術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る 作:藍沢カナリヤ
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『『解』』
ーースパンッーー
「~~~~~~ッ」
位置の入れ換えによって、ゼロ距離で打ち込む『邪去侮の梯子』。しかし、直前に術式を取り戻した『宿儺』の斬撃波が私の左腕を斬り飛ばしていた。そのせいで、狙いはズレて。
「く、そッ」
外した外した外した外した外したッ!!
ここで、ここで決めなきゃだったのにっ!?
腕を落とされた痛みよりも、そのことだけが頭を巡る。日車が自らの命と引き換えに作ったチャンスを、私はーー
『華ッ!! まだだっ!』
「っ」
『もう一度だ』
既に『宿儺』は狙いを定めていた。
殺られた。そう思って、思わず目を閉じた。その瞬間にまた鳴る拍手の音。
「どうやら間に合ったようだな」
「……東、堂」
私の目の前にいたのは『宿儺』ではなく、東堂葵だった。入れ換えの術式『不義遊戯』を持つ男。彼に助けられた、のね。
「っ、まだ!」
「いいや、今はその腕の出血をどうにかするのが先だろう。幸い致命傷ではない。ここはに任せるといい」
見れば虎杖は『宿儺』に組み付いていた。腹を『解』で切り裂かれながらも『反転術式』を廻し、どうにか喰らい付いている。さらに、たった今、特級術師・乙骨憂太も岩手から戻り、参戦した。
……うん、そうか。ここは私が無理をして戦う場面ではない。ひとつ深呼吸をして、東堂の言葉に頷いた。
「加えて、『宿儺』によって切り離されたその左腕は……」
「分かってる。彼の『模倣』に役立つ」
「ああ。腕を失うのは無念ではあろうが……」
「いい。それで勝率が少しでも上がるなら」
「いい仕事だ。Ms来栖」
私の意思を汲み取ったかのようにそう返した東堂は、ひとつ手を叩き、私を後方・憂憂の方へと逃がしたのだった。
ーーーー回想ーーーー
「『宿儺』に僕の『領域』を使います」
『宿儺』と戦う前の作戦会議にて、乙骨憂太はそう宣言した。彼の『領域』は『模倣』した術式のうち、ひとつをその『領域』の必中効果として付与し、さらに『領域』内ではストックしてあるどの術式もほぼ無条件で使用できるものだという。非常に強力だ。現状、五条悟・鹿紫雲一、そして、日車寛見が敗北した後、『宿儺』に当てる人選としては、妥当だろう。全員が彼の言葉を賛同する中、口を開いたのは、『天使』だ。
『奴は当然、『領域』を使える。さらに『領域』への対抗策ももっている。いくら手数が多くともそれで簡単にダメージが通るとも思えない』
「はい。だから、虎杖くんに僕の『領域』に一緒に入ってもらいます」
「俺に?」
「うん。入れ換え修行で君と戦った『天使』さんによれば、虎杖くんの打撃には、魂を揺らす力がある。だから、僕の『領域』はあくまでも囮。隙を突いて、虎杖くんが『宿儺』に魂を揺らす打撃を当てる。それで……」
「! 伏黒の魂を起こして、『宿儺』と分離させる!」
「うん……日下部さん、どうですか?」
「………………んー」
乙骨の話を聞いて、日下部は思考を巡らせている。
『私達も虎杖悠仁との修行中、攻撃を受けて、完全に『私』が表に出てこれなくなった。恐らくだが、魂が分離すれば、『堕天』といえど一瞬、肉体の主導権が伏黒恵に移ってもおかしくはない』
悪くはない案だと『天使』は、乙骨の提案を補足した。
「……分かった。だが、今のお前のストックだと心許ないだろ」
「うっ、そ、そうですね……足止めできるとしたら、狗巻くんの『呪言』を『領域』に付与すればどうにかできるとは思いますけど……」
「おかか」
「……まぁ、そうだね。相手は『宿儺』だ。それだとどんな反動が来るか分からない。最悪、『宿儺』の行動を止めた後すぐ行動不能になる可能性もある」
