術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る 作:藍沢カナリヤ
ーーーーーーーー
津美紀さんの身柄は、伊地知さんに保護してもらっている。
魂を分離させる術式を内包する『舌抽』も手に入れている。
『万』を滅するために、来栖華も味方に引き込んだ。
『領域』対策の『簡易領域』も身につけた。
やれることはやった。後は『万』を殺すだけ。
ーーーーーーーー
呪術高専のグラウンド。体術の実技などで使われていたそこは、今現在、録に使われておらず、だいぶ荒れてしまっている。東京に呪霊が溢れかえっているせいで、呪術師がここにあまり戻ってこれていないのが主な要因だ。その中心で私達は、伊地知さんに連れてきてもらった彼女と向き合っていた。
「……初めまして、お義姉さん」
私が『お義姉さん』と呼ぶ彼女こそ、伏黒津美紀その人である。『死滅回游』が始まると同時に目覚めた彼女も、その泳者として選ばれてしまっていた……原作通りに。状況は話さずに来てほしいと伊地知さんにお願いしていたこともあり、いまいち現状を飲み込めてない津美紀さん。首をかしげて、訊ねてくる。
「えぇと……恵のお友達?」
「似たようなものでーー」
「いえ、婚約者です。この私、羽々場ねここそが伏黒くんの隣に立つべき女なのです!」
隣の
「え、えっと……?」
「しれっと嘘をつかないでもらえますか。例えでまかせでも不愉快です」
「あ?」
「は?」
「……えっと……?」
津美紀さんから助けを求められた来栖が私の発言を一蹴しやがった。嘘とは失礼な。未来予想図と言ってほしいものだな。
……とまぁ、冗談(半分)はさておき、本題に入ろうか。ひとつ息を吐き、私は『舌抽』を彼女に向けて言い放つ。
「今の貴女はどっちだ?」
目の前の彼女。その中身が『伏黒津美紀』か『万』か問う。
「ふふっ、フフフフッ……」
「…………」
『初対面のはずよねェェ、あなた達とは!』
「!」
「やっぱりか、お前、『万』だな!」
『そう…………そうよォォ』
ーーゾゾゾゾゾッーー
「「っ」」
言うと同時に、呪力の気配が一気に跳ね上がった。これが、呪術全盛期ーー平安の時代を生きた術師の呪力量。
「来栖! 『天使』!」
「分かってるっ」
『ああ』
私が言うまでもなく、来栖は翼を広げて飛翔した。ちょうど『万』の頭上にて構える。
「『邪去侮の梯子』ッ!!」
降り注ぐ光は『万』へ。広範囲を覆う正のエネルギー。原作では『宿儺』にすらダメージを与えた術式だ。『万』にとってはかなりのダメージになるはず。
『それは……よくないわァ』
ーーズズズズズッーー
来栖の『邪去侮の梯子』に対抗するために、『万』が作り出したのは黒い球体だった。あれは『真球』! こんなに早くに出してくるとは……それだけ来栖の術式は驚異ってことだ。
「『ほのぼのにゃんにゃん・片堕』」
『ニャァァァ』
『意識が……その『猫』に……?』
顕現と同時に鳴く『猫』。その術式効果は『万』にも効く。初見の術式だ。対応できないんだろう。『真球』を構えながらも、『万』の意識がこちらへ向くのが分かった。ここが好機!
「来栖!」
「っ……ぐ、ぬぅぅぅぅっ!!」
ーーグンッーー
歯を喰いしばりながら、上空の来栖は『邪去侮の梯子』の軌道をずらした。後出しで軌道を変えること。それは『渋谷事変』から今まで来栖が習得した技術の1つであった。さらに、
「な、にっ、くそぉぉぉ!!」
ーーグググググッーー
らしくない大声とともに、光が細く、収束していく。効果範囲を狭めることで、術式効果を上げ、正のエネルギーも増大させる。これも彼女の努力の賜物である。
次の瞬間、強い光を放ちながら、『邪去侮の梯子』は『真球』を包む。
「ッ、消えてッ!」
ーージゥゥュッーー
『! 『真球』が消された……?』
本来ならば、接地面積がないため無限の圧力を生み出せ、あらゆるものを潰せる『真球』。来栖の強化版の『邪去侮の梯子』はそれすら打ち消すことができるようになっていた。
「よくやった!」
「えら、そうにっ……決めてくださいっ」
『!』
自らの術式の最高到達点を消され、動揺する『万』の懐に飛び込む。そして、呪力を込めた拳を握りしめーー
ーーバヂッバヂッバヂッーー
「『黒閃』ッ!!!」
『万』の横っ腹を思いっきり蹴り抜いた、はず。だが、これは……!?
