術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る   作:藍沢カナリヤ

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第32話 愚者生存ー弐ー

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2つの術式『ほのぼのにゃんにゃん』と『井戸小屋の意識猫』。

どちらも『猫』がモチーフの式神として使役する術式ではあるが、その根底は全く異なる。

出自の違う2つの術式をもつ人間は多くはない。『羂索』や乙骨憂太のような例は稀有で、通常の人間であれば2つの術式の処理に脳が耐えきれず、廃人に、最悪の場合は死亡する。

ならば、なぜ『羽々場ねこ』はそれを所持し、行使できるのか。その答えはただ1つ。彼女が別の世界から介入している人間であるからだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「1つの肉体に複数の術式。術式が『模倣』と同じでなければ、残る答えはシンプルだ。君の身体には、複数の魂が宿っている。それ自体はないことではない。今の『宿儺』や私、この千年間でも何人かは見ていた。ただ、君のそれは『受肉』とも違う」

 

「人をじろじろ観察するな……よッ!!」

ーーグッーー

 

 

こちらを見定めるような視線が気持ち悪く、それを切るために、私は足元の石に呪力を込め、投げた。勿論、攻撃力は皆無。『羂索』に届く前に、呪霊の壁に阻まれる。

 

 

「失礼。千年も呪術に向き合って尚珍しい対象だったからね」

ーーパンッーー

 

 

そう言って、ククッと笑った『羂索』は、1つ手を打ち合わせた。

 

 

「さぁ、小手調べといこうか」

 

ーーザザザザザザッーー

 

「っ、なんだ……?」

 

 

不意に聴覚に違和感。左の耳にノイズのような音が響き続けている。

 

 

ーーガクッーー

 

「っ」

 

 

ふらつき、膝をついてしまった。

 

 

「聞こえているかい」

 

「……なにを、した?」

 

「なに、私の手拍子に合わせて君の耳のなかに呪霊を放っただけさ。概念系ではないが、人体の内側に発生する強力な呪霊だ。普通の呪術師にはーー」

 

 

 

「『井戸の意識猫』」

 

 

 

奴の言葉を聞き終える前に、私は『自身の術式』を解放した。解放と同時に、対象の全てを支配下に置く術式。これで私の耳の中にいる呪霊を支配下に置き、自滅させて身体の自由は取り戻した。だが、同時に音が遠退き、消える。

 

 

「ーーーー」

ーードゴッーー

 

「っ!?」

 

 

一瞬の動揺を『羂索』に狙われた。呪力を帯びた一撃が腹に入ってしまう。

 

 

「ーーーーーーーー」

 

「チッ」

 

 

恐らく耳の中に入った呪霊の術式なのだろう。絶命と引き換えに聴覚をもっていかれたようで、『羂索』が何を言ってるのかは分からない。ただその余裕は崩れていない。手札はまだあるとでも言いたげな表情。さっきも言っていたが、小手調べのつもりなのだろう。

 

 

「舐めやがって……」

 

 

苛立ちをそのまま呪力へ変換し、再び『井戸小屋の意識猫』を使う。次の対象は自分自身。自身の肉体を支配して……。

 

 

「治ったようだね」

 

「おかげさまで」

 

「術式を反転させていたのを見るに『反転術式』は習得しているだろうが……それは『反転術式』とは別物」

 

「…………さっきからブツブツブツブツと、考察厨かよ」

 

「考察は呪術戦において重要だろう? それにーー」

ーーズズズズズッーー

 

 

またも低級呪霊の大群を放つ『羂索』。強い呪霊を使ってこないのは、こちらとしてもありがたい。しかし、千年間、呪術の世界に身を浸してきた呪術師にしては芸がない。

 

 

「っ!」

 

「ーー後々使えるかもしれない相手なんだ。その術式を知っておいて損はないだろう」

ーーグンッーー

 

 

群れに紛れて、姿を現した『羂索』の手を寸でのところで避ける。

 

 

「どうした? 触ろうとしただけじゃないか。私の術式は『呪霊操術』と『反重力機構』。『真人』のように即死級の威力はないというのに何を警戒しているんだい」

 

「…………」

 

「ククッ……どうやら考察の甲斐があったようだ」

 

 

『真人』の術式ではないから、普通の人間にとってそこまでの害はない。そんなことは分かっている。

……普通の人間なら、ね。残念ながら、私はその普通には該当しない。肉体の呪霊化。それはいつか『天元』様に指摘されていたこと。旧羽々場邸を訪れた時、井戸にいた『いえねこ』との接触により、私の肉体は呪霊に変わっていった。だが、結界と『縛り』をつけたことにより、その問題は解決したはずだった。

だが、『井戸小屋の意識猫』に至り、自身の本質と向き合ったことで別の問題が発生していたんだ。それこそがーー

 

 

 

「『君』、呪霊だろ」

 

 

 

『羽々場ねこ』ーー私は呪霊だ。

つまり、奴の『呪霊操術』の効果対象なのだ。

 

 

「……それが何か問題でも?」

 

「ククッ、人語を介する呪霊は数多く見たが、人間に擬態する呪霊は初めてだ。君、面白いよ。ぜひ調べてみたいものだ」

 

「……調査協力でもしようか。1時間5000円で考えてやるよ」

 

「魅力的な申し出だが、それには及ばない」

ーーギュルルルルルルルッーー

 

 

『羂索』は両の手を合わせる。その隙間にやがて出来上がる極小の『うずまき』。それが膨れていく。

 

 

「っ」

 

「数にして千。いつか彼が乙骨憂太に放った『うずまき』よりは少ないが十分だろう?」

 

「…………上等」

 

 

私は自らの呪力を最大まで解放する。まずはこの『うずまき』をさばいてーー

 

 

「………………意識がそちらに向いたね」

ーースッーー

 

「ッ」

 

 

私の死角。背後から不意に現れた奴は、その掌で私の身体に触れた。瞬間、意識が薄れていく。

 

 

「君のおかげだ。その『猫』の術式を見て、思い出したよ。意識をずらす術式をもつ呪霊のストックが私にもあることをね。勿論、君の『それ』よりは使い勝手のかなり悪いものだが」

 

「…………」

 

「ククッ、皮肉だな。自らの術式と似た術式で敗北する……滑稽でもあるね……と言っても、もう聞こえてはいないか」

 

 

視界は暗く、周りの音も消える。奴が何を言っているのかも理解できなくなっていく。身体が溶けて、大きなものの一部になる感覚を覚えて。

 

 

 

「また会おう。呪霊の身でありながら、人になろうとした『井戸小屋の意識猫(出来損ない)』」

 

 

 

ーーごくんっーー

 

 

 

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井戸小屋の意識猫(羽々場ねこ)』敗北。

 

 

 

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