ボクはもう一度剣士になる   作:抹茶アイス

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── もう一度立ち上がろう。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ボクがここに来た意味を探しに。





第一話:鬼殺隊

 

 

 自己紹介を済ませた後、カナエさんのご好意でボクはお風呂に入らせてもらった。

 凄く寒かったし、ボク自身もお風呂に入れるなんて思わなかったから甘えさせてもらい、しのぶさんに案内してもらった先は温泉みたいな広さのお風呂。

 

 

「わぁ、広くて大きいね」

 

「ここは治療所も兼ねてるから少し大きいの。あ、もちろんここは女性しか使わないから安心して。中に置いてある石鹸とかは姉さんと私が使ってるから好きなものあったら使って」

 

「うん、わかった」

 

「んー、服は姉さんのだと大きそうだけど私のもギリギリかも……。もし私の小さかったらごめんなさい、後で着替えも置いておくからゆっくり入ってきて」

 

「貸してくれるだけ有難いよ!本当に色々ありがとう、しのぶさん」

 

「ふふ、気にしないで、じゃあごゆっくり。もしあれだったら、この髪紐使って?綺麗な髪だけど大変そうだもの」

 

「ありがとう、お借りします」

 

 

 優しく微笑みながらボクに丁寧に説明を終わると、しのぶさんは静かに扉を閉めて行った。

 しのぶさんの気配が消えて、ボクは思わずフッと息を吐いた。

 それから、自分の手や身体をもう一度触ったり、所々を見て確認してみても、やはりゲームのアバターのような感覚はなく、実在するボクの身体と全く同じだ。

 

 身に付けてるものは装備なわけで、一応脱げるのかを確認したところ何の問題もなく、鞘に入った黒曜石の剣も外す事が出来たので、ボクはもう戸惑いを通り越して受け入れつつあった。

 

 

「…ボク、過去に来ちゃったのかなぁ」

 

 

 ここがボクの生きていた世界の過去に直結する場所なのだろうかとも思ったけれど、ボクは鬼という存在自体を歴史で聞いたことがない。

 もしかしたら、ボクが入院してからあとの学年で勉強として触れられていたのかもしれないけれど、アスナの提案で少しだけ皆の学校に体験入学という形でお世話になった時は国語の授業だったから分からない。

 

 あぁ、こういう時に成績優秀だと聞いていたアスナやシノン、それから神話とかが好きだと言っていたリーファの存在をボクは求めてしまうけれど、そんな頼れるお姉さんの三人はここには居ない。

 もし、ボクが元の時代に戻れたとしても────

 

 

「── うん、考えても仕方ないよね。とりあえずお風呂に入って、しのぶさん達にもう少し詳しく聞いてみよう」

 

 

 パパっと装備を脱ぎさって、ボクはお風呂に入って石鹸なども有難くお借りし、ボクはアバターユウキの姿であるロングヘアーの髪も慣れない手つきで洗って暖かいお風呂に浸かる。

 全身浸かったと同時に、思わず情けない声が出るがそれぐらいボクはこの状況に対して身体が疲れていたのかと思わされる。

 

 温泉みたいな匂いのような、身体にいいのが使われてるのか不思議な匂いがするけど、ボクは全く嫌じゃなくて気持ちが落ち着く。

 しのぶさんに借りた髪紐でテキトーに結んだ髪から微かに香る優しい香りは、椿の匂いがしていて人の家に来たというのを実感する。

 

 長湯してしまうのも申し訳ないから出れば、しのぶさんが用意してくれていたであろうタオルと蝶柄で淡い紫色の綺麗なしのぶさんの着物と袴。

 着物なんて凄いものを着たことないから上手く着れるだろうか、少し不安に思っていたら外から声がして返事を返せばカナエさんの声。

 

 

「ごめんね、木綿季ちゃん。入っても大丈夫かしら?」

 

「あ、えっと、ちょっと待ってくださいね!」

 

「はーい」

 

 

 着付けは出来ないからとりあえず羽織るだけ羽織ろうと思い、全身を拭いてから着物を羽織って、前を手で軽く抑えながらカナエさんに声をかければ扉が開かれる。

 それからボクの様子を見て、やっぱりという優しい微笑みをしてから扉を閉め、ボクの前に立って屈まれる。

 

 

「カナエさん?」

 

「木綿季ちゃんの着てた服、洋装っぽかったでしょう?もしかしたら着物って着慣れてないんじゃないかなって思って」

 

「あはは、はい」

 

「着付けしてあげるわね、恥ずかしいかもしれないけれど少しだけ我慢してね」

 

「は、はいっ!え、でも怪我は!」

 

「ふふ、これくらいなら大丈夫よ」

 

 

 カナエさんは慣れたようにボクに着付けをしてくれて、そのまま袴も着るのを手伝ってくれて何とかボクにも着る事が出来た。

 和装なんて初めて来たけれど、しのぶさんと背丈が似てるからか変に余ることなく綺麗に着ることが出来た。

 

