この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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この小説は提督が島に向かった時のお話、その前編となっております
流石に前後半混ぜても良かったんですけど…三万文字突破しそうで、読むのが飽きそうなので分けました。というか僕が飽きたので分けました。若干手抜きっぽい感じの小説になったが異論は聞く

いやー、アニメ二期楽しみですね!(pixiv掲載当時)
ウチは録画出来ないんで撮り溜め出来ないし、その時間まで起きてるのは仕事が忙しいので実質不可能ですし、ビデオとかで見れれば良かったんですけど…世の中、そう上手くはいかないみたいですね(金欠)


強襲作戦 小者の働き 前編

「龍田と天龍に作戦は伝えたし…あとやる事と言えば何があったかな…?」

 

潮「提督、荷物の整理が終わりました」

 

「ん、分かった…と、そうだ。潮だけに伝える作戦があったんだった」

 

潮「わ、私だけに作戦ですか!?」

 

「あ~、前任みたいのじゃないからそんなにビクビクするな。もっと簡単な事だよ」

 

潮「も、もっと簡単って何!?一体何させる気よ!?」

 

「…こちらが強襲する機を狙って、相手がこちらに攻めてこないとも限らないからな。だからその時の作戦を伝えておきたいんだが」

 

潮「え、あっ…」

 

「まぁ…うん。お前にそういう気持ちは抱かないから安心しろ」

 

潮「す、すいません!私、とんだ勘違いを…」

 

「気にするな。とりあえず作戦を伝えておきたいんだが…ちゃんと覚えてくれよ?」

 

潮「は、はい!」

 

「良い返事だ。で、内容なんだが…」

 

「俺がお前等の島にいると伝えてくれ。間髪入れずに、脅されると思えば即言え」

 

潮「え!?提督があそこに向かうんですか!?」

 

「あぁ。これは俺がいないと成り立たないからな。逆に俺の居場所を言わないとお前の命が危ういだろうし」

 

潮「それなら行かずに偽の情報を流せばいいのに…」

 

「こういうのは俺がそこにいて初めて作戦として成り立つんだ。逆に俺がいたら多分顔に出るだろ?」

 

潮「う…」

 

「まぁそういうわけだ。この作戦は簡単そうに見えて結構重要だ。決してミスは許されない。分かったな?」

 

潮「…分かりました」

 

「うし。んじゃ頼んだぞ」

 

潮「あの、提督」

 

「ん?どうした?」

 

潮「…帰ってきますよね?」

 

「そのつもりだよ」

 

潮「…そうですか」

 

「ま、上手くいかなくてもその時はその時だ。ただ流れを作るだけなんだから大丈夫だよ」

 

潮「は、はぁ…」

 

「あ、そうだ。脅されたら全員に通信を開始。これが次の作戦の開始だと言ってくれ」

 

潮「分かりました。それでその作戦というのは?」

 

「その後の行動は全て現場にいる艦娘に従えって内容で頼む」

 

潮「…丸投げですか?」

 

「逆にこういう指示を出さないとマズイ状況だと思え。本当にヤバい時に俺の作戦を実行するのは正直愚策としか思えん」

 

潮「…それでしたらさっき皆さんに伝えた方が良いと思うんですけど」

 

「今思いついたからな」

 

潮「…はぁ。それじゃあ私の方から共有しておきます」

 

「いや、これに関してはお前の中にだけ留めておいてくれ」

 

潮「どうしてですか?」

 

「仮にこの作戦を共有した場合、各々で危険な状況を勝手に判断して危うくなりそうだからな。だからお前にだけ伝えるんだ」

 

「早すぎても駄目。遅すぎても駄目なんだよ。何かのきっかけがあって、初めて俺の作戦は作戦として成り立つんだ」

 

潮「…いくら何でも観測が過ぎるのでは?もしもの作戦ばかりであまりに中身が無さ過ぎます」

 

「大丈夫だ。多分その通りになるから」

 

潮「…根拠はあるのでしょうか?」

 

「経験則とこれからそう仕向ける」

 

潮「…」

 

「留守番は任せたぞ。あの二人をよろしく頼む」

 

潮「ち、ちょっと!?提督!?まだ話は…!」

 

 

 

*ーーーーーーーーーーーー*

 

 

 

「これで潮は良い。ただ、これだけじゃ足りないかな…?」

 

愛宕「あ、提督」

 

「愛宕か。どうした?」

 

愛宕「その、さっき妖精と話してたじゃない?その時にボートがどうとか聞こえたんだけど…」

 

「あぁ、俺もこれからあそこの島に向かうんだ。その為のボートを用意してもらったんだよ」

 

愛宕「て、提督も行くんですか!?」

 

「こ、声がデカい!他の奴に聞こえたらどうする!?」

 

愛宕「あ、ご、ごめんなさい…」

 

「…まぁ別に心配するような事はないよ。必要な事だからやるだけだ」

 

愛宕「ホントに必要なんですか…?」

 

「必要だよ。少なくとも被害を抑える為にな」

 

愛宕「…仮に提督が向かうとして、どんなメリットがあるんですか?」

 

「メリットねぇ…そんなの聞いてどうするの?」

 

愛宕「少なくとも作戦を指揮する上では必要な事です。提督が直接出向くだけで得られるメリットがあるということですよね?」

 

「…それは皆の働き次第だな。俺はあくまできっかけに過ぎないし」

 

愛宕「は、はぁ…?」

 

「ま、今は作戦に向けて準備してくれたらいいさ。作戦になったら自ずとやるべきことが分かってくるはずだ」

 

愛宕「…分かりました」

 

「あ、そうだ。1100になったら防波堤まで来てくれ。その時に人を一人位縛れそうな紐と、口を覆える位の布になりそうなものを持ってきてほしい」

 

愛宕「…そういうプレイですか?」

 

「違う。断じて違う」

 

愛宕「…」

 

