術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る 作:藍沢カナリヤ
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乙骨憂太の領域『真贋相愛』が瓦解した瞬間、『宿儺』の隙を突き、禪院真希の『釈魂刀』が『宿儺』の心臓を貫いた。
五条悟との戦闘によって『反転術式』の精度が著しく落ちている今の『宿儺』にとって、かなりの痛手だ。加えて『釈魂刀』は名の通り、魂を攻撃している。それはこちらにとって、
「好機だ」
『あぁ』
禪院真希を主軸として、一級術師たちが隙を作っている。先ほどの戦闘と比べても、一級術師たちが立ち回れているのは、恐らく乙骨の領域と『釈魂刀』によるダメージを回復できてないからだろう。
「っ、行かなきゃ……!」
ーーぐらっーー
『……華。まだ無理だ』
『反転術式』による治療は完了して傷は塞がったとはいえ、血を流しすぎたようで、眩暈が酷い。ベッドから起き上がるのも今はしんどかった。
……それでも行かなきゃ。そんな私の内心を見透かしていた『天使』は、私の焦りを否定する。行っても今の華では足手まといになるだけだと。言い返せない。
『少しでも休むんだ。その時は必ず訪れる。その一瞬動ければいい』
「…………うん」
私は『天使』の言う通りに、ベッドに体を預けた。
そうだ。『天使』の『邪去侮の梯子』は『宿儺』に効く。だから、必ず使える時が来るはず。今はとにかく体と呪力を少しでも回復させなきゃ。
…………それにもしかしたら……。
『華』
「分かってる。期待はしない」
憂憂は確認したと言っていたらしい。けれど、それがどこまでの状態を指すのか分からない。乙骨がこちらに来たということは少なくとも敵にはなっていないんだろうけど。
「…………ううん」
余計な考え事を、頭を振って追い出し、じっと画面に目を凝らす。私の『邪去侮』が活きる、その一瞬を見逃さないように。
ーーーー独白 七海建人ーーーー
渋谷で、私は死に損なった。
火山の特級呪霊を祓えたのも、直毘人さんの犠牲と伏黒くんたちの力があってこそ。私は何もできず、ただ左腕と右の視界の一部を失っただけ。術師を辞めることも考えた。だが、呪霊が溢れ返る状況を放ってもおけず……。正直な話、この戦闘に参加したのは死に場所を求めていたのかもしれない。一定の実力のある、死んでもいいと思っている者。
私以上にふさわしい呪術師もいないだろう。
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斬る。躱す。
殴る。受け止める。
蹴る。受け流す。
『釈魂刀』による傷を修復し切れてない『宿儺』を相手に、真希さんが追い詰めていく。
「七海さん! 俺達も!」
「いえ、あの間に割って入れるほど私達は巧者ではありません」
激化する戦闘に正面から介入できるほどの技量がないのは分かっている。左腕がないならば尚更に。だから、私達が活きるとしたらそれは閉所での戦闘だろう。
「移動しましょう」
「うっす」
移動途中、視界の端に虎杖くんを捉えた。膝をついて倒れている。無理もない。『反転術式』を習得したとはいえ、彼が受けたダメージは相当だ。今すぐ引くように伝えたいが……。
「七海さん?」
「…………いえ」
今は私の方が足手まといになる。彼に寄り添うように『脹相』もいるのを確認したし、虎杖くんのサポートは彼だけで十分だろう。
十数秒後、私達はビル群の陰に身を潜めていた。呪力を極限にまで絞り、『宿儺』にその場所を特定させないために。戦闘前の打ち合わせ通りに行けば、真希さんはこの周辺に戦闘の場を移してくれるはず。
「…………」
ふと思いを馳せる。以前は虎杖くんや真希さんを守る側だったのが、今の私はその戦闘を一歩外から見守っている。一体何をしているのだろうか、と。
「七海さん」
「すみません。考え事をーー」
ーーゴォォォォンッーー
「「!!」」
一瞬のこと。目の前のビルが崩れた。そして、その中へ2つの人影が飛び込んだのが見えて、思考を切り替える。
「猪野くん!」
「うっす!」
すぐに私達も飛び込む。目の前には『宿儺』。それを見て、猪野くんは構え、放つ。同時に私も斬りかかる。だが、それはいとも簡単に止められて。
ーードゴッーー
「が、は……っ」
猪野くんはビル外へ吹き飛ばされ、私は壁に叩きつけられてしまう。さらに『宿儺』は私の首を掴み、
『七三の術師か。ずいぶんとーー』
ーードゴォォッーー
『宿儺』が何かを告げる前に、真希さんが戻り、『宿儺』を吹き飛ばした。
「ッ、助かりました」
息を整え、そう言っている間にももう既に彼女はいない。ビルの穴から外に出たようだった。
「…………足手まとい、か」
無力な私の言葉は宙に消え、程なくして真希さんも戦線離脱してしまう。呪いの王『宿儺』の『黒閃』によって。
「………………」
眼下に広がるは絶望的な状況。
乙骨くんも、真希さんも敗れた。虎杖くんや『脹相』もまだ戦線復帰には時間がかかるだろう。だが、まだ死んだわけではない。それは真希さんもそうだ。彼女をどうにか回収し、回復させれば……。
なら、私がすべき行動は1つだけ。渋谷で死に損なった私にできることは!
