術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る 作:藍沢カナリヤ
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何も分からないまま『呪術廻戦』の世界に転生した私。
前世の記憶はあるものの、何故、どうやって死んだのかの記憶は定かではない。けれど、それは重要ではない。2度目の、しかも、目の前に推しのいる人生なのだ。無為に過ごしていた前世と違い、有意義に生きるためにも目的を決めておくのもアリだろう。
1つ目、死なない。
これは言わずもがな。死んだらおしまい……まぁ、何故か私は2度目の生を受けたけれど。それでも『次』があるとは限らない。命は大事にしたいものだ。
2つ目は勿論、我が推し・伏黒きゅぅんを守ること。
あらゆる災厄と絶望から。
そのために、私がやるべきことはーー
ーーーー呪術高専東京校 1年生教室ーーーー
「は? なんで私も連れてってくれないの……?」
「いや、任務だし」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁ! 連れてけぇぇ! 連れてかないとここで自分の首にカッター突き刺してやるぅぅぅ!!」
「…………はぁ」
伏黒くんとの別れに耐えかねて、メンタルがヘラった私を他所に、彼はため息を吐いた。入学してから約2ヶ月。伏黒くんに迫る私と呆れる彼って構図は、もうすっかりいつもの光景と化している。なんか、私と彼との日常が定着してきたみたいでアガるわ。
「泣いたと思ったら、次の瞬間にはニヤついてやがる。情緒どうなってんだよ」
「あなたに狂わされたのよ♡」
「…………とにかく、任務には連れていけない」
これ以上は不毛だと思ったようで、私の告白はスルーし、話を進める伏黒くん。
「えぇぇぇ、でもでもぉ、私この教室に1人でいるとか耐えられなぁぁぁい」
「はぁ、飲み込め。これは五条先生の判断だ」
「ガッデムッ! あのヤロウッ!!」
内なる蝶野もとい夜蛾学長が出てきてしまった。
五条悟の判断。特級術師の判断であるならば、普通は聞くものだろうが、私はそう思わない。だって、あの男適当すぎるから。
それに黙ってられない。今から伏黒くんが向かう先はーー
「仙台。そこにある特級呪物・『両面宿儺の指』を回収する任務だ。危険度は今までの演習やら任務の比じゃない」
「…………」
「お前も知ってるだろ。特級に分類される呪物……とりわけ『両面宿儺』はヤバい。『それ』があるだけで、呪霊が引き寄せられる」
「…………」
「あり得ない話だが、もし受肉でもしたら……って、おい?」
「う、うぅぅぅ……」
ポロポロと突然泣き出した私を見て、彼が少し慌てる。可愛いねぇぇ。
「どうした?」
「だ、だってぇ……伏黒きゅんが私の身を案じてくれててぇ……感動してさぁ……」
「…………」
結局、バッサリと切り捨てられた私。伏黒くんからも、五条悟からも許可は得られず、悲しいことに私は高専で留守番となってしまったのでした。
ーーーー仙台・杉沢第三高校ーーーー
さぁ、やって参りました! ここは仙台市・杉沢第三高校!!
……え? 任務への同行許可が降りたのかって? いやいや、降りてませんけど、なにか?
