この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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そろそろここともお別れだ。何とも濃い日々だったが、ブラック鎮守府ではない場所に一々留まっておく理由は無い。まぁ、元師の気まぐれでブラック鎮守府を回る指令が無くなればそんな事もないのだが…
しかし休みが欲しい!本来は提督の仕事さえ終われば大体18:00、遅くても22:00までには業務を終了出来て、残りはプライベートな時間を過ごせるというのに…如何せん自身の仕事の処理能力の低さを思い知らされるな。せめて一日位は仕事を悩む必要の無い時間が欲しいものだ


調査書 No.3

 頭痛、吐き気、強い脱力感、強い眠気、瞼が重い、ここまで体調が悪いのは久々だ。コンディションは下の中といった所か。いい加減に隈を隠すのも辛くなってきた

 

 早くこの不安を何とかしなくては。でないとまた無気力に生きるあの日々に戻ってしまう。早く人間として生きていきたいところだ

 

 前回から大分間が空いてしまったせいで書くことがかなり増えそうだ。監視の目もあったし仕事にも追い回されて記録出来なかった。一日の何処かでこまめに記録を付けれる日が来れば良いんだが…

 

 

【艦娘観察】

 私の知っている艦これの世界。同じ艦娘でも別々の性格をしている艦娘がいると予測はしていたが、まさか戦闘中毒者までいるとは思わなかった。同じ木でも同じ育ち方はしないとは言うが、流石に鳳翔は意外すぎるだろう

 

 彼女が戦闘中毒者だと知ったきっかけは過去の記録と女提督から聞いた話だ。どうやら彼女はスイッチが入らないとその片鱗さえ見せない様で、提督からその話を聞くまで自分で推測内容も半信半疑だった。しかしそうなるとここはどういった鎮守府なんだろうか?目的がどうも見えないな

 

 …考えても仕方ない。とりあえず今回もいくつか推測を書いておこう。いつか役に立つときが来るかも知れないしな

 

 

・鳳翔の様な存在が生まれたのは建造のバグ、あるいはドロップした艦娘(深海棲艦)の過去の影響

 今回の場合は建造だが、これは妖精の気まぐれというのが考えられる。妖精の力によって艦娘は建造されてこの世に生まれるが、妖精の中で悪戯好きな誰かが鳳翔を戦闘中毒者として生み出したと考えた方が幾つか現実的だ。しかし何故病気として扱われるモノを持って生んでしまったのだろうか?どうにも疑問だが、害にならない限り気にすることでもないだろう

 

 ドロップした艦娘は所謂リサイクルの様な形で出現していると考えている。艦娘が轟沈すれば深海棲艦に。深海棲艦が轟沈すれば艦娘に。おそらくこのリサイクルがあるからこそ戦争のパワーバランスが崩れず、その中でバグを持った者達が偶に生まれるのだろう。そのバグの中の一つに過去の記憶を持ったままドロップするというのがあるとしたら、当時の性格を引き継いでいてもおかしくないはずだ。現に一人それを匂わせる奴がいるしな

 

 

・新人類説

 艦娘と深海棲艦の二つに共通している事項が何点もある。姿、艤装という兵器、水上を陸上かの様に動く事が出来る能力。そして一番は人間に近い姿。その中でも艦娘が人間と同じ姿をしているのは恐らく陸上へ適応した存在だから。深海棲艦の中にイ級等の魚を彷彿とさせる存在がいる事から、深海棲艦は海へと適応したのだろう。これは他者と似た姿を取ることによりその者達と共存するという道を選んだ。しかしその実体は一瞬にして自分以外の生物を肉塊に出来る攻撃力を保持している新たな人類、あるいは種族と見れるのではないだろうか?

