この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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◯作成秘話
裏話関係は約1-2カ月程の期間を要して作成されている。しかしハーメルンに投稿するのは投稿日当日なので、仕事や仕様など諸々の理由で何時も予定の日時を超えないかドキドキしてる


物語の裏話その3

裏の思惑。そして…(#48)

 

 

皆が暗い顔をして部屋から退出していく

 

ある人はどうしょうもない現実を目の当たりにしたように、ある人は私の為を思って怒った表情で、ある人はそんな人を止めようとしたが、それでも目の前の現実に納得のいっていない顔で

 

 

電「…ホントに良かったんですか?」

 

大将「あぁ。アレで良い。アレがここには最良だ」

 

電「…了解しました」

 

 

この人も大変だ。ここを運営していく中でどのような人間でいるかを知らしめなければならないのに、わざわざ悪役を買っておかなければ何も出来ないと考えている。根は良いけど不器用な少し古いタイプの人間だ

 

私はこの裏を知っている。全てはあの人(司令官さん)の為に用意された舞台なのだと知っている

 

司令官さんは何か違う。それを一番先に察知したのは元師…ではなく大将なのだ。それを確かめる為に大将が自分の所へと呼んだらしい。丁度司令官さんが引っ掛かりそうな(情報)を引っ付けて

 

結果、私達はここにいるわけだが、正直皆を騙すことになるのはちょっと嫌だった

 

 

電「大将さん。電は何をしたらいいのです?」

 

大将「とりあえずは俺の業務を手伝ってくれ。それと軽いメイクを施させてもらうぞ」

 

電「…出来るんですか?」

 

大将「こういうのは知っているだけでも何時か使える場面があると思ってな。たまに高雄に教えたりもしてる」

 

電「似合わないのです」

 

大将「…怒ってるか?」

 

電「気の所為ですよ」

 

 

そんなやり取りがありつつも、大将の手腕で顔の一部を叩かれたかのように少々赤くさせてもらった。理由としては同情を得る為との事だったが、ここまでする必要があるのか分からなかった

 

 

大将「良し。終わったぞ」

 

電「叩いちゃえばそんなに変わらないのです」

 

大将「そんなこと出来るか」

 

電「冗談なのです」

 

 

やれやれと言わんばかりのため息をつかれ、そろそろ本題に入ろうと軽く咳をする。それを聞いて大将の顔も引き締まった

 

 

大将「…それで、アイツはどういうやつなんだ?」

 

電「…夢を見てる人なのです」

 

大将「夢?」

 

電「行動や思考、そういった全ての動きを見ての総評なのですが、まるで夢の中にいる様な印象を受けるのです」

 

大将「それはお前等からすると無謀と思える事でもか?」

 

電「なのです。自分の事を省みない所が司令官さんには見られたのですが、その行動全てに何か確信めいたモノがあっての行動だと思ってました。でもいざ行動の答えを聞くと、全てが明確な答えを持っていなかったのです」

 

大将「内容が上手く行ったことは?」

 

電「信じがたい事ですが…おおよそ九割以上と見ていただいて構いません」

 

大将「…なるほどな」

 

電「ですがそのやり方を私達に強制させる事はありません。あくまで自分にだけ影響する事柄だけに行動を起こしています」

 

大将「作戦指揮には何ら問題が無いと?」

 

電「はい」

 

大将「………」

 

 

しばらく大将が考え込む様子を見せ、ブツブツと小声で考えを整理するかのように声を小さく出していた

 

やがて何かを決めた顔をしてコチラを振り向くが、その顔は何時も見ていた司令官さんの顔の様に、何処か悩んではいるものの、少し悪い事を考えついた様子が見て取れた

 

 

大将「電、少し面白い事を考えたんだが…ちょっとやってみないか?」

 

 

まるで子供と接するように声のトーンを上げて話された。まるで都合の悪い事実を隠そうとしているみたいで気になったが、流石に相手が大将ということもあってその判断に任せる事しか出来なかった

 

 

電「はい。何でしょうか?」

 

大将「アイツの持つ常識を少し崩して行動を操作しようと思う。だがそれをするにはお前の協力が不可欠だ」

 

電「……具体的には?」

 

大将「艦娘が提督の命令に逆らえないのは知っているな?それを悪用する提督が原因で、最近では艦娘の愛護団体の様な奴等や人間の言う事を何でも聞く道具の様な扱いをしようとする輩も出ている事を」

 

電「はい。存じているのです」

 

大将「今から俺がしようとするのはそれだ。だからお前が嫌ならば断わってもらって構わん」

 

電「…内容によります」

 

大将「催眠術って知ってるか?艦娘の提督による命令に逆らえないというのを利用してお前に暗示をかけておく」

 

電「あ、暗示って…そんな事可能なんですか?」

 

大将「本来であれば段階を踏む必要があるがな。だが艦娘に強制力を持つ提督の能力を利用すればその過程をすっ飛ばして一気に植え付ける事が可能だ」

 

大将「かける内容については簡単だ。普段通りに過ごせ。アイツの部下として働く艦娘としてな」

 

電「え…っと?」

 

大将「言葉のままだ。お前は元師の元部下であり、今はアイツの部下で、俺との繋がりは一切無い艦娘となってもらう」

 

電「なるほど…」

 

大将「暗示を解くのは簡単だから、その時は俺に協力してもらう。それでいいか?」

 

電「それは別に構わないのです。けど分からない点がまだあって、どうして電が暗示を受けてまでそれをするかが分かりません。ただ嘘を付いちゃえば良いだけなのでは?」

 

大将「駄目だ。おそらくだが通用しない」

 

電「通用しない?」

 

大将「世の中にはとんでもない人間がいる。元師の様に生まれ育った環境や経験で突出した能力を持った人間や、生まれながらにやる事成す事が上手くいく人間とかな」

 

大将「話を聞く限りだとソイツは恐らく後者側の人間だ。そんな奴ほど完璧と言える対策を取っておかないと、必ず隙間からアイツにとっての成功が引き寄せられているかのように舞い込んでくる。これは過程がどうとかいう問題じゃない。理屈じゃ説明出来ない何かというべきか」

 

電「そんな人がいるなんて考えづらいですけど…」

 

大将「…知らんのか」

 

電「何がですか?」

 

大将「いや、なんでもない」

 

大将「これをやる理由としてはここの問題と直結している。お前はここの評価を知っているよな?」

 

電「艦娘を道具の様に扱う所だと聞いています」

 

大将「その理由は?」

 

電「…ここが廃棄所と呼ばれている事と関係があるという認識はしています」

 

 

廃棄所。自分も話として聞いた事しかない。所謂、何らかの罪を犯した艦娘達の置き場である

 

最悪の環境で過ごしてもらい、自身のした事に対する反省をしっかりとしてもらう。ここでの働きによって自身のいた鎮守府に戻れるか掛かっている…らしい

 

まぁ、言ってしまえば受刑者だ。しかし艦娘を牢屋に入れようにも本気を出せば牢屋破りなんて簡単に出来てしまうだろうし、いきなり解体(死刑)してしまえば艦娘は大暴れをして鎮守府は壊滅的な被害を受ける可能性もある。そして艦娘達が提督の心から離れて言ってしまうのは分かり切っている

 

それでも改善が認められない場合は解体。或いは何処かの鎮守府で実験や捨て艦に使われるらしい

 

 

大将「アイツはまだまだ子供だ。上下関係を弁えてはいるが、それでも自分の感情を優先して動いている。それが何時か訪れるであろう決断を下す時に必ず後悔をするハズだ」

 

大将「提督として、お前等の命を預かる者としては下の下だ。だから今の内にアイツを矯正させなきゃならん」

 

大将「…それでも、後悔する時は必ず後悔するものだがな」

 

 

とても悲しげに呟いた大将の言葉に強い後悔と怒りが電波の様にこちらにも伝わり、まるで自分にも向けられていると感じたソレに身震いした

 

大将の触れる事が許されない過去。そんな過去を持つ人物からしか感じられない確かな現実感を受け取った

 

 

電「そうならない為にも私達がいるのです」

 

大将「…そうか。そうなんだな」

 

 

少しの安心と、一抹の不安。だがそれ以上に嬉しさと期待を混じらせた表情を見て、この人の考えてる事が分かってしまった

 

この人は大将という立場故に自分一人で決断を下さねばならず、その結果大きなミスを犯した。その後悔を提督にして欲しくないという親心の様なモノから来ているのだろう

 

だけど大将とは違い、司令官には私達がいる。私達に対する不安と、どうにかしてくれるという期待感を込めてあの表情をしたのだろう

 

ならばそれに応えなければ。私達が、大将が、司令官さんに期待しているのと同じく司令官さんも私達艦娘に期待している。皆が誰かの期待に応えようとしているんだ

 

この期待を裏切る訳にはいかない。例えそれが司令官さんを騙す事になったとしても

 

 

電「それでは大将、早速暗示の方を」

 

大将「…願わくば、この決断で良かったと思える結果であってほしいものだ」

 

 

 

 

ここに来てから数日が経ち、私は今司令官さんと一緒に仕事をしている

 

あの人も本心ではないと思っていた。今でこそ大将の事を嫌ってはいるが、初めの内は何か事情があっての事だと思っていた

 

だけど違った。あの人は艦娘を道具としてしか見ていない

 

それでも扱いが悪いという訳では無かった。艦娘の補給や入渠には目を瞑っているし、ここが最低限の事しか受け入れられない所と言っても、超えてはならない一線だけはしっかりと一歩引いていた

 

それでも良い人かと言えば絶対に違う。良くも悪くも大将という人間であるというのはハッキリと理解していた

 

だからこそ大将という人間を知りたい。あの人が一体何を考え、何を信念にして提督をしているのか聞いてみたい

 

頼まれた資料を持って執務室へと向かう途中、扉の前で聞き耳を立てている者が数名いた

 

陸奥さん、高雄さん、五月雨ちゃんの三人である。三人共に扉へピタリと耳を当て、中の音を拾おうと必死であった

 

表情は鬼気迫ると言っても良い程の険しい顔。何をそこまで…と考えた所で答え(怒号)が聞こえてきた

 

 

大将『ああやって問題しか起こさないからアイツを見張ってろと言ったんだ!それなのになんだ!?この体たらくは!?』

 

球磨『申し訳ございません』

 

大将『クソッ。元師に何て言えばいいんだ…』

 

球磨『…お言葉ですが提督。そこまで彼を気にする理由が分かりません』

 

