楽園   作:自認畜生

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"悩んで、足掻いて、もがいて、嘆いて"


カリヨンの鐘

最近、雫さんにまた避けられている。

前のような避けられ方とは違うから決して嫌われたとかそういう訳ではないと思うんだけど、そうであっても避けられている側としては勿論いい気分ではない。

 

「という事で、雫さんに避けられてるんですけど!!!!!!」

(照れ隠し……とはまだ言えないにぇ)

 

私は荒れていた。今回も私は悪いことしてないのに避けられている理由が分からない。

 

「まぁ、あいつはあいつで思うことがあるんだと思うにぇ」

「じゃあ、また良くないライブしちゃったのかな」

「だったら雫の性格上すぐにすいちゃんに言ってるはずだにぇ」

「確かに…じゃあ今度は何でなんだろう…あー雫さんに会いたい…」

「まさかライブの日からまともに会ってないん?」

「うん…体調も良くなって雫さんの家にも行ってないし…」

 

今すぐにでも会いたい気持ちが止められない。そんな私のスマホに一件の通知音が鳴り響く。こんな時に何だと思いつつ携帯を開くと。

 

「水面雫…ツアーファイナルワンマンライブ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ、星街さんには会っていない。

ツアーファイナルの予約の連絡はLINEで来たが、それだけ。お礼の文章だけ送って、それ以外には何も返していない。それでまた集中切れても嫌だし、伝えるのはライブハウスで、と決めたから。

 

「その為には、集客もライブ作りもしっかりやらなきゃな…」

 

俺はまたペンを走らせた。早めに作り終えて練習に取りかかりたいしな。

 

 

 

 

それからは、また慌ただしい日々を過ごしていた。

 

(カッティングの精度が上がらない…基礎練増やすか)

 

残り一ヶ月、単純なギター一本の曲の完成度を上げたり。

 

「ランダムグリッチを設定して…Zoiaのパッチはこれで良し。後はMIDIスイッチャーとの互換性を確認して…あとmoodは…」

 

残り一週間半、エフェクターのセッティングを確認したり。

 

「ようやくヘッドレスの弦交換にも慣れてきたな…あとはしっかり引き込んでチューニングを安定させて…」

 

残り三日、ギターの最終セッティングを済ませて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集客は、これ以上無いほどに頑張った。

以前も割と来てくれてはいたが、今回は段違い。

俺は俺の力で、この地下のライブハウスを満員にすることが出来たのだ。

少し涙ぐんでしまったが、始まってもないのに泣く訳にはいかない。

オープンはしているが、とりあえずスタート少し前までタバコを吸う。

 

「お、雫!来てやったにぇ」

「…また総出で来たな、どうもありがとうな」

 

と思ったら、受付を済ませたさくらさん達が喫煙所に入ってきた。いや入ってくるなよ仮にもアイドルなんだから。

"総出で来た"ということは、もちろん。

 

「…雫さん」

「…久しいな、星街さん」

 

星街さんと最後顔を合わせたのは会社で気まずくて避けたぶり。少し気まずいが、そんなことを言ってる時間も無い。

 

「俺に言いたいこと、たくさんあるだろう。だが今は、今だけは待ってくれ…その為のツアーファイナルでもあるから」

「…分かりました」

 

正直、このタイミングで少し顔を合わせることが出来て良かった。

そうでもしなかったら、未だ俺は"私"になれていなかった気がするから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"私が見る世界は、いつも色が無かった"

"日によって色を変えていく筈の世界で、私だけが世界に弾かれていた"

"どれだけ手を伸ばしても"

"どれだけ歩みを進めても"

"どれだけ叫んでも"

"どれだけ、この喉を枯らしても"

"世界は、私を仲間に入れてくれなかった"

"世界の異分子であると気づくのに、少しばかり時間がかかってしまった"

 

"鳥籠の外に初めて出た時、突然羽が生えたような気分だった"

"羽が生えて、どこへでも行けると思った"

"間違いだった"

"異分子だと気づくのがあと少し早ければ、私はそもそも鳥籠の中から出なかったのに"

"そんな私が、今でも憎い"

"憎くて、憎くて、今すぐにでもこの心臓を貫いてやりたいと"

"ずっと、ずっと"

 

黙って見ることしか出来なかった。今私達が見ているのは演奏でも演劇でも無い。それらを超越した何かを見ている。

"昔の水面雫"が、今の水面雫を動かしているような。

そんな思考も一瞬、更に言葉は続いていく。

 

"鳥籠の中は、とても居心地が良かった"

"ここに居れば、傷つかない"

"ここに閉じこもれば、世界の異分子ではなくなる"

"私という存在は、私のみが受け入れれば良い"

"私だけの不可侵領域、鳥籠の中の楽園で、ずっと私は私を補完し続けた"

 

「だから、私は知らなかった!」

「地下の温かさも、殺し殺される楽しさも!」

「海の底の冷たさも、太陽までの距離も!」

 

世界が色を変える。今の水面雫が戻ってくる。視界、空気、全ての感覚が彼の言葉一つで別物へと成り代わる。

既に止まらない涙も止める気にならないくらいに没入していく。

 

「そして、頭から離れてくれない彗星の色も!」

 

一瞬、耳を疑った。

彼はそういうのを一番嫌うはず。だから彼自身がライブに私情を挟むことなどしない。

と、思っていたけど。

 

「彗星は短命だ。だからこそ弱き命だと思った!」

「たくさん潰した、たくさん殺した!」

「それでも、彗星はその輝きを止めなかった!」

「目を離せなくなったのにも、随分時間がかかったものだ」

 

(え…?)

 

「思えばあなたは、私の知らないところでずっと私を見てくれていた」

「海の底の微弱な音を、あなたは聞き逃さずいてくれた」

「過去の私のことも、引っ張ってでも共に未来へ連れていこうと思えた」

「そんな、頼んでもいないのに横で笑っているようなあなたに、いつしか心惹かれていた」

 

(え…?そんな、嘘…?)

 

「あなたに、これからもずっと私の見る世界を照らしていて欲しいと思った」

「あなたに、いつまでも笑っていて欲しいと思った」

「そして願わくばその笑顔を、私の横でずっと見せて欲しいと思った」

「あなたを幸せにしたいと、確かに思った」

「私が辿り着いた楽園で、共に、この身の果てるまで」

 

…ずるいよ、こんなの。

ツアーファイナルっていう大事なイベントで言うなんて。断る気なんて無いけど、断れないじゃん。

 

でも、そうか。

あなたは、もう昔のあなたじゃないんだね。

ライブハウスが、ホロライブが、ツアーで出逢った色々な人があなたを変えたんだね。

その中に、私も居れたんだ。

 

どうしよう、今日も涙止まらないや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライブハウスは、私という存在を初めて受け入れてくれた場所です。そして時が経つにつれ、ライブハウスが、そして今日ここに私の舞台を見に来てくれているあなたが、私の世界に色を付けてくれました。

あなた達が目を離さないでいてくれたから、私は今ここで呼吸をしています。ずっと、私はあなた達から大切な物をもらってばかりだ。

私は生憎音でしかその恩を返せないから、もし許されるなら私が音を止めるその瞬間まで目を離さないで欲しい。

そんな私をずっと見守っていてくれた、ここにいる全てのあなたへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」




"やっと、あなたの手を取れる"
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