重ねて言いますけど、私は彼を害するつもりはない」

 

『……ここで待て。悠仁を呼んでくる』

 

 

そこまで言って、やっと『脹相』は信用してくれたのだろう。私に背を向け、虎杖くんのいる方へと歩き出した。『脹相』を見送りながら、ふとスマホに目を落とす。時刻は…………あー、もうこんな時間か。だとするとーー

 

 

「あー、『脹相』」

 

『なんだ?』

 

「すみません、前言撤回です」

 

 

一言詫びて、私は呪力を解放した。

 

 

「『ほのぼのにゃんにゃん・片堕』」

『ニャァァ』

 

『っ……なんのつもりだ』

 

 

術式を発動すると同時に、私の足元に現れる1匹の『猫』。真っ黒な体と真っ白な瞳。黒と白の『猫』が現れた。私が術式を解放したことで『脹相』はこちらへと振り返った。決して殺意をもって『猫』を出したわけではない。あくまでもこれは足止め。恐らくそろそろ『あの人』が虎杖くんと接触する頃だから、『脹相』をここに留めておく必要がある。

 

 

「贅沢を言えば、東堂先輩もこっちに引き付けたかったんですけどね……まぁ、『あの人』なら2人相手でも大丈夫でしょ」

 

『……今一度聞く。お前の目的はなんだ?』

 

「ん? 今はねぇ……虎杖くんを殺すこと、かな」

 

『そうか、死ね』

ーーパンッーー

 

 

一瞬。手の内で凝縮した血液が、

 

 

『『穿血』ッ!!』

 

ーーーーバシュンッーーーー

 

 

撃ち出された。『赤血操術』の奥義・『穿血』。音速を超えるのは初速のみ。それでも私の身体能力では決して避けられない攻撃だ。けど、正攻法で突破する気は私にはない。

 

 

『ニャァッ』

「ほっ!」

 

『なんだ、それは!』

 

 

『猫』による意識誘導で、『脹相』の意識を一瞬だけ奪った。それにより照準もずれる。普通なら一瞬意識を向けただけで、照準はずれないだろう。けれど、『片堕』は呼び出す『猫』を1匹だけにして、破壊されやすくするという『縛り』により、意識を奪う術式効果を上げている。タコ呪霊相手に効かなかったのを踏まえて、この数週間で術式を改良したのだ。

 

 

「これで、確実に殴れる!」

ーーゴンッーーガッーー

 

『くっ!?』

 

 

呪力を込めた拳で殴る、殴る。あの冥さんに鍛えられたのだ、私の体術は一級相応。そんな攻撃を『脹相』は辛うじて防いでいた。

 

 

「ほっ! はぁっ!!」

ーーゴンッーーガッーーバキッーー

 

『ッ、『赫鱗躍動・載』』

 

 

一発、私の攻撃が通ったのを受けて、『脹相』は私への認識を改めたようだ。循環する血液により肉体を強化する『赫鱗躍動・載』を使った。これで簡単には通らなくなった。

 

 

「おらぁぁっ!」

ーーブンッーー

 

『無駄だ』

ーーガシッーー

 

「っ」

 

 

その証拠に、今までどうにかさばけていた私の拳が完全に捉えられてしまった。こうなれば、近距離戦闘は不利……だからこそ、ぶちかますんだ!

 

 

『フンッ!』

ーーバギィッーー

 

「…………ぐっ!? けどっ、もらったッ」

 

 

顔に一撃貰う。痛い。けど、その勢いを利用して倒れながらも大きく振りかぶる。ぶちかます!!

 

 

「お、らぁぁぁぁっ!!」

ーーバギィッーー

 

ーーカァァァァンッーー

 

 

渾身の一撃が『脹相』の脇腹に入った……が、当たった感触がおかしい。

 

 

「っ、これはっ!?」

 

 

『渋谷事変』で虎杖くん相手に出した『赤血操術』による硬化。不意を突いたはずだった。咄嗟に使ったというのにこの硬度か。

 

 

「流石はお兄ちゃんっ」

 

『お前にそう呼ばれる筋合いはないッ!!』

ーーパンッーー

 

「やばっ!?」

 

 

ーーパシュンッーー

 

 

再びの『百斂』。圧縮された血液が打ち出される。けど、

 

 

『ニャッ』

「あっぶねぇっ!? でも、それは外れるってば!」

 

『…………『超新星』』

ーーパンッーーパンッーーパンッーーパンッーー

 

「っ」

 

 

そうか、それもあったな。血の散弾ならば、照準がずれても関係ないってか!

 

 

「上等ッ! 『簡易領域』っ!」

 

 

血の散弾が私の肉体に炸裂前に発動するは『簡易領域』。円内に入った攻撃を全自動で迎撃するプログラムを組み込んであるから、血の散弾も呪力で固めた拳で打ち落とせた。そのまま私は距離を取る。

ふぅぅ、危ない危ない。残念ながら私には虎杖くんのように『呪い』への耐性は高くない。一撃でも当たったら毒にやられ、アウトだった。よく対応した、私!