大将『……いや、すまない。声を荒げるべきではなかった』

 

球磨『…』

 

 

ポカーンと口が開き、まるでギャグの様な顔をして数秒だけ耳に入って来た情報を整理するためにボーっとしていた

 

疑問符が頭に何度も浮かんではいたが、謝罪の意味だけは自身の経験から理解はした

 

話せない。話せなかった事があったのだろう。それを伝えていなかったからこその謝罪。それを理解したからこそ、余計に混乱を招いていた

 

 

大将『戻れ。それからアイツの所にいる天龍を呼んで来い』

 

球磨『ハッ』

 

 

話しが終わると同時に扉前にいた三人はすぐさま散開し、各々何事も無かったかのようにしてバラバラの道へと歩んでいき、自分も思わず角に隠れようとしていた

 

ドアが開き、失礼しますと声が聞こえたタイミングで角を曲がり、何も知らなかったかの様に球磨さんに振る舞いを見せ、そのまま扉にノックをする

 

 

大将『入れ』

 

電「失礼します」

 

大将「…そういえば出撃書類の収集を頼んでいたな」

 

電「書類、ここに置いておきますね」

 

大将「あぁ。それとこれから天龍をここに呼ぶ。アイツにしか聞かせられない内容だからしばらく離席していろ。大体10分程度で良い」

 

電「分かりました」

 

 

特に何かを言う必要も理由も無いので素直に承諾し、書類を綺麗に整えて机の上に置いた後にすぐさま部屋を出る。入れ替わりで天龍さんと部屋の前ですれ違ったが、その時の顔は焦燥に駆られていたのを今でも覚えている

 

悪い予感がした。それは後程天龍さんから聞かされる提督が艦娘達との喧嘩で倒れたとの知らせを聞くまでの間、ずっとモヤモヤとした晴れない霧として心に残っていた

 

 

 

 

大将「起きろ」パチンッ

 

 

耳元で指パッチンの音が聞こえ、その瞬間に頭の中でフィルターが外れて一気に記憶が脳内へとなだれ込む。それはフィルターによって埋められなかった空っぽの入れ物に物を詰め込んでいくかのように少しずつ入ってきて、やがてそれが埋まると頭の中がスッキリしたのと同時に軽い吐き気を催させた

 

 

電「うっ」ウプッ

 

大将「大丈夫か?」

 

電「は、はい。平気です」

 

大将「…電、一つ聞きたい事がある」

 

大将「分からなければ分からないと答えて良い。答えたくないなら答えなくてもいい。聞いてくれるか?」

 

 

今までで見たことが無い怪訝な顔に驚いたが、思わずこんな顔をする程に訝しんでいる物事があったのだと推測を立てる

 

 

電「…はい。なんでしょうか?」

 

大将「…アイツは人間か?」

 

電「へ?いや、えっと、人間だと思いますけど…」

 

大将「人間が子供に変化したり赤ん坊から一気に成長したり、挙句の果てには高速建造材で一気に元の体まで戻るか?」

 

大将「頼む。正直に答えてくれ。アイツは一体何なんだ?」

 

電「…人間以外でなにかあるんでしょうか?」

 

 

あの人の見た目から考えても人間としか思えないが何だと言うのか

 

確かに司令官さんは頭のネジが何処かおかしいし、自分勝手な我儘だらけの人だとは思う

 

人を使うのが無自覚とも思える程に上手いのか、人の気を引く方法というのを良く分かっている

 

だからこそ司令官さんが赤ん坊になった時は驚いたし、正直呆れも入っていた。そこまでしてサボりたいのかと

 

だからもうそういう人間なんだと思う事にした。というか妖精さんの力を借りればアレくらいは他の人でも出来るんだろうし、そこまでして必死になる理由が分からなかった。大将という立場にいる人間だとそれくらい知っているだろうに

 

そんな考えを話そうとした所、大将の方はと言えば眉間に指を当てて何やら唸っていた

 

 

大将「…分かった。一先ず下がって良い」

 

電「はい。失礼します」

 

 

大将の質問に些か疑問であったが、この後予定していた演習に遅れてしまうので一先ずの疑問は置いておき、少し急ぎ足で向かうのだった

 

 

大将「…高速修復材が人間に使える?そんな訳あるか」

 

 

いくら何でもあり得ない出来事に自分の頭は混乱を極める。常軌を逸した報告によって自分の知る知識は掴める物が何もない宙へと舞い上がらせた

 

どれだけ凄い人間であったとしても、ベースが人間である以上は人間の枠を超えた出来事まで起こせる筈がない

 

高速修復材は艦娘にとってはすぐさま傷を治せる道具であるが、人間がコレに触れるとどうなるか

 

過去に実験として死刑囚に向けて使用した事があったらしいが、結果としては傷が治ったものの、高速修復材が触れた部分は油を被って火傷したかのように酷い痕がついていた

 

だがアイツの体には何も無い。身体検査の結果を見ても普通の人間。艦娘とのハーフという訳もないし、意味が分からない

 

強いて言うのならば…アイツは人間を模した化物である。そう評価付ける他無い

 

しかも電も電だ。アイツが普通に見えてるとでも言うのか?もしくはグルになって自分を騙そうとしたでまかせなのか?

 

…いや。怒っても仕方が無い。もうどうしようもない事だ

 

家族写真を手帳から取り出し、重なっている二枚の内の後ろにある一枚を取り出す

 

カメラに向かって笑顔で写真を撮る私と前の妻と子供。二人の傍で後ろで手を組んでカメラへと笑顔を向けた私。とても幸せそうだ

 

長年連れ添った妻と立派に大人へと成長した子供。ここから更に歳を取るに連れて周りに子供が増える未来を想像したものだ

 

…その夢は叶わなかった

 

深海棲艦達の襲撃。それにより家を失って、家族も失い、最後にはこの写真一枚(思い出)だけが残った

 

その時の私は荒れに荒れた。深海棲艦と対比するように艦娘が出現した時だって、どうしてお前達が先では無いのかと恨んだ

 

もしお前達が少しでも早ければ。もしお前達が家族の代わりに死んでくれていたら。もしお前達が私の代わりに家族の傍にいてくれてたのなら

 

後悔は深い。故に艦娘を恨み、深海棲艦を恨み、自分を恨んで、最後にはアイツ(新米提督)を恨んだ

 

何故その奇跡を家族に分けてくれない。どうしてお前なんだ。どうして艦娘だけなんだ、どうして、どうして…

 

涙が頬を伝っていき、やがてそれは小さな手によって拭われる事となった

 

 

大将「…妖精か」

 

妖精『…』

 

大将「…ごめんな」

 

妖精『…元気だして』

 

大将「!?」

 

妖精『じゃないと…今いる皆に心配されますよ』

 

高雄『提督、高雄です』コンコン

 

大将「っ、ちょっとま「入れ」」

 

 

慌てて涙を拭うよりも先に妖精さんが蝶ネクタイの形をしたマイクを手に持って声を出す。その声は正に自分の声であり、驚いたと同時に扉が開かれた

 

 

高雄「失礼しま…!?」ギョッ

 

 

驚いた顔ですぐさまこちらへと駆け寄ってくる高雄。飛び出た様な心配した表情に昔を連想させてしまい、また涙が零れ出た

 

 

高雄「だっ、大丈夫ですか!?何かあったんですか!?」

 

 

ハンカチを手に持って優しく涙を拭われる。完全に涙が消えた後も高雄にジッと顔を見つめられ、その目には言葉よりも雄弁に心配という感情を感じさせた

 

 

大将「…すまないな」

 

高雄「いえ。これくらいしか出来ないって、それを見たら思ってしまいましたから」

 

 

ハッとして机に置いた写真に目をやる。伏せておいていたと思っていた写真はまざまざと見せつける様に表を向いており、思わず顔を隠したくなってしまった

 

 

大将「…昔の話だ」

 

高雄「……」

 

大将「……頼む。俺の様な人間を増やさないでくれ。お願いだ」

 

高雄「…心に誓います」

 

 

…これだから嫌なんだ。こんなに本気で思ってくれるコイツ等を部下として扱うのは

 

だからこそ…どうかコイツ等の事を嫌いにならないでやってくれ。大切にしてやってくれ。そして、どうか…

 

二度と俺に代わりを考えさせないでくれ

 

 

 

_____________

 

 

 

一人になりたい時だってある(#66)

 

 

長門との喧嘩のその後。病院で目が覚め、数日で退院という病院の出した結果に正直頭がおかしいのかと思った

 

長門との喧嘩は無駄では無かった。彼女は最後に贈り物をしてくれたからだ

 

艦娘にも長門の様な奴もいるということ。コレを教えてくれたのは今後の活動としては大きな指針になってくれる事だろう

 

そして今回の一件で最も大きな贈り物。それは自分の息子の復活である。正確には一人歩きするまでに回復したと言うべきか

 

普段は小さいままで艦娘に直接触れられない限りはビルドアップしなかったのだが、何と今回は目が覚めたらビルドアップしていた

 

そこでようやく今の自分を把握した。それも昔と比べて本能の様に飛び起きるモノが確かに自分の中で燃える炎の様に猛っていた

 

ムラムラします。それも猛烈に

 

そこで自分に向かって強力な右ストレートを飛ばした。だが自分で放った拳の為か、首が回って威力を殺してしまう

 

非常にマズい。何がマズいってナニがマズい

 

潮は男にトラウマ。潮だけでなく、ほとんどの艦娘は男にトラウマを抱いていよう。それは決して自分も含まれていない筈がない

 

そんな人達が集まっている所に嬉々として立ち入ってみよう。間違いなく潰される。というか切り落とされる(主に龍田と天龍)

 

そして重大な問題としてもう一つある。コレが自分の行動を阻害させる理由であった

 

女は鼻が利く。それもかなり

 

昔何かのテレビで見たが、女性は男性と比べて鼻が利くらしく、その為か匂いで異性への好感度にも差が出るらしい

 

つまり普通の方法では取れることは無いであろう匂い。適当に洗っても取れないであろうこの悩みに、自分の中の理性と欲望が大喧嘩していた

 

 

理性『信頼を失います』

 

欲望『気にしなければ問題無いだろ?』

 

理性『目先の事に囚われないで』

 

欲望『少し位なら発散しても良いじゃないか』

 

 

短絡的な思考と長期的な思考。メリットとデメリット。未来か今か

 

どちらも甲乙付け難いものだ。腕を組んで頭を悩ませていると、扉が開く音がした

 

 

潮「失礼します」ペコッ

 

 

ビシィッ!