まぁ、『死滅廻游』編まで単行本を読了済みである私からしたら、伏黒くんと五条悟が仙台に向かう先など容易に想像がつくってものだ。そもそも伏黒くんも『両面宿儺の指』の回収が任務だって話はしてくれたしね。
「特定など朝飯前よ」
高校の敷地内に入り込んだ私は、恐らくこれからここに来るであろう伏黒くんを校庭隅の植込みの中で待つ。残念ながら学校指定の制服は準備できなかった。さすがに他校の制服で敷地内わ彷徨く訳にはいかないから、こうして身を潜めるしかないんだけど。
「あっ」
しばらくすると校庭に人が集まってきた。その中心には1人の少年がいた。特徴的なピンク色の髪と引き締まっているのが服越しでも分かる体。そして、人の良さそうな人相。間違いない、彼が……。
「……虎杖悠仁」
私の知る漫画『呪術廻戦』の主人公にして、この後、特級呪物『両面宿儺』を受肉する少年だ。その人柄を一言で表すならば、根明……すっごいいい奴である。彼の人柄を嫌う人間はそうそういないだろう。私自身も好感をもっているし、なにより伏黒くんの数少ない友人である。大切にしなきゃ!(使命感)
ともかくそんな彼の観察を続ける。作中にもあったが、砲丸を野球投げする様を目の当たりにすると、
「うーん、ちょっと引くわ……」
『宿儺』の器と言われれば納得はするけれど、これが普通の公立高校にいたら、中々のバケモンである。それでも彼は善性であるから、この学校の生徒にも受け入れられていたんだろうな。それはさておき、私の記憶が正しければ、この様子を伏黒くんが近くで見ているはずだ。
えぇと……あ、いた! そのまま急いでその場を後にする虎杖くんとすれ違った後、伏黒くんは彼を追っていった。それは虎杖くんから例の特級呪物『両面宿儺の指』の気配を感じたから。しかしながら、
「残念。それは呪力の『残穢』なんだよねぇ」
伏黒くんもまだまだねぇ……なんて。私は原作知識をもっているからそう言えるだけで、確かに現物を見ず呪力感知をしただけなら、彼が『指』を持っていると誤認するのも無理はない。
「さて、それじゃあ本物の方を回収しに行こうか」
虎杖悠仁が『両面宿儺の指』を取り込まなければ、『両面宿儺』は受肉しない。そうなれば、伏黒くんの肉体は乗っ取られないし、心を砕かれることもない。
ここが最初のターニングポイントだ。気張れ、私!
ーーーー杉沢第三高校・オカ研部室前ーーーー
原作通りの展開ならば、封印が解かれる前の『両面宿儺の指』を持っているのは、この高校のオカ研の2人である。だから、私は早速『指』の回収に動いていた。伏黒くんが虎杖くんに出会うのは今夜。そして、そのままこの高校にやってくる。その時には既に『指』の封印は解かれ、呪霊が集まってきてしまうのだが。
だから、私はその前に動く。秘密裏にオカ研の2人に接触して、『指』を回収するのだ。
「こんにちはー、入部希望なんですけどー」
扉をノックし、中にいるであろう2人に声をかけた。ドタドタと音がした後、扉はすぐに開く。そして、
「歓迎するわ!! ようこそ、オカ研へ!! ささ、入って入って!!!」
「お、おぉ!?」
部長である少女・佐々木さんから熱烈歓迎を受け、そのまま私は部室に引きずり込まれた。中にはもう1人の部員の長身の男子生徒・井口くんもいた。ペコリとお辞儀をする彼の目の前の机に……あった。『両面宿儺の指』だ。
(封印は……まだ解かれてないな。しかし……)
背筋が凍る程の凶悪な呪力。これが特級呪物か。直接見ると……なるほど、伏黒くんが目の色を変えて探すのにも納得がいく。
ともあれ封印が解かれる前でよかった。これならば、私でもどうにか高専に持っていけるだろう。その後、体験入部と称して、私はオカ研に潜入することができた。
ーーーー夜・オカ研部室ーーーー
その晩、チャンスはやってきた。『指』の封印を解くなんてリスクを負いたくはないが、オカ研部員の2人はどうしても封印を解くまで『指』を渡すつもりはないようで、仕方がなく夜まで待つことになったのだった。
ま、解く直前に、私の術式で意識を『猫』に向けておけばいいでしょ。
……そう思ってたんだけど。
「はっ、はぁっ……」
「…………っ」
「…………うぅぅ」
オカ研部室に現れた無数の呪霊。そいつらから2人を守るので精一杯だった。確かにこの2人は原作でも呪霊に襲われてはいた。でも、おかしい。
『イマいマなんジィィぃ』
『センタクせンたくセんたクゥ』
『ジカンでスよよヨォ』
『マってまっテ』
『ォいしイヨおいシイヨ』
「数が、多すぎるっ」
いくら集まったとしても特級呪物に群がる有象無象。今の伏黒くんでも十分倒せる等級で、私でも倒せるはずだったのに。一体一体が二級程度の力がある。
「っ、『ほのぼのにゃんにゃん』ッ!」
『にゃ~』
『ニャッ』
呼び出した2体の『猫』に呪霊どもの意識が向いた。幸いなことに『猫』は攻撃力がほぼない代わりに、私の呪力が尽きるまでは再生できる。この隙にこの場を脱出する!