 

「髪色とよく似合ってるわ。しのぶだとまだ少し大きくて裾上げしたりするけど、木綿季ちゃんは大丈夫そうね」

 

「えへへっ、ありがとうカナエさん」

 

「…ふぅ」

 

「カナエさん、ボクの背中に乗ってよ」

 

 

 でも、やっぱり身体は正直だ。

 着替え終わる頃にはカナエさんが少し辛そうだったからボクはカナエさんを背負い、自分の着ていた物はカナエさんが持ってきてくれた風呂敷に包んで脱衣所から出る。

 

 

「…ごめんなさい、木綿季ちゃん」

 

「そんな!ボクも一人で着られなくて困ってたので、そのお礼だと思ってください」

 

「あらあら、優しいのね〜」

 

「えへへ、そんな事ないですよ。でもありがとうございます」

 

「ふふ、ねぇ、木綿季ちゃん」

 

「はい?」

 

「木綿季ちゃんって今何歳?」

 

 

 カナエさんが辛くないように、なるべく衝撃がいかないようにゆっくりと歩いていれば年齢を聞かれて一瞬固まりそうになる。

 ボクがあの時代で亡くなったのは15歳だ。恐らく、今のボクの身体も当時も同じ年齢のはず。

 

 落ちてしまわぬように、優しくカナエさんを背負い直しながら進みつつ、ボクはカナエさんから顔が見えないのをいい気に少しだけ、ボクが生きていた頃のことを思い出す。

 

 

「ボクは15歳ですよ〜」

 

「あら、しのぶより一つお姉さんだったのね。てっきり私と同い歳かと思ってたわ」

 

「え、しのぶさんが歳下…?あんなにしっかりしてるからボクよりお姉さんだと思ってました」

 

「ふふ、そうなの。しのぶは14歳で、私は17歳。木綿季ちゃんも十分しっかりしてると思うわよ〜?」

 

「ボクしっかりしてるかなぁ」

 

「えぇ、15歳って聞いてびっくりしたもの」

 

「姉さん!こんなとこにいたのね!」

 

「しのぶ」

 

「ごめんなさい、木綿季さん。姉さんを背負ってもらってしまって」

 

「ううん!ボクも着物に慣れてなくて困ってたから大丈夫!」

 

「あ、そうですよね。ごめんなさい、私そこまで気が回らなくて」

 

「えぇ!?謝らないで!ボク嬉しいんだよ、こんなに綺麗な着物を貸してくれてありがとう!」

 

 

 申し訳なさそうにするしのぶさんに慌てて言えば、しのぶさんはポカーンとしてたけど少し照れながらボクが持っていた服が入った風呂敷を持ってくれる。

 

 最初はカナエさんを背負うと言ってくれたけれど、ボクは全然苦に感じてなかったし、何よりボクがいたあの時代ではこんな当たり前なことも出来なかったから頼ってもらえることが嬉しいのだ。

 ボクが着ていた服はしのぶさんに預け、カナエさんの部屋まで行って静かに背負っていたカナエさんを下ろす。

 

 しっかりと布団に座ったことを確認してからボクは手を離し、ボクやしのぶさんもすぐ近くに座る。

 それにしても昔の人は本当に私服で着物を着ていたんだなぁ、ボクが選ぶとしたらどちらかというと男の子が着るような甚平ばっかり選んじゃいそう。

 

 

「木綿季さん、改めて姉さんを助けてくれて本当にありがとう」

 

「私からも本当にありがとう、お陰で大切な妹達に会えたわ」

 

「ううん、ボクは少し時間を稼いだだけ。カナエさんが凄く強かったからだよ。でもどういたしまして」

 

「それでね、姉さんとも話したんだけど恩返しがしたいの。その一つとして木綿季さんが良かったら一緒に住まない?」

 

「……うん??」

 

「木綿季ちゃん、きっと遠くのところから来たんでしょう?もしかしたら住むお家とか困ってないかなぁって」

 

「…すっごく困ってるけど、これ以上は迷惑かけられないよ」

 

「そんなことないわ。木綿季ちゃんは私にとって命の恩人よ、迷惑なんかじゃないわ」

 

「そうよ、少しぐらい恩返しさせて」

 

「…ごめんなさい、ありがとう」

 

「ふふ、謝らなくていいのよ。それに木綿季ちゃんが住まないなんて言ったら、しのぶが止めて」

 

「姉さん!!」

 

「あらあら、姉さんはしのぶの笑った顔が好きだなぁ」

 

「そんな話してなかったでしょ!理屈になってないし!」

 

「……あ、あのね、ボク1つだけお願いがあるんだけどいいかな」

 

「えぇ、もちろん。一つと言わず、沢山言ってちょうだい」

 

「んんっ、出来ることは限られますが、私たちに出来ることはしますよ」

 

 

