この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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ちょっとしたネタ作りの小話

私は小説を書く上で自分の日常をベースにしながら書いているんですが、その時に感じた事や思ったことを小説に使える様に改変し利用しています

例えにミステリーをジャンルにした漫画を出すのですが、現在起こってる場面のコマって縁が太いんです。過去や記憶を話す内容は縁が薄く、背景等の全体を描くのは縁自体が無いんです
ほんの些細な違いなんですが、これを見て面白い!って思ったんです。こういった少しの工夫が面白さを一段階上げる工夫なのだと考えさせられました

こういった些細な事を小説にも反映させて、少しでも面白さの底上げを出来たらよいなと思っています


緩やかに終わらない一つの物語

愛宕「提督!」

 

 

母港に帰ってきた途端に聞いた事のある声に呼ばれた。その方向を向くと、金髪のロングヘアーにボロボロの体を揺らしながらこちらに向かってくる一人の女性がいた。血が体の至る所から出血しており、何故生きているのかを疑問に思える程の重症であった彼女は、そんなことを気にもしないかの様に走っていた

 

傍には意気消沈した艦娘達が揃っており、皆の顔は複雑極まれりと言った表情だった。そこに一人の艦娘がおらず、おそらくそれが皆の表情の理由なのだろう

 

 

愛宕「金剛が…金剛が…!」

 

「沈んだか?」

 

愛宕「ちっ、違うの!そうじゃないの!私、私が…!」

 

電「…司令官さん。ひとまず皆さんを入渠させてはどうでしょう?」

 

愛宕「ま、待って!その前にどうしても言っておきたい事が!」

 

電「そんな怪我で言われても困ります。せめて手当を受けてから報告してください」

 

「まぁまぁ、言いたい事があるなら今言ってくれ。それほどの事なんだろ?」

 

電「…はい。分かったのです」

 

 

どこか不安そうな声のまま承諾した電だが、それよりも聞いてみたい話の方が重要だ。ここまで切羽づまった表情だ。それ程に重要な事なのかもしれないのだから

 

 

愛宕「こ、金剛が…わ、私達の身代わりになって深海棲艦達に連れていかれて…!」

 

愛宕「相手は今まで戦ってきた深海棲艦達と違って、見たことも無い奴が相手だったの!艦載機を飛ばしてきたから空母だと思うんだけど、一撃で部隊の半分が大破まで追い込まれて…!戦艦達の攻撃を受けても何ともないみたいだったし、どれだけ攻撃を浴びせても小破まで持っていくのが精一杯で!それから!それから!」

 

「…もういい。敵の報告は結構だ」

 

愛宕「でもっ、金剛が…!」

 

「代わりになったんだろ?お前等全員の帰投と引き換えに」

 

愛宕「し、知ってたんですか!?」

 

「あぁ。取引したからな」

 

霧島「…はっ?」

 

 

呆気に取られてしまった様な顔をする主力艦隊と罪悪感にかられた顔をする救出艦隊、そしてそれを品定めする目で見つめる二人の重雷装巡洋艦

 

完全にフリーズしてしまった彼女達だったが、その中で一人だけ時が動き出した様にフラフラとしながら近づいてくる艦娘がいる。その顔は酷く不安定で、感情らしい感情を一切読み取れなかった

 

 

比叡「…つまりアレですか?貴方は金剛お姉様が連れていかれたのを知った上で悠々とここにいると?」

 

「そうだな」

 

比叡「…どうして?」

 

「…金剛は沈めるつもりだった。と言えばお前はまともな反応を返してくれるか?」

 

 

その瞬間、周りにいる全ての艦娘から敵意を向けられた。殺意ではなく、純粋な敵意。コイツは敵だと明確な拒否感を持った目をしたいくつもの目が自分を刺してきた

 

特に強い殺気を感じるのが目先にいる艦娘だった。今にもとびかかりそうな興奮した表情と一定のテンポで肩が上下しており、視線を僅かでも逸らせば喉笛を噛み千切られそうな気がする雰囲気に体全体が震えてしまった

 

 

比叡「ふざけるなっ!」

 

「ふざけてない」

 

比叡「なんでっ!?なんでそんな事が言える!なんでそんな選択肢を選ぶことが出来る!?」

 

「アイツが過去に何をやったか分からないアホじゃないだろ。俺が沈めるべきだと考えた点はそこにある」

 

比叡「理由になってない!たったそれだけの理由でお姉様は…!」

 

「集団心理っていうやつだ。周りに悪い事をしている奴がいればそれに合わせる様に新たな人間が同じ悪い事をする…お前の鎮守府は将来的にそうなりかねなかった。だから原因である金剛を排除しようと考えただけだ」

 

霧島「…そんな、理由で?」

 

比叡「金剛お姉様が深海棲艦についていったのはお前の指示だとでも言うの!?」

 

「……いや、そんな指示を出した記憶は無い。寧ろ俺ならお前等の目の前で金剛を解体している。その方が自身の末路をイメージさせやすいだろうからな」

 

「それに俺は金剛を餌に取引こそしだが、金剛にお前が犠牲になれと命令を出した記憶は無い。そうなるだろうと見越したうえでの提案だった」

 

比叡「…じゃあ何?金剛お姉様が自分から進んで犠牲になったと?」

 

「だろうな」

 

比叡「…現場にいなかった貴方に、何故そこまで分かるんですか?」

 

「……教える義理はない」

 

比叡「っ…!ふざけるな!」ブンッ

 

 

怒りに任せて殴りかかってくる戦艦が一人、ボロボロの体を無理矢理に動かしているのかフラフラと動き出し、力が握られているのか怪しい拳で殴ろうとしてくるが、手を添える様にして拳を受け流す

 

すぐさまカウンターで腹に向かって膝蹴りを入れる。少し八つ当たりが入ってしまったが、それでも大破した戦艦なのでダメージは殆ど入ってもいないだろう。まぁ言うべきはそこではないだろうが

 

その行動を見てか咄嗟に止めに入ろうとする艦娘を左手で何もしないように静止をかけ、ただ殴りかかってくる暴徒と化した艦娘の相手に集中する。おそらく止めようとする者達も自分と艦娘の両方を止めようとしているのだろうが、こんなにも怒りをぶつけて殺しにくる人物を止めるのは勿体ない

 

 

比叡「っ、よくも!」グォッ

 

「上官に手を出すというのがどれ程の行為か分かっての行動か?」MISS!

