楽園   作:自認畜生

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あなたが本当に"スターの原石"だと言うなら、その名に恥じないライブを見せて貰おう。


伽藍堂

「ソロライブ…ですか?」

 

あれから休日を挟んで今日は月曜日。いつもと同じく事務作業をする俺に珍しく誰かが話しかけてきたと思ったら、先輩スタッフのAちゃんと呼ばれている方だった。

曰く、"ソロライブの招待状を渡しておいてほしい"と星街さんから頼まれたようだ。そういうのは自分の手で渡すのが礼儀だろうとは思うが、スケジュールも詰まっているだろうし中々そういう訳にもいかなかったのだろう。

 

「はい、これがチケットだから渡しとくね。それにしても…いつの間にすいせいさんと?あ、いや別に関わったらいけないっていう決まりがあるとかじゃないんだけど、雫くんは一匹狼なイメージあったから」

「通りすがりに少し会話しただけです。自分個人としては極力関わって欲しくないと思ってますよ」

「そっかぁ…じゃあこのチケットも返しておこうか?」

 

少し考える。正直所属アイドルのライブには興味がないし、返していただく方が良いと思う。しかし偶然とは言え星街さんもライブハウスに踏み込んだ訳だし、俺だけ行かないというのもなかなか我儘な話だろう。もしかしたら俺も彼女のステージで、良い意味での裏切りを体験させられるかもしれないし。

 

「いえ、せっかくの物を無下にするのもあれなので、有難く受け取っておきます」

「分かった。とは言えソロライブの日は雫くんも会場設営とかで手伝ってもらわなきゃいけないんだけどね」

「そうなんですか?」

 

そんな話は初めて聞いた。俺が窓際族だからハブられていたんだろうか?

 

「さすがにスタッフ全員でやらないと開場に間に合わないからね、だから当日は現地集合でお願いね」

「教えて貰えなかったら普通にここに来てました…ありがとうございます」

 

Aちゃんさんが去り、俺も業務に戻る。

 

(それにしても…ソロライブか)

 

俗に言う"ワンマンライブ"というものなのだろう。今週末なのに何故このタイミングで俺にチケットを渡してきたのだろう。単純にこの前まで俺の存在知らなくて渡し忘れてたのかな。

 

(まぁ、良いか)

 

貰った以上は行かねば。星街さんのライブは見たことなかったから良い機会だし、今週末を楽しみに待っているとしよう。

 

 

 

─────────────────────────────

 

 

 

そして、その日は訪れた。

開場してからは片付けまで俺がすることは無いので、招待者用の特別席に座る。理由はどうあれ、俺にチケットを渡したからにはライブハウスを超えるものを見せてくれるんだろうな。お客さんもかなり入ってきている中、俺のテンションも少しずつ上がってくる。

 

そしてオンタイム、星街さんのソロライブがついに幕を開けた。

 

 

 

 

 

終演後。

会場全体の片付けも全て終わり、タイムテーブル通りに完パケした。そして今は打ち上げで居酒屋に来ている。とは言え、今日の主役である星街さんは飲めないからソフトドリンクでの参加だが。

"ライブハウスでのライブ終わりの酒"じゃなくても案外美味いものだな、と新しい知見を得ながら酒を飲み続ける。

 

「水面くんって案外酒飲みなんだね」

 

話したこともなかった他の先輩方に声をかけられる。

 

「ちょっと学生の頃に鍛えられまして。これでも元はアルコール3%のカクテル半分で潰れてたんですけど」

「え〜意外!やっぱり酒って飲んだ数だけ強くなるものなんだね…」

「結果的に俺はそうでしたけど、無理してまで強くなるものでもないですよ」

 

酒を飲んでいると普段喋らない人とも腹を割って話せるものだな。これも新たな知見かもしれない。

 

「こう話してみると、水面くんってイメージと違って話しやすいんだね」

「なんか、私たち誤解してた」

「いえ、その認識は元を辿れば全て自分のせいなので…歓迎会の時とか、せっかく企画して下さったのにあんなことを言って、この場を借りて謝ります」

 

