術式『ほのぼのにゃんにゃん』で呪術の世界を生き残る 作:藍沢カナリヤ
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呪術師の成長曲線は必ずしも緩やかではない。
確かな土壌。一握りのセンスと想像力。
後は些細なキッカケで人は変わる。
その煽り文を経て伏黒くんは『領域展開』を会得した。
だが、それは様々な経験を積み重ねた上で起こった必然であると私は考える。少年院での特級呪霊との会敵と『宿儺』との戦闘。そして、級友・虎杖の自死。京都校との交流戦では、特級呪霊『花御』と戦って敗北した。その後に五条悟から言われた言葉。それによって、彼は覚醒したんだ。
勿論、私がそれに並ぶ戦闘力をもっているわけでは決してない。ただ私には知識がある。この後起こる『地獄』についての知識が。
だから、私はーー
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「フンッ!!!」
ーーバキィッーー
開幕に食らわすは、呪力を帯びた右ストレート。反応が若干遅れながらも、伏黒くんはそれを呪力でガードした。
「ッ、おい待てって」
「待たない、よッ!」
ーーガッーー
ーーバキッーー
ーードゴッーー
「っ」
体勢が崩れたところに左足での蹴り、右脇腹を抉るフック、そして、鳩尾への左ストレートを叩き込んだ。どれにも呪力を込めてある。対する伏黒くんは全身に呪力を纏わせたようだけど、呪力を部分集中した結果、ダメージは通っている。2年間、冥さんに呪力操作と体術を鍛えられたのだ。才能の塊である伏黒くん相手でも、十分通用してる。
「っ、ふざけるのもーー」
「ふざけてないって!!」
ーーブンッーー
「『脱兎』っ!」
ーーポコポコポコポコーー
「!」
次の攻撃を防ぐため、『脱兎』を出す伏黒くん。『脱兎』は攻撃力こそないけど、とにかく物量が凄い。今は距離を離すつもりだろう。戦いたくないのが目に見えている……ふふっ、私を傷つけたくないのかなぁ、デュフフフフ……優しいんだからぁ♡
「『ほのぼのにゃんにゃん』」
『にゃーん』
『んにゃ』
2匹の『猫』を私を挟むように左右に呼び出す。瞬間、『脱兎』の動きが止まり、『脱兎』たちは2匹の『猫』に群がるように跳んでいく。兎まみれの視界が、急に開けた。
「っ、術式まで……何考えてんだよ、羽々場」
「んー、だから言ってるじゃん。『領域』を習得してもらうって」
ーーグッーー
「今の俺にはーー」
ーーグンッーー
「ーーできるよっ!!」
脚に集中させた呪力を爆発、距離を詰めた。
「くっ」
ーーブンッーー
蹴りは空振り。さらに、彼は横へ跳び、私から距離を離す。避けはしても攻撃をしてくる様子はない。
うーん、本気度が足りないかなぁ? よし、仕方がない。
「これで負けたらチューしてね♡♡」
「お前、ホントに……っ、『玉犬』!」
「無駄だって!」
伏黒くんが呼び出した『玉犬』も出た瞬間はこちらへ向かおうとしたものの、そのまま私の『猫』たちを追うように場を離れてしまった。
うーん、式神での攻撃は防げる。だけど、向こうは攻撃する意思もないようだし、このままじゃ埒が明かないなぁ。しょうがない、少し話でもしよっか。
「ねぇ、伏黒くん、『十種影法術』で呼び出せる式神のほとんどは『猫』の効果対象だから叩くなら術師本体。それは伏黒くんも分かってるでしょ?」
「…………あぁ」
やっぱり分かってるよね。あとは伏黒くんの手札は『大蛇』、『鵺』、『蝦蟇』辺り。それから、
「突破できるとしたら『魔虚羅』だけど、それを私相手に出す気はないよね」
「っ…………お前、本当に何者なんだよ」
何者ねぇ? そんなの決まってる。
「君のことが好きな同級生。ただそれだけだよ」
「そういうことじゃなくてだな……っ」
「だからさ、私は君に死んでほしくない」
「……羽々場?」
「私の支えだった君が、死ぬのはどうしてもイヤだ」
それはまごうことない私の本心だ。本当なら私の言葉で、彼を導きたい。でも、私にはその実力はないから。彼の言葉を借りるのは嫌なんだけど、仕方ない。
「『死んで勝つ』と『死んでも勝つ』は違うんだよ、伏黒くん」
「本気でやってよ。もっと欲張ってよ」
「………………」
たぶん今の伏黒くんには、そのときほど刺さりはしないだろう。けど、少しは効果があったのかな。雰囲気が変わった。抜けた感じじゃない。覚悟を決めた目付き。濡れる……じゃなくて、こっちまでヤル気満々になっちゃう。
「すぅぅぅぅ……ふぅぅぅ」
「…………あ」
1つ深呼吸。さぁ、ここからが!
