アリス・イン・オサレワールド   作:甲乙兵長

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熱は熱いうちに、だ。
シリアス比率高めに行くべきか、わりとはっちゃけるべきか迷う。



選択

 

 

「………………」

「………………」

 

 

 

 【急募】目が覚めたらラスボスの前に引き出された件について【助けて】

 

 

 

 おふざけしてる場合じゃない。

 現実逃避気味になってる俺の意識の大半は、目の前の人物に集約されている。

 広々とした謁見の間の玉座に腰かける恐るべき風格。滅却師特有の清廉な白軍服に黒マントを羽織った黒髪長髪の男。

 世界トップクラスに有名な宗教派閥における唯一神、聖四文字(テトラグラマトン)の名を由来に持つ、全ての滅却師の祖にして王――ユーハバッハ。

 作中きっての絶対的な最強格。最終章の首魁。世界を滅ぼす一歩手前に迫ったラスボス。物語終盤ではチートのバーゲンセールとも呼べる有り様になっていた滅却師たちを率いて三界を滅ぼすべく死神たちを終始蹂躙していた諸悪の根源。

 やべえよやべぇよ、まじバッハじゃん。カリスマ的威圧感というべきか。覇王の威光と呼ぶべきか。ハッシュヴァルトの比じゃないレベルの畏怖を否応なしに叩きつけてきやがる。

 玉座の脇に控えるハッシュヴァルトに助けを求めかけるも、ラスボスと対峙して視線を逸らす度胸もない俺はただまんじりともせず佇むばかりだった。

 ちなみに、全裸で対面させるのはやはり不敬がすぎるからか、連行される前にシンプルなワンピースを与えられている。

 

「アリス――と言うそうだな」

 

 ぽつり、と。彫りの深い顔立ちと黒髭が印象的な男から発された低い言葉。

 それだけで”ズンっ”と肩にのし掛かる重みが倍増した気がする。

 否、これは錯覚ではない。物理的に心身を圧倒し、軋ませる重圧がある。

 もしかして、これが霊圧ってやつか……!

 

 

 

「お前の生みの親を殺したのは私だ」

 

 

 

 初めて体感する霊圧の重みを耐え忍ぶ俺に、ユーハバッハは突如驚きのカミングアウトを放った。

 

「……………」

「私を恨むか?」

「……いいえ」

「そうか」

 

 耳が痛くなるような沈黙が流れた。ユーハバッハは返答を吟味するように、俺を見つめる。真偽を確かめんとしているのだろうか。嘘が嫌いらしいからな。

 一方の俺からすれば堪ったものではない緊迫感だ。表情筋が鈍いのか、ポーカーフェイスは保たれているものの、すでに背中は汗びっしょり。透けたらどうしよう。

 だが、その生みの親とやらを本当に欠片も知らないのだから、他にどう答えろという。悲しみも怒りも抱きようがないのだ。

 やがて、”フッ”と降りかかる圧が消える。途端に気取られぬよう、長く細く深呼吸した。大袈裟かもしれないが、久方ぶりにちゃんと息できた気がする。

 

「実行したのはハッシュヴァルトだが、命を下したのは私だ。かつて、貴様の創造主たるペーターは我々の同志であったが、みずからの願望を叶えるため、帝国内の反乱分子を率いて私に弓を引いた」

「願望……」

「『聖芒(アステロイド)計画』。人工的に創造した強化躯体に疑似魂魄を入れ、不滅の兵団を量産する計画だ。死神どもの『改造魂魄(モッドソウル)』のようなものだな。ヤツはその開発に心血を注いでいた。しかし、それは他を欺く表向きの甘言に過ぎん」

「…………」

「ペーターの真の思惑は、貴様だ。アリス」

「え?」

 

 昔の話だ……ユーハバッハは玉座に背を預け、仕舞っていた古いアルバムのページを捲るかのように語りだした。

 

 

 

 ペーターには一人娘がいた。亡き妻の忘れ形見といい、溺愛していた娘がな。

 だが娘は生まれながら身体が弱く、のちに難病を患い、余命幾ばくかもない状態であった。

 ヤツは娘を長らえさせるために必死であった。あらゆる手段を模索し、ゆえに見えざる帝国の麾下に加わったのだ。私の、『与える力』の奇跡にすがろうと。他のか弱き者たち同様に。

 しかしヤツは突如それをやめた。私に力を与えられるとはすなわち、娘の生殺与奪を私に握らせること。それをヤツは良しとせず、独自に研究を始めたのだ。先程の、聖芒計画をな。

 計画の真相は、娘に新たな『器』となる強靭な肉体を用意し、その魂魄を移植することだった。

 だが臓器移植と同じように、生来のものではない肉体への魂魄移植などどのような不具合が後々起こるか解ったものではない。危険な実験だ。ならばこそ、失敗のリスクをわずかでも軽減するため、表向きの計画を我々に進言し、莫大な資金と人員、霊的リソースを動かさせた。

 ――ある時期になって、ペーターは私の下から離反した。移植成功の見込みが出来上がった頃だったのだろう。あるいは、いたずらに時間を費やして私に目論見を看破されるのを恐れたのやもしれん。どちらにせよ、ヤツは動いた。

 見えざる帝国の研究施設を根こそぎ破壊し、反乱に加担する者たちは共に連れていき、従わぬ者は容赦なく殺していった。ペーターは技術者であると同時に腕の立つ滅却師だ。ヤツほどの傑物はそうおらん。軽くない痛手を被った。