 

 

自分の心に亀裂が入る。そして視線は下の方へと向かないように、潮の頭の頭頂部を越えて後ろへある壁へと飛んでいた

 

潮がそれに気づいて後ろを振り向く。だがその視線の先には何も無い。何かあっては自分が困る

 

 

潮「…?本日の書類を持ってきました。ここに置いておきますね」

 

「あぁ。ありがとう」

 

 

潮が近付き、ベッドの上にあるテーブルに書類を置く

 

それは小さな山を連想させる程に積もっており、山といえば潮の

 

 

拳『メメタァ』グシャアッ!

 

潮「提督!?」

 

「ん?どうかした?」

 

潮「コッチの台詞です!急にどうしたんですか!?」

 

「大丈夫大丈夫。痛くないから」

 

潮「赤くなってますけど!?」

 

「問題無いよ。それよりシャンプーでも変えたの?何だかいい匂いするけど」

 

潮「…そうですけど、セクハラですよ」

 

「おっと。気をつけないとな」ヘラヘラ

 

 

良し。何とか話題反らしと煩悩に打ち勝てた。少しでも油断すれば直ぐにコレだ

 

何とかして理性を抑え込むんだ。そうすれば抑えが慣れてきて、自然と今後も出来るようになる筈だ

 

潮はしばらく心配した様子で見ていたが、他にも仕事があるらしく、早めに部屋を出ていった

 

初めは何とか誤魔化せた。しかしこれが続くとマズい。早いところ何処かで発散したいところだが…

 

 

磯風「失礼する」

 

「…ウチに磯風はいなかった筈だが」

 

磯風(元帥)「紹介が遅れた。元帥閣下の艦隊に所属している磯風だ。よろしく頼む」ギュッ

 

「あ、あぁ。よろしく」

 

磯風(元帥)「ふむ…意外と普通だな。しかし血の方は足りてないとみる」ニギニギ

 

「あ、あの〜、そろそろ離してもらえませんか…?」

 

磯風(元帥)「おっと、すまないな。実は元帥に当時の話を聞くよう命令されたんだ。ついでに君の様子を見るようにと」

 

「あ、あぁ…」

 

磯風(元帥)「という訳で料理を作ってきた」ズイッ

 

「ちょっと待って?」

 

 

どういう事?話を聞きに来たってのに料理を持ってきたって何?昔の刑事が犯人に尋問するシーンでカツ丼差し出す的なアレか?そんな事される記憶しかないから困るんだけど

 

それにアレやばいよ。自分の目の前には磯風の手の中にタッパーに入った料理が見えてるんだけどさ、色が紫色なんだよ。【The・毒】って感じの料理なんだけど?

 

 

磯風(元帥)「元帥はこの件に関して隠し事を許すなとも言われていてな。だが病人に対して何もせずに聞くのは些か忍びない。だから少しでも体調を戻して貰うためにコレ(料理)を作ったんだ」

 

磯風(元帥)「コレを食ったあとに、しっかりと洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

 

洗いざらい吐く(物理)じゃねーか!どう考えても尋問(拷問)用の料理だろ!

 

しかも何で手に絆創膏貼ってんだ!軽く見ただけで五、六ケ所はあるんだけど!?

 

 

磯風(元帥)「ん?この手が気になるのか?」

 

磯風(元帥)「実は初めて男性に向けて料理を作ったんだ。だからその…少しだけ手が上手くいかなくてな。普段はこんな事無いんだが…」モジモジ

 

磯風(元帥)「その、頑張って作ったんだ。だが口に合わないという事なら残してくれて構わない」

 

 

ちくしょう!そんな事言われたら嫌だとは言えねぇよ!だからちょっとガッカリ感を隠しきれない顔をやめて!?

 

 

「いただきます」パンッ

 

「……」モグモグ

 

 

あっ、やっぱり無理かも

 

 

30分後

 

 

ナース「先生!急患です!」

 

医者「患者は?」

 

ナース「それがっ、顔が紫色に変色しており、先程からうわ言を呟いています!」

 

医者「どうしてそんな事に…」

 

ナース「近くにはタッパーの中に紫色の粘液らしきモノが見つかりました。おそらくですが…」

 

医者「…深海棲艦がここに忍び込んでいるのかも知れない。すぐさま近くの鎮守府に連絡をするんだ!」

 

ナース「はっ、はい!」

 

 

尚、その後の検査で食中毒という事が判明し、入院が1週間ほど伸びたそうな

 

 

 

……酷い目にあった

 

磯風の料理を食べてからこの一週間の記憶が無い。自分は一体何があったのだろうか

 

一つ覚えている事と言えばムラムラしている事。それ以外の記憶は無かった

 

目が覚めてから数刻程後に元帥が笑いながら謝りに来て、まさか本当に泣き落としが効くとは思わなかった。というコメントをいただいた

 

その後は今回の事を洗いざらい話す事になったのだが、脅しとして磯風の料理を引き合いに出されたのは正直ズルいと思う

 

ちなみに見舞いの品として卵を渡された。本人曰く、アレを食べた後には栄養のあるものを食べると良いらしい。妙に青い顔をしながら言っていた為に説得力はあった

 

元帥が退出した後、既に茹でてあった卵を食べている最中に来客を知らせるノックの音が病室に鳴り響いた

 

 

天龍「おう、調子はどうだ?」

 

「………」(‘ᾥ’ )

 

天龍「…どういう表情だよ。ソレ」

 

 

思わず【自主規制】と言いかけた。世界が僕に厳しい

 

おそらくだが龍田と比べると若干デカイかもしれない天乳が来た。頭に行く栄養が多分胸に言っているせいで仲間想いで頭の足りないおバカキャラとして扱われる事が多い奴だが、実際はちゃんと高校行ってて、龍田は中卒だったりするオチであってほしい

 

…一体自分は何を考えてるんだろうか。磯風料理の影響がまだ残ってるのか?

 

 

天龍「…良く分からんが失礼な事考えてるだろ」

 

「別に?それより何で来た?」

 

天龍「潮からお前が変だって言われたのと、寝たきりになってたから定期的に様子を見に来てたんだよ」

 

「可笑しいのは何時ものことだろ」

 

天龍「今のお前は可怪しいって方が合ってる」

 

「にしても気に掛ける必要あるか?医者から話位は聞いてるだろ」

 

天龍「…お前な、卑屈になりすぎだろ。病院に来るつったら一つしかねえだろうが」

 

「えっ。まさか何処の馬の骨とも分からんやつとのおめで「お見舞いだよ!」冗談です」

 

天龍「あのな、冷静に考えろよ。お前以外に相手がいると思うか?」

 

「いやいるだろ」

 

天龍「誰だよ」

 

「大将」

 

天龍「既婚者じゃねえか!」

 

「…うん。言ってて何だけど歳の差考えたら俺も反対するわ」

 

天龍「はぁ…今ん所はお前以外の子供を産む気はねぇよ」

 

「ふーん……えっ?」

 

天龍「ん?……あ」

 

 

やべぇ。やべぇよ。俺のアーム砲が一瞬でネオアームストロング砲になっちまったよ。というかコレよりも更に進化を残してる様な感じさえするんですけど

 

つーか元凶のアイツは何なんだ。顔真っ赤にしたかと思えば俯いてスカートの裾をギュッと握り始めたんだけど。しかも若干前屈みのせいで天乳の谷間が見えそうなんだけど

 

 

天龍「ちがっ…ぇっと…いや、ちがうんだけどそうじゃないっていうか、ちがうくはないんだけど違っててさ…」

 

天龍「ねぇ…分かるでしょ?」

 

 

誰だよお前!?俺はこんな可愛らしい乙女みたいな天龍知らねぇ!!

 

つーかやばい。正直艦娘達の好感度がここまで高いとは想像だにしてなかった。寧ろダダ下がりのイメージもあったのに

 

これなら。と考え出した瞬間に自分は書類仕事に使用していたペンを逆手持ちし、そのまま額に当てて思い切り横に捌く様にして切った

 

 

天龍「うっ、うわあぁぁぁ!?何してんだお前!?」

 

「止めるな天龍!これは俺の責任だ!心の弱い俺を許せ!」

 

天龍「何言ってんだよ!?頭大丈夫か!?」ムニィッ

 

「うるせぇ!その乳を引っ付けるな!」

 

天龍「くっつかなきゃ止めらんねぇだろ!」

 

 

ジタバタと暴れるが天龍の拘束は強く、両肩を片腕で掴まれ、もう片方の腕で両手を拘束されそうになるが、片腕を掴ませる事によって反対側の手に自由を残させた

 

しかしそれも肩を拘束していた手によって捕縛されてしまったが、ピースするように指を立て、顔をそれ目がけて一気に振り下ろした

 

自分の両眼を突き刺そうとした瞬間、信じられない力強さで天龍に手をギュッと握られて静止させられた

 

 

天龍「待て待て待て待て!!それはダメだ!シャレになんねぇぞ!」

 

「うるせぇ!男にはやらなくちゃいけない時があるんだよ!」

 

天龍「あるにしても絶対今じゃねぇって!!良いから落ち着け!!」

 

白髪の医者「どうしました?何やら騒がしいですが」

 

天龍「お医者さんか!?ちょっとコイツを落ち着かせてやってくれ!」

 

「お医者さんとか可愛い言い方するな!」

 

天龍「るせぇ!その突き刺そうとする指をやめろ!」

 

白髪の医者「ふむ。では少々触りますよ」

 

 

白衣の医者がそういうと指を一本出して鼻の下を突かれた

 

一瞬だけビリっとした様な感覚が鼻から頭へと伸びていくと、やがて意識を手放してしまった

 

 

天龍「おっ、おい!大丈夫か!?」

 

白髪の医者「定神(ていしん)という秘孔を押しました。次に目が覚める時には落ち着いている事でしょう」

 

天龍「よ、良かった…」

 

白髪の医者「しかし何で彼は……ん?…あぁ、なるほど」

 

天龍「何か分かったのか?」

 

白髪の医者「後で彼にコレを飲ませなさい。下の売店でも売られているから彼に教えてあげると良いですよ」っ薬

 

天龍「えっ、あっ、すいません。ありがとうございます」ペコッ

 

白髪の医者「では、コレにて失礼するよ。病院内ではあんまり騒がないようにね」ガラガラ

 

天龍「…すっげぇ」

 

「んっ、んぬぅ…」

 

天龍「おっ、おきたか…?」

 

「一体なにが…?鼻の下を押されたと思ったら電気が走って…」

 

