術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る 作:藍沢カナリヤ
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結論から言うと、来栖との仲直りの切り札こと虎杖くんは同行してくれなかった。泣く。
まぁ、それも仕方ないのは分かってる。虎杖くんから『宿儺』が抜けたことで、彼の戦闘力は確実に落ちた。だから、いち早く彼が戦えるようにしないといけないのは自明の理。原作同様に『呪胎九相図』を取り込むことを優先するため、同行できない。
というわけで、その代わりに同行することになったのは……。
「…………はぁぁ」
「マイブラザー虎杖の頼みとはいえ、こんなつまらない女に同行することになるとはな」
東堂先輩。またの名を妄想癖の化物。
本来、『渋谷事変』で術式が使えなくなり、フェードアウトしたはずの彼は、この世界では『死滅回游』編でも生き残っていた。『真人』との戦いで、左手の薬指と小指を欠損してこそいるものの、術式も使えるようだった。
強さは認めるが、こと女の子との和解というミッションに就くには人選ミスも甚だしい。同じ欠陥人格なら、冥さんの方が数百倍マシである。
「誰がつまらないってぇ? あぁ?」
「伏黒恵のようなつまらん男が好みなどと……フッ、そんな人間がつまらなくない訳がないッ」
「あ"ぁ"ぁ"? そっちの方がつまらないでしょうが! な~にがケツとタッパのデカイ女だぁ? 身体だけじゃねぇか、この思春期がッ」
私よりもはるかに背の高い東堂先輩にメンチを切る私。つか、こんな奴が読者に人気があるのが理解できない。筋肉チョンマゲゴリラじゃんか! ハッ、こんなやつに敬語はいらん、先輩もつけん!
「……てか、来栖も伏黒くん好きなので、余計な口を挟むんじゃねーですよ、話がややこしくなるし」
「フッ、マイブラザーに免じて、ここは尊重してやろう」
「へえへえ、ありがとーございまーす」
そうして、私は筋肉チョンマゲゴリラと共に、来栖がいるという東京第2コロニー近くまで赴いたのだった。
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「…………死臭がすごい」
東京第2コロニー付近。濃い呪力の気配は結界から漂っているけど、私が感じている死臭はこの中からしているものではない。
「何かいるな」
東堂の言葉に黙って頷く。バカでかい気配を醸す結界があるせいで、その他への呪力感知がザルになってる。けど、確信できる。近くにこの死臭の原因となる何かがいるって。
「ちょっと暑苦しいんで、離れてもらえます?」
「……いいだろう」
東堂が私から離れた次の瞬間、
ーービュンッーー
「っ!?」
物凄いスピードで何かが飛んでくる気配がした。飛んできたモノはそのまま私の右腕を貫く……前に、
「『簡易領域』」
発動していた『簡易領域』でそれを受け止めることができた。見れば、私が掴んだのは謎の肉塊だった。血で濡れているのか、ぬるぬるとした感触が気持ち悪く、咄嗟に投げ捨てる。
「ん? これは……?」
地面に放られた肉塊を拾い上げ、観察する東堂。正直、衛生観念を疑うけれど、今はそれを確かめてもらえるのはありがたい。
「それ、なんです?」
「……人体の一部。形状から察するに肺だろう」
うげぇ、そんなのを掴んじゃったのかぁ……。今すぐにでも手を洗いたいくらいだけど……。
『頂戴頂戴』
「そうもいかないようだぞ」
「溜息が出る……」
結界内から現れたのは呪霊。恐らくは偽夏油・『羂索』が解き放った呪霊の内の1体だろう。その形は限りなく人間の男に近い。だが、長くうねる髪には水草や砂が混じり、およそ人間とは言えない存在感を放っていた。人語も介するとなれば、等級は低く見積もっても一級程度。一応、こちらには東堂がいるから負けることはないだろうけどーー
『ーー領域展開『
「「!?」」
完全に想定外。相手の手の内が分からない初手から『領域』を使ってくるとは!? 『領域』を使えることを考えれば、奴は特級クラス。負けないだろうという考えは捨てろ。
「「『簡易領域』」」
互いに干渉し合わないように距離を取り、『簡易領域』を発動する。これで必中効果は消えるけど、術式効果は打ち消せない。『簡易領域』の剥がされるスピードはだいぶ遅い。その間に、この呪霊の術式を見極めなくちゃいけない。