 

比叡「分かってる!それでも!貴方は殴らないと気が済まない!」

 

「ホー、ようやく姉と認める事が出来た奴をそんな風に言われて悔しいからか?」

 

比叡「…!知った風な口を利くな!何も知らない癖に!」

 

「何も知らんな。提督を脅して鎮守府の運営を危うくした馬鹿者としか俺の記憶にはない」

 

比叡「だからといって金剛お姉様は私にとってたった一人の姉だ!あの人を侮辱する様な事は許せる訳ないだろうがっ!」

 

「へ~?そんな奴が一度榛名に手を掛けた事もあったのにか?味方だけでは飽き足らず、お前の大事な妹であり、自身の守るべきである存在の榛名にさえ手を掛けた奴だぞ?」

 

比叡「っ…!それでもっ!あの人は私にとって姉だった!たった一人のお姉様なんだ!」

 

「だったら何故力ずくでも止めなかった?本当に姉を想う気持ちがあるのなら止めれただろう?」

 

比叡「それっ、は…!」ピタッ

 

「お前の言ってる事は自分の身を犠牲にしてまで私達を守ってくれたお姉様しか見ていないから言える事だ。過去のアイツがどこまでクズだったか知らない訳じゃあるまい」

 

女提督「そこまでよ」

 

 

その場を収める為にやってきたであろう責任者がやってきた。その顔は少しやつれたような顔をしているが、それでも生気を感じさせる目には凄みを感じさせるほどだった

 

 

女提督「これ以上ウチの者を虐めるのはやめて欲しいわね」

 

「虐めるってのは明確に力の差がある場合に行われるものですよ?立場の力の差はあれど、あの時の彼女はそんなもの気にもせずに殴りかかってきました。ならば力という点だけで判断を下すしかなく、いじめられていたのは寧ろ私の方では?」

 

女提督「…仮に貴方が比叡に殴られてたらどうしてたの?」

 

「別に何もしませんよ。部隊を壊滅寸前で止め、自分以外の仲間を全て帰投させる事が可能だと見出した金剛は素晴らしい先見の明を持っていた。そんな彼女を侮辱したのです。一発や二発殴られても不問にしてましたよ」

 

女提督「…なるほどね。ならば歯を食いしばりなさい」スッ

 

「…どうぞ」パチッ

 

 

目を瞑った瞬間に感じたのは鋭い痛み。頬を刺すような痛みと、ジンジンとした熱が痛みを感じさせた。叩かれた瞬間に目を少し開いてしまったが、軽蔑の目をした者や驚いた様子の者、それを見ただけでも良かったと思えるには十分だった

 

 

「ふむ…これでは比叡の代わりに怒りをぶつけたという事でしょうけど、これで良いのでしょうか?」ジンジン

 

女提督「何?比叡からも受けるべきだと言うの?」

 

「はい。貴方が代わりにしたとて本人がやらなければスッキリしないと思いまして」ニッコリ

 

女提督「全く度し難い変態ね…比叡、どうするの?」

 

 

問いかけられた本人は呆然としており、隣にいた霧島から軽く小突かれた事で現実に引き戻されたようだ。オドオドとした様子の彼女は本当に良いのかと疑問を感じているようだが、後ろで愛宕が砲門を構えているのでせめて比叡に殴られる方がマシである

 

 

比叡「…いえ。私はもう良いです」

 

女提督「そう。では話はこれで終わりね。負傷した艦娘は損傷が酷い者順に入渠を開始。空母と戦艦は高速修復剤を使用。それ以外の者は悪いけど時間をかけて入渠してちょうだい」

 

艦娘達「了解」

 

女提督「北上と大井、お二人の増援に来ていただき感謝します」

 

北上「いやいや。こちらこそ面白いモノを見れたよ。内容としては最悪だったけどねー」

 

大井「私としてはサッサとあんな奴は提督を辞めてほしいですけどね」

 

女提督「…ところで元師はどちらでしょうか?貴方達が来るのと同時にこちらへ向かうと連絡を頂いたのですが…」

 

北上「あー、元師なら少し寄るところがあると言って来るのが遅れるって連絡がさっき来たよ。だからもう少しで到着するんじゃないかな?」

 

女提督「…なるほど。分かりました」

 

大井「北上さん、早く一緒にお休みしましょう?出来れば誰も邪魔する事の無い二人きりの空間で」ゲヘヘ

 

北上「はいはい。そういうのは二人っきりの時にね~」ナデナデ

 

「……」パクパク

 

電「…お二人はいつもあんな様子ですから」

 

「…すげぇな」

 

 

 

元師「良し、とりあえずはロシアンルーレットでもやるか。6/6で当たりを引ける。先行は譲ってやるから早速引き金を引け」

 

「はーい」ガチャッ

 

元師「お」

 

「ドーン!」ガキンッ!

 

電「…な」

 

電「何してるんですか貴方はぁ!!?」ゴォン

 

 

後頭部に向けて走る痛みと呼ぶにはあまりに強い衝撃。それは鉄の鈍器で殴られた様であり、恐らくだが頭蓋が陥没しているだろう。だが不思議と痛みらしきモノはすぐに感じなくなり、代わりに視界が赤く染まっていった

 

 

応急修理要員「はーい、お仕事お仕事~」

 

「…ふぅ。死ぬところだった」0.1/2 大破

 

大淀「死にかけです!死にかけてます!というか多分一回死んでます!」

 

「まぁそれは置いといて「置いとけません!」これが作戦を踏み切った理由ですよ」ダラダラ

 

元師「…弾詰まりが起こると分かってたと?」一応保険もかけてたみたいだが

 

「えぇ。そこまで先見の明があったと、さっきの出来事で分かりますよね?」

 

元師「…何時から分かってた?」

 

「向こうに連れ去られた時に」

 

元師「…どうしようもなかったのか」

 

「えぇ。連絡手段も何も無かったので。出来る事と言えば敵の戦意を削り、役割さえ忘れる程に入れ込まれていると錯覚させ、私が考える最高の盤面でギリギリ勝利を得れる様に考えた結果です」