 

 

『…………』

ーーパンッーー

 

「またかよっ、余韻に浸らせてほしいんですけど」

 

『『穿血』』

ーーバシュンッーー

 

『ニャァァ』

「っと!?」

 

 

再び襲いくる血液のビーム。当たりはしない。けれど、さっきよりも私と『穿血』との距離が近づいている。対応してきてるってことか。流石に強いね、弟を守ろうとする時は特に。

……ちょうどいい。『アレ』を試す相手としては申し分ない。使ってみーー

 

 

ーーぬるっーー

 

 

「!」

『!?』

 

 

隠し球を使おうと、掌印を結ぼうとしたその時、その呪力は突如として現れた。五条悟と似た、でも、それよりもずっと底の深い気味の悪い呪力。その主の名は、

 

 

「あれ? 君は?」

 

「っ、乙骨先輩」

 

 

乙骨憂太。呪術高専東京校の2年生で、特級術師の1人。

五条悟が封印されている今、高専側の最高戦力がそこにはいた。彼の介入は原作通りではあるから、私は分かっていたけれど、『脹相』にとっては当然現れたバカデカい呪力を垂れ流すその術師の存在に動揺を隠せないようだった。でも、乙骨先輩が引きずっている虎杖くんを見て、目の色が変わった。

 

 

『悠仁に何をしたッ!?』

ーーパンッーー

 

 

冷静さを失った『脹相』の『百斂』。けれど、その隙を乙骨先輩が見逃すはずもなく。

 

 

ーードゴッーー

 

「ごめんなさい、ちょっと眠っていてもらいます」

 

『ッ……悠、仁……っ』

 

 

膨大な呪力を帯びた手刀による一撃で、『脹相』の意識は刈り取られたようだ。吹き飛び、道路の淵に叩きつけられた。

 

 

「つ、つよぉ……」

 

 

流石は特級、菅原道真の末裔だ。多少動揺していたとはいえ、一級クラスの『脹相』を一撃とは恐れ入る。

 

 

「乙骨先輩、はじめまして。私、呪術高専1年の羽々場ねこといいます」

 

「あ、うん。僕は乙骨憂太。えぇと、君は……」

 

「乙骨先輩側で……虎杖くん側でもあります」

 

「……そっか。じゃあ、行こうか。向かうで東堂くんが待ってるから。そこの彼のことは任せてもいい?」

 

「はい」

 

 

私は乙骨先輩の言葉に頷き、『脹相』を引きずって歩き出した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

それからのことはほぼほぼ原作通りだ。

焚火をしながら、虎杖くんに『反転術式』をかけて治した乙骨先輩といち早く意識を取り戻した『脹相』と共に、虎杖くんが目覚めるのを待つ。原作と違うのは、東堂先輩がいることくらいかな。

少しして、虎杖くんが起き、現状を説明する。

呪術総監部との『縛り』のせいで、虎杖くんを一時的に殺したが、乙骨先輩は味方であること。

偽夏油が仕掛けた呪術師による殺し合い・『死滅回游』が始まっていること。

そして、伏黒くんはまだ生きていること。

ただ、それを聞いても尚、虎杖くんの表情は暗い。

 

 

「虎杖くん、自分を責めるのは分かるよ。『宿儺』を閉じ込めたまま、死んでおけば……そう思ってるよね」

 

「…………」

 

「渋谷で伏黒くんの肉体で『宿儺』が受肉した時、君は少しの間だけだけど『宿儺』と戦い、その斬撃を受けた。諸に受けたのに、生きてる。それが伏黒くんが生きているなによりの証拠だよ」

 

 

虎杖くんを相手取ったことで、伏黒くんの魂が攻撃することを拒絶したんだ。その結果、『宿儺』の呪力出力が落ちた。つまりは、伏黒くんの魂は死んでいない。だから、

 

 

「『宿儺』から取り戻そう、伏黒くんを。そのために、力を貸して」

 

「…………っ、あぁ」

 

 

贖罪のための虎杖くんの戦いは一旦打ち止め。伏黒くんを救いたい。私の提案を虎杖くんは呑んでくれた。こうして、原作と違う『死滅回游』が始まった。伏黒くんを救うためが。

そのために、まずは!

 

 

「あのですねぇ、虎杖くん……実はぁ……仲直りを、手伝ってほしいんだけどぉ……」

 

「はい?」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

喧嘩別れをした来栖華との仲直り。

それが今の最重要案件であった。

 

ふぇぇぇん、私じゃあ通話も出てくれないし、会ってもくれないんだよぉ……。

陽キャの力を借りなきゃ、仲直りなんて無理なんだよぉぉ……。

 

 

ーーーーーーーー




仲直り編スタート!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。