平成なかんじの王道系魔法少女がまた見たい   作:不知火勇翔

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第2話

 都会には魔物が住むとよく言われるが、田舎だって負けてはいない。小悪党は少ないが尖りに尖った珠玉の悪者が少ないながらも所在している。

 彼らは各々が閉鎖的な田舎において類い希な権力やツテを有しており、大企業のようなコンサルティングも無いまま己の私利私欲のままに動き続けるため『なかなかデカいやらかし』を度々炸裂させる。

「何なんだよ!!!!」

 とある田舎の研究所にて。

 悪徳業者に捕縛されていた怪獣の子供が『案 の 定』檻から脱走した。 

「隔壁全部封鎖しろ!!」

「やってます!!!!!」

「できてないだろ!!!」

 職員の奮闘も虚しく、怪獣は建物の外壁を食い破ると外の世界にその姿を現した。

 全身傷だらけでありながら、それでも己の瞳には命を燃やし尽くさんばかりの炎を灯しており、口から流れる涎は噛み砕いたコンクリートを溶かし尽くすほどの強烈な酸を持っていて。ワニ型の巨体は25mプールよりも大きく、二足歩行する足や腕は車のように太い。

 まさしく怪獣、これでこそ怪獣というようなバケモノは数年前世間を震撼させた大怪獣『ドラグニカ』の子供であった。

「まずいです!!!『ドラグニカJr.』、臨界点に入りました!!!」

「軍式魔法大隊はまだ来ないのか!!!」

「別件でまだ来れないそうです!!」

「何をしているんだよ!!!このままだとこの国がなくなるんだぞ!?!?」

「『ドラグニカJr.』、動きます!!!」

 『ドラグニカJr.』がノッソノッソとコンクリートを蹴散らしながら移動を始めると、それだけで辺り一帯の大地が激しく揺れ始めた。

「まずい!!!本当にまずい!!!誰かなんとかできないのか!?!?」

 

 

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「勘違いしてるみたいだけどさ、闇が深いほど光り輝くのが魔法少女だよ。快人君も分かるんじゃないかな?愛を死ぬほど求めているからこそ自分を省みず他人に愛を与えられる人種のことは」

「いやでも、それは・・・・」

「偽物の輝きって言いたいのかな?もしそうならそれは違うよ。『人の輝き』はそんな単純なものじゃない。

 嫌われてようが見下していようが人の本質は誰にも分からないでしょ?嘘ばかりのアイドルは醜いかな?仲の悪いバンドの歌は全て聞きづらいかな?

 違うよね?

 全ては輝くかどうかだよ」

「っ・・・・」

「だからこそ私は快人君を選んだ。

 快人君は心に傷を負って深い愛情を求めている。そしてキラキラ輝く魔法少女を見てキラキラを鍛え上げてきた。それに虚飾の才能もある」

 ここまで話を聞いて、ようやく快人と瀬名は自分達が相対している存在がどういったものかを理解した。

 ・・・・・・・・バケモノだ。

「ねぇ快人君。魔法少女に成ってくれないかな?」

「よろしくお願いします」

「この流れで!?!?」

 即答する快人に瀬名がツッコミを入れた。

「明らかにアイツヤバい人だよ!?もう少し迷おうよ!」

「でも魔法少女に成れるって言われたし・・・・」

「何の確証も無いじゃん!絶対詐欺だよ詐欺!」

「詐欺なら詐欺で良くない?」

「良くないよ!!!そのまま連れ込まれてビデオを撮られるかもしれないよ!?」

「考えすぎだろ。ってかビデオて・・・・」

「それか薬を飲まされるんだよ!絶対そう!ただ薬を飲ませるためだけの盛大なホラ話だよ絶対!!」

「どうなの?ピンクちゃん」

 まぁまぁと瀬名をなだめながら快人がピンクちゃんに聞くと、ピンクちゃんは頬をかきながら苦笑いを浮かべた。

「んー、流石にビデオと薬はないかなぁ。

 でもまぁ殺し合いの場所に立たせるワケだし悪者じゃないとは言えないんだけど」

「ほらやっぱり!!!」

「あ、でも魔法少女になってくれたら膝枕ぐらいはするよ?」

「成ります。魔法少女に、成ります」

「このおバカーーーーー!!!!」

 瀬名のツッコミが木霊し、そしてそれを掻き消すように遙か彼方から爆発音が響いた。

 

 

 

 ドカァアアアアアアアアン!!!