天龍「それよりコレ飲め。怪しいもんじゃねえから」

 

 

そう言って天龍が差し出された薬を口に入れようとしてきたので、流石に恥ずかしいので遠慮して手で受け取った

 

水を飲んで服用してみると、みるみる体の奥底にあった爆発しそうだった欲望が萎んでいき、興奮が水で冷やされるように落ち着いてきた

 

 

「…ふぅ」

 

天龍「…大丈夫か?」

 

「あぁ。すまんかった」

 

天龍「良し。何かあったら言えよ」

 

「今ん所大丈夫だ。ちょっと病院内を散歩して来るよ」

 

天龍「なら俺も」

 

「いいよ。ちょっと長い散歩をして来るから書類だけまとめてくれないか?」

 

天龍「…分かった。今は病人なんだから無理するなよ。後さっきみたいな事もな」

 

「分かってるよ。行ってくる」

 

 

部屋の扉を開けて病室の外へと出る。忙しなく動くナース達を伏し目に見ながら、自分は下半身が目立たぬ様に出来るだけ気をつけて歩いていた

 

天龍に薬をもらって飲んだ時、確かに興奮は落ち着いた。”興奮”は

 

まるでバランスを取るかのようにして自分の下半身がヤバい事になっている。より正確に言うなら汗が吹き出しており、ネオアームストロング砲がネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲へと進化を遂げている

 

天龍から貰った薬だが、一体どういう効果してるんだ。興奮を対価に性欲が強まる薬とか碌でもなさすぎる

 

だが不思議と発散したいとは思えない。しかし今の病人服では確実に目立ってしまうので何処かで発散しておかなければならないのは決まっていた

 

どうにかして解決したくともトイレでは洗う事が出来ない。とはいえ女と二人のあの空間に戻るのは…

 

 

「…ん?」

 

 

精子バンクセンター

・男性歓迎

・シャワーあり

・艦娘本あります

・追加料金あり

 

 

「………」スタスタ

 

ドア『ゴイリヨウデスカ?アッ,ハイ.オアイテハヒツヨウデケッコウデス.デシタラコチラヘ…』

 

 

 

一時間後

 

 

 

ドア ガラガラ

 

天龍「お、長かった…」ビクッ

 

「ただいま」ゲッソリ+キラキラ

 

天龍「…なんかあったのか?」

 

「天国を見つけた」

 

天龍「はぁ…?」

 

 

提督である為の心得メモ

 

 

『上に立つものは強引でないと周りがついてこないが、それは決して強要という事ではない』

 

『あくまで自分が前を進む道となり、その先へ動こうという強引さが必要なんだ。その後ろをついてこないからと言って強引に自分の後ろにつかせるのはまた別の話だ』

 

『例えば正しい事をしろというやつがいる。だがソイツの言う事に反対したら何故正しい事をしないんだと怒り始める。これはただ自分に都合の良い正しさというものだ』

 

『従順な奴なら強要しても良い。ソイツはお前の為なら喜んで命を投げ出せる。それが従順というものだ』

 

『だが忠誠となると話は違う。忠誠には正しいという意味もあり、前を進むお前が進むべき道を間違えた場合、忠誠な部下にその道の前に立たれたとしても、お前を正すために敵にすらなろうとするヤツのことだ』

 

『ソイツに強要なんかしてみろ。お前から心は離れていき、やがて自分の周りにいた忠誠な部下はいなくなるだろうな』

 

『強引と強要は違う。その事をしかと心に刻み込め』

 

 

 

_____________

 

 

 

面接(#おまけ)

 

 

「バイトには何人集まった?」

 

大淀「6名です。初めて広告を出したにしては言い出だしだと思います」

 

「廊下に仕掛けたカメラは?」

 

大淀「何名か到着しております。後から面接を予定している人達もいらっしゃいますので現状はこれで全員です。ご確認しますか?」

 

「あぁ」

 

 

大淀にPCの画面を見せられ、設置したカメラと等しい数が映し出されていた

 

怪しい者はいないか。礼儀はなっているか。待ち合いの最中に見るのは幾つかあるが、最低限の事としてこの二つを主に見ている

 

怪しい者という点で目立つ者はいない。しかし最後の一人だけが目に入った

 

あぐらをかいている。この時点で自分の評価は結構低いが、特段目立つという点では他の人間が多いので、態度バツとだけしといた

 

 

「じゃあ面接開始だ。一人ずつ呼んでくれ」

 

大淀「了解しました」

 

 

一人目:軍服を着た青年

 

 

〘よろしくお願いします〙

【本日はよろしくお願いします】

【本日はお日柄も良く…】

 

 

「タイム!」

 

 

〘はい?〙

【どうかしましたか?】

 

 

どうかしましたか?じゃねぇよ!何で会話に選択肢が出てくるんだよ!

 

しかも目が髪に隠れて見えない!物理的に見えないとかではなくて、イラスト的な意味で目が見えない!例えるならウ◯娘やNI◯KEに出てくるモブや主人公みたく顔が分からないってどうなってんだこの人!?

 

つーか、どっかで見たことある気がするんですけど!?なんだ…何処で見たんだ…!?

 

 

「す、すいません。ではまず自己紹介からお願いいたします」

 

 

《まだ10代後半にしか見えない人物から紹介を促され、これまで自分が過ごしてきた経歴を話した》

 

《ある日、任務中に巨大な敵に遭遇し、気付いたらここにいた事》

 

《自分の知る世界とは違い、地下ではなく地上で人々が暮らしているのに驚いた事。そして自分は元いた場所に帰らなければならないので、すぐに辞めてしまう事を伝えた》

 

 

「…なるほど」

 

 

ちくしょう!何か見た事あると思ったらNI◯KEの指揮官じゃねえか!!

 

ていうか何で俺は理解してるんだ!?過程を数文話されただけでホームレス生活しながら偶然深海棲艦が陸に侵攻しようとしている所に居合わせて艦娘達の指揮をしたとか何処の主人公だよ!主人公だわ!

 

つーかアレだろ。ここで数日どころか数週間も過ごしてるらしいから戻った時にニ◯達にすっげぇ心配されるやつじゃん。カムバック狙いでちょっと放置してただけなのに、あの時の反応は正直見応えあったわ

 

…しょうがない。妖精さん達にワームホールでも作らせて元の世界にお帰り願おう。ぶっちゃけ規模や深刻度で言えばあっちの方が段違いだしな

 

 

「失礼。少々お待ちいただいてよろしいでしょうか?」

 

 

〘分かりました〙

 

 

《青年が電話を持って部屋から退出する》

 

《扉を閉じて数分の間があった後、何処か複雑そうな顔をして戻ってきた》

 

 

〘何かあったんですか?〙

 

 

「あぁ、すみません。実は部下が勝手にね…」

 

 

《この人も苦労が絶えない様だ。しかし顔は何処か明るく、本心ではあまり悪い気はしていないのが感じ取れた》

 

 

「さて、先程貴方がお話した内容は真実と考えました。そこで何ですが、今なら貴方を元いた場所に帰すことが出来るそうなんです」

 

 

〘本当ですか!?〙

 

 

《思ってもいなかった提案に思わず飛び上がり、その勢いで椅子を勢いよく倒してしまった》

 

《しまったと思い、すぐさま椅子を立て直す。しかし立て直した椅子の様には落ち着く事が出来なかった》

 

 

「お気持ちは大変分かります。しかしどうか一つだけお約束を」

 

「此処の事は秘密にして頂きたい。それが貴方を元いた所へ返す条件となります」

 

 

〘勿論です〙

 

 

《目の前の人物が危惧していること。それは自分の存在が余計な混乱を招きかねないという事だろう》

 

《自分はこの世界においてお客様でしかない。そんな人物が元居た所に帰った時にここの事を話してしまえば、まず間違いなく戦争が起こる》

 

《ここは地上で敵は海にしかいない。自分達のいた所と比べて人間の数も圧倒的に多く、敵が存在していても人類の存続を可能としている武力もある。自分の居た所と比べればここは天国と言って良いだろう》

 

《だからこそ伝えてはならない。もしそうなればこことの戦争になる。おそらくそれはどちらかが滅びるまで続くと想定して良いだろう》

 

 

「ご理解頂けたようで何よりです。では案内いたしますので付いてきてください」

 

 

《案内されるままに彼の後を付いていく。そして油の臭いが良く香る施設へと辿り着き、しばらくすると見覚えのあるモノ…敵の姿がそこにあった》

 

 

〘これは…!〙

 

 

「ゲートキーパー…まぁ、簡単に言ってしまえばワームホールの役割を持っております」

 

 

【……】

〘…どうして何も起こらないんですか?〙

 

 

「…何やらコレと訳アリの様に思えますが、コレは妖精と呼ばれる存在が作ったものです」

 

 

〘妖精?〙

 

 

「えぇ。と言っても機密事項なのでこれ以上は話せませんが、私達の敵ではありません。勿論、貴方にとっても」

 

 

《そう語る青年の目には嘘を付いている感じはしなかった》

 

《しかし何故だろうか。その視線が妙に自分の頭の上に向かっている気がしてならず、片手で頭を触ると自分の頭以外の柔らかい何かに触れた気がした》

 

 

〘!?〙

 

 

《二度三度と頭を触るが先程の様な感触は無く、代わりに何かのクズらしきモノに触れた》

 

《それはお菓子のカスであったが、まさか先程言っていた妖精と呼ばれる存在が頭の上で食べていたのだろうか》

 

 

「すみません。ウチのモノが失礼な事をして…」

 

 

〘大丈夫です〙

 

 

《どうやら本当らしい。だからこそ先程の言葉に信憑性を感じていた》

 

 

「では、心の準備はよろしいですか?」

 

 

《その声に頷き、起動する為のレバーらしきモノが落とされて辺りが微かに揺れだした。そしてその揺れはかなり強くなっていく》

 

《だが揺れていると感じているのは自分だけらしく、大地震と思える揺れにも関わらず、周りの道具は一切落ちること無く静止していたからだ》

 

《やがて意識が揺れる景色と共に乱れ始めた時、自分の視界は揺れと共に恐怖という感情によって思わず目を閉じてしまった》

 

《………》

 

《揺れが収まり、自分を恐怖から解放すべくゆっくりと鼻で息を吸うと、先程とは打って変わった嗅ぎなれた臭いが鼻へと入る》

 

《ゆっくりと目を開いて行くと、そこは見慣れた部屋であり、布団で見慣れた三人が寝転がっていたのを見つけた》

 

