スキルクリスタルシステム 作:ぱすたご
「いてて、どこだここは」
茂夫は湖に着水するまでのことを思い出そうとする。
確か授業中に床が輝いたと思ったら、急に無重力になって、、、そこからが思い出せない。
とりあえず、ずぶ濡れで重くなった服を脱いで、湖の端に泳いでたどり着いた茂夫は現状を把握しようとする。
どうやら、ここは森の開けた場所にある湖のようだ。
脱いだ服を絞りながら、辺りの状況を確認する。
なんだあの石は?
湖の辺は色とりどりの花が咲いており、風に揺られていた。その中でその存在を主張するかのように花冠が載せられた二つの石碑らしきものが見えた。茂夫は見つけた石碑に歩いて、近づく。
なにか文字が書かれているけど、俺が知っている文字じゃないな。もしかして、未発見の文明とか?
茂夫は石碑の前まで来ると石碑に刻まれた文字を見つけたが、茂夫にはそれがなんの文字であるかまではわからなかった。
また、石碑の手前には二枚のプレートのようなものが置かれていた。なにかほかに手掛かりはないか、茂夫はそれを手に取った。
一枚は淡い赤色のプレート、もう一枚は鋼色のプレートだ。手触りは少し冷たく、弾力を感じる。
なんだろうか、この不思議な感触は。言葉には言い表せないような感触。お、こっちの鋼色の裏に日本語で何か書かれている。えーと、
茂夫はその日本語の殴り書きで彫られた文字を読んだ。
「スキルクリスタルシステム、、、?」
その言葉を口にした瞬間、手に持っていた二枚のプレートの形が崩れ、ウネウネとその形を変えた。
「ひっっ!!」
茂夫は反射的に得体のしれないものの恐ろしさに叫びながら手でソレを払い落とそうとする。だが、その行為は徒労であった。
先ほどのプレートの原型を留めず、うねうねとそれは茂夫の両腕にまとわりついてきた。赤色のプレートだったものは左腕に、そして、鋼色のプレートは右腕に絡みついてきた。
そして、絡みついたソレは怪しく淡く光る、その光は徐々に強くなり、カッと勢いよく火花を散らすかのように発光した。
なんだったんだ。急に形を変えて、腕にまとわりついたと思ったら、今度は光るなんて。
茂夫はその現象に戸惑いながら、目を開けた。
あれ、さっきまで腕に纏わりついていたものが消えている。それになんなんだこれは。変な模様が両腕に刻まれている、、、。
こんな不思議な現象がおこるなんて、まるでファンタジーの世界に来たみたいだ、、、
この模様は何かを表しているのだろうか。
かがみながら観察をやめることなく、茂夫は両腕に刻まれた模様を理解しようとするべく、集中して細部をまじまじと見た。
だが、この時、彼は一つ過ちを犯した。湖の石碑には二つの花冠が供えられていた。ともすれば、誰かがこの石碑に来ているのは必然ではある。だが、こんな周囲を森に囲まれた湖にわざわざ花冠を供えに来る人物なんて、よほどの物好きか、、、その石碑に思い入れのあるものだ。
そして、その人物は花冠を捧げるべく、そこに来た。
「前を向いたまま動かないで話して、、、君は誰?」
凛とした女性の声と共に右側の首筋から冷たい感覚が伝わってきて、茂夫の意識は両腕の模様から現実へと引き戻された。ひやりとした感覚が首筋から伝わる。茂夫は瞬時に経験則から首筋にあてられているのは刃物であると認識した。
「ど、どなたかは存じませんが、もし、私有地とかに入って怒っているのだったらすぐに立ち去るのでどうか命だけは、、、」
できるだけ慎重に、そして、相手の機嫌を損ねないように茂夫は話した。
「そんなことはどうでもいいよ。ここにあった2枚のプレートはどこに消えたの!」
触れる刃物の圧が増す。
「し、知らないんだ。スキルクリスタルシステムって叫んだら僕の腕に二枚とも消えたんだ。」
茂夫は命の危機から早口で喋る。
「は?ちょっとまって。まさか、、、同期したの!しかも、2枚とも?!!」
背後の人物は驚きを隠せないのか、声を震わせ喋る。
予言、、、まさ、、、え、、れ、と、、の
なにやら、ぶつぶつと呟く背後の人物。茂夫は断片的に聞き取れたがそれ以上のことはわからなかった。