 

 

 

 コンクリの壁が倒れたり建物が倒壊する音を聞いたことがある人は分かると思うが、大事故には大事故に相応しい音というものがある。

 その音もまた一発でそんじょそこらの異音とは隔絶したものだと分かる音をしていた。

「・・・・怪獣、か。近いね。ほんの数キロ先ってところかな」

 ピンクちゃんはそう呟くと、手を差し伸べると同時に冗談の通じない最後の勧誘を快人に言い放った。

「快人君。私の手をとってくれるかな?」

 整理しよう。

 まず魔法少女という存在はこの世界において害悪とされている。もし民衆に魔法少女の姿を見られた場合、すぐに軍が派遣され大規模な野焼きが行われるだろう。そうなれば快人はこの国の全てを敵に回すことになる。

 ・・・・しかしピンクちゃんが語ったことが真実であれば、座して待っていてもどうせ『陸魔』とやらが復活して世界は呆気なく滅んでしまう。

 先を他人に委ねて今を生きるか、今を捨てて先を守るか。ピンクちゃんが見せた選択肢はそういうものであった。

「・・・・・・・・分かった」

「快人!!!」

 ピンクちゃんに向かって歩き出す快人を瀬名が必死に引っ張るが、快人は構わず突き進み、ピンクちゃんの差し出した手に自身の手を合わせた。

 すると快人の全てが青く染まり、背が縮み、髪が伸び、フリフリの衣装が現れる。鮮やかなエフェクトとともに沢山の装飾が貼り付き、光が吹き荒れ、光が収まるとソコには青髪蒼眼、服装も全体的に青めな魔法少女が立っていた。

「よろしくね、魔法少女『■■■■■』」

 瀬名は衝撃のあまり一瞬意識を失ってしまった。

 男が魔法少女に成ることもそうだが、『陸魔』やら輝きやらをベラベラと喋るピンクちゃんは瀬名にとって精神異常者か大ホラ吹きに思えていた。そう思いたかった。新手の詐欺師か何かだと信じたかった。

 しかし快人は誘いを受け、実際に変身してしまった。

「快人!!快人!!その先は地獄だよ!!誰も助けてくれないんだよ!!止まってよ!!ねぇ止まってよ!!」

 瀬名は魔法少女と成った快人を抱き締め、叫んだ。何が何でも離さないという固い意志をもって張り付いた。

 しかし。

「瀬名。ちょっと行ってくる」

 普段通りの声色で、快人は魔法少女の腕力をもって瀬名を引き剥がすと、その場で跳躍した。

「快人!!」

 瀬名の叫びも虚しく、快人は空の彼方へ消えて行った。

 泣きじゃくる幼馴染を置いて。

「ごめんね、瀬名ちゃん」

「どうして快人なの!どうして、どうして快人を選んだの!もっと他にもいたでしょ!どうして快人なの!!」

「快人君よりも適任がいなかった。それだけだよ」

「そんなハズないじゃん!!快人じゃ優しすぎる!!絶対にどこかで折れる!!快人じゃ、無理だよ!!!」

「そうだね。・・・・だから瀬名ちゃんには快人君を支えて欲しいんだ」

「っ・・・・・・・・は?」

 2人の地獄は、まだ始まったばかりである。

 

 

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 魔法少女ものというジャンルが存在する。

 読んで字のごとく魔法で少女がドンパチするそのジャンルは昭和の当たり前サイコの中で女児の視聴者を中心として発展し、やがて逆張りの血みどろ魔法少女と分岐し、現在は変身しない魔法少女など幅広いジャンルの魔法少女が存在している。

 さて、ではこの世界における魔法少女はというと、当たり前サイコのエログロ上等なファンキーシットである。

「ちわー!魔法少女でーす!!!」

「あぁ!?んだよお前!!!」

 エログロ上等な・・・・ファンキーシットな世界観のハズなのだが・・・・・・・・。

「避難お願いしまーす!!!」

「ちょ掴むなっ、投げるなソレ柔道の投げ方だろ魔法少女がヤる技じゃないだ、ギャアアアア!!!」

「アニキーーーーーー!!!!」

「テメェも飛ぶんだよ!!!」

「ギョワアアアアアア!!!!」

 シリアスものの、ハズなのだが。

 戦場にいるハズなのだが、命のやり取りをしているハズなのだが。

 快人の『輝き』が全てを照らしていた。

「後はアイツか・・・・」

 怪獣のいる区画一帯の人間を全員川に沈めた快人は、屋上の縁に足を乗せながら怪獣を睨んだ。

 一陣の風が快人の髪をなびかせ、快人の口角が上がる。

「ずっと夢見てきた。ずっとずっとこの日のために努力してきた」

 怪獣は今も建物を薙ぎ倒しながらどこかを目指しており、全く足を止まないため早急に駆除しないと被害が拡大するのは明白だった。

 明白な悪であり倒すべき敵であった。

「・・・・最高だな」

 己の輝きを込めて。

 己の命を燃やして。

 楽しそうに。

 1人の魔法少女が、拳を握る。

「いくぞ怪獣。デビュー戦だ」

 

 

 


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