「ごめんね。ちょっと、揺れるよ……っ」
「……っ」
「…………」
呪力を足に込め、跳躍をーー
ーーガシッーー
「!?」
ーーブンッーー
視界が揺れると同時に、私の体に強い衝撃が走った。呪霊に足を掴まれ、そのまま部室の外へと投げ飛ばされたと理解したのは、壁に衝突してから。
「……ッ、油断、した……っ」
反射的に呪力で背中を守ったお陰で、どうにか動ける。冥さん様々だ。私のことを投げ飛ばした呪霊はどこ……?キョロキョロと辺りを見渡すと、いた。原作にも出てきたあの呪霊だ。伏黒くんを追い詰めた呪霊だった。
『おメでとウございマスすゥゥ』
「ブッサイクな顔面……吐きそ……」
動けるとはいえダメージは相当で、正直な話、今にも吐いてしまいそうだ。けど、そういう訳にはいかない。だって、
「『鵺』ッ!!」
推しが来てしまったから。
あーあ、残念。言いつけ破ってここに来たのバレちゃったな。
私を投げ飛ばした呪霊を襲ったのは、式神・『鵺』。それは紛うことなき彼の式神だ。
「羽々場!」
「伏黒、きゅん……」
さながらピンチに現れる白馬の王子様。
「あ"あ"ぁ"ぁ"~、きゅんきゅんしてきたぁ……っ」
「あぁぁっ、うるせぇっ! 状況はっ!!」
「生存者は虎杖くんの先輩2人。私の式神で有象無象は引き付けてるから無事のはず」
こんな時にもお前はとか、なんでここにとか、色んな言葉を無理矢理飲み込んだ彼の問いに答えた。すると、彼はそうかとだけ返した後に言葉を続けてくる。
「お前の怪我は?」
「~~~~っ、その言葉だけで元気100倍ッ」
「そういうのは後にしろっ」
「……正直、酸素回ってないから呪力が上手く練れない。たぶん肋骨何本か折れてる……めっちゃいたい」
「分かった。下がってろ」
私を守るように、一歩前に出る伏黒くん。満身創痍じゃなかったら、後ろから抱きついて舐め回してるくらいにはカッコいいけど。今は安心の方が強かった。原作と違って伏黒くんは無傷で、誰かを庇うようなこともないはず……っ!
ーーぞわっーー
「っ」
『オメおメででトォォぉ』
私が持ってる『両面宿儺の指』のせいだ。足元からそれよりも圧倒的に弱い呪力が近づいていたことに気づくのが遅れた。突如として地中から現れた細長い呪霊は、鞭のようにしならせた体で私をーー
「羽々場ッ」
ーーバギィィィッーー
「伏黒くん……っ!」
咄嗟に私を突き飛ばした伏黒くんに、そいつの攻撃が直撃する。骨が数本どころではなく折れた鈍い音が辺りに響いた。それだけでなく、彼の体に巻き付く細長呪霊、いや、あれは奴の尻尾だ。そのまま呪霊本体へ戻っていく。
「……が、ぐぅぅっ」
「っ、伏黒くんを、離せッ」
呪力を練ろうにも上手く練れない。ダメだ。このままじゃ伏黒くんも私も殺される。
「…………ッ」
くそっ、くそっ、くそっ!!
最悪だ。なんで、なんでこうなるっ!!
……でも、今は『この手』しかない。
「すぅぅぅぅぅ」
思いっきり息を吸い、私は叫ぶ。
「虎杖悠仁ぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
ーーパリィィィンーー
私の声に呼応するように、校舎の二階の窓が割れ、彼ーー虎杖悠仁が現れた。ちょうど呪霊の真上にいる虎杖くんに向けて、私は持っている『指』を投げた。
「それを飲み込んで、虎杖くんっ! そうすれば、そいつを祓える。『目の前の人を助けられる』」
「おうっ!!」
初対面の私の言葉を信じてくれた彼が『指』を飲み込んだのを見届けて、私は意識を手放したのだった。
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