術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る 作:藍沢カナリヤ
ーーーー冥冥sideーーーー
『呪術師は化物です。この村から出ていきなさい』
「……随分思想の強い呪霊だ」
私とあの呪霊の距離は、斧の間合から一歩分外。辺りにいる烏は5羽。隙さえ作れば『神風』は当たる。しかし、不気味なのは意志疎通が図れるということ。そのレベルの呪霊の発生は、ここ数年間記録にない。さて、まずはーー
「フッ!」
踏み込み、斧を振り下ろす。呪力の起こりは極力消して攻撃を仕掛けた。並の呪霊ならば、これで終わるはず。けれど、攻撃は当たっていなかった……というよりも、
「紙を空で斬るような感覚だね」
『この村から出ていきなさい』
夏油くんがここの村人を皆殺しにした。それ以上のことは知らないが、恐らくこの呪霊はその時に殺した村人たちの霊。憎しみの集合体。
「さしずめ夏油くんの遺産と言ったところか……なっ!!」
ーーブンッーー
次の横薙ぎも先程と同じ手応え。ならば、
ーークッーー
ーーブンッーー
返す刀で斬る。対応できない速度で逆方向へ。それならばどうだ?
『…………村から出ていきなさい』
「これは少々厄介だ」
『村から……』
「一度引いて体勢を整えるとしよう」
『出てイケェェェェェッ!!!!!』
呪力の爆発的な増加。これは!!
『『領域展開』『
瞬時に、呪霊の呪力が周囲に張り巡らされた。だが、おかしい。周りの景色が変わらない。『領域』の生成に失敗した……? いいや、この呪霊の言動から考えるに『生得領域』がこの村自体なのか。ならば、この『領域』の術式効果はーー。
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1級呪霊『
その正体は、かつて夏油傑によって全村民が呪殺されたことで発生した怨念が土地神と混ざり合ったことで生まれた呪霊である。その存在意義は村の安寧。元来、村が抱えていた排他的なコミュニティに加えて、呪術師に惨殺された村人たちの怨念が、村を守る土地神を、村に入る全てを排除する呪いへと転じさせたのだ。
『村落』の領域・『擯斥仇徒』は、『村落』自身の存在意義が示す通り、外からの介入に強く、逆に内側からの破壊、脱出は一切封じられていない。
そして、その術式効果は『領域内の呪力を帯びた人間の完全排除』。術式を発動されれば最後、領域外に出された者は今後一切村に入ることはできない。
この呪霊には、村の中の状況が手に取るように分かる。勿論、羽々場ねこと憂憂が自らの端末と交戦しているのにも気づいていた。『村落』にとって、2人は取るに足らない存在であるため、まず目の前の冥冥を排除することを優先した。
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「…………間に合いましたか、姉様」
「あぁ。実にいいタイミングだよ、憂憂」
「うっぷ……吐きそう……っ……飛ぶなら飛ぶって言えよ、クソガキぃぃ……うっ……」
憂憂の移動と羽々場くんの『簡易領域』がどうやら間に合ったようで、私の身には何も起こっていない。憂憂の術式が2年経っても苦手な彼女が青い顔をしながら訴えている。
「2人も無事で何よりだ」
「っ、姉様が僕の心配をッ!!!」
「……うぅぅ、冥さん……『アレ』が親玉っぷですか……?」
「あぁ。分かっているだろうが、ここは『領域』内。このまま『簡易領域』を解いて術式が必中になれば、恐らく私達はすぐさまこの村を追放され、今後入れなくなるだろうね。言動を見ていれば察しがつくよ」
「そういうのもあるんですね……」
「あぁ、とはいえ他にはあまり見ない特殊な『領域』さ」
講義がてら時間を稼ぐ。こちらには『簡易領域』を使える術師が2人いる。殺傷能力がないだろうが、村全体に作用する『領域』だ。その呪力消費は膨大だろう。ともすれば、呪力切れを待つのも1つの手段ではある。
『入るなこの村に入るな出ていけ出ていケェェ!』
「どうやら『アレ』の逆鱗には触れてしまったようだがね」
耳障りな呪霊の怒号が『領域』内に響き続ける。同時に、呪霊は2足で立ち、前足とおぼしき2本の腕でこちらを殴り付けてくる。『領域』で基本呪力が上がっているのか、先程よりも重い拳だが、私ならば捌ききれないものではない。ともすれば、
「いい機会かな」
費用対効果を考えれば、任務失敗のリスクを負ってでも確かめるべき案件がある。もし失敗したとしても、この娘を切り捨ててもいいしね。2年の歳月は惜しいが、十分稼いでくれた。それに、もし彼女の術式が私の仮説通りならば、彼女はもっと稼げる術師になるはずだ。
「フフッ、胸が踊るね」
「うっぷ……憂憂くぅん……お姉さんそろそろ辛くてぇ……『簡易領域』張るの、交換してほしいなぁ、って」
「……はぁ、仕方ありませんね」
「憂憂」
『簡易領域』を張る寸前の憂憂に声をかけた。
「はい! 姉様!!」
「いいかい、憂憂……ボソッ」
「あっ♡ あっ……姉様の声がこんなに近くでぇ……♡」
元気よく返事をする憂憂にそっと耳打ちをして、指示を出す。それから彼女の名を呼んだ。
「羽々場くん」
「な、なんですかぁ、冥さん……そろそろ辛いんですけどぉ……憂憂と『簡易領域』張るの変わってもらえますぅ……?」
「この呪霊、君1人で祓ってみようか」
「は?」
「ん? 聞こえなかったかい? 君1人でこの呪霊を祓うように言ったんだよ」
「いやいやいやいやっ!? な、なに言ってるんですかっ!? 相手は『領域』を使う呪霊……下手すると特級相当のーー」
「アドバイスを1つだけ。5秒間、目を瞑ってごらん」
戸惑う彼女にそれだけを告げて、私と憂憂はその場を離脱した。
ーーーーーーーー
「なんでなんでなんでなんでぇぇ!?!?」
冥さんたちの消えた『領域』内で叫ぶ。その声は勿論、2人には届かない。
って、あり得ないでしょ!? 冥さんは一体何を考えてるの!? 2年間、冥さんの下で体術や呪力操作を学んだとはいえ、等級だとせいぜい2級程度だよ、私!? にもかかわらず、『領域展開』できる呪霊を1人で倒せぇぇ!? 無茶を言うなよ無茶苦茶言うなよぉぉ!!