 

 艦娘と深海棲艦は水陸両用で生きる力を持ちつつ、陸で生きる道を選んだ艦娘という人類、深海棲艦は海で生きる道を選んだ(適応した)人類だと考えると、それは人間に取って代わる新人類と言えるのではないか?もしも何処かで歯車が狂っていたならば、私達は艦娘と深海棲艦の家畜となっていたのかもしれない。近い内にそうなる可能性はあるが…

 

 だが歯車が狂うタイミングは人間達で戦争が起こったか否かだろう。艦娘と名が付いている以上、過去の戦争の遺物である艦が無ければ彼女達は生まれなかった筈だ。おそらくそれは深海棲艦も同じだとすると、人間の掃除にでも来たと考えるのが正しいのだろうか?だがそうなると、何故艦娘という人類の守護者として艦娘達は存在するのか?まるで病原菌と免疫機能の様な関係性だが、そう考えるとしっくりくる。問題は”病原菌はどちらで、誰に対する免疫機能なのか”これに関してはもっと深く考察して良いのかもしれない

 

 

 上記二つが主となって考えるべき事象であろうが、正直些細な事でしかない。異世界漫画でいう所の人間以外の種族が存在している世界の様なものだ。彼女達がたまたま人間より優れた体を持っており、人間と同じ姿をしている。ただそこに性格という人間と同じ変数の様なものを持っており、生まれた時に決められた性格があるだけだ。性格というものは生き方によっては変わる事だってあるし、そこは人間と同じである。これに関してはそこまで恐れる事でもないだろう。些細な事だ

 

 

【鎮守府の経過観察・推察】

 ここに初めて来た時に皆の反応は少しの拒否感だった。新たに出会う艦娘でしかも他所の鎮守府というのもあっただろうが、ここがブラック鎮守府だからだろう。あまり良い顔をしていなかったのを記憶しているが、違う意味で彼女達は裏切られた様だった

 

 それはそうだ。ただ提督と艦娘の立場が変わっただけの場所なのだから。詳細な話をしていなかったとはいえ、以外にもショックが大きいようだった。彼女達の中で何か思う点があったのだろう。これを機に便乗して反逆するかと思ったが…宛てが外れた。つまらない

 

 私を敵視してくるのはここにいた艦娘のみ。他の皆は懐柔されようとしているらしい。というのもそれを教えてくれたのは意外な人物で、天龍が教えてくれた。何でも駆逐艦を筆頭に私を陥れないかとの事だった。しかしそれに皆は反対。その時の駆逐艦の様子が泣きそうな顔をしていたとの事だったので、それを見て報告したらしい。鬼の目にも涙。何て言った日には龍田に切り落とされそうなので黙っておく

 

 

 そしてここの提督だが、何かを隠している。初めて出会った時はそんな印象だった。あからさまに弱気な演技をしており、そうまでして隠したい何か。あの時はそうとしか思えなかったが、性格の変化が速い所から考えるに、提督とはどういった人間でなくてはならないか。というのを見せられている印象だ

 

 仕事は出来るが演技は苦手な所を見るに、おそらく誰かの入れ知恵によるものだろう。それも数日程度しか練習していないような演技を見るに、元師から何か指示が下ったと推測すべきだろうか。そうでなければ元師以外の第三者の誰かという事になるが、流石に他所の鎮守府にわざわざ移動する人間を動かして得する人間など限られてくるだろうし、私を知っている人間も限られてくる事から元師の仕業と考えて間違いなさそうだ

 

 しかし疑問なのが何故元師がここまでしてくるんだ?確実に何か裏がある。私を過保護と言える程に干渉してくるし、人として堕落させようとしている様で不愉快で仕方ないが、恐らく元師の何か考えがあっての事だろう。私は元師に拾われたような存在だし、あまり文句を言うものではないか

 

 

 愚痴はここまでにして続きを書こう。意外にもここの艦娘は提督の肩書を持っている私にとっては害になる存在ばかりだと思っていたがそうではなかった。不知火や加賀といった現在の環境に不満を持っているが大々的に動くことはしない中立の存在。瑞鶴や鈴谷といったの環境を利用し悪意のままに動く敵対の存在。如月や文月といった明らかに現状に不満を持っている味方の存在。この三つに分けられている

 

 敵対してきた者達には必ず障害となって目の前に立ちふさがってくるかと思ったが、それは初めだけだった。時雨と愛宕の話で何かとんでもない障害が訪れると思っていたのだが、全くの見当違いだった様だ。あの時のワクワクを返してほしい。楽しそうだと思ったのに…

 

 しばらく警戒しなければならないのが敵対している者達だったが、鈴谷はあくまで私だけを狙い、瑞鶴は自分より下の者に対して強く出る傾向が見られる。瑞鶴は早々に手を打つ事で事なきを得たと思うが、鈴谷が分からない。何故私だけを狙い撃ちして敵対行為を取るのか?艦娘に鈴谷について聞いてみたが、特に何もされていないとの事だったし、ウチの艦娘達も同様の返答をしてきた。引き抜きなら分かるが、そうでもないようだし、一体何がしたいのだろうか?