 服を貸してもらっただけでもボクは十分なのに、家まで二人にお世話になるならボクも二人を支えられるように何かしたい。

 しのぶさんが言ってたように、鬼殺隊の治療所も兼ねているここでボクが出来ることなんて殆ど無いけれど、ボクにしか出来ない事はあると思う。

 

 でも、優しい2人からは絶対に言われないことはこの短時間でも分かるからボクのお願いって形で言ってみよう。

 きっと、それがボクがこの世界に来た理由でもある気がする。

 

 

「──ボクを鬼殺隊にいれて欲しいな」

 

「……え」

 

「…何、言って」

 

「これでもね、ボクはボクが住んだとこでは"絶対無敵の剣、絶剣"なんて呼ばれるぐらい強かったんだよ?」

 

「…木綿季ちゃん、貴方が強いのはしっかり見てたからわかるわ。でも、貴方が鬼殺隊に入るなんて…っ!」

 

「カナエさん!」

 

 

 ボクの言葉にカナエさんは目を見開き、すぐに反論するも肺を痛めているから咳き込んでしまって慌てて背中を撫でれば苦しげな呼吸は次第に落ち着いていく。

 

 しのぶさんは唖然とボクを見つめるだけで、今ボクが言った言葉なんて右から左に抜けてしまったように反応せずただただ動かない。

 

 

「何もせずにお家にお邪魔することできないよ。しのぶさんみたいに治療に詳しい訳でもないし、ボクは回復スペルだって覚えてないから癒すことさえ出来ない」

 

「だからって」

 

「それにね、二人の話を聞いたら聞かなかったフリできないよ」

 

「木綿季ちゃん……」

 

「ボクがいた場所は鬼っていう存在はいなかったから分からないけれど、2人はきっと鬼をずっと斬ってきてるんだよね?誰かの幸せを壊さないように、誰かの幸せを護るために」

 

「……えぇ、そうね」

 

 

 悲しそうな表情を浮かべるカナエさんとグッと怒りを抑えるしのぶさん。

 そんな2人の違う意味で震えてる手をボクは掴み、ぎゅっと力を込めれば自然と下がっていた顔は上がり、そっくりな眼差しがボクを射貫く。

 

 ── 姉ちゃんだって、そうするよね。ボクみたいにさ。

 

 

「ボクも誰かの当たり前を護りたいんだ。誰かと話したり、見慣れた道を歩く。美味しいものを食べたり、友達と遊んだり。たまに寝過ごしちゃって怒られたりして。そんな当たり前にある幸せを」

 

「……木綿季ちゃん」

 

「…ボクは、特別じゃないけどそんな毎日が大好きだから」

 

 

 アスナたちと出会ってボクは沢山変わった。

 ひとりぼっちで終わると思っていたのに、あんなにも沢山の人に見送られて素敵な最後を迎えられたのは、ボクの何気ない毎日をアスナ達が守ってくれたからだ。

 

 この世界にどうしてボクがいるのか分からない。

 元の世界に戻らされる日が来たら、きっとそこで本当に紺野木綿季の人生は終わる。

 もう一度走り出すチャンスが突然現れて困っちゃったけれど、今度はボクが皆のように護りたい。

 ボクのように病気で苦しむ人も、鬼によって悲しむ人も見たくない。

 

 

「後悔だけはしたくないんだ、最期にボクの人生は最高だったって。ボクはちゃんと生きたんだと思いたい」

 

「……木綿季さん」

 

「ふふ、ねぇ、君と話せばボクは鬼殺隊に入れるのかな?そこに隠れてないでおいでよ」

 

「木綿季さん?」

 

 

 ずっと索敵スキルに反応していたのか、二人と話しているときから感じていた気配の方に視線を向ける。

 カナエさんは気付いていたみたいだけど、しのぶさんはキョトンっとしながらボクと同じ方向に視線を向ければ障子が貼られた壁。

 そこには何も無い、ただの壁のように見えるけれどじっと待ち続ければ壁から姿が見えたのは一羽の烏。

 

 

「こんにちは、貴方はお二人の何かな?」

 

「こんにちは、菫の剣士様。私は産屋敷耀哉の遣いで参上致しました」

 

「産屋敷さん…?ねえねえ、その人は誰?」

 

「私たちが所属する鬼殺隊の御館様よ」

 

「偉い人!?」

 

「…あの、そこもですけど鴉が喋ることに驚かないんですか?」

 

「びっくりはするけど、ボクのいたところは訳あって妖精とかいたからな〜。それに動物と話せるなんて憧れちゃうよね!」

 

「……ようせい?」

 

「あらあら、可愛らしいわね〜」

 

「んーと、それで偉い人はボクに鬼殺隊に入って欲しいで合ってるかな?」

 

「木綿季さん!?」

 

「貴方を産屋敷耀哉がご招待いたします、鬼殺隊本部へ」

 

 

 そう真っ黒なつぶらな瞳が発した言葉は、ボク達3人に全く違う反応を誘った。

 

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