 

「特に苦労したのは鎮守府に攻める話を聞いた時ですよ。提督だけは失う訳に行かなかったので大分危ない橋を渡りましたがね」

 

女提督「そういえばそれが気になってたわ。何で主力艦隊の方には過剰とも言える戦力が来て、逆に防衛組だと少し苦戦する程度の敵しか来なかったの?」

 

「それほど金剛への恨みが深かったって事です。まぁ、人として褒められた事は何一つしない、クソ野郎も良いとこな事をしましたが」

 

女提督「…私に対する評価は?」

 

「それを丸ごと金剛に被せたんですよ。ここまで言えば分かるでしょう?」

 

女提督「……」

 

 

沈んだ、とは言い難い。寧ろ後悔の念に駆られたと言った方が正しいだろう。罪を被せたのは自分だが、被せる程の罪があり、それがあまりにも重すぎた。結果を見ればどれ程だったのか。察するのは容易いだろう

 

 

「…ま、クソだったって事です。私も、貴方も」

 

曙「それは聞き捨てならないわね」

 

「ほ?」

 

曙「結果はどうあれ私達の提督は皆が帰還出来る作戦を最後の時まで考えてたわ。だけど貴方はどうなの?部下を切り捨ててこれ以上の被害を受けないようにしただけじゃない」

 

曙「貴方は部下を切り捨てる事しか選べなかったの。それだけで貴方は提督としての器はその程度って事ね」

 

「…返す言葉も無いな」ヘッ

 

曙「……そうやってへらへらして、本当にクソね。貴方が何で提督なのか分からないわよ」

 

「いやいや、実際は泣きそうだぞ?あともう少し追い詰められたら泣いてるって」

 

曙「……なら追い詰めてやろうかしら?いや、貴方の場合は泣き顔すら出来ないように息の根を止めた方が良いわね」ガチャ

 

元師「おっと、それは困る。コイツには今回の報告をしてもらわなければならないのでな」

 

曙「…チッ」

 

「…さて、そろそろ真面目にしましょうか。皆、元師と女提督だけにしてくれ。聞き耳を立てたものは処罰の対象とするからな」

 

曙「…ふんっ」ズンズン

 

 

怒り心頭、背後に般若が見える。様々な怒りの表現があるだろう。それを色に例えるなら赤よりの黒色。ブチギレ一歩手前といった所だ。そんな曙を落ち着かせながらこちらに向かって厳しい目を向けながらそれぞれが戻っていく

 

自分には非難する様な目、隣にいる女提督には憐れみと少しの見直しといった視線、元師に関しては無視に近い感情を向けていた。様々な思想が皆の心中にあるのだろうがそれにそっと蓋をし、入渠に向けて歩いて行く背を見送った

 

 

女提督「……あんなに怒らせて、何が目的よ」

 

「……今後に響かない為だよ」

 

女提督「…分かってたの?」

 

元師「はいはい。腹の探り合いをする必要はもう無いだろう?今から報告してもらうんだ。隠し事一つさえ許さんからな」

 

「ハッ」

 

女提督「…申し訳ございません」

 

元師「さて、本作戦の胆であった鳳翔の捕縛、それと金剛の捕縛だが…両方失敗だったな」

 

女提督「……」

 

元師「では提督よ。お前に課した任務はブラック鎮守府となっていたここの調査と改善、提督と艦娘の人間性の観察、そして深海棲艦の調査だったな」

 

 

横からギョッとしたような顔をしてこちらを見る女提督の視線が視界に入った。おそらくこちらが何の目的で鎮守府に来たかはある程度理解していた様だが、反応を見るに最後のだけは知らなかったようだ

 

 

「はい。改善は怪しいですが、他は出来たかと思います」

 

元師「では報告を聞こう。お前から見て奴等はどう映った?」

 

「…艦娘と同じ、ですかねぇ」

 

「もっと正確に言うならば人間となんら変わりません。力という点を除いてですが、彼女達にもそれぞれの考えがあり、人類と敵対する者もいれば和解を望む者。残虐性に特化した者もいればめんどくさがりに特化した者だっていると思われます」

 

「互いに敵がいて、守るべき者達がいる。その点では人類が今までやってきた戦争となんら変わりませんよ」

 

 

少し間を開けながらシミジミとした声で報告をする。彼女達も理由があって戦争をするように見えたし、艦娘達も理由があって存在する。どちらも様々な意思を持って戦っているというのは理解がしやすいものだった

 

しかしそれだけが意味する訳ではないというのは元師も理解しているだろう。この元師の事だ。おそらく今回の調査で調べた事なんて既に知っている。あくまでこの報告会は自身の価値を示すものであるという事を理解して動かなければならない

 

 

元師「…はぁ。どうしてお前はこうも予想を裏切るんだ」

 

「ですが作戦通りではあったでしょう?全て貴方の作戦通りに…」

 

 

元師の作戦としては恐らく自分が辿った軌跡が全て作戦の内だったのだろう。その証拠に何もかもが上手くいきすぎていた。増援を頼んだ時のスムーズすぎる対応、電の情報収集、女提督の行動、果てには現在のこの状況までもが作戦の内なのかもしれない。何にせよ、今の状況は全てにおいて元師が理想とした状況なのは間違いないはずだ

 

 

元師「…優秀なのか良く分からん奴だな。意図を読むのだけは無駄に上手い」

 

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

「ですが今回の作戦は彼女の慢心がなければ起こらなかった事。元々の原因は全て女提督の慢心から始まり、金剛の暴走。さらには数名の艦娘を助長させてしまった」

 

「ですからここは一つ、協力しては頂けませんか?」

 

元師「話の展開も急すぎるし概要も何も聞いてないが、まともな意見だとは思えないぞ…」

 

女提督「…何する気?」

 

「何、こうまでバラバラになってしまった皆をまとめ上げるには明確な敵の存在が必要でしょう?敵は仲間を作らせ、共通の目的の為に進んで行ける存在となりますからね」

 

元師「…お前が何を考えているか何となく察したが、お前じゃなくても深海棲艦で良いだろう?」

 