 

 敵対している者で金剛姉妹が特にヤバいと考えていたが、金剛と霧島以外は目立った動きはしてこない。寧ろ榛名と比叡に関してはセクハラしてくる程度だったので、色々と事前に聞いていた情報と違う点がいくつもある。もしかしたら彼女達も被害者だったのかもしれない。あの装置の辻褄合わせに彼女達が利用されていたと考えるなら……流れ的に裏ボスが出るフラグが立ちそうなので、これ以上深く考えるのはやめよう。フラグは立たせなければ起こらないものだ

 

 

 皆と集まって一緒に寝たあの日の話し合いをした時を振り返ろう。あの日は比叡と榛名がやってきた。彼女達の目的は未だに不明だが、比叡が榛名を巻き込んでの行動、そして今までの榛名の行動鑑みるに、何かお願いをしに来たと考えるべきか?

 

 無理矢理言うことを聞かせるのならあの中で私を人質にとってあそこにいた全員に脅しをかければ済むはずだ。彼女達はそれが出来たはずだがしなかった。こちら側の印象を良くした上で何かを頼もうとしたと考えるべきか。あの日は結局金剛を問い詰めて指示したものではないと分かったが、あの時の反応は怒りというよりかは拒否に近い反応だった。もし比叡の行動が何らかの助けを求めようとしていたのならば、先程の装置の説が正しいのかもしれない

 

 まぁ、ここまで書いておいてあれだがその説は確実に無いだろう。というのもここの過去を調べていくうちに発覚したことだが、榛名が過去に轟沈していた事を知った。つまり今いる榛名は二代目ということになる。金剛達が着任したのは榛名が主力となって活躍していた時で、そんな時に榛名は沈んだ

 

 原因は慢心。女提督は初めて榛名が着任した時からずっと主力で運営しており、解放してきた海域は全て榛名が存在していた。しかし敵の主力に辿り着く前に大破していた艦娘がいたにも関わらず進撃を繰り返しており、当時も同じ様に進撃して敵主力と遭遇した時に榛名は大破した艦娘を庇って轟沈した。守られた艦娘もその時の戦闘で轟沈したようだ

 

 当然それに怒ったのは金剛達だ。女提督も榛名が轟沈してからは今までやってきたことが如何に愚行だったかを悟り、しばらくの間は腑抜けとなってしまったらしい。それを狙って金剛は提督に任せていられないと反旗を翻し、今に至るということだろう。金剛が姉妹だけに対して保守的な態度を取るのはそれが理由だろうな

 

 だがこれはあくまで推測の為、全てを悟ったかのような顔をしながら彼女とぶつからない様に。あくまで彼女の本心から聞き出すのが一番なのだ。決して先入観を持ちながら彼女と接するのはしないこと

 

 全ては女提督の慢心から始まり、金剛の暴走がここをブラック鎮守府に変えてしまった。元をたどれば全て女提督の責任である。提督としての責任を放棄していた彼女は今も提督として働いており、元師からブラック鎮守府と認識されているにも関わらず今も活動を続けていられているのは黙認されているからだろう。黙認の理由を付けるならば、おそらくは艦娘についてのレポート作りだと推測。その様な理由でなければ黙認する理由が無いしな

 

 

 しかしあの晩に雷に膝枕された時はつい感極まって涙が出てしまった。その膝は柔らかく、閉じた膝が綺麗に頭とジャストフィットし、まるで自分の探し求めていた枕はこれだと言わんばかりの気持ち良さだった。正直あの状況ですぐに目を開けなかったのを後悔している。生まれて初めての膝枕とはいえ、堪能しようと目を閉じたままにするのは良くなかった。まぁその後の暁の抱きしめが強すぎて本物の天国が見えそうになったのは内緒だ

