膨大な数の通知は、それが見えただけで開くのを躊躇わせる。
分かって欲しい。例えばLINEの友達1人から50件の通知が来ていたとしよう。さすればこちらはその返信の為に50件の文章全てに目を通して会話の流れを理解し、その上で返信をしなければならない。この作業には少なからず頭を使わねばならない為、それを考えると俺はどうしても既読をつけることさえ億劫になってしまい、結局放置してしまうのだ。"未然に予防したいなら通知ONにすればいいのに"と言われたこともあるが、友達とのLINEが仕事中に来てしまうとそっちに意識が持っていかれてしまう為、すぐ返さなければならない仕事のLINEと音楽関係のLINE以外は基本的に通知を切っているのだ。
色々話したがつまり、通知が増えるとその分返信をするのが怠くなる。
たとえその相手が、幸せにすると誓った彼女だとしてもだ。
「今日で500件目を超えたか…もう全部読むのしんどい」
寝る前の少しだけ、俺はLINEのアプリを開く。学生の頃から普段の返信はロック画面に出てくるバナーからしている為、LINEのアプリを開く習慣がついていないのだ。
…いや、まあ。言うてもそれは理由のうちのほんの少ししかなくて。あの日の喧嘩の後に爆速で通知が100件を超えていたことが理由の大半を占めているのだ。いくら恋仲とは言えここまで来るとトークルームを覗くのも面倒だ。
「放置しちゃいけないって分かってるけど…さすがに500件超えはキツい」
ため息をつきながらギターを手に取る。次のサポートライブのための音作りと練習のためにしっかり練習しなければ。
(個人的なわだかまりは、ライブに関係ないもんな…!)
「そういえば水面くん、星街さんと付き合ったんだね!おめでとう!」
定時終わり、Aちゃんさんに突然祝われた。気持ちはありがたいのだが、現状が現状なだけにあまり喜べない。
「…ありがとうございます」
「星街さんからしたらやっと実った恋なんですし、水面くんがちゃんと幸せにしてあげるんだよ」
「分かってます…自分が絶対に幸せにしたいと思ってます」
「…意外にゾッコンなんだねぇ」
分かってはいる。嘘はついていない。
「で?告白はどっちから?どんな感じで告白したの!?」
「すいません、これからすぐライブなので失礼します」
Aちゃんさんの返答を聞かずして、俺はその場を後にした。
ライブ前なのに、余計なことは考えたくなかったから。
「………………………………………………………」
待てど暮らせど反応の無い彼のトークルームを、最近はずっと表示している。
彼との連絡が途絶えてそろそろ一週間が経とうとしている。仕事場所は一緒だし会おうと思えば会える距離にはいるのだが、ビルの中での生活圏が違うのと最近は休憩時間も退勤時間も被らなくなってしまった為、声も聞けない、顔も見れない生活が続いている。
「これじゃ、付き合う前と変わらないよ…」
「いっそ前みたいに雫のライブ行くか、家凸して話すかすると良いにぇ」
あれから、ずっとみこちに話を聞いてもらっている。ビジネスとは言え感謝しかない。
「でも私からもういいって言った手前、そんな事出来ないよ…ダサいし」
「すいちゃんがそれで良いならそれに関しては何も言わないけど、雫も今月休み無いだろうし、下手すりゃ来月も休み無しにしたら1ヶ月以上進展しないままになるにぇ。それはそれでどうなのかにぇ」
「それは…そうだけど…でも…」
「あんま長引かせん方が良いと…うわ、言ってたらあいつやっぱり来月の全部の土日のライブ解禁したにぇ」
「…私には返信しないのに!ライブばっかり!」
「待て待てすいちゃん、気持ちは分かるけどスマホがミシミシ言ってるから抑えるにぇ」
返信が欲しいのにスマホが壊れてしまっては元も子も無い。どうにかして平静を保つ。
「…とは言え、追いLINEのしすぎもそれはそれでだけどにぇ」
「…どうして?」
「みこもそうだけど、100件200件とかの通知見るのって結構気分落ちるしついつい後で見ようってなりがちだにぇ」
「そんな…私もう雫さんに何個メッセージ送ったのか分からないよ…」
「…すいちゃんから行かないなら、気長に待ってみるにぇ」
どうやら私たちの問題は、割と尾を引きそうだ。
「…仕方ないにぇ」
お互いに初めての恋愛だということ。
だからこそお互いに右も左も分からないこと。
それは分かっている。なんたってみこはエリート巫女だもの。
分かっている。けれど、
「さすがに些細な喧嘩で尾を引きすぎだと思うにぇ」
「…俺も分かってるよ」
未だ解決しない雫たちの喧嘩に関しては、さすがにメスを入れたくなってしまった。
「まあ、LINEの通知溜まりすぎると返信も億劫になる気持ちはみこも理解出来るし、すいちゃんはすいちゃんで雫のことを縛りすぎな一面もあると思うにぇ…とはいえ、すいちゃんとの時間を作る気が無いのもどうかと思うにぇ」
「…最近、音楽の調子が良いんだ。サポートの依頼も前以上に入ってきてるし、かなり大きいライブも決まったんだ。だからこそ休む訳にはいかないし、余計なことに時間を割いている暇なんかない」
「お前が望んですいちゃんとカップルになったこと忘れてないかにぇ…」
「さすがに忘れてはいないさ。ただ今は星街さんに現を抜かしていられない」
「すいちゃんが納得するかどうかは置いといて、その言葉のまますいちゃんに伝えたか?」
「…伝えてないな」
「そりゃすいちゃんも怒るにぇ。どうして棘のある言い方しか出来ないんだか…」
「…生憎、女性と関わることなんてサポートバンド以外に無かったからな。しかもそういう場合って喧嘩することないし」
「ともあれ、100%雫が悪い訳でもないにぇ。二人の中での折衷案というか、落とし所を見つけることが和解に繋がると思うにぇ」
「落とし所、か…確かに俺は自分のエゴを押し通そうとして星街さんの意見を取り入れようとしなかった。…子供だな、俺」
「なら今から大人になれば良いにぇ。話し合いの場の空気セッティングはしてやるから、よく話し合って仲直りするにぇ」
「迷惑かけてすまない」
「お礼は酒奢りで許してやるにぇ」
「いつから酒呑みになったんだ…というか、お前はやけに的確なアドバイスをくれるな」
「そりゃあ、友達の悩みには真剣に答えるにぇ」
「ちなみにお前、恋愛経験は」
「でゃまれ」
その後、"時間はいつでもいいからせめて二日に一回はLINEを返す"ことと"一週間に一回は二人の時間を作る(忙しい週を除く)"というところに落ち着いて無事仲直りした。仲直り出来たことが嬉しくて雫を抱きしめながらわんわん泣いてるすいちゃんを見るのはなかなか新鮮だったにぇ。
「…離すんじゃないにぇ」