「深海棲艦では駄目です。彼女達は知ってしまったので」

 

女提督「…何人の艦娘が知ってるの?」

 

「少なくとも主力艦隊と救出艦隊の者達は知ってしまったでしょう。自分たちの成れの果て…そういったイメージを少なからず抱いているでしょうから」

 

元師「ふむ、ならば私がやろう。そういうのには慣れてるしな」

 

「いや、元師が舐められるのは不味いですよ。元師にそこまでの力が無いと他の者に知られては困るでしょう」

 

元師「ならば誰がやるんだ?少なくともお前にそんな事をさせる訳にいかないぞ。ただでさえ自分達の艦娘達と仲違いを起こしそうなのに…」

 

「コラテラルダメージというやつです。今後彼女の元で働く艦娘達からしたら、何時かは顔を見合わせなければならない人間程度の者が丁度いい。元師の様に力が無いので、怒りもぶつけやすい小者としては良いでしょう」

 

女提督「…舐めないで貰える?そんな事をしなくても私が彼女達をまとめ上げます」

 

「…との事ですが」

 

元師「くくっ。お前の懸念してることは分かる。どうせ彼女が頼りなく見えてるか、艦娘との軋轢を気にしてるんだろう」

 

元師「だが侮ってもらっては困るな。彼女はれっきとした軍人だ。お前と違ってな」

 

「…言葉が過ぎました。申し訳ございません」

 

女提督「…もう良いわよ」

 

「さて、それでしたら元師と女提督が組んでいたのは言わずもがなですが、女提督は深海棲艦とも手を組んでいたんですか?」

 

女提督「ふざけないで。そんなわけないでしょ?」

 

 

その言葉には一つの陰りもなく、裏も無い事がはっきりと見て取れた。これを見てアレには関わっていないというのが理解でき、同時に面倒ごとを放り投げる事が出来そうだと思った

 

 

「…ほう?」ピクッ

 

元師「…何か掴んだのか?」

 

「えぇ。少し興味深い話を深海棲艦から提供して頂いたんです。おそらくそこが将来的に私が向かう鎮守府になるかと思います」

 

元師「待て。前振りからして嫌な予感しかしないんだが?」

 

「そこはご心配なく。将来的にと言いましたでしょう?」

 

元師「…どれくらいヤバい?」

 

「そうですねー。今日明日にでも手を回した方が後々楽になると思いますよ」

 

元師「…はぁ。有力な情報は持ち帰ってくれたようだな」

 

女提督「あの…お二人は一体何の話をしているんですか?」

 

元師「そういえばお前には詳しく話してなかったか。ブラック鎮守府の見回りだよ。彼には元々そのつもりでこの鎮守府を当てたんだ。ついでに裏切り者の捜索もな」

 

女提督「…彼は私の鎮守府に所属になるのではないのですか?」

 

「え?」

 

元師「それは鎮守府の補修工事が終わるまでの話だ。彼にも頼れる鎮守府が必要だと思ったから皆と仲良くなっておいて欲しかったんだが…」

 

「ち、ちょっと待ってください。てことはアレですか?僕はこの鎮守府を拠点に派遣の様な形で他鎮守府に行くと?」

 

元師「当然だろう?第一、お前の鎮守府と近くて哨戒も任せられる程の好条件なんだぞ?根無し草にでもなるつもりだったのか」

 

「根無し草は勘弁です。にしても正社員派遣ですか…」

 

元師「取りあえず報告を続けてもらうぞ。今日は寝れると思うなよ?」

 

「徹夜には慣れてますのでご心配なく」

 

女提督「…そういう事じゃないのだけどね」

 

「…ふぇ?」

 

 

 

電「…ふぅ」入渠中

 

大淀「電ちゃん、今回の作戦でいくつか聞いておきたい事があるんだけど良いかしら?」

 

電「あ、はい。良いですよ」

 

大淀「その…提督を攫った深海棲艦は、どうして無事に提督を帰したんでしょうか?」

 

電「情報が何も得られないと考えたのでは無いでしょうか?それか生かす事自体が目的だったのかも知れません」

 

大淀「生かす事自体が…?」

 

電「もしかしたら司令官さんが無能だと判断し、生かしておいた方が後々の戦争で大戦犯をやらかす…という考えだったのかも知れません」

 

大淀「え、えぇ…?そんなに先の事まで想定されてるんですかね…?」

 

電「なんにせよ司令官さんが五体満足に帰ってきたのは何か理由があります。しばらくは司令官さんを注視した方が良いかも知れません」

 

大淀「…電ちゃんは提督が無事に帰ってきて嬉しくないの?」

 

電「…どうでしょう。正直、良く分かりません」

 

電「電も完全にあの人の事を知っているわけではありません。寧ろ司令官さんが今まで隠す様にしていたから電も触れないようにしてきましたが……今日は本音を少し覗き見た気がするのです」

 

大淀「……私達もいずれああやって、捨てられるのでしょうか」

 

電「…唯一の救いがあるとするなら人情に厚いという事くらいでしょうか」

 

大淀「…そっか。私達に優しいのって、そういう事なのね」

 

電「…電は、また分からなくなってしまったのです」

 

電「もしあの人が深海棲艦に殺されそうになったのを助けられたとしても、あの人は恐らく運が良かった出来事で留めている事でしょう。恩義は覚えているので助けた事を理由に何かあれば助けてもらえるとは思いますが…それは逆の場合も言えるのです」

 

大淀「…深海棲艦に助けられた、としたら…?」

 

電「今回無事に帰って来たのは…恐らく、そういう事かも知れません」

 

大淀「なんてこと…」

 

加賀「ねぇ、私もその話に一緒しても良いかしら?」

 

大淀「加賀さん。傷はもうない筈じゃ…」

 

加賀「ちょっと貴方達とお話をしたかったのだけれど…駄目だったかしら?」

 

電「…いえ、そんな事無いのです。それで、お話とは?」

 

加賀「……単刀直入に言わせてもらうんだけど、貴方達は何を知ってるの?」

 

大淀「何を、とは?」

 

加賀「…大淀さんは知らないのね」

 

大淀「?」

 

電「…深海棲艦について、ですね」

 

加賀「えぇ。どうしても知りたいのよ」

 