「そんな目で見るな。絶対にお前の想像しているのとは違う」

 

愛宕「ホントですか…?」

 

「兎に角頼んだぞ。ホントに必要なんだから」

 

愛宕「…分かりました」

 

「…ホントに違うからな?」

 

 

 

「天龍、今いいか?」

 

天龍「ん?なんだ?というかまだ出てなかったのか」

 

「まだ少しやることがあってな。多分お前で終わりだ」

 

天龍「ふ~ん。で、何の用だ?」

 

「これ、お前に渡しておこうと思ってな」っ手錠

 

天龍「…これって」

 

「お前の考えてる物で間違いない」

 

天龍「…何に使う気だ?なんでこれを俺に渡す?」

 

「それの本来の使い道は川内みたいな凶悪な艦娘の暴走を封じる為に作られてるんだ。お前らは提督に虐待の名目で使われていたようだが…」

 

天龍「…隙があれば川内につけろってか?」

 

「そうそう。スイッチもあるからこれを押せば電気が流れる仕掛けだ」

 

天龍「…」

 

「鍵はこれだ。お前に渡しておく」

 

天龍「…お前は」

 

「ん?」

 

天龍「俺が今すぐこれをお前に付けるとは考えないのか?」

 

「…それは思いつかなかったな」

 

天龍「…」

 

「うん、いいアイデアだ。それなら敵の油断を誘えるかもしれない」

 

天龍「…はぁ~」

 

「どうした?急にため息なんかついて」

 

天龍「呆れてんだよ」

 

「なんでだよ?」

 

天龍「お前のそういうとこだよ」

 

「…訳わからん」

 

天龍「…で?用はそれだけか?」

 

「あぁ。川内が油断してるときにでも付けてやれ」

 

天龍「分かったよ」

 

「んじゃ、そろそろホントに行ってくるわ。皆の事頼んだぞ。」

 

天龍「おう。行ってこい」

 

 

 

*ーーーーーーーーーーーー*

 

 

 

「天龍にはああ言ったけど時間はまだ少しある…1100より前までには防波堤についておくとして…折角だし飯でも作ってから向かおうかな?」

 

雷「その必要はないわよ」

 

「うぉ!?いつからいたんだ!?」

 

雷「天龍さんと別れた辺りからいたわ。そんなことより、ご飯くらい気にしなくても良いわよ」

 

「そういうわけにはいかん。何か食わないと活力が湧かないだろ?ギリギリの状況で腹が減って、力が出なくて負けました。なんて事は「そうじゃないわ」」

 

雷「それくらい出来るようになったの。だからご飯の心配位しなくても大丈夫よ」

 

「…え?」

 

雷「…私達だって少しは学ぶわよ」

 

「…おぉ、マジか。ホントにホントなのか?」

 

雷「失礼ね。ちゃんと出来るようになったわよ。お米を炊いたら、袋をお湯を入れて待つだけなんだし」

 

「…ん?」

 

雷「あんなので料理が出来ちゃうんだもの。私達だってやればできるのよ?」

 

「…」

 

雷「どうしたのよ?そんな顔しちゃって」

 

「…いや、うん、そうだよな。ちゃんと料理出来てて偉いな」

 

雷「…ふふん。もっと頼っていいのよ?」

 

「あぁ。なら今度一緒に料理やってみようか。普段作る料理よりかは難しいけど、完成したら今まで作ってた料理以上に美味いもんが食えるぞ?」

 

雷「…ホントに?」

 

「あぁ。俺がいなくてもいつでも美味いもん食いたいだろ?覚える事が出来ればいつでも自分で出来るようになるんだぞ?」

 

雷「自分で…」

 

「もし自分で作れることが出来れば皆に料理を振舞えるし、誰かにお腹が空いたって頼られた時は助けてあげる事だって出来るぞ?」

 

雷「…司令官、私頑張るわ。頑張って料理を覚えて、皆に美味しいって言ってほしいもの」

 

「…雷は偉いな。なら、そんな良い子な雷に早速任務を言い渡す」

 

雷「…?任務と料理って関係あるの?」

 

「ある。大いにある。内容によっては早急に解決しないとダメだからな」

 

雷「…分かったわ。それで、その内容は?」

 

「…いつからお湯で料理作ってた?」

 

雷「…え?それだけ?」

 

「あぁ。だが大事な事なんだ」

 

雷「そうね…司令官が営倉に行ってた頃よ。材料はあったからそれを使ってたわ。当番制で作ってたけど、電の時だけはそれ以外の料理が出てきたわ。あれは美味しかったわね~」

 

「…」

 

雷「どうしたの?そんな顔して」

 

「…ごめん」

 

雷「え?」

 

「俺、この作戦が終わったら艦隊の皆が料理出来るように教えるからな。もうお湯で温めて作るのを料理って言わせない位に教えてやるからな」

 

雷「え、えぇ…分かったわ。楽しみにしてるわね」

 

「…それじゃそろそろやる事があるから行ってくる。だから絶対に今回の作戦で無理をするんじゃないぞ?」

 

雷「分かってるわよ。いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

雷「…変な司令官ね」

 

携帯食料(レトルトカレー)7→2

 

重巡一人、軽巡三人、駆逐艦五人…これを当番制で作ってたと仮定して、電の力である程度の料理が出来たとはいえ、ずっと受け持つのは不可能と考えると…一日だけ電の当番日、雷の発言から推察するとそれ以外の奴が当番日はレトルトで済ませてた…?

 

…中途半端なレトルトの残りを考えるとずっと同じのを買って…?