 

 

 出張してきた深海棲艦達は艦娘をスカウトしに来ていたと考えるべきか。目的は裏切り行為を起こさせる為。しかし何の理由も無しに敵に裏切るとは考えていないだろう。だから裏切る艦娘がいる基準をある程度考え出した。それがブラック鎮守府。その証拠にウチの近くに深海棲艦がいた。ここを狙ってスカウトしに来たのは何人もの艦娘が不遇な扱いを受けていたからだろう

 

 おそらく鳳翔はスカウトしに来た深海棲艦を偶然か必然か発見したんだろう。その時にどんなやり取りがあったかは不明だが、裏で深海棲艦と手を組んでここから裏切る艦娘の手伝いをしていた。おそらくあの機械を操作して皆の記憶をいじっていたのは鳳翔。今回の俺の存在が認識されない事件の時に鈴谷を連れてあの機械の場所に案内したのは、あそこに自分が戻ることは無いと考え、今後艦娘の裏切りを手伝わせる為に鈴谷を連れて行ったと推測すべきか

 

 だが鳳翔の優しさは本物だ。おそらくだが金剛の被害にあった艦娘や、提督のやり方についていけない艦娘達を選別して送り出したのではなかろうか?あくまで人間性という点では私の知っている鳳翔と変わらないのだろう。その証拠に夕立におにぎりの作り方を教えていたらしい

 

 塩と砂糖を間違えており、お世辞にも綺麗とは言えない凸凹した丸いおにぎり。海苔なんて貼らずに白米だけで作られたシンプルな出来だった。料理を作った事が無い夕立が作ってくれたもの。正直泣きそうだった。料理なんて今までしたこと無かったはずなのに、司令官という人間を嫌っている筈なのに、労いの気持ちを込めてくれたであろう不格好なおにぎりだったが、本当に嬉しかった

 

 司令官という人間に対する壁が一つ無くなったのだろう。この大きな一歩のきっかけを与えてくれた鳳翔には何と礼を言って良いか分からない。だから出来る事をやろう。彼女が望んでいる事に本気で答えよう。それが私にとって出来る最大のお返しだろうから

 

 

 しかし最近はちょっとおかしい方向に鎮守府が曲がっているような気がする。前の様に張り詰めた空気から緩みきった空気になってきているような…

 

 鳳翔が裏切ったから気持ちを切り替えようとしているのは皆の様子から見て取れるのだが、それにしてはちょっと緩みすぎていないだろうか?

 

 想定なら裏切られたショックで空気が悪くなると思っていた。だが現実はどうだ?鳳翔が敵に回った。これはもうどうしようもない事実と皆は受け止めていた。それにより割り切ってはいたようだが、まぁどうにかなるだろうと言った楽観的な未来を予測したような割り切り方だ

 

 江戸時代にあったええじゃないかに良く似ているんだが、あんな感じの不気味さがある。一体彼女達は何を見据えているんだろうか?正直怖くて仕方ない

 

 …だがそれは自分も同じだ。艦これの世界に転移した時の様に…あまりに非現実的な未来がビジョンとして浮かんでいる。実際それは現実となってしまったのだが…

 

 鳳翔は絶対に轟沈させる。それは自分の中で決めていたはずなのに、目を閉じれば鳳翔が食堂でご飯を作りながら皆を迎えるビジョンが頭から離れない

 

 いったい自分はどうしてしまったんだ?何故このような大団円が頭に浮かぶ?何故今回の出来事が一件落着で済むと思っている?何故、何故、何故???

 

 クソッ、本当に気にくわない。いい加減に現実逃避はしたくないのに何でこんなにも幸せな未来が思い浮かぶんだ。こんな未来が起こるはずないのに

 

 

【艦娘の心境の変化】

 彼女達は鳳翔が裏切ったと聞いたのに、さも当然かの様に参加しだした。正直ちょっとおかしい。いや、今回の場合は異常というべきだろうか?