 

 

…ふぅ。何とか送り返したぞ

 

しっかし何だってこんな事に。妖精さんは何か知っているんだろうか

 

…ま、良いか。どうせこれ以上知ってるやつは来ないだろうしな

 

 

2人目:スーツに身を包んだ女性

 

 

女性「本日はよろしくお願いいたします」

 

「どうぞ、おかけください」

 

 

見た感じは普通の女性である。しかし視点は僅かに大淀の方に寄っており、少し疑問を覚えた

 

 

「では、まず初めに自己紹介。それと履歴書を頂いているので軽く学歴と職歴の方をお聞かせください」

 

女性「はい。まず私がここを選んだ理由ですが…」

 

 

事前に貰っていた履歴書と見比べながら女性の経歴を聞いていく。詰まる所も無ければ、コチラが聞き取りやすい様にゆっくりとしたペースで話している

 

学校名、職場、共に調べた内容と一致し、当時の生活もしっかりとイメージが付く話し方であった

 

しかも資格が多い。漢字検定や英語検定だけでなく、他言語の取得は勿論であるが、コミュニケーション検定とか言う聞いたことの無いものまで数多くあった

 

出だしは好印象。文句の付け所は無いように思える

 

 

女性「以上となります」

 

「ありがとうございます。では、幾つか質問していくのでお答え願います」

 

「まずはここの危険性をお伝えしようと思うのですが、ここでの業務内容はご存知でしょうか?」

 

女性「はい。主にここを警備する人員として募集をかけていました。懸念事項として、万が一深海棲艦が鎮守府を襲撃してきた際には身の安全は保証出来ない。という内容ですね」

 

「そうです。あくまで行って頂くのはこの鎮守府の警備であり、艦娘を指揮したり、ましてや自分の都合の良い様に扱う事は出来ません」

 

女性「…なるほど」

 

 

なるほど。その一言に確かな引っ掛かりと思考の中、少しだけ興味が湧いた

 

 

「えー、では次に得意・不得意を教えてください」

 

女性「はい。私が得意とするのは写真を撮る事です。趣味で撮った写真をSNSにあげて共有する位には自分の撮ってきた写真に自信はあります」

 

女性「反対に、自分が不得意とするのが周りを見ることが苦手な事です」

 

女性「現在では自身でも改善が出来てきたと思うのですが、写真を撮りたての頃は、周りを考えずに行っていた為に良く反感を買うことが多くありました。しかし今ではそんな事無いと考えています」

 

「なるほど。資格欄の所にあるフォトマスター検定というのも、それが理由なんですね」

 

女性「はい。そうです」

 

 

…特に不審な所は無いな。まぁ別の問題がありそうな気がしている訳だが

 

 

「では次の質問ですが、危険だと分かっているのにしなければならない事があった場合、どの様に対処するのか教えていただけませんか?」

 

女性「…すいません。少し考えてもよろしいでしょうか」

 

「はい。構いませんよ」

 

 

少し頭を下に傾けて考え出す女性に、少しあからさますぎたかと一瞬だけ背筋に嫌な汗が垂れた気がした

 

数秒経った後、何かを決めたような顔をしてコチラへと向き直す。話す準備が整ったのかと思い、再度姿勢を正して聴く姿勢へと移り変えた

 

 

女性「私はその様な出来事にあった場合、それでもそこから先へ行こうとします。そうすればより明確に危険が分かりますし、危険を見ずに逃げては何時襲われるか分からない為です」

 

「…なるほど。貴重なご意見、ありがとうございます」

 

女性「すいません。コチラからの質問となってしまうのですがよろしいでしょうか?」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

女性「見た所、18歳…位に見えるのですが、ここの提督のお孫さんでしょうか?」

 

 

…うん。やっぱしそう思われるよね

 

 

「いえ。私がここの提督で間違いありませんよ」

 

女性「という事は、やはり噂は本当だったんですね」

 

「噂?」

 

女性「えぇ。街中で艦娘と良く一緒にいる人物が目撃されていると一部で噂されているんです。噂になってる街近くの鎮守府は幾つかありますが、その中でも提督に問題があった鎮守府がそうなんではないかと言われておりまして」

 

「…なるほど。疑問は解けましたか?」

 

女性「はい。申し訳ございません。面接と関係ない事を聞いてしまい」

 

「いえいえ。知らない事を知ろうとするのは良い事だと思いますよ。積極性も見えますからね」

 

女性「あ、は、はい」

 

「では、これにて面接は終了となります」

 

 

その言葉に女性の顔に焦りが浮かんだ。まるで落ちてしまったのではないかという不安感と、後少しという願望らしきものを感じさせた

 

 

女性「あ、あのっ、私は不合格でしょうか?」

 

「いえ。それはまだ決めていません。なので今から決めようかと」

 

女性「えっ?」

 

「大淀。隣の部屋に行ってこの人の身体検査を行ってくれ」

 

大淀「はい。承知いたしました」

 

女性「しっ、身体検査!?」

 

「防犯の為にそうしてるんです。軍事機密保持の為にご協力願えないでしょうか?」

 

女性「あ、えっと、はい。大丈夫です。ただその前に少し電話をしてもよろしいでしょうか?」

 

「それならこの部屋にある電話を使ってください。ここは電波が入らないので」

 

女性「えっ?」

 

 

今回の面接として対策したのは主に三つ

 

通信機器の無効化。記録媒体への対策。そして職業だ

 

普通に考えれば会場を用意すれば良いじゃないか。何て言われるかも知れないが、単純に経費削減の為だ

 

施設探しやレンタル等の時間や経費関係の書類を作成しなければならないのでやりたくない。後そんな事に時間を割く位ならここを利用する上でどうすれば上記三つが出来るか考える方がマシだ

 

通信機器と記録媒体に関しては妖精さんと警戒を緩めなければ済む問題。職業については記者が紛れると面倒だからと言う理由だ

 

面倒な理由?TRPGやヒューマンドラマの漫画に出てくる記者みたいなのが理由だ。特にPLがやる記者ほど厄介な物はない

 

 

「聞かれたくない話もあるでしょうし我々は隣の部屋にでも行ってます。何かあればあそこにある防犯カメラに手を振るかノックしてください。終わり次第コチラに戻ってまいりますので」

 

女性「…はい。分かりました」

 

 

カメラの存在を教える事でここでの出来事が記録されているのを教えたし、バカでもない限りこれ以上変な事はしないだろう

 

大淀と共に退出した後、スマホにて確認した所、受話器を取って何処かへ電話をしている様子が見て取れた

 

大淀に電話発信の記録を見てもらっていたが、発信記録が無い事から何処へも電話をしていない事が確認出来た

 

やはりと言うべきか。資格からある程度察してはいたがマスコミの人だったらしい。危険に対する行動も鑑みるに、かなり強引な所だと推測を重ねる

 

そんな事を考えているとカメラに向かって手が振られ、大淀と共に部屋へと戻る

 

結果から話すと彼女は不合格とした。正直取材目的だと思うとあまりいい気はしなかったというのが理由だ

 

面接官だって人間だもの。能力で判断するのは良いけど、気分の良し悪しだってあるじゃない?

 

 

3人目:態度の悪い男

 

 

男「子供ォ?それにそこの女もブスだし、ホントに給料貰えるんだろうなぁ?俺、ボランティアに来てる訳じゃないからさ」

 

「良し。帰れ」

 

 

何だコイツ。入ってきて第一声がこれとか最悪なんだが?

 

 

男「は?何でお前に決められなきゃいけないの?責任者出せよ」

 

「俺だけど?」

 

男「…はぁ?」

 

「責任者の俺が帰れっつってんだ。帰れ」

 

男「……ホントに言ってるんですか?」

 

「あぁ。だから帰んな」

 

男「ふっ、ふざけんな!そんな子供が責任者とか分かる訳無いだろ!知ってたらもっと礼儀良くしてたのに!!」

 

 

相手によって態度変えるって訳ですね。万が一襲撃があって避難する事になっても艦娘相手にすんの無理だろうな

 

 

「そもそもここでバイトすんのに向いてないよ。艦娘が沢山いんのにそんな態度じゃ自分の方から参るよ?」

 

男「はぁっ、最悪だ…」

 

「んじゃ、さっさと帰んな。こっちも忙しいから」シッシッ

 

男「…分かったよ」

 

 

お、意外と聞き分けが良いな

 

 

男「でも一発殴ってからなぁ!」ダッ

 

 

…前言撤回。ただのバカだ

 

大きく振り被って殴ろうとしてくる男に対し、一先ず足だけ開いて傍観する。だって一般人を殴る訳にいかないじゃん?

 

飛んできた拳はそのまま頬にヒット。首を回して衝撃を流す事も出来たが、敢えて首を回さずにそのまま受け止める

 

衝撃で動かない様に足に力を入れて耐えた事で吹っ飛ぶことは無かったものの、真正面から受けたために結構痛い

 

その様子に驚いてたじろいでいる男にこちらも拳を握って男へと殴りかかる

 

拳は顔に当たる寸前で止めたが、流石に何もせずに返すのは嫌だったので鼻先にデコピンだけくらわせた

 

 

男「…!!舐めんな!」

 

 

…俺も馬鹿だなぁ。余計に怒らせちゃったよ

 

その様子に大淀が止めようと動くが、相手が人間であるためか硬直して動かなくなってしまう

 

一歩どころか半歩すら動けていなかったので軌道上に立つことなく男がコチラへと向かってきたが、流石にこれ以上殴られるのは御免被るので横に避けて足を払った

 

勢いは殺せずにそのまま壁へと顔から激突。正直スッとした

 

ヨロヨロとよろめきながら立ち上がる男の前に行き、そのまま足を男の近くで思いきり足を踏みつけた

 

 

「んで、どうすんの?まだ暴れるわけ?」

 

男「うるせぇ!さっきからずっとコッチを見下しやがって、ムカつくんだよ!」

 

「そっか。頑張れ」

 

 

男は更にいきり立ち、近くを踏みつけた足首をギュッと掴む

 

そのまま腕を振り払ってバランスを崩されそうになったが、反対側の足を軸にして回転し、振り払われた足で手を踏みつけた

 

 

男「いっ…てぇ!」

 

「コッチが殴られた時はもっと痛かったんだけどなぁ…これ以上恥晒す前に帰ったら?」

 

男「…っ!だからっ!舐めた態度をとってるんじゃねぇっ!」

 

「うるさいよ」

 

 

そう言って男の顔にスタンプを押すかの如く腕を振り下ろす。男もこれはマズイと思って目をつぶっていたが、ヒットする直前に腕から力が抜けた

 

勢いはそのままに顔へと振り下ろされたが、当たった音はさながら軽くビンタでもした様な音が鳴った

 

 

「…チッ」

 

大淀「提督!もう良いじゃありませんか!貴方も早く帰りなさい!」

 

男「っ!クソがっ!覚えてろよ!」

 

 

体にのしかかった足と手を乱暴に振り払い、ズンズンと音を立てながら帰っていく男。乱暴に扉を閉められた後、先程振り下ろした腕へと目を落とした

 

後少しで思い切り殴れたのに、体が無意識にセーブをかけて勢いを殺してしまう。昔の決意が未だ変わっていないのを嫌な気分で感じていた

 

 

大淀「提督。大丈夫ですか?」

 

「平気だ。それよりアイツに不合格通知でも送っといてくれ」

 

大淀「…提督。次からはもう少し考えて行動してくださいね」

 

「…後一回あるって言ったら怒る?」

 

大淀「……」

 

 

4・5人目:巫女のコスプレをした少女・白黒服の金髪少女

 

 

何か見た事ある人達来たぁーーー!?