「本番だぁぁぁぁぁ!!!」
「なーに、してんのぉぉぉ!!」
ーーゴツンーー
「痛っ!?」
突然の衝撃。何かにぶん殴られたことに遅れて気づく。私の視界には伏黒くんしか入ってなかったから、近づいてきたその人の存在に気づかなかったのだ……まぁ、人っていうよりも、
「パンダ先輩」
パンダだけど。東京校2年生、パンダがそこにはいた。人よりも人らしい感情をもつパンダは盛大にため息を吐いていた。
「よう、伏黒。伊地知が学内で慌ててたから来てみれば、なんでこんなところで殴り合いしてんだよ。しかも、術式まで使ってるし」
「すいません。ちょっとこいつに呼び出されて、気づいたらこうなってました」
「……羽々場ねこ、だよな?」
「はい、パンダ先輩。はじめまして、羽々場ねこと申します」
殴られた相手にも丁寧に挨拶を返す私、偉い。伏黒くん的にもポイント高いのでは?
「それで、なんで殴り合いしてんだ? 喧嘩か?」
「いや、俺は羽々場に迎撃していただけです」
「じゃあ、羽々場はなんで吹っ掛けたんだ?」
「……伏黒くんに『領域』を習得して欲しくて、伏黒くんを追い詰めようかと」
「………………」
数刻の沈黙のあと、パンダ先輩は口を開いた。
「伏黒、もしかしてこいつヤバい奴か?」
「はい」
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結局、この戦闘によって、残念ながら伏黒くんに『領域』を習得してもらうことはできなかった。
……まぁ、でもいい。『死んで勝つ』と『死んでも勝つ』が違うことは、きっと彼に刻まれたはずだ。これなら少年院でも『魔虚羅』を使おうとすることはないだろう。
あとは『宿儺』を表に出さなければいい。そのためには少年院での戦闘までに、私ももっと強くならなくてはならない。時間はもうない。できることは全部やっておくべきだろう。
ーーーー夜・ねこの部屋ーーーー
ひとつため息を吐いて、私はライン通話を起動した。何コールか後に、相手が出る。
「もしもし、五条先生ですか?」
『ねこの方から電話してくるなんて珍しいね。僕が恋しくなっちゃった?』
気色の悪い冗談を言ってくる通話相手、五条悟。私は吐き捨てるように返す。
「んなわけねぇじゃないですか。私は伏黒くんしか眼中にないって散々言ってますよね」
『ハハッ、相変わらずねこは恵にゾッコンだねぇ。それで? 本題は?』
流石の自信過剰男も、私が電話してくることの意味は分かっていたようで、本題は何かと訊ねてきた。
「……五条先生は私の死刑を撤廃してくれましたよね。それはなんでですか?」
『ん? 言っただろう、若者の未来を守るのは大人の役目だってさ』
いつか聞いた答え。まぁ、この人のかとだからそう返すか。質問を変えよう。
「五条先生、私の術式についてどう思います?」
『なるほど。そっちが本題か』
「はい。術式と向き合うべきってのは、冥さんからも言われてましたし」
冥さんは『黒鳥操術』と自分自身の力で向き合ったという。けれど、少年院の件まで時間がない私には、悠長に術式と向き合う時間はない。だから、こうして、術式を見抜く『六眼』をもつこの人に助言を求めようとしてる訳なんだけど。
『……面白い術式だとは思うよ』
「相手の意識を集める『ねこ』。それだけで、貴方が面白いなんて言うわけがない」
『…………』
「…………」
『……うーん』
私の言葉を核心を突いていたのだろう。五条悟は少し困ったように、ため息を吐いて、言葉を続けた。
『学長がさ』
「は?」
『よく言うんだ。気付きを与えるのが教育だって』
「それは教えないってことですか?」
『そうは言わないさ。せっかく生徒が頼ってくれたんだ』
僕も他人の術式について全部が分かるわけじゃないけれどね。そんな風に前置きしてから、
『君の術式が『意識を集める』だけではないのは確かだよ』
そう言った。
「…………私の術式にはまだ上がある」
『僕から言えるのはここまで。じゃ、君が強くなるのを楽しみにしてるよ』
「ちょ、まだ聞きたいことがっ!」
ーープツンーー
一方的に言い、五条悟は電話を切った。
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次回、『呪胎戴天』編スタート。