電「……どうしてですか?」

 

加賀「…今の戦争に疑問を覚えた。と言えば分かる?」

 

大淀「えっ!?」

 

電「…そう思った原因は?」

 

加賀「私達と相対した相手がね、何時も相手してる深海棲艦と違った気がしたから…かしら?」

 

電「…どのような敵だったのです?」

 

加賀「確か本人が空母棲姫って言ってたわね…彼女の性能を元師から聞いたのだけど、曰く今の私達だとどれだけ良い装備を与えても勝てない相手だって言われたの。実際にそれが事実だって事を思い知らされる程の力だったわ」

 

加賀「でもアイツはその気になれば私達を沈める事だって出来たはずなのに取引を持ち掛けてきたの。私達を負かしたのによ」

 

大淀「力で威圧しての取引ではなく…ですか?」

 

加賀「えぇ。どちらかと言えば下手に出てたわ。大破させられて。だけどね」

 

加賀「そこの金剛を引き渡してほしい。そうすれば貴方達だけは無事に返すし、鎮守府に攻め込んでいる仲間も絶対に撤退させると…」

 

電「…司令官さんと同じ交渉内容なのです」

 

加賀「え?」

 

大淀「…提督が、まさか誘導した?」

 

電「…偶然の一致ではないと考えるなら、おそらくは」

 

加賀「待って?そうなると貴方達の提督は深海棲艦と組んでたって事?」

 

電「おそらくそうなると思うんですが…多分、組んでたって程ではないと思うのです」

 

加賀「…詳しく教えて」

 

電「司令官さんは多分何故ここに深海棲艦が攻めてきたかを察知していた。だから互いに利益になるような提案を予め考えてあり、それを利用して最大限互いが譲歩出来る状態にまで持っていったのではないでしょうか?」

 

電「仮にもし司令官さんが深海棲艦に連れ去られることが無く、取引さえ出来なければ今頃電達は海の藻屑となってると思うのです。それは加賀さんが一番分かってるのでは?」

 

加賀「う…」

 

電「後味は最悪ですが今回の交渉は最高に上手くいったと言って良いでしょう。本当に、最高の形で…」

 

大淀「……」

 

加賀「……」

 

電「…金剛さんがやってきたのは許されざること。深海棲艦の元についていったのはせめてもの償い、と言った所でしょう」

 

電「金剛さんもそれを分かっていた。だからついていったんだと思います」

 

加賀「…それじゃあ相手が今回の様な強敵で無かったら金剛が向こうに行くことは無かったの?」

 

電「…電は金剛さんじゃないから分からないのです。もう過ぎた事ですからどうなるかも想像はつきません」

 

電「ですが、おそらくついていったのではないでしょうか?でなければあんなものだって残ってない筈です」

 

加賀「…」ガサッ

 

大淀「加賀さん、それは?」

 

加賀「遺書よ。金剛のね」

 

大淀「…中を拝見しても?」

 

加賀「どうぞ。私にはもう必要の無いものだしね」

 

大淀「……」バサッ

 

電「…都合の良い事です」チラッ

 

大淀「…死人に口なし、ですか。全く、ズルい言葉ですね」

 

加賀「私はこれを提督に持っていくわ。一番見るべきは彼女でしょうから」

 

電「いってらっしゃいなのです」

 

大淀「では私も付いて行ってよろしいでしょうか?報告したい事もいくつかありますし」

 

加賀「えぇ。早速行きましょうか。戦友の最後の言葉を伝えに」

 

 

 

元師「〇ボタンを連打すればLIFE(ライフ)が回復する」

 

元師「服従したければセレクトボタンを押せ」

 

元師「LIFE(ライフ)がなくなるとゲームオーバーだ」

 

元師「コンティニューはないぞ」

 

元師「言っておくが——」

 

元師「連射パッドを使おうなどとは思うなよ」

 

元師「電磁くすぐり棒(ラフィング・ロッド)だ」

 

元師「周囲に発生した電界が上行性神経路を直接刺激する」BSSSSST!

 

「くすぐりの刑とは…随分典型的(クラシック)だな」

 

元師「貴様は痛みには強いだろう。だが…これは?」

 

女提督「怒られそうな光景ですね…」

 

「笑うのは苦手なんですけどねぇ…」

 

元師「ハッ!」BBSSSSSSS!!!

 

「ハハハハハハハハッ!!アッ、ハハハハハハハハハッ!!!フゥッ、ハハハハハッ!!!!」

 

 

絶妙な痛みの電撃がくすぐりと反応して笑いが止まらなくなってしまう。ここからは更に連打する時間が長くなり、ムービーシーンなのでカットも出来ないRTAではイライラゾーンと言われる場所の一つだ

 

 

元師「答えろ。深海棲艦と組んで何をしようとしている?国家転覆か?それとも金儲けか?」

 

「…私は、取引しただけです」

 

元師「私はその内容を聞いている。早く言わなければ死んでしまうと分かっての事か?」

 

「ただ取引をしただけです。本当です…」

 

元師「答える気は無いという事か…」BSSSSST!

 

「それしか…考えてないですから」ニコッ

 

元師「…その余裕がいつまで持つかな?」BBSSSSSSS!!!

 

「ヒィッハハハハハッ!!アハッハハハハハハハァッ!ハッ、ハァッ!ハハハハハハッ!!!ヒハハハハハッ!!!!」

 

 

二度目の電撃が体を走る。視界が霞み、呼吸が上手く出来ているのか分からない程に肺が激しく痙攣し、体の筋肉に休む暇のない細かな力みが発生する。まるで何時間も運動をしているかのような恐ろしい程の脱力感が汗と共に湧き出てくる

 

 

「ヒッ、ヒィッ、ヒヒヒヒッ…」ピクピク

 

元師「無事に帰って来たお前だ。向こうと何か取引があったんだろう?金剛以外の何か最重要な何かを材料に…」

 

「はっ、はいにも…していない。報告した通りだ…」

 

元師「……そうか」BSSSSST!

 

「うっ…」

 

ドア『うわらば!』ドカーン!