 

「…誰か料理の出来る奴でも探すか。じゃないと俺と電が過労死する」

 

 

 

愛宕「あ、提督。お待ちしてました」

 

「あぁ、すまんな。待たせて」

 

愛宕「とりあえず色々聞いておきたいんですけど…何なんですかこれ」

 

・拳銃(一発のみ装填)

・片道のみの燃料

・紐と布

・手錠

・汚い針金

 

愛宕「敵の本拠地に行くにしては荷物が随分…おかしいというか、なんというか…」

 

「まぁ必要最低限の物しか持って行ってないしな」

 

愛宕「いえ、そうじゃなくて…まず拳銃ですけど何で一発だけ入ってるんですか?」

 

「自害用だ」

 

愛宕「え!?」

 

「あくまでそう思わせるだけだよ。それに、この一発が命を救うかも知れないんだぞ?」

 

愛宕「…分かりました。それは理解します。でも何で燃料が片道だけしか入ってないんですか?」

 

「そりゃ片道だけしか使わないからな」

 

愛宕「そうじゃなくて…!何で片道しか入れてないんですか!?」

 

「あぁ。向こうに着いたらあの島までの片道の燃料だけ入れられて、海の上で拳銃自殺しろといじめられてる島流しにあった可哀想な子供で押し通そうと思ってな。手錠と紐と布もその為に使うんだ」

 

愛宕「…」

 

「どうした?そんな顔して」

 

愛宕「…設定が長いですし、そんなの聞いたことないですよ」

 

「お前が知らないだけでこういうのは意外にある。俺も舞台は違うが昔は山に良く捨てられたよ。その時は丸腰だったが、今回は準備してあるし問題ないさ」

 

愛宕「えぇ…」

 

「運が良ければ親身になってくれそうだし、最悪の場合だと可哀想と思われて殺されるかのどっちかだとは思うけどな」

 

愛宕「運の良し悪しが極端すぎません?」

 

「結構悲惨な感じで行こうと思ってるからな…やっぱりもう少し明るい方がいいかな?」

 

愛宕「せめて死ぬ想定を入れないレベルに抑えてください…」

 

「ん、分かった」

 

愛宕「…そういえば提督の少年時代ってそんなに酷かったんですか?」

 

「いや?そうでもないぞ?」

 

愛宕「それじゃなんで?」

 

「普通にクソガキだったからな。今もだけど」

 

愛宕「…そうは思えませんけどね?」

 

「お前が知らないだけだよ。ま、子供の頃にクソガキだったからこそどんな終わりが待ってるか分かるってもんだ。じゃなかったらこんな作戦思いつきもしなかっただろうよ」

 

愛宕「…なるほど」

 

「何事も経験だよ。それ以前に知る事すら無かったら発想さえ出ないからな」

 

「だから俺はお前らには色んな経験をして欲しいんだよ。その経験が意外な物に繋がるかも知れないんだからな。ソースは俺」

 

愛宕「…妙な説得力がありますね」

 

「ただの民間人がある日いきなり軍人になったんだ。こういう世界に足を踏み入れない限り、一生縁はなかった事ばかりだけどな」

 

「…と、こんなもんか」

 

愛宕「それじゃ後は縛って口を防げば良いんですか?」

 

「あぁ。ついでに鼻も覆ってくれ」

 

愛宕「…そこまでやったら死んじゃうんじゃ?」

 

「そこまできつく縛らなきゃ大丈夫なはずだ。最悪お前らが俺を発見して解いてくれればそれでいい」

 

「あ、向こうについたら名前は名無しで通すから。天龍にも共有しといてくれ。俺が向こうに出向くと知ってるのは数人しかいないからな」

 

愛宕「分かりました」

 

「…それじゃ島にボートを向けたらそのまま前進だけするように紐で固定しててくれ。一応片道とはいえ、島に衝突するギリギリで燃料が切れる計算だから大丈夫なはずだ」

 

愛宕「…計算ミスとかないですよね?」

 

「知らん。流石に燃料の残量から何キロ走れるとかの計算は俺じゃ無理だからな。妖精に任せたとしか言えないよ」

 

愛宕「不安になるようなこと言わないでくれます?」

 

「大丈夫、大丈夫。なるようになるって」

 

愛宕「…はぁ」

 

 

 

*ーーーーーーーーーーーー*

 

 

 

愛宕「…良し、終わりましたよ」

 

「ふぉふぉほふぉほほはふぁはへはほ」

 

愛宕「…何言ってるか分かりませんよ」

 

「ふぁんふぁふぇ!」

 

愛宕「…頑張れ?」

 

「ふぉふふぉふ」コクコク

 

愛宕「…応援するより自分の心配してくれませんか?」

 

「ふぇいふぇい」

 

愛宕「あ、適当に返事した」

 

「ふぁんふぇふぁふぁふ」

 

愛宕「態度で分かりますよ。あと可哀想な子供を演じる人がそんなに生き生きしないでください。もうちょっと死にそうな感じ出してくださいよ」

 

「…ふぉい」

 

愛宕「あ、大分良い感じです。今から死地に向かう人に言う言葉でもないと思いますけど」

 

「…」

 

愛宕「…それじゃ提督、無事に帰ってきてください。ちゃんと貴方を待ってる人もいるんですからね?」

 

「…」コク

 

ボート『逝ってきます』ブォォォォン!!

 

愛宕「…ホントに無事に帰ってきてくださいね」

 

 

 

鎮守府正面海域

 

影がさっきより傾いてるのを見ると推定1120ってとこか。雲もあまり出てないし流石に海の上は暑いな…

 

…そういえば水分のこと考えてなかった。人間って水分補給せずにどれくらい生きられるんだっけ?

 

シャツがべったりしてるのが気持ち悪いレベルで汗を掻いてるから…

 

…あ、目が霞んできた

 

ってやばいやばい!あれだけ自信満々に海に出てて脱水で死ぬのは流石にダサい!

 

誰か!?誰かいない!?川内達でも良いし、深海棲艦でも良いですから誰か僕を見つけてください!お願いだから助けて!お菓子あげるから!