「『ほのぼのにゃんにゃん・片堕』」
『ニャァァッ』
『猫』を出した瞬間に、東堂は呪霊に向けて駆け出す。特級にも通じる『猫』だ。奴の視線を釘付けにできる数秒、それだけあれば東堂には充分。
『頂戴頂ーー』
「フッ!」
ーーゴスッーー
ーードゴッーー
「フンッ!!」
ーーバギッーー
『だ……い』
3連撃。効いている。怯んだ間に繰り出した東堂の蹴りは呪霊を吹き飛ばした。そして、
ーーパンッーー
「これはオマケだ」
ーーバギィィッーー
吹き飛んだ呪霊の先にいた私と東堂の位置を入れ替え、吹き飛んだ勢いを利用して東堂の蹴りが再び炸裂した。呪霊は地面に叩きつけられ、動きを止める。だが、『領域』は未だ消えない。
「ぐッ」
「東堂!?」
それどころか攻撃を受けていないはずの東堂が吐血した。
『頂戴頂戴』
「! あいつ、何か持ってるっ」
「この感覚……内臓を、やられたな……」
さっきの肉塊のことが頭をよぎる。まさか『領域』内の人間の内臓を抜き取るとかその辺か? けど、私にはその効果が現れてない。東堂の『簡易領域』もまだ削れてないことを考えると、接触が術式発動のトリガーといったところか。どちらにせよ時間が経過すればするほどヤバい。私は出していた『猫』を解除して、走る。
「東堂! 目と耳、塞げ!」
私の術式の影響を受けないよう、そう告げ、私は術式を解放した。
「術式解放『いえねこ』」
『ねこですねこはいます』
接触せずに呪霊を戦闘不能にするには『いえねこ』がピッタリだ。
『ねこですねこですよろしくおねがいします』
『頂戴頂戴……頂ねこ、ねこぉ……?』
思惑通り、『いえねこ』の思考統一化が始まる。だが、
「ね、こ……うぐ……っ」
渋谷で無理をした反動なのか、『いえねこ』は私の精神に容易に入り込むようになっていた。私よりも相手の方が侵食が早いのは幸いだけど、それでもリスクが大きすぎる術式になってしまっている。
『ねこはいますねこはいますねこはいます』
『頂戴は……います……ねこです』
「ねこ……ですっ」
まずい。これ以上は……。思考が堕ちる前に、私は『いえねこ』を解除する。『いえねこ』が思考にノイズをかけている間は、私自身『黒閃』を出せるような状況じゃない。となれば、呪力を込めた体術だけでどうにかするしかない。未だ『いえねこ』の影響を受けている呪霊の懐へ飛び込み、振りかぶる。
「っ、らぁぁぁっ!!!」
ーーバギィィィィッーー
呪力を十二分に込めた渾身の一撃が呪霊の腹に直撃した。呪力が爆ぜ、呪霊が吹き飛ぶ。同時に『領域』にノイズが走る。
「やった、か………………ぐ、あッ!?」
倒せた。そう安堵した瞬間に、感じる激痛。腹の内側が燃えるように熱く、背筋が凍るように冷たい。内臓のどこかをやられた。東堂同様の現象が私にも起こっていた。辺りを見ると、『領域』もノイズ混じりではあるが、未だに存在し続けている。
ーーパンッーー
私に起こったことを理解したのだろう。位置替えで、ダメージを負った私と近くの呪力を込めた石とを替えてくれた東堂。膝をついたまま、感謝を告げて。
「くそっ、仕留め損ねたっ、『領域』もまだ……っ」
「接触をトリガーに術式が発動するタイプだな。あの呪霊の言葉から考えるに、術式効果は触れた相手の内臓の一部を盗み取る……そんなところだろう。飛び道具か武器はあるか?」
「一応」
『舌抽』はある。だが、あれのリーチは短く、かなり接近しなくては届かない。その間に相手に触れられるリスクを考えると……。
「一撃でいい。あの呪霊にその呪具を刺せる余力はあるか?」
「死ぬほど痛い。正直、動きたくないでーす」
「フッ、無問題。構えたまま突っ込め」
「…………了解」
人格は信頼していない。でも、その強さだけは信用しているんだ。戦闘IQうん百万の実力見せてもらおうか。
『ちょう、だい……頂戴』
「行け!」
「言われなくても!」
『いえねこ』の効果が切れたようで、また頂戴頂戴言いながら起き上がる呪霊へ向けて、駆け出す。右手には『舌抽』。狙うは脳天。
「はぁっ!」
飛び上がり、最短距離で奴の脳天へ。
ーーザクッーー
『イギィィィっ!?!?』
『舌抽』の魂を分離させる術式は効いている。『領域』の精度からも分かることだが、こいつは『陀艮』たちよりも格段に下だ。もう一撃!