 

 自分の初戦は同じ艦娘同士での戦闘+深海棲艦達だった。その中で夕立は敵であった夕立を轟沈させた。そのことが軽いトラウマとなっていてもおかしくは無いと思うのだが、何ともない。というよりかは意志の強さを知ったように思える。その上で夕立は今回の作戦に挑んだと言うのだろうか。そうならば彼女の心は途轍もない強さだ

 

 例え物事を知ったとしても、自身がそれを受け入れる何て事は並大抵の事ではない。精々知ってはいるが共感は出来ない程度で止まるのが普通だ。だが彼女はそれを受け入れ、前を向いて生きている。私の理想とする人間の強さと言える一つの要素を彼女は持っていた。夕立に対する興味が尽きない所だが、夕立以外も前を向く力を持っているのだろうか?彼女達から学ぶ事はまだ沢山ありそうだ

 

 しかしそれなら何故彼女達は前任の環境を良しとしていたのだろう?ここまで精神力が強いならあんな事になっていない筈だ。何なら前任を逆に追い出して良そうなものだが…

 

 もしかしたらウチの鎮守府にもここと同じ機械があるのかもしれない。もし前任があれの携帯型を持っていたと考えるならば、危害を加えようと近づいてきた所を反抗する気力を失くす。或いは反抗するという記憶自体を消して、恐怖のみを残していたのだろうか?それならば説明がつくが、どうにも無理矢理だ。恐らく別の可能性だろうが、何も思いつかないので今の所保留としておこう

 

 

【実験結果】

 以前の調査書で書いた未来予測通りになるという実験だが、結論から言うと完全に勘違いのようだ。メモの記した事象通りになるかと思えばそうではなく、完全に彼女達の意志によって結果は左右された

 

 これには少し安心した。もし私の機嫌が悪い日がたまたまあり、普段なら思いもしない事を艦娘に向けて考えたらその通りになるという悪夢のような結果にならなくて良かったと思う

 

 しかし二度と同じ事をするべきではないな。今回の実験で分かった事は私の言葉の重みが軽くなった気がする

 

 言葉とは一つ一つに力があり、言霊と言う言葉がある程に言葉には力がある。催眠術に長けている人間は言葉をフルに利用して相手に催眠を掛ける事も出来るし、歌手は歌う事によって聞いた者達の心を揺らし、涙を流させる事もあれば、歌によって勇気や力が湧いてくる事もある。それほどに言葉というのは強力なのだ

 

 その重みが軽くなるということは、伝えたい気持ちや届けたい思いを言葉に乗せて話しても全く相手にされなくなるということ。ただ聞いた者達を不快にさせるだけだ。嘘をつくと碌な事が無いと世の子供達に教えるのはこういう意味がある。まぁ、恐らくはここまで深く考えて教える人間は今の世の中にそうはいないだろう。歳を取った老人が説教する時に話す時くらいか

 

 だけどこれなら利用出来る。何をやってもうまくいかなかったあの頃と同じ事がこちらでも起こるかも知れないと今回の実験ではっきりとしたからだ。今度はこれを逆手に取って逆の事を試してみよう。もしかしたら想定外の結果になるのかもしれないが、今から結果が出るのが待ち遠しい

 

 

【電について】

 私が反省室で倒れて目が覚めた時に電が傍にいた。その時に話した内容だがうっかり鳳翔の練度をばらしてしまったのだが、電は何故か知っていた。それはありえないハズなのに

 

 練度とは言わばその艦娘の能力を明確化した基準であるもので、艦娘の個人情報の一つである。それを知っているのは本人と提督の二人のみ。演習の時では情報共有の為に知らせる事はあるが、それを確認するのは提督のみだ。勿論、これを外部にバラせば情報保護に違反するのでその者はしばらくの間営倉行きとなる。それ程までに秘匿されなくてはならない情報なのだ

 

 過去に個人の練度を鎮守府の艦娘に広める事で、いざという時に練度の高い艦娘の元に集合し、各々の身を守らせるという名目で運営していた鎮守府があった

 

 結論から言うとそこの鎮守府は解体となった。理由は練度による艦娘達の差別化が行われたからだ。練度の低い艦娘達は高練度の艦娘達に守ってもらうという約束と引き換えに奉仕をして貰うというルールを提督が決め、それに味を占めた艦娘が他の艦娘の練度を上げない様に事故に見せかけた妨害を何度も行い、足の引っ張りが行われていた。無論、そんなことを行った艦娘は最終的に解体された