酒の力を借りてわだかまりを無くすのもおかしい話だが、これがなければずっと現状維持のままだったろう。

その後も何だかんだ話が盛り上がり、ライブハウス以外の打ち上げで楽しくなったのも久しぶりだったからか、気づけばかなり酒を飲んでいた。

 

 

(あぁ…もう飲めねぇや)

 

喫煙所で一息つく。自分でも飲んだ以上に先輩に飲まされ、とりあえず7分目にまで留めておいたが、これ以上飲むとさすがに死にそうだ。良い大人として、店や道で潰れるのだけはさすがに勘弁。

満身創痍一歩手前で煙草に火をつけ、

 

「雫さん」

 

あの日のライブハウスと同じように、喫煙所に入ってきた星街さんが俺のすぐ隣に腰掛ける。

 

「大丈夫ですか?」

「これ以上飲んだら潰れる…とりあえず今日はもう飲まねぇかな」

「もし潰れても全然介抱しますよ」

「そんなダサい奴にはなりたくねぇ。とにかく、心配いらないよ」

「ならいいですけど…」

 

飲んだ本数は覚えてないが、これでもセーブはしている。年下に介抱されるようなヘマはしない。

 

「それで、星街さんはどうしてまた喫煙所に」

「席じゃ全然喋れないからここで聞こうと思って…率直に、今日のライブどうでしたか?」

「…ああ」

 

合点がいった。今日はそれを聞くために俺を呼んだのか。星街さんの方に目を向けると、その手が少しだけ震えていることに気づく。彼女なりに覚悟したライブだったんだろうし、覚悟を持って俺に聞きに来ているんだろう。

それなら。

 

「俺の言葉でいいなら言おう」

「!はい、何でも!」

「空虚だな、お前」

「え…」

「見た目や聴いた感じは綺麗だが、その奥には何も無い。何も見えてこない。歌っているお前の感情が俺には全く見えてこなかった」

「………」

「だから、お前はお前の曲に対する理解をもっと深めるといい。一番伝えたい言葉はこれだから、この言葉が強調されるように前後の歌い回しやテンションの持っていき方を考える…みたいな、そういう作業がもっと必要だと思った」

「…はい」

「あとMCで余計なことを喋りすぎだ。今日みたいなワンマンの日、確かにMCを挟むことも大事だし、言いたいことが沢山あるのは理解出来るが、その喋りすぎた時間でもう2曲ほど出来たはずだ。今日がライブな以上、客側は音楽を聴きに来ている。お前の身の上話を喋るのは良いが、それをするならその話を通して客に何を伝えたいかまで考えろ。ただの身の上話なんか誰も興味無いし、お前の曲のような世界観系アーティストがそれをしてしまうとライブの空気感ごと緩む」

「それは…自分でも思ってました。決まってた時間よりちょっと多く喋っちゃったのはステージ上でも理解してました」

「さっきも言った通り、言いたいことが沢山あるのは理解できる。その中でしっかり考えて喋ることを厳選して臨め。それだけでライブは変わるから」

「でも私…自分のライブのスタイルを探している途中で、今まで何を試してもこれじゃない感じがして、ずっと悩んでたんです」

 

気になる点を挙げては見たものの、そう言われてみれば彼女の曲の感じで参考になりそうなアーティストがいない。

困ったな…と思った時、1つの考えが頭をよぎった。

 

「…来週土曜」

「え?」

「来週土曜、前行ったライブハウスで俺のレコ発ワンマンライブがある。土曜はホロライブ自体の予定が無いだろ、誘えるアイドル誘って聴きに来てみたらどうだ」

「あ、空いてます!」

「よし、とりあえずお前は決まりだな…参考になるかどうかは分からんが、まぁ頑張ってみよう」

 

星街さんと二人で喫煙所を出る。打ち上げはまだ終わらない。

"他のアイドル達も誘ってみたらどうだ"と軽々しく言ってはみたものだが、そもそも皆俺のこと知らないんだよな…と、若干後悔。しかも一応活動してること隠してるし、これで下手に喋られていずれ他の社員にもバレたらどうしようか…でも、

 

「雫さんのライブ、楽しみにしてますね」

 

少しでも彼女らのライブが良くなるなら、バレてもいいかと思えるようにはなった。




それもきっと、アイドルがよりいっそう輝く為のモブの役割の一部だから。
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