 

イヤイヤイヤイヤ、1人目の時もそうだったけど何でこんなに艦これと関係無い人達が来るの?おかしくない?

 

確かにクロスオーバータグは付けてるよ?でもここまでガッツリ関わる気はサラサラ無いんだって!

 

そういえばR-15タグも付けてたんだった…作成当初に貞操概念逆転するんだからちょっと位エロに走っても良いよねって気持ちで付けてたの忘れてたなぁ……

 

はぁ…コレだからダメなんだよなぁ。やりたい事があるとすぐさまアッチコッチ行っちゃって話がおかしくなったりするんだもん。この小説も当初とは大分違う方向に行っちゃったしな

 

…そういえば、短編としてドラ◯エとストーリー向けの東◯も作ってはいるけど最近コッチにかかりっきりだよなぁ。ドラ◯エはまだ出してないから良いとしても、東◯はそろそろ出さないとマズいよなぁ

 

………じゃねぇっ!他所(他作品)の事は置いといて今はコッチだ!

 

いや待て。冷静に考えるんだ。そもそもコレは鎮守府の警備を雇う為にやってる面接で、そんなガッツリ出会う事なんてそうそう無いハズだ。今までもそうだった訳だし

 

あるにしたって裏話。話の過程で何かあった時や物語に補完をかける時にちょいと出す程度のちょい役だ

 

良し。そう考えれば大分気持ちが楽になってきた。何時も通りだ。何時も通りテンションが持たずに崩れてく感じで良いんだ(人気出ない理由コレだけど)

 

 

大淀「…提督。そろそろ外でお待ちのお二人を呼んでもよろしいでしょうか?」

 

「あっ、うん。けど何で2人一緒にするの?」

 

大淀「先程から提督がブツブツと何か言っていたので、おそらくお待ちのお二人の事かと…」

 

「大淀、きっと疲れてるんだ。僕がそんな頭の可笑しいバカ丸出しな事なんてするわけ無いじゃないか」

 

大淀「…そうですね。ただ一つ訂正させて頂くと、提督はバカ丸出しなのではなく、バカそのものなんですよ」ニコッ

 

「おう。話ならきくぞ」

 

大淀「それは兎も角、お二人共身分を証明出来る物が無かったんです。見たところ似たような御姿をされてますし、二人ともお知り合いなのではと」

 

「ほぅ?」

 

大淀「お二人の身の上は怪しいです。ですが害意を持っている様にも思えません。ならばいっそ二人まとめてした方が時間の短縮にもなると思いまして」

 

「それもそうだな。それでいくか」

 

大淀「それにこれ以上長くなるとこの話だけで一万文字超えますし…

 

「何か言ったか?」

 

大淀「何も言ってませんよ。気の所為じゃないですか?」

 

 

部屋の中へと二人を通し、椅子へと座らせる

 

巫女服の少女は少し気だるげそうな表情で。金髪少女に関してはかなり緊張した面持ちであった

 

金髪少女に関しては不安によるものと思われるが、巫女服の少女に関しては汚れた服が気になっている様子だった

 

どちらの少女も互いに不安を感じている。ただその表れが諦めか焦りの違いであるのは理解出来た

 

 

「楽にしてください。コレで人生が左右される訳ではありませんから」

 

白黒服の金髪少女(以下、金髪)「はっ、はいっ!」

 

巫女のコスプレをした少女(以下、巫女)「慌てすぎよ」

 

「では、自己紹介の方をお願いします」

 

 

ガッツリクロスオーバーする気は無いので省略

 

↑雑すぎない?

 

 

「では、次はお二人の住所をお聞きしたいのですが…」

 

巫女「それがないのよね〜」

 

大淀「えっ?」

 

金髪「実は追い出さ…あぁいや、しばらくの間帰れなくなったんだよ」

 

金髪「おかげでここに来たばかりの時は1日だけとは言え野宿して…大変だったぜ」服が汚れてるのは許してくれ

 

大淀「えっと…それは深海棲艦に住居を壊された。という事でしょうか?」

 

巫女「いいえ、アレとはまた別よ。あのレベルなら何とか出来るわ」

 

大淀「!?」

 

「なるほど。つまり何らかの事情で家…というより住んでいる場所に帰れなくなったと。そういう事でよろしいでしょうか?」

 

巫女「えぇ。だから今回の面接には絶対に合格するつもりよ」

 

金髪「…そういう事言うんだったら、もうちょっと礼儀正しくしてた方が印象良いだろ」

 

「いやいや。お二人より年上でしょうが、それでも自分はまだまだ子供ですから。もっと楽にしていただいて構いませんよ」

 

巫女「らしいわよ?」

 

金髪「はぁ、調子狂っちまうぜ…」

 

大淀「すいません、少し話したい事があるので少々離席してもよろしいですか?」

 

巫女「えぇ。ごゆっくりどうぞ」

 

大淀「すいません。ありがとうございます」

 

 

大淀がそう言って自分の方をチラッと見る。その目はまるで助けを求めているかの様であった

 

大淀よりも先に立ち上がり、2人に謝罪を入れつつ自分も離席して廊下へと出る扉を開ける

 

大淀を連れて部屋から離れた所へと少し歩き、ある程度進んだ所で壁へと寄りかかる

 

大淀の方へと振り向いたが、その顔は何処か不安を覚えている顔だった

 

 

「それで、どうした?」

 

大淀「単刀直入に聞きますが、あのお二人を合格させるつもりですか?」

 

「そうだけど?」

 

大淀「同情心で人を集めるおつもりですか?そんな事をしてしまえば知らずのうちに敵だって引き込むかも知れないんですよ?」

 

「じゃあお前にはあの2人がどう見えたんだ?」

 

大淀「嘘としか思えません。格好からして怪しい人達だとは思いますが、深海棲艦相手にたいした事はないと言える理由が分かりません。どう考えても嘘以外に考えられますか?」

 

「それはあっちが話した言葉での嘘だろ?だけど見た目はどうだった?」

 

大淀「見た目って…それくらいなら誰でも同情を誘う位には汚せますよ」

 

「そうだな。だけどそれだったらあの態度はおかしいと思わないか?」

 

「巫女服の女の子なんか特にそうだ。アレは同情を誘ってる様には思えないぞ」

 

大淀「うっ…」

 

大淀「いえっ、それでも可能性は捨てきれません。もしかしたら二人で打ち合わせを」

 

「アホか。二人で一緒にって言い出したのはお前だぞ。仮に一人一人受けたとしても彼女達の何を知ろうっていうんだ」

 

大淀「それ、は…」

 

「それにな、見ろよコレ」

 

 

そう言って大淀にスマホの画面を見せる。そこに映っていたのは自分達の帰りを待つ二人の姿だった

 

巫女服の少女は時間の流れを感じさせない様なピシっとした姿勢で。金髪の少女についてはオドオドと不安を感じている様であったが、隣の少女を見習って自分もピンと気を張っている様だった

 

 

「さっきの男と比べてみろ。途端に席を外したのにも関わらずしっかりと待ってくれてるんだぜ?多少怪しい所はあるかも知れんが、それでも悪い奴じゃない。大淀だって、初めはそう言ってたじゃないか」

 

大淀「それは…そう、ですけど…」

 

「それに、お前はもうちょっと危機察知能力を上げた方が良いな」

 

大淀「えっ?」

 

 

先程から巫女の少女が視線だけを動かしてこちらを見つめている。画面越しのハズなのに見ているのがバレているみたいに感じた

 

直感と言うべきか。まるでコチラの動きを全て察知されているかの様な行動に、先程から背中を流れる汗が止まらない

 

 

「そろそろ戻るぞ。話し合いはもう充分だろう」

 

大淀「…はい。分かりました」

 

 

半分の納得と半分の不信感。今はそれだけで充分だ

 

部屋へと戻り、謝罪を織り交ぜて再び面接を開始する

 

そこからは定例として聞く内容ばかりであったが、口は悪い少女と弁解をする少女の二人は決して人間性を損なわせる様な答えではなく、それだけでも大きな収穫であった為にホッと胸を撫で下ろす

 

およそ30分程の簡潔な面接であったが、無事に面接は終わりを迎えようとしていた

 

 

「では、最後になりますが何か質問したい事等はございますか?」

 

金髪「質問…」

 

巫女「…ねぇ。それなら質問って訳じゃ無いんだけど、お願いをしてもいいかしら?」

 

「…へぇ?」

 

 

そう言って椅子から降り、床は地面であるにも関わらずに正座をする少女。真っ直ぐに伸びた背筋と落ち着いた雰囲気に思わず目を奪われる

 

手を重ねて前へと押し出す様に床に手を付かせ、床へと頭をギリギリまで下げる。所謂土下座であった

 

 

大淀「ちょっ、ちょっと何を…!」

 

「待て」

 

大淀「しかし…!」

 

「申し訳ありません。続けてください」

 

巫女「…失礼を承知でお願いします。どうかここに皆を置かせてくれませんでしょうか?」

 

巫女「私達以外にもここに来た者は何人もいます。それこそ何百、何千という多くの人がです」

 

巫女「お話しを重ね、かなりの権力者であるとお見受けられます。私のような年端のいかぬ者にでさえ態度を変えず、お話しいただける貴方なら信頼も出来ます」

 

巫女「今一度お願いします。私達以外の同郷が来た時、どうかここで受け入れては貰えないでしょうか?」

 