 

 

次の電撃を受ける瞬間、ドアが轟音と共に壊れていた。ドアの金具は元の原型が少し残るレベルで曲がっており、ドアノブは本来あるべき筈の場所から孤立して飛び散っていた。壊れたドアからは申し訳なさそうにこちらを覗き見る重雷装巡洋艦の北上と、怒り心頭の様子である島風がいた

 

 

島風「提督に何してるの?」ガシャン

 

元師「何って、決まってるだろう。裏切り者の処罰だ」

 

島風「……それが貴方のやり方なの?」

 

元師「別にコイツをどうしようが私の勝手だ。それに眺めも良いしな。特にこの力なんか微塵も感じさせない腹なんか最高だろう?」ゴスッ

 

「おぐっ…!?」

 

島風「っ!お前!」バッ

 

北上「はい。そこまで」ガシッ

 

島風「離して!離して!!」ブンブン

 

女提督「まぁまぁ。元師と提督もその辺にしたらどうですか?」

 

島風「……ふぇ?」

 

「げ、元師……流石に腹パンは聞いてないです…」

 

元師「提案したのはお前だろう?しかも賭けに勝ちときた。その腹いせだよ」

 

「ひ、酷い…」

 

島風「…提督?大丈夫なの?」サスサス

 

「あ、あぁ。ちょっとお腹は痛いけど…」

 

島風「…良かったぁ」ギュッ

 

元師「けど良く分かったな?島風が自分を助けに来ると」

 

「この子は聡い子ですから。さっきまでのやり取りを見て何かない訳ないと考えずにはいない子ですし」ナデナデ

 

島風「…それより提督、どうして上だけ裸なの?」

 

「あぁ。くすぐり棒は服着てたら意味無いからな。実際に使って大丈夫かの検証も兼ねてたんだ」

 

島風「…一応聞くけど何に使うの?」

 

「お仕置き用にね」ニコッ

 

島風「……手加減してね?」

 

女提督「では元師、次は私に使わせて頂けないでしょうか?」

 

元師「あぁ。構わん」スッ

 

女提督「ありがとうございます」パシッ

 

「…あぁ」

 

島風「えっ、えっ?何々?」

 

女提督「部下が壊したドアの修理…貴方の監督不行き届きとして処罰させてもらいます」BSSSSST!

 

「…お手柔らかにお願いします」

 

島風「だ、駄目ッ!罰なら私が受けるから!これ以上提督を罰さないで下さい!」

 

「…参ったな」

 

元師「ふむ。やはりコッチに関しては私の勝ちだな」

 

女提督「とりあえず一発だけやっときますね」BARRRRRRI!

 

「…すいません。ちょっと音がおかしい「ピ〇チュウ!十万ボルト!」あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?」

 

島風「てっ、提督ー!?」

 

「あの声でメスガキは卑怯…冬コミ待ったなし」プスプス

 

島風「頭大丈夫!?」

 

女提督「見事なアフロですね」

 

元師「全くだ。だがこれでハッキリとしたな」

 

女提督「彼との賭けですか?」

 

元師「あぁ。アイツの直観力とでも言おうか。アレは神がかりと言っても良い程に予想を当ててくる。しかも勝つべき勝利に的確に勝ってくるという、勝利の女神に愛されてると言っても良いレベルだ」

 

女提督「…彼が戦争の終戦に向けてのキーマンだと思いで?」

 

元師「まぁな。だがアイツには終戦まで持っていこうとは微塵も考えていないだろう」

 

女提督「えっ?」

 

元師「アイツは今回の戦闘で痛み分けまで持っていっただろう?後から聞いた話だが、連れ去られた時点で勝つことを考えていなかったらしいんだ」

 

元師「もしかしたら勝利への執着が無いのかも知れん。もしかしたらそれを表に出さないようにしているだけかも知れないが……それならそれでこちらが上手く使ってやれば良いだけの話だ」

 

女提督「…具体的にはどのように?」

 

元師「なんだ?もしかして心配か?」ニヤニヤ

 

女提督「まさか!寧ろ忌避してるレベルですよ」

 

元師「お、おう…そうか」

 

女提督「聞けばあの子は民間人と言うじゃないですか。軍人として育っていない人に戦争のキーマンになって貰おうというのが不安なだけです」

 

元師「…だからこそだよ。軍人じゃないからこそ解決するんだ」

 

女提督「…あの言伝ですか?」

 

元師「…お前だからこそ言うが、艦娘と深海棲艦はサイクルの様なモノがあってな。艦娘が轟沈すると深海棲艦に。その逆も然りなんだ」

 

女提督「…やっぱり、そういう事ですよね」

 

元師「これを聞いて深海棲艦に対する情を沸かすなよ?お前達が戦わなければ私達が滅ぶだけなんだからな」

 

女提督「はい。分かっています」

 

元師「…所でアイツはどこに行った?」

 

女提督「…そういえば島風ちゃんもいないような」

 

元師「人知れずいなくなるのがアイツの趣味なのか?それともそういう性か?」

 

女提督「…あっ、書き置きがありますよ」パサッ

 

紙『艦娘達に処刑されてきます。助けてください』

 

元師「…ほっとくか」

 

女提督「了解です」

 

 

 

罪を公衆の面前で告発されている罪人を蔑む様な視線と、興味本位で見に来た数名の人間に晒されているかの様な状況に私はいた。極めつけを言うならばここに大多数の艦娘が集結している。どうしてこうなった?

 

 

雷「へー。これがあの笑い声の正体なのね~」BSSSSST!

