「ギターサポート?」
そんな話が舞い込んできたのは初春。
「はい!今度のニューシングルレコ発ワンマンでギターを弾いて欲しくて!」
依頼主は相も変わらず青い少女。よくよく話を聞けば、初めてのフルバンドスタイルでのワンマンに挑戦するらしく、その為に目をつけている人に声をかけ始めているらしい。
つながりが増えそうな話ではあったが、俺の腰は重かった。
「俺よりもうまくギターを弾ける人なんかたくさん知ってるだろ。それでも俺を選ぶ理由があるのか?」
プロギタリストは沢山いるし、そもそも俺はプロを名乗れるほど実力は無い。
それでもなお俺を選ぶのは、何か理由があるのかと気になった。
「あります!もちろん」
「…聞かせてみろ」
「まず第一に、好きな人と一緒に演奏したいなって…♡」
「その程度の理由なら俺は受けん。ツーマンの事を何も覚えてないのか」
「でもその理由はほんの少しです。雫さん、そういうの嫌いって知ってますし。本当は…雫さんのライブが好きだから」
「…はあ」
「私、雫さんが弾くギターソロとか、ライブの時のステージングか大好きなんです。サポートバンドの時に見ただけですけど、ギターソロはまるでギターが歌ってるみたいな感覚になる時があるし、自然と拳をあげたくなるようなステージングを、地下のライブハウスのバンドマンのステージを、皆に見せて欲しいなって思ったんです」
「ふむ」
「だから…雫さんさえよければ、一緒にステージに立ちませんか!」
もっともな理由にしてはまだ軽いが、そもそもワンマンライブだし彼女の好きにさせてやってもいいか。
それに、少しでも俺のギターが好きと思ってくれているのは嬉しいし。
「…分かった、受けよう」
「!ほんとですか!」
「全力でやる。だからお前も全力で来い」
「はい!!」
…これが安請け負いにならなかったら、一番嬉しいが。
そして、スタジオ練習が始まった。
過ぎていく小節の中で、正確に、それでいて感情的に音を乗せていく。
(全員上手すぎるだろ…さすがその道のプロ達だ)
置いていかれないように、一曲一曲にしっかり食らいつく。アマチュアの心が試されている。
ようやく一通り合わせて休憩に入った時には、もう俺の心身は疲労困憊。
張り詰めた空気から解放され、喫煙所でタバコに火をつける。
「お、お疲れ様〜」
同時に喫煙所に入ってきたのは、今回の星街バンドのドラマーさんだ。
「お疲れ様です」
「初めて聞く名前のギタリストだから少し心配してたけど…その若さでよくあんなギターが弾けるもんだ」
「…いえ、まだまだ精進しないといけないです」
「もっと気楽にしてみろ。固すぎると演奏に出るぞ」
「すいません…初めてプロの皆様に混ざって演奏させていただくので、さすがに緊張して」
「キャリア短いとか長いとか関係なく、ステージの上では対等だ。楽しくやろうぜ」
「…心遣い、痛み入ります」
案外酷い演奏はしてないようで安心した。
「そういや星街さんがさっきも口酸っぱく言ってきたよ。君というギタリストがどういう人間か」
「…悪口じゃないです?」
「まさか!むしろ褒めちぎってたくらいだ。私達も改めて君を見て納得出来るくらいには」
「…恥ずかしい」
そんな軽口が叩けるくらいには、俺が感じていた堅苦しさもなくなった。
むしろこのタイミングで打ち解けることが出来て良かったくらいだ。
タバコミュニケーションは、確かにある。
―――――――――――――――――――――――――
そして、ライブ当日。
私のためにたくさんの準備をしてくれている社員さん、バンドメンバー、そして雫さんを見ていた。
「リードのゲイン、もう少し上げます…こんな感じだったら音抜けてますか?」
(真剣な表情の雫さん…かっこいい!)
バレたら雫さんに怒られそうだけど、それでも雫さんから目を離せない。
単純に好きな人って言うのもあるけど、それだけじゃなくて。
(雫さんが私のために頑張ってくれてたの…私が一番近くで見てたもん)
私の視界を、世界を彩るために、雫さんは毎日試行錯誤してくれていた。
私が気にしてないような、細かいところまで。
そして今日は、雫さんに"地下のライブハウスのバンドマンのステージ"を皆に見てもらう日"でもある。私が堪らなく好きになった、アツく、自然に拳をあげたくなるようなライブを見せてもらうために雫さんに"たくさんお客さんを煽ってください"とお願いしている。
(不思議だな…今日のライブ、成功する気しかしない)
それはきっと、他のバンドメンバー陣は確かに強力だし、信頼もおけるけど。
一番は雫さんがいるから。
私が好きになったアーティストが、力を貸してくれているから。
何があっても今日はいいライブになると、勝手に思えるのだろう。
そして。
「みんな今日は来てくれてありがとう!あなたのために全力で歌います!よろしくお願いします!」
私の号令に続いて、曲が始まる。同時にギター…雫さんがお立ち台に登り、ギターリフを弾く。
感情的なギターのサウンドが皆を魅了していく。前のような"蝕星の亡霊"ではない、"水面雫"が出す音が、会場の熱を高めていく。
かと思ったら、私が歌うパートに入った瞬間にまるで私に寄り添うように音を連ねてくれる。
私が行くべき道に、案内してくれるかのように。
そうして一曲目の終わり、次の曲へ繋ぐためのかき回しの最中。
「そんなもんかよ、お前らの盛り上がりは!?」
雫さんが言葉を発する。
「俺たちは今日!全員でいい日にするためにここに立ってんだ!それはステージに立ってるメンバーだけじゃない、今日聴きに来てくれてるお前らも一緒にだ!」
その言葉が、確かに胸の高鳴りを加速させていく。生きた言葉で、会場のボルテージは更に上がっていく。
「同じ夜はもう二度と来ないんだぞ!だったらさ、これ以上無いくらい良い夜にしたいじゃん!だからお前らも存分に楽しめ!地下のライブハウスだろうが地上のライブハウスだろうが関係ない、好きに頭振って好きに拳あげろ!他人と箱に迷惑かけないのと怪我しないことを守ってくれればいいからさ、お前らも全力でかかって来い!」
それを皮切りに、雫さんに応えるようにあがった拳が見える。
それに負けないように、私も声をあげた。
ワンマンライブは、まだ始まったばかりだ。
―――――――――――――――――――――
一つ、謝らなければならない事がある。
ライブだと言うのに、俺は私情を挟んでしまった。
流れていく五線の上で、不意に。
白くか細い腕で、それでも何かを掴もうと手を伸ばすお前を。
ステージの上でスポットライトに照らされながら、楽しそうに、嬉しそうに笑うお前を横目に見て。
"その手を取るのは俺でありたい"と。
"お前のその笑顔を、隣でずっと見ていたい"と。
"お前にとっての一等星でありたい"と、願ってしまった。
ああ、そうか。ようやく少し理解できた。
俺だけが分からなかったこの感情のことを。
早鐘を打つ心臓の動力源を。
きっと、人々は"恋"と呼ぶのだろう。
"星はもう、すぐそこにいるよ"