 

「んむ~!ふむむ~!!!」

 

 

・・・あなたは助けを呼んだ・・・

 

 

 

・・・しかし誰も来なかった…・・・

 

 

 

…最悪手だけは使えるから拳銃を空に向かって撃つか。そうすれば艦娘なり深海棲艦なり来るだろ

 

だけどそれをしたら確実に襲われるよな?一応ステルスは縛られてても起動出来るとはいえ、流石に何にも無い所で音が出たら艦娘も深海棲艦もやってきて戦闘になるのは確実だし…

 

…速度を抑えつつ燃料が長持ちするように速度を出してるから少なくとも到着まで後10分は掛かる。島は見えてはいるが、泳いで行こうにも縛られて不可能。それ以前に泳げないし…

 

果報は寝て待てって言葉もあるくらいだしいっその事寝てみるか?正直起きてても無駄に体力を消費するだけでしかないし、なら寝てしまった方が良いんじゃないか?

 

…うん、そうしよう。どうせ自分ではどうにもならないんだから寝た方がまだいいか。これが吉と出るか凶と出るかはホントに運だし、俺の運は陸奥レベルしかないとは思うけどそれでも期待するしかない

 

「…( ˘ω˘)スヤァ」

 

どうか、良い艦娘にでも出会えますように…

 

 

 

*ーーーーーーーーーーーー*

 

 

 

???「…子供?」

 

「…」

 

???「それにしてもこのボートは何?拳銃はあるけど一発だけしかない。自殺にしてはこの子が手錠までされて縛られてるのは一体…?」

 

???「ボートも向きが固定されてる…燃料もほぼ空…誰かが人為的にここまで?」

 

???「…まだ息はある。ただやけに体温が高いような気がするけど、まさか脱水?」

 

???「…流石に見捨てるわけにはいかないよね」

 

???「こちら夕立、誰か聞こえる?」

 

夕立改「物資を運んでる最中に縛られている子供を発見した。これより連れて帰投する」

 

夕立改「…分かってる」

 

夕立改「それじゃ通信を終了する」

 

夕立改「…この子のボートなら燃料さえあれば動かせるだろうし、ついでに運んでいこうかな」

 

「…ふふぉ?」

 

夕立改「目が覚めた?」

 

「…ふぉふぉは?」

 

夕立改「何を言ってるか分からないけど、その前に布外すね。手錠は…針金があるしピッキングするけど暴れないでね?」

 

「…」コク

 

夕立改「…はい、外したよ。ちゃんと喋れる?」

 

「…あ、あ~」

 

「…うん。問題無いよ」

 

夕立改「良かった。ところで聞きたい事があるんだけど良い?」

 

「はい。僕に答えられる事があるなら」

 

夕立改「まず一つ目、何であんなところにいたの?」

 

「…ちょっと色々ありまして」

 

夕立改「…なら二つ目。君は人間?」

 

「…人間以外に見えますか?」

 

夕立改「少なくとも変な感じがする以外は普通の人間だよ」

 

「変な感じ?」

 

夕立改「ん~…惹かれるとでも言えば良いのかな?君から何となく見放せない感じがするの」

 

「は、はぁ…」

 

夕立改「それじゃ最後ね」

 

夕立改「君、何で驚かないの?」

 

「…」

 

夕立改「私が醜いけど驚かないのは百歩譲って置いておくよ。でも私が海の上に浮かんでるのに何の反応もないのはおかしいよね?」

 

「…それは」

 

夕立改「私達艦娘の知名度がそこそこあるのは知ってるよ?でも実際に見た人は殆どいないはず。それこそ軍人でもない限りね。基本的には映像や新聞等で知らされる程度の知名度だけど、重巡や戦艦等がほとんどよ」

 

夕立改「聞き方を変えるね?君、何者?」

 

「…艦娘を直接見たことがあるって言ったら信じますか?」

 

夕立改「…」

 

「以前傷ついた艦娘を介抱したことがあるんです。その時に貴方と同じ艦娘を見たことがあります。その時の縁で海面を走る姿も見たことがありますし、砲撃した姿も見たことがあります」

 

夕立改「…嘘はついてないみたいね」

 

「信じてもらえましたか?」

 

夕立改「うん。疑ってごめんね?」

 

「いえ、疑うのは当然ですよ。こんな時代に海にいるんですから」

 

夕立改「…とりあえず君を私達がいる島まで送るね?しばらくの間、そこで保護させてもらうよ」

 

「はい。助けていただきありがとうございます」

 

夕立改「…変わった子っぽい」

 

 

 

???「夕立、お帰りなさい!」

 

夕立改「ただいま、暁。それとお客さんを連れてきたよ」

 

暁「お客さん?」

 

「お邪魔します」

 

暁「…君、大丈夫?顔色が良くないわよ?」

 

「すいません。さっきから何でか足元が覚束なくて…」

 

夕立改「多分脱水ね。この島の奥の方に湧き水があったからそこで飲んできたら?」

 

「…すいません。助かります」

 

暁「ま、待って!湧き水って…」

 

夕立改「多分大丈夫だよ。この子なら」

 

暁「…」

 

「あの、申し訳ないのですが、案内してもらっても…?」

 

夕立改「分かった。こっちよ」

 

暁「…私も行くわ!」

 

夕立改「…それじゃあ私はボートを運んでおくから、後はお願いね」

 

暁「分かったわ!任せておいて!」

 

「…あの、暁さん。でしたっけ?」

 

暁「暁で良いわ。どうしたの?」

 

「少し疑問なんですけど…どうして貴方達はこんな所に?」

 

暁「…」

 

「…すいません。余計な事みたいですね」

 

暁「…私はドロップした艦娘なのよ。だから私は鎮守府にはいないし、ここで過ごしてるの」

 

「ドロップ…」

 

暁「あ、ドロップっていうのはね、敵艦隊を倒した時に出現する艦娘の事よ。私だけじゃなく響もいるんだけど、その子もドロップなのよ」

 

「…なるほど」

 

