楽園   作:自認畜生

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在り方

"即レス"という言葉がある。

 

 

曰く、仕事において"即レス"を怠ると人によっては仕事が出来ない人認定をされてしまうとか。正直理不尽な話ではあると思うが、報告・連絡・相談が鉄則とされるこの仕事場だし仕方が無いとも思う。

しかしこの"即レス"を重んじられるのは、何も仕事中だけではないことを最近知った。知っただけで認めた訳では無いが。

で、ちょうど今その事に関して言及されているところだ。

 

「雫さん、LINEの返信遅くないですか」

 

先日付き合い始めた星街さんに。曰く、"私のLINEに即レスをしてくれない"と説教されているみたいだ。納得はしていない為、あくまで他人事である。

 

「付き合う前も付き合った次の日からもそうですけど、雫さんは返信が遅すぎます!」

「仕事とバンド関係以外の人のLINEは通知切ってるから気づかないんだよな。切ってても大体すぐに返信しなきゃいけない内容じゃないし」

「…私の通知は?」

「切ってる」

「なんで!!!!!!!!!」

 

バンッッッッ!!!と勢いよく机が台パンされる。可哀想に。

 

「何でって言われてもな…仕事でもないのに即レスを要求される理由が分からん」

「まあ雫さんもライブとか色々あると思いますしこの際即じゃなくてもいいですけど、せめて一日が終わるまでには連絡返してくれないと私が心配なんです!」

 

その気持ち、少しだけ分からなくもないが…

 

「こういう経験は初めてだから分からんが、LINEの返信の時間まで管理されたくない」

「でも…!」

「我を通して悪いが、恋仲になったとは言えど互いの生活リズムとか習慣に口を出すのは悪だと俺は思ってる。だから俺の生活に干渉して欲しくないし、俺も星街さんの生活に干渉しない…現に俺から星街さんに連絡したこと無いだろ?」

「確かにそうですけど…!私だって恋人らしいことしたいもん!初めてだから!」

「ライブも続くし仕事はあるし、星街さんが言う"恋人らしいこと"をする時間は割けないな」

「っ…!もういい!ばか!!!!」

 

また何か地雷を踏み抜いてしまったようで、星街さんは怒りながら去っていってしまった。恋仲というのは少々面倒だな。上手くやれれば良いのだが、生憎俺には女性経験が過去にあった訳でもない。"知識の無い状態で解の無い問題を解け"と言われても俺には無理である。

 

「………まぁ、良いか。」

 

この後の仕事もあるし、仕事終わったらすぐライブ。余計なことに頭のリソースを割いている時間など本当に無い。

明日からまた休日だが、また次の月曜日に考えるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お、雫のツイート通知が来たにぇ」

「………………」

「にしてもまたライブレポか…あいつどんだけライブやってるんだにぇ」

「……………………………………」

「あいつどんだけ体力あるんだにぇ、また病院送りにならないといいけど」

「………………………………………………………………」

「…すいちゃん、さっきから何やってるにぇ」

「………雫さんが結局LINEも何も送ってくれなくてムカつくからずっとメッセージ連投してる」

「待て待て、色々言いたいことはあるけどとりあえず何があったか聞かせるにぇ」

 

あの後、本当に雫さんから何の連絡も無く、果てに会うことも無いまま週を跨いだ月曜の昼休み。一緒に昼食を摂っていたみこちに事の顛末を洗いざらい話した。

 

「雫さん、Twitterは見るのに返信はしてくれないんだ…!」

「雫、素でやってるんだろうな…本当に恋愛するの初めてなんだにぇ」

「やっと付き合えたのに…雫さん、やっぱりもう私のことなんてどうでもいいのかな」

「それは無いと思うけどにぇ」

「じゃあ何で先週から何も無いの!?」

「何を言ったらいいか分かんないんだろうなぁ…あいつ人の気持ちとか読み取れなさそうだし、すいちゃんが何で怒ってるかも分からないから何も言えないんだろうにぇ」

「それは…確かにそうかもしれない…」

 

雫さんなら十分有り得る線である。

 

「でもまぁ、雫の言い分も分からんことは無い 」

「みこちまでそんな事言うんだ」

「放置しすぎも良くないとは思うけど…例えばすいちゃん、配信中にもLINE返せって言われたらどう思う?」

「配信中なんて無理に決まってるじゃん、そもそも配信中は音切ってるから気づかないし集中してるし…あ」

「そういうことだろうと思うにぇ。つまるところ…雫は自分の時間が欲しいのと連絡とかで束縛したくないだけだにぇ」

「そういうことだったんだ…」

「でも心配になる気持ちも分かるにぇ。だからどっちかが折れるか、落とし所を見つけれるのが一番いいんだけどな…」

「…うん、とりあえず明日会えたら話してみる」

「そうするのが良いにぇ。…早めに解決しろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブハウスは良い。地上の何もかもを捨てて世界に没頭できる。

地上で得る様々な情報は、やがて大きなモヤになって脳のリソースを圧迫する。だからここは俺にとって外すことの出来ない場所になったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

ここにいる間は全てを忘れられる。

例えそれが、決して忘れてはならない悩み事だったとしても。

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