「悠仁の一撃を生かすために、主戦力の憂太が動けなくなっちゃ意味ねぇだろ。私は反対だ」
「う、うーん、でも」
「………………」
彼らの会話を聞きながら考えを巡らせる。たしか彼のストックは『呪言』と空を捉える『宇守羅彈』、『予知』、仙台結界にて取り込んだ『式神の軌道を領域とする術式』、そして、『宿儺』の指を取り込んだ『御廚子』。足止めに向く術式は、確かに少ない。ふむ。
「なら、私の指を式神に喰わせるのはどうですか」
『華!』
「来栖!?」
ふとそんな提案をしてみた。肉体の一部を彼の式神に取り込ませるのが発動条件ならば、私の指の1本でも喰わせて、彼のストックに『邪去侮の梯子』を加えればいい。今なら『反転術式』で傷を塞げば……そう思ったのだけれど。
「それはできません」
すぐさま乙骨本人に拒否される。彼自身が否定するのだから、倫理的な問題ではないだろう。どちらかといえば、術式上の問題のようで。
「『宿儺』のように余程の術師ならともかく、指1本では来栖さんの『邪去侮』を『模倣』するのは難しいと思います」
「そっか」
いいアイディアだと思ったのだけど、そう上手くはいかないらしい。
「腕の1本くらい、恵を助け出せるなら喜んで差し出すのに……」
「いやいやいやいや」
『華、それはダメだ!』
「おかか!」
「……乙骨の案については採用してもいい。問題はその後だ。成功すればいい。万が一、乙骨が負けたその時はーー」
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「っ、なんて言っていたのが現実になるなんてね……皮肉な話」
憂憂の術式によって一時撤退できた私は、星綺羅羅に体を支えられながら、そんなことを呟く。言ってる場合じゃないでしょ、と彼に怒られてる間にも、意識が朦朧としてくる。
「いい働きだった、来栖」
「……ありがとうございます、家入さん」
無事、処置台に横たわることができたみたい。眼前には、私のことを見下ろす家入さんがいた。マスクと帽子、手術用の手袋を着用し、既に処置の準備はできているよう。視界の端に京都の1年と甘井って男も見える。なんなら隣の白布の下には、真っ二つにされた五条悟の遺体もあるのだろう。
「……そっちの縫合はもう終わっているよ。万が一、乙骨が敗れたらすぐに始められる」
「そう、ですか」
そんなやり取りの後、すぐさま後方支援班の面々による処置が始まった。私は静かに息を整える。今の虎杖と乙骨憂太による戦闘の結果によっては、私の術式が必要になる。そのために一刻も早く回復をしなきゃならない。
「ところで、憂憂は……?」
「彼ならもう次の戦闘の支援に回っているよ。彼になにか?」
「…………いえ、ただ、少し確認したいことがあって」
「あ!!」
そこまで言ったところで、京都の1年生が声をあげた。不意なことだったから、その場にいる全員の体が跳ねる。集中力のいる作業なのだが、と彼を軽く睨む家入さん。彼女に謝りながらも、彼は私にあることを伝え忘れていたと言い、さらに続ける。
「憂憂さんから言伝てがあって……えぇと……『確認できました』と」
「!」
それはつまりーー
ーーーーバリンッーーーー
「「「「!!」」」」
彼からの伝言について考えようとした瞬間に、冥冥が視覚共有している烏からの映像に変化があった。
乙骨憂太の展開していた『領域』が瓦解したのだ。中からは『宿儺』と彼によって斬られた乙骨・虎杖が現れた。それが意味するのは、恵の魂を起こすのには失敗したということ。とすると、作戦は次の段階に移行する。
次なる戦力は、たった今、『宿儺』の心臓を特級呪具『釈魂刀』で貫いた『鬼人』・禪院真希。
その支援役として、日下部篤也と猪野琢真、『脹相』。そして、七海建人が新宿へと降り立つ。
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