「……が、は」
『舌抽』を抜き、もう一度突き刺そうとして、動きが止まる。また私は吐血していた。呼吸と共に激痛が走り、そのせいでちゃんと呼吸ができてない。この感じ……肺をやられたか……?
『頂、戴』
くそっ、油断していた。『舌抽』で魂が分離しても、術式自体は生きてる。しかも、接触は武器も含まれるのかよ。
ーーパンッーー
位置替えで東堂の横に戻るも、私は身体を丸めたまま。呼吸をする度に走る激痛をそうして和らげることしかできない。
ぼやける頭で考える。東堂には飛び道具はない。その上、私を庇いながらこの呪霊を倒すことは不可能だろう。なら、どうする? どうすればいい……?
「…………あ」
『領域』の崩壊が近いのか、一部が壊れ、空が見える。その先に捉えた『それ』。
私は痛みに耐えて、思いっきり叫んだ。
「助けてッ!! 来栖ッ!!」
「『邪去侮の梯子』」
私の声に呼応するように、光の梯子が呪霊の『領域』を貫通して、呪霊に降りた。バカでかい正の呪力を浴びた呪霊は断末魔をあげることなく、消滅した。同時に、呼吸ができるようになった。呪霊の術式効果が、存在の消滅と共に消え、臓器が戻ったのだろう。痛みは残っているが、生きてはいる。
呪霊を消した後も残る天使のような何かの笑い声を聞きながら、私は舞い降りたその『天使』に告げる。
「……遅いよ、来栖ぅ」
「まずはごめんなさいでしょう、羽々場」
「………………」
「………………」
「………………勝手に先走ってごめんなさい」
「よろしい」
そうして、私は無事、来栖と合流し、一応の和解をすることができたのだった。
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痛みがある程度引いたタイミングで、コロニーから離れ、高専に戻ることにした私達。私と来栖が並び、その数メートル後ろに東堂がいる。こういう時、空気を読むのも東堂のうざいところではあるが、まぁ、今はありがたい。隣にいる来栖と話す。
「恵の死をなかったことにするために、『堕天』……『両面宿儺』を受肉させた。その場では最善手であることは分かります。ですが……」
「うん、分かってる」
来栖曰く、『天使』が『堕天』を殺すのは既定路線であるという。受肉されたのが虎杖くんであろうが伏黒くんであろうが、変えるつもりはないとのこと。自分の手で好きな人を殺さなくてはならない。それはあまりにも辛い。
「でも、それ以上に貴女が私に相談もせず、そうしたのが腹立たしかった」
「うっ、それは……」
「私と貴女は恋敵です。けれど、同じ人を好きになった友でもある……まぁ、それは私の思い違いだったようですが?」
「うぅぅ、返す言葉もございません……」
項垂れる私を見て、冗談ですと笑う来栖。少しは機嫌もよくなった、のかな? 早速、本題に入ることにしよう。
「来栖は、なんでコロニーに?」
「『天使』と相談をして、『堕天』の動向を探っていました。ただ、あまりに残穢が濃すぎていくつものコロニーを回ることになってしまいましたが」
「なるほど。それで成果は?」
「…………」
「そっか」
その沈黙が答えだった。どうやら伏黒くんの身体に受肉した後、『宿儺』は行方を眩ましているようで、来栖たちでもその足取りは追えなかった。恐らく原作でいうところの『浴』に適した場所を探しているんだろうけど……。
「そちらの進展はあったのですか?」
来栖の質問に首を縦に振る。何人か協力者を見つけ、連携を取れるようにしてある。『宿儺』を倒し、伏黒くんを救う。そのための戦力は少しずつ整ってはきてる。あとはーー
「来栖、改めて協力してほしい」
「はい」
「伏黒くんの姉・伏黒津美紀の内にいる呪詛師ーー『万』を一緒に倒そう」
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東堂くんが役立たずに見えるのは、作者のIQ不足です。
君の戦闘、難しいよ、東堂くん!!