巫女「問題のある者でしたら貴方の判断で捨てていただいて構いません。ですがそれ以外の害をなそうとしない者。善ある者達だけでも構いませんので、どうかここにおかせてはくれないでしょうか?」

 

 

頭を下げ、服が床で汚れても決して気にもとめない強い祈りにも似た願い。高いプライドを持つであろう彼女がここまで強く頭を下げるのには胸を打たれるモノがあった

 

まるで何かの責務を果たすかのように。およそ18にも満たぬであろう一人の小さな少女の願いに手を取った

 

 

「頭を上げてください。お話しは良く分かりました」

 

巫女「では…」

 

「大淀、元帥に電話してくるからちょっと席を外すぞ。その間二人にここの案内と仕事の説明を頼む」

 

大淀「はい。分かりました」

 

金髪「あ、ありがとうございます!」

 

「巫女さん。貴女が下げた頭、私が責任持って受けましょう」

 

「ですから今後はその様に頭を下げないでください。それをするには貴女はちょっと若すぎる」

 

巫女「…はい。分かりました」

 

 

元帥に電話を繋ぎ、詳しい話をする為に後日大本営に向かう事になった。その時に彼女も連れてとの事だった

 

自分の下げる頭に価値など無いだろうが、彼女の下げた頭には充分過ぎるほどの価値があった。そんな彼女が来てくれるのなら心強い

 

一先ず2人の面談は終わりを迎え、いよいよ最後の一人となった

 

 

6人目:青年

 

 

「大淀、最後の一人に関してだが、俺一人でする。合否の結果も俺だけが決めるから、お前は休んどいてくれ」

 

大淀「…無条件に合格させるつもりではありませんよね?」

 

「逆だ。とびきり厳しくいく」

 

大淀「失礼ですが、その理由は何でしょう?」

 

「…アイツは希望なんだよ」

 

大淀「はい?」

 

「いずれはアイツがこの戦争に終止符を打つ。それだけは確信を持って言えるが、まだ人間性だけは分かってないからな」

 

大淀「あ、あの…おっしゃってる意味が…いやっ、意味は分かるんですが、それでも…」

 

「いずれ分かる。とりあえず彼を呼んでくれ。終わればそのまま休んでくれて良いから」

 

大淀「…分かりました」

 

 

大淀が退出し、数秒の間を経て部屋の扉がノックされる

 

中へと通し、互いに座る事なく立ち合って向かい合う構図で互いに静止している

 

言葉を交わす事なく、まず自分の持ち物を互いに取り出し、同時に投げあって2人の中間の場所でぶつかり合う。しかし想像に反して何も起こらず、一先ず胸を撫で下ろした

 

 

「…会いたかった」

 

青年「気持ち悪い事言うな」

 

「いや、お前はどれだけ俺が待ち望んでいたか分からん」

 

 

今回の面接相手はこの世界に存在する自分。本来この世界で生きてきた自分が相手だ

 

先ほどのことも相まって同じ自分なら分かっていると思っていた。しかしそれは見当違いだった様だ

 

 

青年「なんだ、責任を押し付けたかったのか」

 

「それもある。正直俺には彼奴(艦娘)等の命を背負える程に強くないし、上手くもいかない」

 

青年「だから俺に?」

 

「そうだ。お前は俺の上位互換だからな」

 

青年「…」

 

「俺のやりたかった事を全てお前は実現していた。俺が後一歩届かぬというものでさえも、お前は見事にモノにしていた」

 

「だから変われ。俺に取って代わってくれ。お前しかいないんだ」

 

青年「…同じ自分だからって、幾ら何でも甘えすぎだろ」

 

「意見の食い違いか。じゃ、やる事は一つだな」

 

 

拳を鳴らし、近くにあった窓を大きく開ける

 

外へ出るように手でジェスチャーし、先に窓へと足をかけて外へと飛び出す

 

地面へ転がって着地して起き上がりと同時に窓の方を見ると、体を既に半分以上出して今にも飛び出しそうな姿勢でいる男の姿がそこにあった

 

男も外へと飛び出し、勢いを殺すことなく両足でそのまま着地したが、音がほとんど聞こえなかった

 

 

「…想像以上だ」ニヤッ

 

青年「…お前は良いよな。ワクワク出来て。俺なんか勝ちすぎて楽しくなくなっちゃったよ」

 

「大丈夫だ。俺には負ける」

 

 

棒立ちであった青年が一歩前へと歩み出し、手で拳を握ってコチラへと接近してくる

 

それに対してコチラも拳を握り、同じ位置で拳をぶつけ合ったが、意外にも反発する力は僅かながらにコチラが上であった

 

 

「…なるほど」

 

青年「なぁ、パンチマシーンを叩いた時の記録ってどれくらいだ?」

 

「最高143kg」

 

青年「…138kg」

「…お前、ホントは自分より雑魚の敵としか喧嘩してなかったんじゃねえの?」

 

青年「…かもな。負けたこと無いから分かんないけど」

 

 

再び拳がぶつかりあい、蹴りから肘と全てが鏡のように同じ動きで幾度とぶつかりあった

 

ダメージらしいダメージは互いに無い。ただ純粋な力比べをして二人が同じ様に息が上がる頃、バクバクとなる肺と心臓を落ち着かせるべく、軽く呼吸を吐いた

 

 

青年「しっ。もう良いだろ。そろそろ本気で喧嘩するぞ」

 

「良し」

 

 

思わず笑みがこぼれるが、対して相手は全くの笑みすらあげない。それどころか呼吸に乱れを感じさせなかった

 

心理的アドバンテージだけでなく、素の体力もあちらが上手。コチラの浮かべる笑みがただの虚勢であるのを完全に知っていた

 

早々に決着を付けようと大振りの拳で地面を足音で鳴らしながら接近する

 

対して相手は一歩引いてサッカーボールキックで腹に足を入れる。モロに腹部へと入った蹴りに思わず後退りをしたが、2歩下がった後に体を前へと屈め、体勢も整わずに無理矢理前へと体を動かした

 

呆気にとられて固まった顔へと無茶苦茶な動きで拳を入れたが、一歩後ずさるだけで大したダメージは見受けられなかった

 

 

「グッ、オエッ…!」

 

青年「…泥水を啜ってきたな。何度かお前みたいのは見た事あるぞ」

 

青年「そういう奴ほど俺に負けてきた。お前も所詮その中の一人なんだよ」

 

「…随分おしゃべりだな。俺みたいな奴に傷を付けられたのがそんなにムカついたか?」

 

「俺の性格なら知ってるぞ。上手く行きそうだった所を邪魔されるのが自分を傷付けたくなるほどに許せんよなぁ?」

 

「蹴りが腹に決まった時、お前は俺が倒れると思ったな?だがそうは問屋が下ろそんぞ」

 

青年「…ぷっ。日本語が可笑しいし、当ても外れてる。やっぱり馬鹿だな」

 

「……」

 

青年「……」

 

 

喉に向かって拳を放つ。対して相手は顔に向かって真っ直ぐに拳を放った

 

自分の拳は喉へ。相手の拳は顔面へ。互いに先程とは比較にならないダメージを喰らった

 

鼻が折れたのか鼻血が止まらず、涙と出血が目からタレ出ている。ボヤけた視界で相手を見ると、あちらは呼吸が出来ていないらしく、後少しすれば呼吸困難で倒れるだろう

 

だが驚いた事に、何処で様子を見ていたのか分からない妖精さんが何処からかやって来て静止をかけてきた

 

しかもその数は1や2ではない。おそらくこの鎮守府全ての妖精が集まって来ていた

 

青年の前に庇うようにして出て来た妖精を後ろの青年が虫を払うかの様に跳ね除け、怒りに満ち満ちた顔で声になっていない声を出していた

 

 

青年『失・せ・ろ

 

 

呼吸が出来ていないにも関わらず顔は闘志を失っていなかった。それに呼応するかの様に自分も一歩踏み出した

 

全ての力を手だけに集中し、あまり目も効かない状態で互いに拳を突き出せば相手の心臓を狙える場所まで近付いた

 

そう。互いに狙うのは心臓。相手の命をとること以外に頭の中は純粋な殺意だけを残していた

 

本気で拳を心臓へと突き出し、腕で相手の体を貫くつもりで放った拳は、一人の手によって阻害された

 

 

電「それ以上は見過ごせません」

 

「邪魔だ!」

青年『どけ!』

 

 

邪魔をした者へと互いに反対の手で殴りかかったが、止められた腕を握って邪魔者の方へと引っ張られてしまい、拳に乗せた勢いが更に加速する形で電の顔へと向かっていった

 

その瞬間にマズイと理解し、互いに拳の向かう先は自分の腕へと無理矢理軌道を変え、拳で殴ったとは思えないなんともひ弱なパチンという音で決着が着いた

 

その後の結果は言うまでもなく、青年は妖精の治療を受けながら、自分は何も出来ずに正座したままで電さんからのお説教を受けた

 

面接は結果として合格としたが、今度似た事があったら元帥所属の武蔵によるヘルメット無しの高い他界をすると電さんから言われた

 

ちなみに一人の駆逐艦が武蔵に高い高いを提案したのが始まりで、せがんだ駆逐艦は約12秒程度の空への旅を行い、上昇する際に発生した空気抵抗に首が耐えきれず、潰れた様に折れてしまった首が理由でしばらく入渠したとの事だ

 

その説明を聞かされた後、勿論頷いた。それこそ完全に鏡に映り合う自分を観るかのごとく、完全に一致した動きで二人して首を縦に振っていた

 

 

 

_____________

 

 

 

私はわたし。ワタシだよ(#???)