暁「響は今資材を取りに行ってるからここにはいないけど、帰ってきたら紹介するわね!」

 

「…えぇ。楽しみにしてます」

 

暁「…ほら!湧き水の所まであとちょっとなんだから頑張って!」

 

「…はい」

 

暁「…ねぇ、大丈夫?」

 

「……」コク

 

暁「ほら、乗って」しゃがみ

 

「…え?でも…」

 

暁「でもじゃない。少し嫌かも知れないけど乗って。その方が早く着くわよ」

 

「…申し訳ない」

 

暁「そういう時はありがとうって言うものよ?少なくとも助けようとしてるレディに対して謝られるのはあんまりいい気分じゃないわ」

 

「…ありがとう」

 

暁「良くできました。ほら、あともうちょっとよ!」

 

「…」

 

 

 

*ーーーーーーーーーーーー*

 

 

 

暁「ほら、着いたわよ」

 

「…ありが、とう」

 

暁「…でも、その、湧いてる所があんまり綺麗じゃないから少し綺麗にした方が『バチャ!』」

 

「…」ゴク…ゴク…

 

暁「ち、ちょっと!?」

 

「…っはぁ~」

 

暁「…お腹壊しちゃっても知らないわよ?」

 

「ふぅ…大丈夫です。これくらいの水なら良く飲んでたので」

 

暁「…いつか体壊すわよ」

 

「今はある程度の耐性ついてるんで大丈夫ですよ。すぐに修復もされるんで」

 

暁「…はぁ」

 

「…すいません。この島って川とかありますか?」

 

暁「えぇ。あるわよ」

 

「でしたらそこに案内させてもらえないでしょうか?」

 

暁「それは良いけど、どうして?」

 

「いえ、その…川で体を洗いたくて」

 

暁「あっ…」

 

暁「…わ、わかったわ。ここから近いけど足場が悪いから頑張ってついてきてね?」

 

「何度もお手数をかけて申し訳ない…」

 

暁「き、気にしないで!子供には優しくするのは当たり前なんだから!」

 

「…」

 

暁「…ねぇ、その、男性にこんなこと聞くのも何なのだけど、君っていくつなの?」

 

「…見た目通りの年齢ですよ」

 

暁「それにしては言葉遣いが丁寧ね…いい人に育てられたのかしら?」

 

「えぇ、良い人達ばかりでしたよ」

 

暁「…」

 

暁「…ほら、着いたわ」

 

「すいません、案内していただきありがとうございます」

 

暁「私はあっちに行ってるから何かあったら呼んでね?すぐに駆けつけるから!」

 

「はい。分かりました」

 

…良し、考える余裕が出来た。やるなら今しかない

 

「…」プルルルル…プルルルル…

 

???『…』ガチャ

 

「…」コン

 

???『…提督か。今話して大丈夫なのか?』

 

『あぁ、問題ない。それより敵の無力化出来そうな艦娘を一人目星をつけた。もしかしたら仲間に引き込む事が出来るかも知れない』

 

天龍『…大丈夫なのか?』

 

『不安ならこれから通信を開きっぱなしにする。仲間に引き込むのは確定だが、引き込んだ後の対応をお前に任せるから、どんな奴かを見極める為にも決して声は出さずに黙って聞いててくれ』

 

天龍『…了解』

 

『それじゃしばらく離れるが、いなくなったわけじゃないからな。通信を終了する時は合図を送る』

 

天龍『分かった』

 

…あれが演技なら大したもんだが、多分大丈夫だろう。ドロップじゃなくて以前からいたなら服の汚れ等が目立つはずだが、未だ綺麗な所が多かったしな

 

暁「ねぇ~、大丈夫~?」

 

「あ、すいません。服を脱ぐのに手間取ってしまって…」

 

暁「…体はまだ動かし辛いの?」

 

「えぇ、少しふらついてしまって思いのほか脱ぎづらくて」

 

暁「そ、そう…」

 

暁「その…君さえ良ければ手伝いましょうか?」

 

「すいません。お願いしても良いでしょうか?」

 

暁「ま、任せて!」

 

天龍『お前……なに…させ…』

 

暁「?何か聞こえない?」

 

「…そうですか?僕には何も聞こえませんでしたが」

 

天龍、頼むから黙っててくれ。マジで今はバレる訳にはいかないんだから!

 

暁「その、あんまり見ないようにするから…」

 

「あ、別にいいですよ。それくらいなら」

 

暁「え!?」

 

「別に見られても何とも思わないですしね」

 

暁「…私が気にするのよ」ボソッ

 

「でしたら上だけお願い出来ませんか?」

 

暁「そ、それなら…」

 

暁「その…脱がすから少し腕を上に上げてくれない?」

 

「あ、はい」スッ

 

暁「…ん?」

 

「どうかしましたか?」

 

暁「…ねぇ、ホントに君って縛られてたのよね?」

 

「…えぇ」

 

暁「…そう」

 

「…」

 

暁「…まぁ良いわ。君が誰であっても悪い人じゃなさそうだしね」

 

「…すまん」

 

暁「謝らなくても良いわよ。それより脱がすからさっさと体洗っちゃいなさい。じゃないと戻った時に怪しまれちゃうしね」

 

「助かる」

 

天龍『…』

 

 

 

暁「そういえば思ったんだけど」

 

「はい?」

 

暁「君って私達が気持ち悪くないの?」

 

「全く思いませんね」

 

暁「…変わってるわね」

 

「というか、そんなに気にすることですか?」

 

暁「え?」

 

「どれだけ容姿が酷くても僕には出来ない事をやってくれてるんだし、出来ない事をしてくれる人がいるからこそ誰かが助かってるんです。そんな人を嫌うのはおかしいと思いますけど」

 

暁「…」

 

「まぁその出来ない内容ってのが戦争で、しかも容姿が優れていないからってだけで悪い面しか見えないだけかも知れませんが」

 