 

文月「バチバチしてて痛そう…」

 

潮「これが…」ソー…

 

霞「ちょっ、むやみに触らない方が良いんじゃ…」

 

潮「ひうっ!?」ビクッ

 

愛宕「だ、大丈夫?」

 

潮「あ、はい。少しくすぐったかっただけです」

 

天龍「…んでよ、お前は何で金剛を取引材料にするって選択肢を取ったんだ?」

 

「…」

 

天龍「おい、黙ってんじゃねえぞ」

 

「…すまんが言うことが何もない。強いて言うなら作戦だったってだけだ」

 

天龍「作戦ってのは?もう終わったんだから内容くらい話しても良いだろ?答えてくれよ」

 

「…将来的な脅威の排除。これはさっき話したな?」

 

天龍「あぁ。確か集団心理がどうだとか…」

 

「それは半分建前で半分本当だ。単純にあいつが危険だったから。だから俺はアイツをどうにかして消そうと決めていた。元を辿ればこれに繋がる」

 

霧島「それだけですか?本当に?」

 

「それ以外の理由が欲しいのか?」

 

霧島「…」

 

「で、何か言う事あんだろ?」

 

天龍「…何をだよ」

 

「本気で言ってんのか?」

 

榛名「…金剛お姉様を返せって言ってほしいんですか?」

 

 

その言葉を聞いてしまった時に言いようの無い錘が心にズシリと乗ったような気がする。しかもそれには多少の痛みも伴う様で、ズキズキとした重さが心臓に襲ってきた

 

 

「……」

 

榛名「…何時かこんな日が来るんじゃないかと分かっていた事です。その事に対して思う事は一つもありません」

 

榛名「ただ…今までやってきた事の清算を受けた。たったそれだけの事です」

 

「…そうか」

 

比叡「…榛名はそれでいいの?」

 

榛名「…私は金剛お姉様じゃありません。勝手な事は言えませんから」

 

「…加賀」

 

加賀「はい」

 

「あれを」

 

加賀「コチラです」スッ

 

「ん」パシッ

 

 

加賀から渡された一枚の折りたたまれた紙。そこには墨と筆を利用したと思われる綺麗な筆跡で目立つ二文字、遺書の二文字があった

 

 

比叡「…それは?」

 

「遺書」

 

比叡「…誰の?」

 

「金剛」

 

比叡「…!」ブルッ

 

霧島「…読み上げでもするんですか」

 

「黙祷替わりにな」

 

霧島「……」

 

 

遺書『ごめんなさい』

 

 

「…ですってさ」

 

如月「……ホントにそんなことが書いてあったの?」

 

「信じられないか?」

 

如月「…監禁、暴力、恐喝、囮、いじめ、罵倒、拷問」

 

如月「なんて、上げたらキリが無いわよ。そんな奴が遺書にたった一言のごめんなさい?到底信じられないんだけど?」

 

「信じてもらうしかないな。ここに書いてあるのが全部だ」カチッ

 

 

懐からライターを取り出して小気味好い音が鳴り渡る。音が出たそこからは淡いながらもユラユラと揺らめく温かい火が出ており、それを見た周りからはざわめきが聞こえてきた

 

 

比叡「なっ!?」

 

霧島「ま、待ってください!何をする気ですか!?」

 

「燃やすんだよ。こんなもん、お前等以外からしたら気持ち悪い物でしかないだろうからな」

 

榛名「…やめてくださいよ」

 

「…どうして?」

 

榛名「お願いですから…やめてください…」

 

榛名「これ以上…金剛お姉様を失くそうとしないで…!」

 

「…はぁ」ゴソッ

 

榛名「…渡してください」

 

「頼むからひけらかすなんて行為はやめとけよ。刺されたくないならな」スッ

 

 

手渡そうとする手から奪い去る様にその紙が手から離れていった。その時にじんわりとした熱が指先から感じ、少しだけ赤い色が目立っていた

 

 

榛名「…」バサッ

 

霧島「…!?」ギョッ

 

比叡「…」フルフル

 

 

奪い去った物を奇怪な目で見る三人と、その様子を遠目から眺めているが気になるといった視線を外せない者達が手に握られた一つの紙を注視していた。その中で何人か目の良い者達がいるようで、そちらに向かって人差し指を口に当てて止める様に警告した

 

 

榛名「…これ、ホントにお姉様の遺書ですか?」

 

「金剛の字を知らんのか?俺は知らんから何とも言えんが、それを渡してきたのは金剛本人だった」

 

霧島「…間違いないわ。私がお姉様の字を見間違えるはず無いもの」

 

比叡「…だね」

 

榛名「…あんまりじゃないですかぁ」ポロポロ

 

「…」

 

 

遺書を読み上げたあの時、その紙には何かを書かれた形跡はなく、所々滲んでいた白い紙があった。滲んでいた箇所は大小様々であったが、文字よりも強い想いがそこに込められていたと察するには十分すぎる程だった

 

 

_____________

 

 

 

金剛『Hey!提督ゥ~!』

 

『…何?』ヒキッ

 

金剛『もう、連れない人ですね~そんなんじゃ女の子にモテませんヨ?』

 

『…』ジトッ

 

金剛『まぁ良いデス。ちょっと机をお借りしても良いですか?』

 

『…好きに使え』

 

金剛『ありがとうございまーす♪』ガタッ

 

『何が飲みたい?』

 

金剛『ウーン…なら紅茶で!』

 

『残念ながらここにはない』

 

金剛『えー…それでも提督ですかぁ?』

 

『お前は提督を何だと思ってんだ…』麦茶で良いか?

 

金剛『…何も無いですネー』ゴソゴソ

 

『追い出すぞ』コトッ

 

金剛『筆と墨汁が無いか探してただけデース。他意はちょっとしかないよ?』

 

『一体お前は何を求めてるんだ…ちょっと待ってろ』ガチャ

 

金剛『なんだかんだ探してくれる提督は優しいですネー』

 

『うっせ。んで、何をするんだ?』

 

金剛『遺書デース』

 

『遺書?お前が?』コトッ

 

金剛『何が起きるか分からないのが今の世の中なんですから。いざという時の用意はしてた方が良いでしょ?』

 

『…誰に宛てたのを書くつもりだ?』ゴリゴリ

 

金剛『…これは私の提督用にですかね』至れり尽くせりですネ

 

『姉妹には良いのか?』

 

金剛『ノープロブレム。そんなものはあの時から既に用意してますよ』スッ

 

『ふーん…』

 

金剛『…聞いた癖に興味無さそうですね』

 

『実際無いからな』

 

金剛『…じゃあ、お願いしても良いですか?』

 

『何を?』

 

金剛『遺書の読み上げですかネ』スッ

 

『…』バサッ

 

金剛『好きに読み上げて下さい。貴方もその方が助かるでしょ?』

 

『…泣いた跡のある紙をどう読めと?』

 

金剛『私には書けませんでしたから。書いたって好き勝手な事を言うなって言われるに決まってマース』

 