 

 

◯月✕日

鎮守府にやってきて数ヶ月が経った。周りがそれぞれの趣味を見つけているらしく、私も何かをしようと思って日記を付けることにした。三日坊主にならない様に頑張ろうと思う。

 

 

◯月△日

今日は演習でMVPを取れた。周りの駆逐艦達から凄いと褒められ、少しだけ鼻が高くなった。これからも皆の目標となるべく努力を積み重ねていこう。

 

 

◯月□日

今日は出撃だった。ル級やヲ級といった敵艦に苦戦したが、何とか勝ちを得た。しかし肝心の私は最後の最後で大破してしまい、提督から叱りを受けた。次はもっと回避訓練を積まなければ。

 

 

◯月☆日

今日は一日中風呂にいた。高速修復材が勿体無いとの事らしい。だからって半日以上もいるのは退屈だったが、次は同じミスをしない様に脳内シミュレーションを何度も繰り返していた事で暇は潰せた。だが退屈だったのは間違いない。

 

 

◯月✕✕日

三日坊主にならないと言ったのに大分日が空いてしまった。訓練の前に続ける努力をするのが必要な気がする。

それはそうと、本日は提督から強くなりたいかと聞かれた。当然私はそれに即答し、準備が必要だから明日まで待機を命じられた。今からが楽しみだ。

 

 

◯月✕△日

提督から近代化改修というのを受けた。詳しい詳細は分からなかったが、何でも強くなるにはこれが良いらしい。実際に演習で試してみたが、微量ながらに火力が上がっている気がした。これなら他の艦娘にも受けさせれば良いと思ったが、この準備にかなりの資材を要するらしい。どうやら私は期待されているみたいだ。

 

 

◯月✕☆日

朝起きたら一日経っていた。まさか丸一日寝てしまったのかと考えたが、提督や他の艦娘には何も言われなかった。話も聞いたが、どうやら演習や出撃をしっかりとこなしているらしく、私が一日分の記憶が抜けてしまったのだと考える。

そんなバカな話があるのだろうか。一日の記憶が無いなどミステリーやホラー小説でしか聞いたことが無い。それに心なしか駆逐艦達との距離が遠い気がする。一体どうしたのだろうか?

 

 

◯月✕◎日

どうやら一日の記憶が飛んだのは昨日だけだったみたいだ。恐らく私が朝食べた朝食を忘れた様に、その日一日の出来事も忘れてしまったのだろう。駆逐艦も何故か怖がっているし、怖がっていた駆逐艦達にお詫びとして間宮を奢った。財布が軽くなってしまったが、この笑顔を見れたのならば安いものだ。

 

 

◯月✕▲日

今日も提督から近代化改修をしないかとの意見を受けた。当然私はそれに賛同して受けたのだが、どうにも提督の顔色が良くない。何でも今回の件で資材をそこそこ溶かしてしまったのだとか。だがそれでもまだ運がとても良い方だったと言っていたので、喜んで良いのか共に悲しんだら良いのか複雑な感情になってしまった。

とりあえず近代化改修は受けた。以前と比べて比にならない程に強くなった気がしたが、何だか意識がグラッとする。何かの影響かと思い提督に相談したが、そうかと言うだけで普段通り過ごすようにと言われてしまった。

きっと提督も忙しいのだろう。流石に私の不安でこれ以上提督を疲労させるわけにいかないので、これ以上言うことは無く、私も部屋に戻る事にした。

 

 

◯月△◯日

…私は一体何日寝ていた?日記を見ると前回から四日経っているみたいだ。

私は本当にどうしてしまったんだ。大急ぎで提督の元へ向かって私の身にあった事を報告したのだが、提督はあり得ないと言っていた。

話を聞くと、私はこの四日間しっかりと起きて活動していたらしい。そういえば若干筋肉痛になっている気がするし、以前は無かった傷が出来ていた。更に詳しく聞くと、軽い傷との事で私が入渠を断ったらしい。これくらいの傷ならなんて事無いと言うのは私らしいが、どうにもその記憶が無いのが怖かった。

その日の夕方、提督が緊急で私に近代化改修をしないかと言ってきた。正直私は強くなるのはとても嬉しかったが、近代化改修を受けた次の日から記憶が飛んでいるのが怖くて正直受けたくはなかった。だが提督からあそこまで頭を下げられては仕方が無いので私は受ける事にした。一体どうしてあそこまで頼み込むのか分からないが、何か隠し事があるのだと思い、私にも関わっている事だとは直感して分かったので、次に目が覚めた時は絶対に聞いてやる事にした。

日記も次に目が覚めた時の為に懐にでも入れておこう。これなら次に目が覚めた時に探す必要が無くなるはずだ。

 

 

✕月☆日

私は牢屋にいた。しかも手足を縛られた状態で目を覚まし、たまたま私が目を覚ましたタイミングと居合わせて人がやってきたので、その人に拘束を解いてもらうように願った。すると奇妙な事を言われ、お前はあそこの長門かと聞かれた。

何を言っているんだこの人は。まさか人違いでここに入れられたのかと思って自分の所属している鎮守府を答えると、耳を疑う言葉が聞こえてきた。

私のいた鎮守府で内乱が発生。そして運営が困難になって解体されたという。しかも原因は私が鎮守府で大きく暴れた事が原因だそうだ。

それを聞いて私の時が飛んだ気がする。気づけば私は机に向かってこの日記帳にその日あった事を記していた。しかもご丁寧に何十名という人間に実験動物を眺めるかのように観察されながら。

これはただの悪い夢だ。そうに決まっている。私の傍にあるベッドはいささか固いが眠るには十分な広さだし、何より夢ならすぐに目覚めそうではないか。これが書き終わり次第寝てしまおう。それが私に出来る一番の解決策ではないか。

 

 

✕月◎日

夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。夢じゃない。

 

 

✕月▲日

 

 

✕月■日

 

 

✕月★日

 

 

✕月〇●日

 

 

✕月○○日

 

 

✕月〇✕日

 

 

✕月〇△日

私に近代化改修の話がやってきた。何故私が近代化改修を受けなければならないんだ。私は自分の鎮守府を破壊した危険な艦娘なのはこいつ等も分かっているだろうに。

だが相手からしたら関係が無いようで、無理矢理近代化改修を行う為の場所に連れてこられた。すると目の前に私が、いや、正確に言えば同型艦と言うべきか。同じ長門である人物がそこに立っていたが、どう見てもソイツは異常だった。

まず全身を拘束具でグルグル巻きにされている。昔見た漫画の死刑囚が確かあんな恰好をしていたが、私の前にいるあの長門はそこまで危険という事なのだろうか。

そしてそれからしばらくしてあの不気味な長門の処刑を行うと聞こえ、処刑の内容はあの長門を近代化改修の素材にすると目の前の人間が確かに言ったのだ。

それを聞いて思わず私は質問をした。近代化改修は艦娘を使って行うのかと。それを聞いた人間は驚いた様子で知らないのかと聞いて来た。

当たり前だ。寧ろ知っていたのなら私は近代化改修なんて絶対に受けなかっただろう。

素材…つまりは使うものという意味で考えるのなら、私が今まで強化されていたのは近代化改修に使われていた艦娘の力だったのではないか?そうなると近代化改修に使われていた艦娘達はどうなったのか。考えたくもないが…処刑という事は、つまりはそういう事なのだろう。

だが今この場で一番不気味だったと感じたのはそれを平然と行える人間達ではなく、拘束具の隙間から見える口がニタニタと笑みを浮かべて隠れた目でずっとこちらを見ていたのだ。

何を考えて居るのか分からない。ただイカレているだけなのか。それとも何か企んでいるのか。それが分からないまま近代化改修が強制的に行われた。

再び私が目覚めるとあの長門はいなかった。それと同時に再び私が強くなった感覚がする。だがまたきっと日付が何日か飛ぶのだろう。もうここまで来ては私が私でない気がしてならない。私は最後の時まで私でいられるのだろうか。

 

 

✕月〇★日

わたしはぃきた

 

 

✕月✕〇日

目が覚めると書いた記憶の無い日が存在した。

文字は酷く歪んでおり、いが汚く書かれている。これは下手すぎる。私だってここまで汚く書けないぞ。

しかもこれは…私の筆跡じゃないな。誰かの悪戯か?人の日記に悪戯とは悪趣味だな。

…大方別の私が書いたのだろう。どうやら日記の存在を知られてしまったらしい。

唯一私が私であるために必要であったが、この日記の存在がバレた以上、自分を定義付ける物が無くなってしまった

筆跡を真似でもされたら自分という確信は確実に薄れてしまう。もはやどうにも出来ないのだろうか。

どうか頼む。私を私でいさせてくれ。勝手なお願いだと分かってはいるが、どうか頼む

 

✕月✕✕日

今日で日記をやめることにした。

理由は単純で、日記に頼って自分を認識していてはいずれ入れ替わったもう一人の私が日記を真似し、あたかも自分の様であると振る舞いかねないからだ。

これを見ている誰かへ、もし私が道を誤る事があるのなら、どうか止めてくれ。それはおそらく私では無いハズだ。

そして私へ。もしお前が私に成り代わろうというのなら、この日記を捨てない事だ。コレは脅しではない。ただの助言だ。

そして日記の記録も消さないのをオススメする。理由としては単純で、既にこの日記は調べ尽くされているからだ。

もし万が一今までの記録を消されていると分かればどうだろうか?その瞬間お前は私でない事が発覚し、解体されてしまう事になるだろうな。

今書いているこの日記でさえ、囚人監視の元で書いている。つまりお前にとっての詰みの一手と成りかねない物だ。

だからこそ私は今後コレに何かを書く気はない。例え別の物に日記を綴られていたとしても、それは決して私じゃない。私はもう何かを頼って自分を表すのは辞めたんだ。

さて、最後に一つ。コレだけは言わせてほしい。

私は人間が憎い。こんな私に作り替えた人間が嫌いでたまらない。

もし私を人間嫌いから治すとするのなら、それはきっと私と同じく自分を信じられない者だけだろう。

何故なら自分を信じず、自分であると証明する為に何かしらの行動を起こしつつも、その行動は自分を更なる分岐点へと立たせる事になる。まるで木の枝の様に多岐に分かれた分岐からまた新たな分岐を見つける様にだ。

その木の枝は更なる木の枝を産み、無限に伸びる枝となった後、ようやく私の伸びた木の枝と触れ合うだろう。そこまで伸ばせた人のみが私の悩みに共感と理解を示してくれる筈だ。

答えを探せず、ただがむしゃらに歩み続けた者だけがこの意味を理解すると願っている。それは私と同じく自分の解を信じられず、解であったとしても更なる疑いをかけて意味の無い答えへと伸ばしていった愚かな自身への罰であり答えだからだ。

だからこそ迷うな。一度決めた道を外れる事なく、ただ前へと進め。そして答えを見つけ出すんだ。例えそれが、認められない、認めたくない醜いものであったとしてもだ。

私は待っている。お前の問いが私の問題へと立ち会うその時まで。

その時にはたった一度だけで良い。私と向き合って欲しい。そして私を忘れないでくれ。

ビッグセブンを名乗るこの長門がいた事。深海棲艦という脅威へ立ち向かい、そして人間を恨みつつも、決して見捨てる選択を選べなかった私を。どうか覚えていてくれ。

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