「まぁ、いいや。わかったよ。どうしても死にたくないなら君に選択肢を二つ出そうじゃないか。両腕を置いてここから立ち去るか。それとも、このまま死ぬか。10秒考える時間をあげるね。」
ムリムリムリ、10秒でそんな無茶苦茶な選択死をあたえられても困る。
「ちなみに両腕を置いていくってのはどういうことなんだ?」
「もちろん、切断しておいていってもらうってことだよ。2枚のプレートさえ、返してもらえれば私は問題ない。」
「だったら、切断なんて強引な方法じゃなくてもいいじゃないか。他になにか取り出す方法とかないのか。」
「うーん。同期をしたプレートは同期者の体から切り離されるか、同期者が死ぬかでしか切り離すことはできないんだよね。はい。あと、3秒。」
くそったれ、このまま死ぬは論外。両腕を切断して死を免れても、結末は出血多量で待ち受けるのは死。どっちみち死じゃないか。あーあ、どうしていつも不運な目に合うのだろうか、このまま死ぬも嫌だ。見逃したアニメとか漫画とかまだまだやってないことが多すぎる。どうにかして逃げられないものか。
「あと2秒。」
どうすれば、逃げることができるか思考を加速させる。背後を横目でちらりと確認する。だめだ、相手との距離が離れすぎて、姿が確認できない。どうにかして、距離が縮めなければ、振り向いて相手に攻撃し、逃げようとしても刀の振り下ろすスピードには負ける。
「1秒」
距離を近づける、、、そうか、両腕を差し出すふりをして、背後に近づいてきた相手の膝に肘撃ちを食らわせてやれば逃げることができるかもしれない。
「ゼr「両腕だ!両腕を差し出す!これで見逃してくれ!」」
背後の人物が首筋にあてていた剣を振りかぶろうとしていたタイミングでなんとか間に合った。
「わかった。両腕だね。じゃあ、切り落とすから両腕を横に広げて。」
交渉がスムーズに言ったことに対して気軽な感じで背後の人物は喋る。
おいおい、何が背後に近づいてくるだ。近づいてきて切るなんて自分が都合のいいように考えた妄想じゃないか。くそっ、目の前は湖、後ろは今にも自分を殺そうとする人物。どこにも逃げ場はない。えーい、やぶれかぶれだ。
背後の人物が剣を振りあげると同時に茂夫は湖へと見事なスタートをきって駆け出した。
「逃げても無駄。スキルクリスタルシステム起動―」
茂夫が逃げたことに対して驚くこともなく、淡々と喋る声が聞こえてくる。
「追いつけるもんなら追いついてみろ。これでも僕は小中ではマグロと言われるほど泳ぎが早かったんだ。」
湖に飛び込みながら、叫ぶ茂夫。その横幅の広い巨体からは考えられないほどのスピードで湖の対岸を目指して泳いでいく。
対岸まであと少しだ。あとは森に紛れて逃げ切る。そう考えた瞬間、茂夫は世にもおぞましい気配を逃げてきた方向から感じた。おぞましい気配を感じ取った茂夫はジグザグに泳ぐことでおそらく来るであろう悪い予感に備える
「システム・勇魔王。アクティベート・覇王断。」
その瞬間、湖は声の人物が刀を振り下ろした場所で真っ二つに割れた。いや、正確には湖の水のみが割れたといっても正しいだろう。
ッッッ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
割れたのは湖だけではなかった。攻撃の回避が間に合わなかった茂夫の右膝から下は綺麗に切断されていた。右ひざから湧き出るどす黒く赤い血が茂夫の体を中心に湖を染めていく。
それでも、必死に泳ぎ続け、なんとか対岸へとたどり着いた。だが、着いたときには意識が朦朧としていた。たどり着いた先には、どうやら背後にいた人物が待ち受けていたのか剣を下ろして、自らが必死に泳ぎもがく、無様なさまを見ていた。
なんてこった。初めから生きてかえることなんてできなかったんだ。茂夫は絶望しながら意識を手放していく。
「逃げるから痛い目に合うんだよ。じゃあね。」
茂夫は意識を手放す直前で目の前の人物がどんな姿をして何を喋ったのか認識しなかった。彼が最後に聞いたのは「オートパイロット起動―生命危機による強制自動戦闘モードに移行します」という無機質な機会音声だった。