『…はぁ。ちょっと待ってろ』トントン

 

金剛『ホワイ?』

 

『…7、6、5』

 

金剛『???』

 

『4、3、2、1』

 

金剛『…さっきから何を『コンコン』!?』

 

『入れ』

 

加賀『失礼しま…す』ガチャ

 

『どうした?』

 

加賀『…開発した装備にお礼を言いたくて参りました。これで更に活躍する事が出来ます』

 

『そうか。なら礼代わりにこれを持っててくれ』スッ

 

加賀『…これは?』

 

『金剛の遺書』

 

金剛『ち、ちょっと!?』

 

加賀『お断りします』

 

『どうして?』

 

加賀『読み上げる必要があると思いですか?』

 

『ある』

 

加賀『…それは、どうしてでしょうか?』

 

『金剛は近々死ぬ。だからお前に渡しておこうと思ってな』

 

加賀『…はぁっ!?』

 

金剛『…私、死ぬつもりなんて微塵もありませんけど』

 

『死ぬ。確実に』

 

金剛『その根拠は?』

 

『俺がそう決めた。だからお前は死ぬ』

 

金剛『…ならそうなる前に貴方を殺せば解決するのでは?』

 

『それなら別の原因でお前は死ぬことになるな』

 

金剛『……』

 

加賀『ま、待ってください。正気ですか?というか、そんなことを言って良いのですか?』

 

『あぁ。本人もそれを望んでる』

 

加賀『…』ジッ

 

金剛『…私、一言もそんなことを言った記憶は無いのですが?』

 

『言った記憶が無いだけだろ。そういうって事は決めてたって事じゃねえか』

 

金剛『…鋭い男は嫌われますよ?』

 

『鋭くなきゃお前等の指揮は出来ん』

 

加賀『…どういうつもり?』

 

金剛『…最近、私が私じゃなくなるような感覚があるんデース。多分、そろそろ艦娘じゃなくなるんでしょうネ』

 

加賀『…は?』

 

金剛『そうなってしまえばシスター達に迷惑を掛けるのは目に見えています。最悪の場合…引導を渡されることになるかもしれませんからネ』

 

『あ、このことは機密な。喋ったらどうなるか分からんぞ?』

 

加賀『そんな世間話みたいなノリで…頭痛がするわ』ハァ

 

金剛『お茶飲みます?』

 

加賀『…誰のせいだと思ってるのよ』イラッ

 

『ま、俺が遺書を持たない理由としてだが、何故か最近やけに俺の事が知られてるみたいでな?正直そんな状況でお前の遺書を持ってたらすぐにバレそうなんだよ』

 

加賀『だからといって、何故私が持たなければならないのですか?』

 

『簡単だ。普段から訓練ばっかで気を抜いて何かをしてる所を見たことが無い。そのせいか同じ空母の瑞鶴としか親しいと言える仲はいなさそうだった。人との交流が少ないお前だからこそ、情報の流出が無いと考えたんだ』

 

金剛『…それって所謂ボッチって奴では』

 

加賀『…ボッチじゃないです』ムスッ

 

『都合の良い事を言ってるのは分かってる。だが頼む。どうかこの話を受けてくれないか』バッ

 

加賀『…何故彼女にそこまで肩入れをするのです?』

 

『…最後に少しでも金剛の事を知っておきたい。それだけだよ』

 

加賀『彼女を実験動物か何かの様にお思いで?貴方の個人的な趣向に付き合わせる義理は無いと思いますが』

 

『…言い訳をさせてもらうが、彼女の様な存在を今後出さないようにする為に俺は今回の出来事を報告しなきゃならん。だから少しでも金剛の事が知りたい』

 

『そんで俺の本音として言わせてもらうなら…そうだな。興味がある』

 

加賀『…何の興味ですか?』

 

『自分の最後を自覚している奴がどんな終わり方をするのか?そんな好奇心だ』

 

加賀『…っ!私達は『HEY』』

 

金剛『ちょっと?流石にそれは酷くないデスカ?』

 

『あぁ。我ながら最悪の興味だと思うよ』

 

金剛『…でしたら何故やめないのです?』

 

『言ったろ?好奇心だって』

 

金剛『好奇心は猫をも殺すと言いますよ?』

 

『だから殺されに行くんだよ。俺がソイツの最後に関わって、それによってどんな変化があって終わるのか?それを知って死ねたら本望さ』

 

金剛『…悪意があるとも取れますし、善意があるとも取れますね』

 

『それを決めるのは他人だよ。俺から見たら好奇心の一つの結果でしかない』

 

加賀『…それじゃあ貴方はこれが善意からの行動だとでも?』

 

『お前からはそう見えたか?』

 

加賀『…はい。認めたくはありませんが、言い訳と本音に大差を感じ得ませんでした。少なくとも善意からの行動なのだと推測した限りです』

 

『…金剛、お前はどう思う?』

 

金剛『別に。正直どっちでも良いですよ。私の終わりは遺書を渡した瞬間から貴方に委ねたのですから』

 

『…チッ』

 

金剛『提督って頼み事とか弱いタイプですか?』

 

『…黙秘させてもらおう』

 

金剛『フーム…ならば最後となる事ですし、熱い夜をベットの上で過ごすのも悪く無いですね』

 

加賀『…さっきまで怒ってた私が馬鹿らしく思えてくるわね』キュッ

 

金剛『お茶飲みます?』スッ

 

加賀『…頂くわ』グイッ

 

『一つ聞くが、お前は秘密を人にばらしたりするか?』

 

加賀『…秘密の一つや二つくらい守れなかったら作戦なんて出来ないわよ』

 

『ふっ。なら秘密の任務として受け取ってくれ。任務の成功は俺が合図したらそいつを受け渡す。それで終了だ』スッ

 

加賀『…分かりました』パシッ

 

金剛『…加賀。いざという時はお願いしますね』ペコッ

 

加賀『…はぁ。そこまでされたら断れないじゃない』

 

『ま、お前が生きて帰れるとは思わんが、もし帰ってきたら歓迎会でも開いてやるよ』

 

金剛『ハッ。そうなったら嫌ってなる程につきあってもらいますからね?』

 

『…お手柔らかに頼むよ』

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