 

 以上の事件があったので、基本的に提督以外の人間は知っていては困るのだ。だから電が鳳翔の練度を知っていたというのはあってはならない事なのだ。恐らくだが誰かが電に向けて鳳翔の練度をばらした。もしくは鳳翔が教えたという線もあったが…いや、あり得そうだな

 

 だがそれでも低い確率だ。基本的に裏で誰かが動き、電に入れ知恵したと考えるのが正しいか。そんな事が出来る人物は限られてくるし、もしかしたら今回の異動や事件までもが仕組まれた物なのかもしれない。なんにせよ気に食わないな

 

 それでも彼女が私に対して害を加える気はないだろう。あくまで黒幕は電の裏にいる人物だ。そこだけは勘違いしてはいけない

 

 

【自身の立場・変化】

 この世界に来てから何日だろうか。いい加減一日が濃すぎて細かい所まで覚えていないが、充実しているんだろう。でなければ以前と比べて生きているという実感はないはずだ。未だに不安は変わらないが

 

 しかしそれが同時に不安でもある。以前は常に何かをやればそれが結果として出たが、その先の目標が曖昧になり次第、先に進むのが億劫となりなにもやらなくなってしまっていた。だがここではそのような事が起こらない。ひたすらに深海棲艦と戦えば良いし、どうすれば勝てるかを考えるだけで仕事をしていると認識される。ある意味私に合っている仕事だ

 

 だがもしこの戦争が終わってしまえば私はどうなってしまうのだろう?恐らくそのまま軍人として生きるか、それとも一般人として生きるかを迫られるだろうが、おそらく一般人として生きるのを強要されるはずだ。私は元から軍人ではない。社会を知らないただの子供だ。そんな人間が軍に残ったとしてもどうしようもないだろう

 

 しかしそれは艦娘達にも同じ事が言える。彼女達の力は危険であり、将来的には反旗を翻して人類を襲うだろう…と、そう考える人間もいるはずだ。だがそれは彼女達の心の持ち方次第で人類に反旗を翻すなんてことは無くなるはずだ

 

 仮に霊長類最強の人間が力に身を任せて犯罪を何件も繰り返し、息絶えるその時までそのような事を繰り返すのだろうか?これに対する答えは簡単。ありえない。断言するにはその人の人間性によるが、まぁ九割九分無いだろう

 

 何故起こらないとここまで断言出来るのか?それは略奪や犯罪以上に楽しい事が世の中に溢れているからだ。人間の原動力となるのは生きがいという喜(き・よろこび)への渇望。楽(らく・たのしい)というプラスの気持ち。苦くとは対極的にあるのを得て生きようとする。それが人間という生き物なのだ

 

 しかし今の彼女達には戦争という問題がある為に人間社会を知る事が出来ないのだ。喜きや楽らくと言ったものではなく、戦争と言う苦くを生み出す事しかない出来事しか彼女達は知らない。鳳翔の様に戦闘中毒者はその苦くの中から喜楽きらくを見出した者ではあるが、結局は喜楽きらくを得ようとする為に苦くを求めているに過ぎない

 

 だからこそ彼女達には人の生活を知ってもらいたい。人として生きる喜びを知り、人として成長するという事を知っておかなければならない。知らないだけで損だと思うのが今の人間社会だ

 

 もし人間社会の良さを見つけ出す事が出来たならば、私の身も安全だろう。少なくとも提督を鬱憤の憂さ晴らしに使われることは無くなるはずだ

 

 私はここに来てから変わった気ではいたが、それはあくまで外面的な物。私の本質は変わっていない。身の安全に全力をかけ、未来への不安を失くそうと試行錯誤して生きる者。それが私だ

 

 彼女達には人間として育って貰わなければ困る。何故なら私が人間として生きれるように彼女達から学ばなければならないからだ。どうか一日でも早く彼女達が人として生きられる様を見てみたいものだ。それが私にとっての喜であり、将来的な楽であるだろうから

 

 

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