「っ」
大きく息を吸い、叫ぶ。
「日下部さんっ、真希さんをッ!!」
同時に私は『宿儺』に向けて飛びかかる。狙うは奴の左下腕。乙骨くんが斬り落とした側と同じ左側を斬り落とせば、万が一『領域』が戻ったとしても掌印は結べない。それが私の役割。今、ここで役割を果たせ
…………そう。例え死んだとしても、だ。
『『解』』
「ッ」
間一髪避ける。いや、当たってはいるが、ここで止まれば無駄死にだ。怯むな。再度覚悟を決め、私はそのまま『宿儺』と組み合った。
『あの女には呪力はない。入れ換えの術式では退避できないあの女を生かすために死にに来たか!』
「ええ……!!」
ーーガギィィッンーー
至近距離、しかも時間外の縛りで増大した呪力でも斬ることができない。呪いの王はそれほどに固く。
『他を生かすために自らを殺す。理解できんな』
ーーズパッーー
「…………っ」
その決意を嘲笑うかのように容易く、『宿儺』は私の右腕を斬り離した。途端に右腕の感覚がなくなる。力が抜ける。
これで終わりか……? いいや、まだっ!
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ァッ!!」
ーーグンッーー
まだだ。私は役割を果たせていない。両の腕でダメなら口だ。私は鉈を口で咥え、そのまま全体重を乗せ、振る。
ーーガギンッーー
鉈は、確かに『宿儺』の左下腕に刺さった。だが、貫通するほど威力はなく、止まる。咥えていた鉈は既に離れ、私の体は宙に投げ出される。
『人としての矜持すら捨てた足掻き。多少面白くはあったが……ここまでだな』
『宿儺』は構える。五条さんを終わらせた『世界を断つ斬撃』。ここまでだ。そう思い、目を閉じたその時、拍手の音と彼の声が聞こえた。
「七海さんッ!!」
「猪、野……くん……っ」
東堂くんの『不義遊戯』で、私と入れ替わった猪野くんが『宿儺』と対峙している。手には私が振りきれなかった鉈が握られていた。
「あぁぁぁぁぁっ!!!」
ーーゴリゴリゴリゴリーー
呪力を通し、押し込む。けれど、足りない。『宿儺』の硬度を断つにはただの斬撃では不十分。このままではーー
「らぁぁぁぁッ!!」
『無駄なことをーー』
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七海建人の術式『十劃呪法』は本人以外に使うことはできない。
物質の比率が7:3になる場所を瞬時に判断し、的確にその場所を突くことなど他の術師には到底不可能である。
…………だが、七海建人との『入れ替わり』修行を終えた猪野琢磨にはそれ7:3の内分点が見えていた。
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ーーーーーースパンッーーーーーー
『!』
斬った。猪野くんが『宿儺』の左腕を。
「ッ、しゃぁぁぁぁッ!!」
猪野くんの挙げる雄叫びを聞き、私は思わず笑ってしまう。
「…………なんだ、もう超えているじゃないですか」
地面に倒れ込み、もう動けない状態で、ポツリと溢れた言葉。ああ、何も悩むことはなかった。既に私の役割は終わっていたんだ。彼らは私が思うよりずっと強い。強くなった。後は彼らが継いでくれる。
「後は頼みます」
私の頭上、『宿儺』に向かう3人の影に向け、私はそう呟いた。心は驚く程に穏やかだ。
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「東堂!!」
ーーパァァァァンーー
ーーパァァァァンーー
ーーパァァァァンーー
七海の意志を完遂し、『宿儺』の左下腕を断ち切った猪野の叫びに呼応するかのように、柏手が3度、鳴り響く。瞬時に、その音が東堂葵の『不義遊戯』であることに気づいた『宿儺』。
呪いの王が最も警戒するのは、魂を直接揺さぶることができる虎杖悠仁。
3度の入れ替えも、虎杖を自らの背後に移動させるためであると『宿儺』は読んでいた。その予想は正しく、東堂の狙いは虎杖の攻撃を『宿儺』に当てること。
『やはりな』
「………………」
1つ目の柏手は遠く離れていた虎杖と『宿儺』の位置を変えた。2つ目で『宿儺』と斬り離した左腕。つまり、これで虎杖が『宿儺』の背後に立ったことになる。背後への位置替えと不意打ち。『宿儺』の読みは的中した。ここまで凡そ1秒間。読みが当たったことで『宿儺』の判断が一瞬鈍る。
3回目の『不義遊戯』。
それが何をーー誰を入れ替えたものなのか、そこまで思考が至らなかった。
「よう!」
もう1人。その魂に干渉できる術師がいることを『宿儺』は失念していた。
「いい加減、
『オマエはッ!?』
釘崎野薔薇は振りかぶる。2人の呪術師によって斬り落とされた『宿儺』の左腕に向かって。
「『共鳴り』ッ!!」
左腕に突き立てた釘を通し、釘崎の呪力が『宿儺』の魂へと共鳴し、爆ぜる。
『ぐ……っ』
予想外の攻撃に『宿儺』の動きが一瞬止まる。その一瞬を、虎杖悠仁は見逃さない。
ーーバヂバヂバヂバチッーー
「『黒閃』ッ!!」
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私は満足です。