ウマ娘 -UMAMUSUME- 煌ノ夢追人 作:さぼてんmark.2
運命と言えば美しいけれど、必ずしも幸に転ぶとは言い切れないものよ。
貴方の運命はどちら側かしら?
「スゥー……」
――暗闇の中、呼吸を整える音がする。
「……フッ!」
その主が勇ましく息を入れると、スポットライトが一点を照らす。
そこに映し出されたのは、赤みがかった栗毛をなびかせる、一人のウマ娘。彼女はその青い瞳を左右に動かし、何やら周囲を警戒している風である。
「!」
すると――正面の暗中から、鎖に吊るされた丸太が彼女めがけて飛来してきたのだ。
「ハッ!」
彼女は飛び上がっての回し蹴りを浴びせ、その丸太を闇の中へと蹴り返す。
しかしそれに止まらず、また次の丸太が迫っていた。
今度は彼女から見て5時の方向――すぐに振り向くと、手にした木刀でそれを打ち払う。
そうして木刀を持った右腕を引き、そのすぐ下に手のひらを上に向けた左腕を添えて切っ先を正面へ突き出す構えを取る彼女。
「ハァッ!」
響く雄叫び、そして一閃。同時に後方より飛来した丸太は鎖ごと引きちぎられ、地に落ちる。
「フゥ……」
彼女が一息つくと、部屋全体が明るく照らされた。
古風なレンガ造りの部屋に備えられた大きな扉の前には、執事服に身を包んだ老紳士が立っている。
「お見事です、ハガネお嬢様」
「い、いつから見てたんですか!?」
ハガネ――そう呼ばれた彼女は先ほどまでとは別人のような慌てた表情を見せ、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
「いつからも何も、鍛錬を始められた時からお傍におりましたよ?お嬢様がお怪我でもされたら大変ですから」
老紳士は優し気に目を細め、そう言った。
「うう、全然気づかなかった……恥ずかしいなぁ……」
「いえいえ、いつもと変わらずとても素敵でしたよ?」
「……え?ちょっと待っていつもって……もしかして前から知ってたの?みんな寝てるかなーって思ってこっそりやってたのに?」
「ええ、左様でございます」
「そんなぁ!?」
驚いた表情のまま固まるハガネ。そんな彼女に、老紳士は言う。
「ささ、朝食の準備ができておりますので参りましょう」
「うん……うぅ~」
その後を顔で手を覆いつつついてゆくハガネ。
これは彼女が辿る数奇な軌跡を追う物語。
果たして彼女に、どのような運命が――試練が待ち受けているのか?
その全ては、神のみぞ知る――
ウマ娘-UMAMUSUME-
煌ノ夢追人
EPISODE01
邂逅/運命
夕焼けに染まるトレセン学園校内。一人の男がベンチに腰かけていた。
大きく伸びをする彼は、いわゆる駆け出しのトレーナーである。
本日行われた模擬レースの情報を整理しているうちに煮詰まり、外の空気でも吸おうとトレーナー室を出た彼。
そろそろ帰ろうと、ベンチから離れ歩き出す。すると――
「この音は……?」
校舎裏から聞きなれない音――風切り音と掛け声――が聞こえ、彼はちらりと覗き込む。
「ハッ!タッ!でやあっ!」
そこには、雄々しい雰囲気で空に向かって拳を突き出し、蹴りを放ち――模擬刀を振るう栗毛のウマ娘の姿があった。
かなりの高身長――180以上はあるだろうか。
目元まで伸ばされた栗毛がなびくたび、綺麗な青い瞳が見え隠れしている。
しなやかに繰り出される肢体に、陽に照り返される剣の輝き。
美しく重なり合わさったそれは、まるで――
「光の……騎士……?」
彼は思わず、ぽつりと呟いていた。
そうして暫し演武の美しさに目を奪われたのち――彼は、たまらずそのウマ娘へ声をかけていた。
「おーい、そこの君……ちょっといいかい?」
「ひゃっ、ひゃいぃ!?」
彼女は後ろからかけられた声に驚き、ギギギ……という効果音が似合いそうなぐらいぎこちなく振り向いた。
「ごめん、驚かせちゃったかな?ここで何してたの?自主トレ……にしては変わってたけど」
「そ、それはその……」
先ほどとは打って変わって縮こまってしまう彼女。どうやら、結構な恥ずかしがり屋のようだ――弱ったな、と頭を掻くトレーナー。そんな時――
「あ、あの……俺に何か御用でしょうか?」
彼女が問うてきた。
「おっと、ごめんね?急に声かけちゃって。何やってたのか気になってつい。確か……模擬レースにいた子だよね?えーと確か……」
「は、ハガネと言います……」
「そうそう、ハガネちゃんだったか!でも、ここで何を?」
「に、日課の自主トレを……」
やはり、自主トレだったのか――しかしあんなトレーニングは見たことがない。武術にしたって、空手やボクシング、ヤエノムテキというウマ娘が修めている金剛八重垣流とは違う。そう思い、さらにトレーナーは問う。
「変わった動きだったけれど、もしかして我流?」
「というよりは……俺の家で独自に伝えられている格闘術の一つ……です。毎日やらないと、身体がなまっちゃいますから……」
両人差し指を合わせておずおずと答えるハガネ。どうやら引っ込み思案なだけで、根っこはかなりストイックな子のようだ――そう感じたトレーナー。
「あ、あの……何でしょうか?じっと見られるのはその……恥ずかしくて」
何とか目線を合わせつつ、トレーナーへと言うハガネ。
彼は少し押し黙り考えると――口を開き宣言した。
「君を、スカウトさせてくれないか?」
と――
「ふぇっ?」
素っ頓狂な声を上げ、固まるハガネ。
「君のさっきの身のこなし……すごく綺麗だった。なんというかこう……そう、光が見えたんだ」
「光……?」
「うん。激しく、そして暖かな光……俺みたいな新人が言うのも何だけど……君にはきっとすごいウマ娘になれる……そんな気がするんだ」
「お、俺がですか……?」
「ああ!君が良ければだけど……どうだろう」
「本当に俺……なれるんでしょうか?」
「俺がきっとしてみせる。信じてくれないか?」
「……わかりました。そこまで言われると……俺としては断れませんし」
少し照れ笑いを見せるハガネ。しかし、彼女は一つ付け加える。「でも」、と。
「一度、俺の家に挨拶だけ……していただけませんか?そこのところ、結構厳しいので……」
「ああ、問題ないよ」
そこまで言って、彼はふと思った。
ウマ娘を輩出している家と言えば、メジロ家やサトノ家なんかが特に有名だ。
しかし、ハガネには彼女らのような共通の名は無い。
失礼だとは思ったが――トレーナーは疑問を抑えられず、口を開いた。
「そう言えば……君の家って?」
その質問に、ハガネは少し黙り込む。
マズいことを聞いたか?トレーナーの頬を汗が流れ落ち、暫し時が流れて――
「……冴島家、です……」
次回予告
受け継がれてきた名には、相応の重みがあるものよ。
生半可な想いじゃ、きっと押し潰されておしまいね。
それでも貴方は、背負うことができるのかしら?
……そう。
なら、覚悟を証明することね。
EPISODE02
称号/決意