暁「…ただのお人好しなのね」

 

「僕から見たら艦娘の方が世にいる女性より可愛いので別に気持ち悪いとかはないですよ。世間一般における美醜が逆転してるだけであって、ちゃんと気持ち悪い物には気持ち悪って思う時だってあります」

 

暁「それさえなければかっこよかったのに…」

 

「…そういえば」

 

「僕がここに来て出会ったのが夕立さんと暁さんですけど、話にあった響さんを除いて他に誰かいるんですか?」

 

暁「…そうね」

 

暁「ここには川内って言う軽巡がいるわ。後は時雨ね」

 

「確か川内って夜戦が大好きな人でしたっけ?」

 

暁「えぇ。すっごく強くて、多分ここにいる中ではトップなんじゃないかしら?」

 

「なるほど…一度会ってみたいですね」

 

暁「…やめといた方がいいわ」

 

「どうしてですか?」

 

暁「…あの人は危険だからよ。君みたいな子供を合わせる訳にはいかないわ」

 

「危険…」

 

暁「そうよ。だから絶対にあの人に会おうと考えるのはやめてね」

 

「…ふ~ん」

 

暁「ホントに駄目よ?」

 

「それってさっきから後ろに立ってる茶髪で髪を括ってる人?」

 

暁「そうそう。そういう人だから間違っても近づいちゃ…」クルッ

 

川内「…」ニコニコ

 

夕立改「…」

 

響「…」

 

暁「…」

 

「こんにちは」

 

川内「こんにちは~。ちょっと暁借りるけどいい?」

 

「どうぞどうぞ」

 

暁「え、ちょっと「じゃあ借りてくね~」」

 

響「…」

 

夕立改「…助けてあげないの?」

 

「あれは仕方ない。それにああいうのは助けに行ったら巻き込まれるもん」

 

響「まぁ。うん…忠告したのは正しかったとは思うんだけどタイミングが悪かったね」

 

「ところで、そちらの方が響さんですか?」

 

夕立改「そうだよ。響の事が分かるってことは暁から聞いたのかな?」

 

「えぇ。確か暁さんと同じドロップ艦なんでしたっけ?」

 

響「うん。そうだよ」

 

「不思議なもんですね。艦娘が敵を倒したら出現するなんて」

 

夕立改「…暁はそこまで喋ったの?」

 

「え、えぇ。何か不味かったですか?」

 

夕立改「…これは川内に厳しく絞めてもらわないとね」

 

夕立改「いい?暁に何を言われたのかは分からないけど、悪い事は言わないから全部忘れた方が良いよ。もし誰かに話したら軍に絶対目を付けられるからね」

 

「ひぇっ…」

 

響「ふむ…そんなに私に興味があるかい?」

 

「はい。こんな風に艦娘と話せる機会なんて中々無いですからね」

 

響「なら丁度いい。ちょっとあっちの茂みにでも行ってそこで私と「待て」…なんだい?」

 

夕立改「子供に何する気?」

 

響「夕立…なんてことを言わせようとするんだい。そんなに恥ずかしい事を私に言わせる気かい?」

 

夕立改「言えないような事をする気だったの!?」

 

響「流石に君だけなら別に言っても構わないがこの子もいるんだ。その子の前で変な事を言って私に対する印象が下がったらどうするんだい?」

 

「あ、大丈夫です。もう十分低くなってるんで」

 

響「なん…だと…」

 

夕立改「当たり前っぽい…」

 

響「くっ…!夕立だってそういう気はあるだろう!?私達を前にして怯えないこの子を前にして、ホントに何とも思わないのかい!?」

 

夕立改「うっ…!お、思うわけないでしょ!?」

 

響「ふっ、駆逐艦とは思えない胸部装甲してるのに何を言ってるのかな?その胸は飾りじゃないだろう?」

 

夕立改「こ、子供の前でなんて事言うの!?」

 

「…」

 

夕立改「君も黙ってないで何とか言ってくれない!?一応君を助けようとしてるんだけど!?」

 

「いや…響×夕もいいと思って」

 

夕立改「何訳の分からない事言ってるの!?」

 

「百合は黙って見守るべき。間に挟まろうとする者は魚の餌にでもなればいい」

 

響「ふふ…さぁ夕立、覚悟は良いかい?」

 

夕立改「あ、ちょっ…!って力強い!練度では私の方が上なのに!」

 

響「今は私が攻めだからね。この法則は練度関係無しに力関係がその通りになるのさ」

 

夕立改「響まで何言い出すの!?」

 

響「ふふふ…それじゃあ早速楽しもうか…」

 

夕立改「あ、う…」

 

夕立改「だ、誰でも良いから助けてー!!!」

 

 

 

「…ってな感じだ」

 

天龍『いや助けてやれよ!』

 

「無理。今あそこに入ったら確実に艦娘のパワーでぐちゃぐちゃになる」

 

天龍『…敵ながら同情するぜ』

 

「…あぁ。そういえばお前も龍田にもみくちゃにされてたな」

 

天龍『今その時の事は言うな!っていうか通信してていいのかよ!?』

 

「大丈夫だよ。川内と暁は今はいないし、響と夕立は…まぁ、うん」

 

天龍『…はぁ』

 

「で?目星はついたか?」

 

天龍『あぁ。暁と響、それと夕立は仲間に引き込んで良いだろう』

 

「…いや」

 

「夕立は駄目だ」

 

天龍『…は?』

 

「…アイツと直接会って分かった。アイツは死ぬ。多分、今回の件で確実に」

 

天龍『…待て、何故分かる』

 

「目だよ」

 

天龍『目?』

 

「…生きる人間の最後の輝きって言うのかな、本当にこれで最後っていう力強さを感じた」

 

「夕立は死ぬよ。間違いなく」

 

天龍『…仮にそれが本当だとして、お前は夕立が死ぬと分かってて放置する気かよ』

 

「流石の俺もあそこまでの目は見たことが無い。あんな決意に満ちた目をする奴に、わざわざ横やり入れるってのは野暮ってもんだ」

 

天龍『…』

 

「…通信を切る。これから先、例え何があっても夕立の邪魔はするな。これは命令だ」

 

天龍『…了解』

 

「じゃあな。また戦場で会おう」コンコン

 

天龍『…クソが』ブツッ

 

「…ふぅ」

 

川内「おーい、おまた…」

 

「あ、お帰りなさい」

 

川内「…え、っちょ、あの、あれ、は、何やって…」

 

暁「…響?」

 

響「おや、暁かい?良かったら一緒にどうだい?」

 

夕立改「…」ビクッ

 

暁「…子供の前で何やってるのよ!!!」ゴッ!

