ウマ娘 -UMAMUSUME- 煌ノ夢追人 作:さぼてんmark.2
20年前。トゥインクル・シリーズにおいてその名を馳せた一人のウマ娘がいた。
金色に輝く勝負服を身に纏い、雄々しく駆け行く彼女の名は――『ゴウテン』。
数々のG1レースを制し、人々へと希望をもたらした彼女。
しかし、金色の輝きは――突如として失われた。
泥酔した運転手が駆るトラックから親子を庇い――彼女は若い命を散らしたのだ。
そして時が経ち、『ゴウテン』の名も過去のものとなり、人々の記憶から失われつつあった頃――冴島家に一人のウマ娘が誕生した。
冴島雷牙と冴島マユリを両親とする彼女は――習わしにより『ハガネ』と名を与えられた。
隔世遺伝により人間の両親から生まれてきたウマ娘という特殊な出生を持つ彼女だったが、深い愛情と、血のにじむような鍛錬をもって健やかに育っていった。
金色を、取り戻せ。
それが、彼女の背負う使命である――
俺は雷牙さんより語られたその話を飲み込みながら、改めてハガネを見た。
少しおどおどとしながらも――その眼は真っ直ぐと牙狼剣を見据えている。
『受け継ぎし者』――その重責は、如何なるものなのであろうか。俺には想像もできないが――やるしかない。
「雷牙さん」
俺は神妙な面持ちで雷牙さんへと向き直り――告げた。
「俺はトレーナーとして、――彼女を……『ゴウテン』を育て上げて見せます」
雷牙さんは頷き、俺へ言う。
「ならば誓うんだ――この剣に」
彼は牙狼剣を指し、言う。俺は唾を飲み、その柄に触れる。
すると俺の意識は眩い光の感覚と共にかき消えーー
「ここは…?」
気づくと、真っ白な空間の中にいた。
辺りを見回すと、空ーーと言えばいいのだろうか?――には、黒い文字のようなものが飛び交っている。
そして、驚き戸惑う俺の元にーー何者かが現れた。
「貴女は…?」
金属音を鳴らしながら歩み寄ってくる人物は、金髪に真紅の瞳を光らせるウマ娘であった。
俺はすぐに直感するーー彼女の名はきっと、
「ゴウテン…さん?」
話に聞いていた、ゴウテンという名のウマ娘であろう。
俺は恐る恐る、その名を口にする。
何故なら目の前の彼女からは、殺気にも近しい雰囲気を感じるからだ。
「その通りだ、青年よ。我が名はゴウテン……」
意外にも丁寧に俺の問いに答えた彼女。
しかしそれと同時に、彼女は手にした剣をーー牙狼剣を引き抜いていた。
そしてーー
「ハァッ!」
二度空を割く剣撃が放たれる。その軌跡は墨のような炎となり、なんと俺目掛けて飛んできた!
咄嗟に身を屈め、それを躱す俺。
「何するんですか!?」
抗議する俺。いきなり命の危機に晒されたのだ、当然の反応だろう。
だが目の前の彼女は剣を構え、続けるつもりだ。
「我は試練を与える者なり。継承者と並び立たんとする者よ……お前の覚悟を見せてみよ!」
そうして再び、一閃。剣撃が飛び、俺を狙う。
横っ飛びでなんとかそれを避けるも、髪をかすめていったのか、黒と白の毛髪が舞い散る。
「滅茶苦茶だ……!ただのトレーナーだぞ、こっちは!」
しかし、俺にも今更退く気はないーーハガネのためにも、やるしかない。
そうして俺が立ち向かう意思を見せるとーー
「これは……!?」
俺の手元に黒煙が立ち込め、灰色の柄をした剣が現れた。
初めて見る物にしては、何故だか手に馴染み懐かしい雰囲気すら感じてしまうがーー深く考えている場合でもない。
俺はそれを手に、真っ直ぐ突っ込んでゆく。
しかしあっさりと打ち払われ、俺の全身は地を転がる。
「ぐっ…うわっ!」
更に立ちあがろうとすれば、剣撃が飛んでくる。
どうすればーー俺は考えを巡らせる。
そして一か八かの賭けに出るしかない、そう結論付けた。
ゴウテンを正面に捉え、まっすぐに駆け出す。
「うっ……うぉぉぉぉーーーッ!」
そして放たれた交差する剣撃に突っ込んでゆきーーその中を通り抜けた。
胸がバツの字に切り裂かれる感覚を覚えながら、俺はガムシャラに突っ込み続け、剣を横に振るったがーー
「しまった……!」
それはあっさりと防がれ、剣の鞘を切先が掠めるだけに終わってしまった。
ダメージに膝をつき、立てないでいる俺。
ぐっ、と息を漏らし肩を上下させるしかない。
――が、それ以上の追撃は来ない。
俺は不思議に思い、頭を上げる。
するとそこにはーー
「まさか己が身を顧みず突っ込んでくるとは、中々の度胸だ」
剣を収め、腕を組んで頷くゴウテンの姿があった。
「え……?」
事態が飲み込めず呆けた声を漏らす俺に、彼女は続けた。
「ふむ……若者よ。その覚悟、しかと見届けた。貴殿を並び立つ者として認めよう」
「え、それって……」
俺が言い終わるより前に、再び視界が白く染まるーー
「!」
そして、俺の意識が再び戻る。
俺は辺りを見回し、剣を強く握って目元に力を入れ、一気に息を吸いこむと――誓いを唱えた。
「俺の名は御影ユウト――ここに誓う!彼女と共に試練を超え――金色を取り戻すと!」
「その誓い、確かに聞き届けた。冴島家当代当主、冴島雷牙は――この時をもって御影ユウトを、我が娘のトレーナーとして契約を結ぶ」
雷牙さんの言葉に次いで、ハガネもまた口を開いた。
「冴島家に産まれし者、ハガネ――俺は必ずや御影ユウトと共に試練へと打ち勝ち、『ゴウテン』の名を受け継ぐことを、ここに誓います……!」
瞬間、牙狼剣が波動を発し、鐘のような金属音が響き渡る。
それは神々しく――どこか懐かしい、安らぎすら覚える音色だった。
俺は剣より手を離すと、二人へ向かって深々と礼をする。
二人もまた礼を返し、俺達はその場を後にすることとなった――
それから1日経ち、トレセン学園内トレーナー室で。
扉の開く音ともに、ぎくしゃくとした動きで入ってくる影がひとつ――ハガネだ。
彼女は硬い足取りで俺の前へと来ると――唾を飲み、頭を下げた。
「改めまして、ハ、ハガネです!ほ、本日より……ご指導のほど、よろしくお願いしみゃっ……」
「ふふ……くくっ」
「わ、笑わないでくださいよぉ!」
「悪い、つい……」
「うぅ~!」
が、盛大に噛んでしまった彼女――俺は思わず笑うと、むくれる彼女に謝りつつ、したためてきたトレーニングメニューを開いてみせた。
さぁ、今日からハガネとの――否、ゴウテンとの三年間が始まる。
第一の目標は――ジュニア級メイクデビューへの出走――そして勝利だ。
次回予告
一寸先は闇と言う言葉があるでしょう?
どんなに求めても、どんなに努力しても、落とし穴一つで奈落の底よ。
それは案外、己の足元にあるのかもしれないわね。
世の厳しさを知った時、あなた達はどうするのかしら?
EPISODE03
悪夢/現実