ーーパキキキキーー
『まさか、現代の術師がここまでやるなんてね』
「『虫の鎧』……っ」
『あらァ? これも知ってるの……ねッ!!』
ーーブンッーー
「!?」
ーーバギィィィッーー
呪力でガードした両腕の上からぶん殴られる。かなりの衝撃。後ろに跳んだことで少しはダメージを抑えたけど、それでも腕は痺れて満足に動かない。
「くそ……っ!?」
ーーギュンッーー
「羽々場!」
ーーキュゥゥゥーー
「っ、助かった」
「…………いえ」
追撃の『液体金属』は、来栖が消してくれた。その隙にさらに距離を取る。来栖も状況を察して、私の隣に降り立つ。
……まずい。まさか私の『黒閃』をガードできるほどの防御力が『虫の鎧』にあるとは思わなかった。『脹相』といい、『万』といい、なんでこうも防御力が高い鎧持ちが多いかね。救いは、来栖の『邪去侮の梯子』と私の『猫』が通じることだけど。それでも、こうして考えている間にも、『万』は呪力を溜めている。どうする、どうする……?
『…………羽々場』
「『天使』? なに? なんかいいアイディアある?」
頭を回していた私に、文字通り口を出してくる『天使』。このタイミングだ。相当な策でもないと怒るよ。
『10秒……いえ、5秒でいい。『万』を足止めできるか』
「……『いえねこ』を使えばどうにかできる、たぶん。ただ、私も行動できなくなるとは思うけど」
『『邪去侮』を最大出力で撃つ。君を巻き込むことになると思うが』
「…………」
まぁ、そうか。それしかないだろうな。
「痛くしないでね」
「…………保証はできません」
「はぁぁぁぁ、ヤダヤダ……」
『羽々場。だが、それしか策はない』
「分かってるよ」
「ここで『万』を殺して、津美紀さんを取り戻す。そうしなきゃ、伏黒くんは取り戻せない」
それを口にして覚悟を決める。そして、呪力を練る。『いえねこ』の術式効果を上げるために。
「幸運を祈ります」
「…………私もだよ」
来栖が飛び上がる。『いえねこ』に集中するために、呪力感知も切っているから、来栖がどのタイミングで撃つのかは分からない。それでも、いい。
ーーグンッーー
呪力強化した脚で踏み込む。
『まだ、やるのかしら?』
「もち!」
間合は十分。私は呪力を解放した。
「術式解放『いえねこ』ッ!!」
『ねこですねこですねこはいます』
術式を解放すると同時に現れる『ねこ』。至近距離に放ったそれから目を反らすことはできないはずだ。『虫の鎧』の向こう、『万』の視界に『いえねこ』が入る。
『? これ、は……?』
「っ」
効いている。呪力を溜めた甲斐があった。一瞬だが、動きが止まり、『いえねこ』の支配が始まったのが分かった。だが、それは私も同じ……いや、術式効果を上げるために付けた『縛り』のせいで、侵食は私の方が早くーー
「ねこで、す……ぐっ」
『これは思考支配……? この『ねこ』のことしか……ねこはいま、す……っ!』
ーーブンッーー
『万』の拳が『いえねこ』を捉えるが、勿論その攻撃は無駄だ。『いえねこ』に攻撃は通用しな、ですねこはいますよろしくおねがいします。
『ッ、私をッ、私を満たすのはあの人ッですねこです……こんな、こんなこと認めしくおねがいしま……認めないッ』
「ねこはいますねこです」
あと、1秒……! そうすればーー!
「羽々場ッ!!」
「ッ」
声がした。その声はーー
『領域……展開ッーー『
ーーその『領域』によって、掻き消された。
ーーーーーーーー
『天使』来栖華が出力を最大限に高めた『邪去侮の梯子』を撃つまであと0.5秒。『万』が展開した『三重疾苦』によって必中となった『真球』で、羽々場ねこを圧殺するまで0.3秒。その差は埋まらない。
加えて、羽々場ねこは自らの『いえねこ』の反動で行動不能。勿論、意識がない状態では『簡易領域』を使うことはできない。そして、『三重疾苦』に対抗できる『領域』を展開できるレベルに、彼女は未だ到っていない。
つまり、来栖華が『領域』を破壊するまでの間に、羽々場ねこが死ぬことは既に確定している。
ただし、羽々場ねこが自らの術式『ほのぼのにゃんにゃん』ーーその本質を理解していなければ、の話である。
ーーーーーーーー
『ねこはいます』
『ねこはそこにいます』
『ねこは
ーーーーーーーー
「ん、あ……?」
目が覚める。寝ぼけ眼で、辺りを見渡すとそこは古びた和室。
なんだ? 私は来栖と一緒に『万』と戦っていたはず。それで『いえねこ』を使って、『万』の動きを止めようとしてた。
正直、術式のせいで、そこからの記憶が朧気だけど、とにかくこの風景には違和感しかない。なんで、私はこんなところにーー
「……起きたか」
「ふ、え……?」
混乱する私の後ろ、襖を開けて声をかけてきたのは、
「伏黒、くん……?」
伏黒くん。間違いない。伏黒恵くんだった。しかも、幼い。ギリギリ小学生になったか、ならないかその辺の年齢だと思う。
いつもの私ならば、ショタ伏黒くんにヨダレを垂らしながら飛び付いていたであろう。だが、天啓とも言えるその行動には移せない。何故なら、彼の口から出た発言が私の思考を止めたからだ。
「津美紀、起きたなら朝ご飯食べよう」
「………………へ? つ、みき……?」
ーーーーーーーー
完全ギャグ回かいてもいいですか?
-
伏黒狂いのねこが見たい
-
本編を頼む