 

 

 

*ーーーーーーーーーーーー*

 

 

 

響「すいませんでした…」14/15

 

暁「こんなことで自分の妹を怒りたくなかったわ…」

 

…暁は怒らせたらヤバい。はっきりわかんだね

 

夕立改「…汚されちゃった」

 

「…」ナデナデ

 

川内「ん、んんっ!ところで君さ、さっき携帯みたいなの持ってなかった?」

 

「あ、はい。僕もさっき持ってたの思い出したんですけど、胸ポケットの内側にしまってあったみたいで」

 

川内「ん~?これ、私が以前見た携帯と違うみたいだね?」

 

「これは確かガラパゴス携帯?って言って昔の携帯なんですよ。誰かに連絡が取れるか中も確認したんですけど、何故か繋がらなくて」

 

川内「…多分深海棲艦がいるからだろうね。深海棲艦がいる海域は普通の電子機器が動かなくなったりするんだよ」

 

「…なるほど」

 

川内「通信は出来るみたいだから、もしかしたら番号さえ合えば近くにいる電話には掛けられるかもね」

 

「じゃあ試しに…」ピッピッ

 

「…」プルプル

 

夕立改「…」ビクッ

 

「あ、繋がった」

 

夕立改「…耳元で声が聞こえる」

 

「もしも~し、聞こえますか?」

 

夕立改「うん。聞こえるよ」

 

川内「…どうやって?」

 

「適当に番号を押して掛けたら繋がりましたよ」

 

川内「いやいやいや!ありえないから!というか、何で電話じゃなくて艦娘に繋がるの!?」

 

「僕に聞かれても…携帯いじったらそうなったとしか」

 

川内「え、えぇ…」

 

夕立改「…これ、面白いね。折角だしそれ使ってお話しようよ」

 

「えぇ、良いですよ」

 

夕立改「それじゃ一緒にいこっか。あ、皆はついてこないでね?」

 

響「…やっぱり夕立もその気だったんじゃ「ひ~び~き~?」悪かったって」

 

川内「…」

 

 

 

夕立改「…ここでいいか」

 

「それで、お話って?」

 

夕立改「…君さ、何の目的でここまで来たの?」

 

「…」

 

夕立改「君、やけに落ち着きすぎじゃない?深海棲艦が出るかも知れない海に、手錠まで付けられて流されて、私たちが保護したのは良いけどいくらなんでも冷静そのもの。というより、こうなることが分かってたみたいな感じだよね」

 

夕立改「いくら何でもおかしいって感じない方が変だよね?そこまでして隠したい目的って何なの?」

 

「…はぁ。ま、いいか」

 

「僕は提督ですよ。貴方達に壊されたあの鎮守府の。ここに来た目的としては秘密ってことで」

 

夕立改「…嘘つくならもっとマシな嘘ついたらどう?」

 

「嘘だと思えます?鎮守府襲撃なんて大事件を一般人が知ってると?」

 

夕立改「半壊までさせたからね。多少は漏れるものだと思ってるよ」

 

「それなら僕を海に流す犯人は、わざわざ危険かも知れない場所まで行って、念入りに縛ってまで流したと思いますか?」

 

夕立改「今なら貴方を深海棲艦のせいにして始末することが出来るかもしれないって思ったから実行したんじゃない?」

 

「僕はそこまで恨まれる程の事はしてませんよ。そこまで深く人と関わった事ないですし」

 

夕立改「…」

 

「それより、何で僕が提督じゃない理由を探してるんですか?」

 

夕立改「…どうしてそれを」

 

「あからさまに僕を提督だと思いたくない言い方をしてましたからね」

 

夕立改「…」

 

「時雨」

 

夕立改「!」

 

「それが僕を提督だと認めたくなかった原因…でしょ?」

 

夕立改「…そこまで分かってるなら何で明かしたの?私が時雨の協力者だとは思いもしなかったわけ?」

 

「その可能性もありましたけど…それならその時。明かした相手が悪かったと思って諦めますよ」

 

夕立改「はぁ~…人がせっかく心配してあげてるのに…」

 

「…心配事と言えば僕もあるんですけど」

 

夕立改「ん?」

 

「何でそんな目してるんですか?」

 

夕立改「…目?」

 

「う~ん…やっぱり目が…」

 

夕立改「ちょっと?はっきりと言ってくれない?」

 

「…ふぅ」

 

「夕立、お前死にたいか?」

 

夕立改「!?」

 

「いや、正確には何をしたい?何を成し得たいんだ?」

 

夕立改「…心でも読んでるの?」

 

「心を読んでたらもっと直接的に聞いてる」

 

「それに、こういうのはお前の口から聞きたい。嫌なら嫌でいいけどな」

 

夕立改「…」

 

「ま、無理なら良いよ。夕立の中で大切にしまっとけ」

 

夕立改「…ううん、聞いて」

 

「…分かった」

 

夕立改「…その前に少し前の話をしようか」

 

夕立改「私ね、以前は鎮守府にいたんだよ。川内と同じ鎮守府にね」

 

「川内も?」

 

夕立改「うん。一緒の鎮守府から…逃げてきたの」

 