 だが、所詮は痛手程度。その程度で、我が帝国は揺るぎはせん。

 私はハッシュヴァルトに命じ、レジスタンスを捜索させた。そしてのちに、星十字騎士団をペーターたちの根城へ派遣し、粛清させた。

 

 

 

「…………」

「結果的に、ペーターは成し遂げたのだろう。貴様が私の前にこうして立っていることが何よりの証だ。

 しかし、不思議なこともある」

「不思議?」

「娘のアリスは、()()()()()()()()()()()()()()ことが確認されている。仮死状態で限りなく病の進行を引き延ばしにしていたが、限度があったようだ。

 それにも構わずヤツは研究を続けていたが、とすれば、ヤツはどうやって娘の魂を呼び戻したのだ?

 仮の器にでも魂魄を縛りつけていたか? それとも霧散した霊子情報から魂魄を再生したのか?

 研究データはほとんど焼き払われたゆえ、ハッキリした事実は解らんが……そもそも」

 

 ”ジロリ”と。独り言のような推測を並び立て、王の瞳が睥睨する。

 それはさながら、咎人を審判する絶対者()の佇まい。

 

「貴様は、()()()()()()()()()()()()?」

「……………………」

 

 黙るしか……。

 黙って、有耶無耶にするしか、ない。

 さすがというべきか……ユーハバッハは、このアリスの身体に違う魂が入り込んでいると、うっすら察している。そして、それは正しい。

 アリスを蘇らせようとした父親、ペーターは、実験のすえになんらかの方法で娘の魂をこの身体に入れた。けれど実際は、俺という異物が意図せず混入し、元のアリスという魂は、俺の存在によって塗り潰された? もしくは、はじめからアリスの魂なんてもう無くなっていたのに、ペーターはそれを認めたくなかっただけなのか。

 

「……貴様が何者であるか、あえて問うまい。真実を突き詰めたところで詮無きことだ。

 貴様が本当にペーターの娘であろうと、他の何者かであろうとな」

 

 度重なる驚愕の事実によって、混乱の渦に叩き込まれた俺に、ユーハバッハは容赦なく新たなイベントをねじ込んでくる。

 

「私が問うべきは、貴様が我が麾下に加わる意志があるか否か。それだけだ」

 

 来た……!

 連行される道すがら、こうなるんじゃないかと考えてはいた。できれば有り得て欲しくない未来だったが……ポジティブに考えよう。問答無用で殺されないだけ良心的だと。それだけ、ペーターの遺作……アリスという存在に一定の興味を示している証。俺自身には、自分が特別である自覚なんてまるでないんだが。

 そして実質、これは主導権を預けられた選択ではないのだろう。滅却師の王は、ごく単純な疑問を投げ掛けている。

 

 

 かしずく(生きる)か、抗う(死ぬ)かを。

 

 

 断然前者に決まってる。訳の分からない状態とはいえ、このまま素直に死ぬことを受け入れられるはずがあるか。ちんけなプライドなんざドブに捨てて膝を屈しよう。

 一方、不安要素は数知れず。たとえば、まかり間違って原作ブレイクの果てに滅却師側に勝たれたらユーハバッハによって世界は滅ぼされてバットエンド。それ以前に、散々利用された上で使い捨てられる可能性も高い。

 かといって主人公サイドが原作通りユーハバッハを倒しても、滅却師側についていた人間がその後も安穏と生きられる保証はない。侵攻による死神たちとの衝突も不可避と考えるべきだ。出会う相手によっては即刻無慈悲に斬り伏せられる事態だってありえる。

 理想は、従うフリをしつつ主人公側に有利に働くような情報なり手助けなりをして見逃してもらう綱渡りムーブだろうか。しくじれば即処断されるけど。ストレスで常に胃痛と戦う羽目になりそうだ。

 ……なんにせよ、現状ではただの都合のいい妄想だ。まずは、服従し信頼を得るところから。

 その場でひざまずき、頭を下げる。見よう見まねの臣下の礼だ。

 

「貴方に従います。ユーハバッハ陛下」

「父の遺志を裏切ってもか」

「父の悲願はすでに遂げられました。あとを生きるわたしがどうするかは、わたし自身の意思で決めます。死人に生き方を縛られたくはありません。たとえ相手が命を賭してくれた肉親であっても」

「ふ……良かろう」

 

 適当な詭弁に納得してくれたらしい。まぁ完全なおためごかしというわけでもないのだ。娘のためにユーハバッハを裏切った父親にも、当の娘自身にも悪いとは思うが、背に腹は変えられない。

 

「聞いての通りだ。ハッシュヴァルト」

「は。では、まず聖兵(ゾルダート)として普通教練から……」

「必要ない。あのペーターの作品だ。半端な出来であるなら惜しくもない。

 アリスと共に持ち帰ったという『玩具』があっただろう。あれをあてがい、その結果如何で処遇を決めるとしよう」

 

 ほっと息をついたのも束の間。

 何やら二人の間で不穏なおもむきの会話が……。

 

 

 

「お前の力を私に示すがいい。アリスよ」

 

 

 

 早くも、最初の胃痛ポイントが訪れたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【…………】

【……ユーハ、バッハ……】

 

 

 

 





選択(強制)

原作のユーハーって最初と後半でヒゲの長さ変わってるけど久保先生の描き方の都合? それともなんかの象徴?
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