ーーガリ、ガリ、ガリッーー
「っ」
そうこうしている間にも『簡易領域』は削れていく。お世辞にも精度が高いとはいえない私の『簡易領域』では、割られるのも時間の問題だ。冥さん曰く、この呪霊の術式はこの村からの追放。そうなってしまえば、この村にあるという『両面宿儺の指』の回収は不可能になる。すると、どうなるだろうか……? そう、死刑である。
「死刑は嫌だぁぁぁぁ!!」
折角、我が推し・伏黒きゅんが手の届く場所にいる世界に転生したんだ。彼を救い、果てにイチャイチャするためにも、私はこんなところで死んでられないんだ!
「っ、『ほのぼのにゃんにゃん』ッ!!」
『簡易領域』を外される前に展開する『猫』。相手の『領域』内にいるけど、こちらの術式効果は発動するはず。ならば、『猫』に意識が向いている間に、呪力を帯びた一撃で相手を屠るのみ! だが、
『出ていけ出ていけ出ていけ出ていけェェェェェ!!』
「っ、『猫』が効いてないっ!?」
なんでっ! 相手が呪霊だから? いや、そんなことはない。対象が人であれ、呪霊であれ『猫』の術式対象になるのは実証済みだ。なら、もしかして等級の差が大きすぎるから? それはあり得る。ここまではっきりと言葉を喋る呪霊相手には試したことない。もしこれが等級差によるものだとしたら、私にはもう……っ!
『出ていけェェェェェェェェェェ!!』
「あぁぁぁっ!! もうッ! うっるせぇぇぇぇっ!!」
やってやる! やってやるよ!
5秒、目を閉じればいいんでしょ!
こうなったらもうやけくそだぁぁぁ!!!
「いーち、にーい、さーん」
ーードゴッーー
ーーザクッーー
ーーブシュッーー
「がっ、ふっ……はぁ、はっ……」
目を閉じたせいで、攻撃をもろに食らってる。呪力で肉体強化はしていても、ダメージは確実に蓄積されていく。
ーードゴッーー
ーーメギィッーー
「……っ、よーんっ」
これで4秒、かぁ。長い、長い長い。残り1秒が気が遠くなるほど長い。呪力操作が緩んでいくのが分かる。耐えろ。耐えろ。あと1秒で、なにかが起こるはずなんだ。
「……ご……ぐ……っ」
……まずい、頭が回らなくなってきた。このまま呪力が廻せない。あぁ、頭に流れ込んでくる。これは、走馬灯……かな?
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おい、ねこ。起きろ。
いつまで寝てるつもりだ。
……なに寝ぼけてんだ。
は? 呪霊? いや、今日は任務なかっただろ?
それより……ほら。
は? 手だよ、手……なんでって……はぁ、まだ寝ぼけてるのか。
これからデートだろ? だから、ほら。
…………ん。
じゃあ、さっさと行くぞ、ねこ。
~~~~~~~~
…………違う。これは違う。走馬灯なんかじゃ、ない!
これは未来予想図だ。近い未来、私と伏黒きゅんが辿る未来だ。
…………そう。
私はその未来に辿り着かなくてはならない。そのためにも、こんなところで、この程度の呪霊相手に死ぬわけにはいかないっ!!
「ごーお!!」
『出ていケェッ!』
『出ていケ、で、す……』
『この村、か、ら……ら、ねこはいます……ねこです』
『ねこですねこはいますよろしくおねがいしますねこはいます』
『ねこですねこはいますねこですねこですよろしくおねがいしますねこはいますねこですよろしくおねがいしますねこはいます』
『ねこです』
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呪術総監部より通達。
特級呪物『両面宿儺の指』の回収を確認。
任務に当たった2級術師・羽々場ねこの死刑を一時保留とし、五条悟の監視下に置き、保護観察対象とする。
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術式『ほのぼのにゃんにゃん』
2対の『猫』の式神を呼び出す術式。
黒と白の『猫』には、それぞれ周囲の『意識』を惹き付ける術式効果が付与されている。
また、2対の『猫』は同時に破壊される、もしくは術師の呪力が尽きた場合のみ消失する。