「…」

 

夕立改「そこの鎮守府は訳アリでね…提督が艦隊運営をするんじゃなくて、艦娘が艦隊運営してるところなの」

 

夕立改「初めは良い鎮守府だったんだよ。提督がトップで、提督の指揮を信頼して私達も動く」

 

夕立改「作戦でミスをしてもちゃんと叱ってくれたり、良くできた時はしっかりと褒めてくれたり…ホント良いところだったよ」

 

夕立改「…でも、そんな日も変わっちゃった」

 

夕立改「そこの主力の艦娘がいたんだけど、ある日その艦娘が轟沈。姉妹艦達はその事に激怒して、そこからはさっき言った通り艦娘が艦隊運営をしだしたの」

 

夕立改「私達の姉妹を沈める無能がこの艦隊を運営するのは認めない…って感じでね」

 

「…酷い話だな」

 

夕立改「その頃は提督もかなり上手く海域攻略を進めてきてたからね。所謂、慢心ってやつだよ」

 

夕立改「…艦娘が艦隊運営してた頃に私の姉妹艦も沈んじゃった。川内の姉妹艦も一緒にね」

 

「…」

 

夕立改「当然何で沈めたんだって文句は言ったよ。川内も一緒に行ったけどその時に何て言ったと思う?」

 

夕立改「私と貴方の姉妹じゃ命の重さが全然違いマース。駆逐と軽巡の分際でごちゃごちゃ言わないでくだサーイ…ってさ」

 

「…流石に戦艦には逆らえなかったか」

 

夕立改「流石にね…といっても私もその時ばかりは怒っちゃって川内に無理矢理止められたよ」

 

夕立改「もしあの時川内に止められなかったら…私は多分ここにはいないだろうね」

 

「…そうか」

 

夕立改「その時にかなりふさぎ込んじゃってね。流石に見てられなかったのか提督が直接話を聞いてくれたよ」

 

夕立改「皆は夕立の記憶に残ってる。夕立が皆の事を忘れない限り、どこにいても皆は夕立の中で生きてるんだよ」

 

夕立改「慰めだって分かってるんだけど…その時言われた言葉がどうしても頭を離れなくてね。ありきたりで下手な慰めだったのにさ」

 

「…だからお前は誰かの記憶に残らせて、一生自分を忘れられたくないってか?」

 

夕立改「うん…」

 

「…はぁ~」

 

「アホか?お前は?」

 

夕立改「なっ…」

 

「誰かの記憶に残ってるからこそ、ソイツは確かに存在する。まぁそれは分かるよ。誰の記憶にも残らなかったら、ソイツは存在してるけど存在しない幽霊みたいなものだからな」

 

「だがな、それを下手な慰めだと分かってるってことは、その慰めに意味なんか無いって分かってるだろ。ただ上辺でしか物を見れない浅はかな人間のクソみたいな慰めを聞き入れたのか?」

 

夕立改「…分かった風な口を利かないでよ」

 

「分からんよ。分かろうとも思わん」

 

「ただ、これから命かけてまでそれを成そうとするお前に対しての言葉がそれじゃいかんだろ」

 

「ただ覚えてほしいなら俺が覚えてやるよ。お前が忘れるなって言うなら忘れないでいておいてやる。俺だけが覚えてちゃ、死んだときに誰もお前を覚えてくれる奴はいなくなるだろうけどな」

 

夕立改「…」

 

「…もしお前が本当に誰かの記憶に残って死にたいならな、死ににくそうな奴を選べ」

 

「例えどんなことがあっても死にそうにない奴だ。ソイツの人生が長く続いて、ジジババになるくらいの長生きしそうな奴を選べ」

 

「そうすりゃお前は長い間ソイツの記憶に留まれる。記憶に残されたソイツも、お前くらいの目の輝きを持つ奴ならそうそう忘れる事はないだろうよ」

 

夕立改「…そこはせめて死なずに生きろとかじゃないの?」

 

「でも多少は信じちまってるんだろ?あの慰めを」

 

夕立改「…」

 

「俺はそういうのは信じない。そういうのは結局、生きてる奴の自己満足のようなもんだ」

 

「死んだら終わり。ただそれを終わらせたくないってお前は駄々こねてんだ」

 

「だったら生きろって言うより、さっさと死んで自己満足したまま逝け。それが救いだろ」

 

夕立改「…酷い人っぽい」

 

「かもな」

 

夕立改「でも、優しいっぽい」

 

「ふっ、どこが?」

 

夕立改「ちゃんと私の事を考えてくれてる」

 

「…」

 

夕立改「あの時、文句を言いに行った時に言われた駆逐艦としての私を見るんじゃなくて、私個人を見て、話して、考えて、教えてくれる」

 

夕立改「それだけで私は充分っぽい」

 

「…そうか」

 

夕立改「ありがとう。貴方と出会えて良かったよ」

 

「…あぁ」

 

夕立改「…それじゃそろそろ戻ろっか。流石に長い間離れすぎたからね」

 

「あ、ちょっと待て」

 

夕立改「何?」

 

「…あぁ、クソ。なんでこんな時に限って持ってないんだよ」

 

夕立改「…どうしたの?」

 

「ほら、涙くらい拭け」グシグシ

 

夕立改「え、あ…」

 

「お前を泣かせたとなったら川内に殺されそうだからな。流石にまだ死にたくない」

 

夕立改「…涙なんて、もう出ないと思ってた」

 

「流す涙は少し残しとけよ。最後の瞬間に必要かも知れないだろ?」

 

夕立改「…ううん、必要ないよ」

 

夕立改「でも、胸借りていい?」

 

「…好きにしろ」

 

夕立改「…ありがとう」ギュッ

 

「…」

 

夕立改「…う、うぅ」

 

「…」ポンポン

 

夕立改「ひぅっ…ぐすっ…皆、ごめんね…」

 

夕立改「ごめんね…」

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